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実質賃金が上がり、消費回復とならないと・・・ photo Getty Images
「社員がうんざりしている会社」が日本に急増、労働生産性が低下! 「官製春闘」より、人事制度と働き方の見直しが急務だ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43189
2015年05月03日(日) 井上 久男「ニュースの深層 現代ビジネス
5月1日は労働者が連帯して権利を要求するメーデーだった。
それに先立ち、連合のメーデー中央大会が4月29日に東京代々木公園で開催され、約4万人が参加した。今年の春闘は、トヨタ自動車や日立製作所などが近年では過去最高のベースアップ(ベア)を回答したことで、参加者から笑みもこぼれたそうだが、大企業の大盤振る舞いは、労組への回答ではなく、アベノミクスの成果を出すために賃上げを強く求めた政権への「回答」だったとも言える。
安倍晋三首相はさぞご満悦だったらしく、3月31日の官邸での花見では「賃上げの花が舞い散る春の風」と一句披露したそうだ。
■「官製春闘」は中国国有企業と同じではないか
しかし、この「官製春闘」には批判もある。
軽自動車大手のスズキの鈴木修会長兼社長は「経営体力を超えたことを毎年続けていてはいずれ自滅の道を歩むことになる」と苦言を呈した。そもそも企業の賃上げとは、個別企業の置かれた経営環境を鑑みながら労使が真摯に話し合って決めるものだ。政府が民間企業の賃上げにまで干渉するとは、これでは中国の国有企業と同じではないかと言いたくもなる。
トヨタが賃上げすれば、系列下請け企業もそれに従う流れはできるが、トヨタグループでも業績はまだら模様で、トヨタ紡織のような上場している大手下請けであっても最終赤字を計上している企業もある。
鈴木氏が指摘する問題点は、政権による賃上げ圧力に妄信的に従い、どこもかしこもお祭り騒ぎのように賃上げしていたら、いずれそれが経営を圧迫し、ひいては国内の雇用維持・増加につながりませんよ、ということである。
さらに言えば、生産性が向上もしていないのに、賃金だけ上げていては、いずれ国内から企業は逃げていくのは確実だ。事実、大盤振る舞いしたトヨタでも春闘の直後、国内ではなく、中国とメキシコに大型投資を行い、新工場を建設する計画を発表している。
ちなみに、トヨタでは基幹職1級と呼ばれる部長待遇に昇格していれば、50歳前後で年収が約2000万円ある。高卒の工場労働者でも40歳前後で800万円程度ある。トヨタのように内部留保が20兆円近くある企業だから、今でも高水準の賃金をさらに上げることができるのだ。さらに言えば、トヨタはカンバン方式やカイゼン活動などに代表されるように、生産性を重視する会社であり、従業員を上手にこき使う。だから賃上げしても何とかやっていける。
生産性向上が伴って賃上げは行われるべきであり、同時にそれを従業員の意欲向上→さらなる生産性向上といった好循環を生み出すメカニズムにつなげていかなければならないと、筆者は感じる。
今後、「残業代ゼロ法案」と呼ばれる労働基準法の改正案や派遣社員を同一業務に長期受け入れられる労働者派遣法の改正案が国会で審議され、日本では働き方自体が見直される局面にある。
■ 日本企業の労働生産性が低い理由
こうした動向を踏まえ、人事のプロが集う世界最大の会員組織「人材開発機構(ATD)」日本支部理事で、企業人事に詳しいエレクセ・パートナーズ代表取締役の永禮弘之氏に、日本企業が抱える人事・賃金制度の課題などについて聞いた。
――「官製春闘」とも呼ばれている今年の賃上げ情勢についてどう見ますか。
「消費税増税の影響で消費動向が芳しくないため、政府は企業に一律の賃上げを求めたのでしょうが、今回の賃上げが消費の回復につながらなかったら、賃金だけが上昇し、売り上げは伸びないという悪循環になります。
特に内需に依存する企業の業績は今後厳しくなるのではないでしょうか。ただ、日本企業は現在、時代の変化にマッチした人事制度や働き方の構築といった根本的な課題に突き当たっており、賃上げよりもこちらの方が重い課題だと、私は考えています」
――それはどういうことでしょうか。
「国内総生産を就業者数や総労働時間で割って算出する労働生産性が、日本は低いことが課題です。日本の1時間当たりの労働生産性は、2013年の経済協力開発機構(OECD)の調査では約41ドルで、加盟34か国の中で20位です。トップはノルウェーの87ドル、2位、3位は小国のルクセンブルクとアイルランドが続きますが、4位には米国が入っています。
1人当たりの労働生産性でも、主要先進7か国中日本は1994年以来20年連続で最下位です(日本生産性本部調査)。国家財政が破たん寸前のギリシャより低く、日本より下位の国は、中東欧諸国やトルコ、メキシコ、チリくらいです。今後、日本はさらなる少子高齢化の時代を迎えますので、少ない労働力で高いパフォーマンスを出すことを求められます。大量生産・大量流通型から知識・コミュニケーション型に産業の軸足を移すにあたり、労働生産性向上は避けて通れません」
■日本の社員の「エンゲージメント度」は世界最下位
――日本の労働生産性が低いのはなぜですか。
「製造現場の生産性はトップ10以内ですが、サービス業やホワイトカラーの生産性が足を引っ張っています。これには大きく2つの理由があります。1つ目の理由は、日本人全般の労働意欲が低いことです。ここで言う労働意欲とは、自分の仕事への誇りや責任感、仲間への信頼感、会社への愛着など社員の『エンゲージメント』のことです。エンゲージメント調査を専門とする米国ケネクサ社の調査では、日本の社員のエンゲージメント度は調査対象国中最下位です。
私が参加したATD国際会議の会場で、発表者がこの結果を伝えても、世界各国から集まった参加者には意外感なく受けとめられていました。低い理由は、主に組織文化や人事の仕組みに問題があると思います。責任回避のための建前としてのコンプライアンス強化、責任ある仕事をいつまでも任せてもらえない、仕事の成果の評価基準が曖昧といった組織の実態に、社員がうんざりしているのです。これは、月収数千円賃上げをすれば解決するものではありません」
「もうひとつの理由は、会社都合の人事権が最優先されて、個人としてどのようにキャリアを積むべきかが組織の中で軽視されていることです。知識・コミュニケーション型産業では、個人の自主性と裁量が仕事の成果に大きな影響を与えます。ところが、日本企業では、未だに明確なキャリアパスがないまま、会社都合で突然異動させられたり、単身赴任を命じられたりします。経営環境が変わり業績が落ちると、『40歳以上の人材は不要』なんて一律に年齢で肩たたきを受けます。
これでは、組織への愛着や仕事への誇りが生まれるはずがありません。キャリアに対する自分の意思は、会社都合の人事権を盾に無視されるわけですから、日本の大企業で、キャリアを自力で積み上げるという自律心を持つのは難しいですね。ぶら下がっていればいいやという気持ちが、定年が射程距離に入った中高年社員に芽生えてしまいます」
「仕事の生産性=効率×意欲×能力、という構造になっています。生産性を上げるには、意欲が必要です。仕事の意欲は、組織文化、仕事の仕組み、職場の人間関係とも密接に関係していますが、多くの日本企業では、意欲が高まる文化や仕組みが根づいていません。また、効率は、仕事の中身と働き方によって左右されますが、仕事内容の定義が日本企業では曖昧です。能力を高めるには、実務経験が最も大切ですが、仕事のチャンスがなかなか巡ってこないことや、長く続いた採用人数の絞り込みで社員の年齢構成に歪みがあり、部下や後輩の指導経験が浅い上司の指導力にも難があります」
■「役割給」へのシフトを
――「日本的経営」などと言われて、日本の会社システムは一時期世界から学びの対象となっていたのに、これほど多くの課題をかかえるようになったのはなぜですか。
「1990年代半ば以降、日本企業の業績が悪化し、急速に成果主義が取り入れられました。ところが、評価制度や賃金システムは成果主義になったものの、責任ある仕事を任せるための昇進の方法や速度は、年功序列時代と大きく変わりませんでした。新たに導入された成果主義制度の真の狙いは、総人件費を抑えることでしたので、賃金のメリハリはそれほどつきませんでした。このため、頑張って成果を上げた人でもそんなに賃金が上がるわけではなく、ポストも得られなかった。一方で、成績が悪いと判断されればマイナス評価を付けられてモチベーションが下がります。90年代半ば以降成果主義が普及して、ハッピーと感じたビジネスパーソンは少数派ではないでしょうか」
「さらに言うと、評価と賃金の制度は成果主義に変更したのに、前提となる役割や職務を曖昧なままにしたことが問題でした。何をやるかが定義されていないと、仕事の成果を測ることは難しいですよね。何をやるか曖昧だけど、仕事の成果を評価されるので、とにかく頑張っていることをアピールする。関係しそうな会議には全部出たり、コンプライアンスを守るための手続きをたくさん行ったり、結局、価値につながらない仕事に時間を無駄に費やすことが多い。ホワイトカラーの労働生産性の低さの一因でもあります」
――こうした事態を打破するには何が必要ですか?
「制度面で言うと、役割給にシフトすることが第一歩ではないでしょうか。欧米は職務給制度が主流で、この仕事ならば給料はいくらと相場が決まっています。仕事に値札が付いているイメージです。このため、職務が細かく定義されています。
急に細かくし過ぎると人員配置の柔軟性が失われ問題がありますが、欧米ほどではないにしても、職務の内容や組織上の位置づけをざっくり「役割」として定義し、それをもとに評価する役割給にすれば、年齢に関係なく、重要なポジションに適任者を抜擢できます。役割給が主流になれば、企業の枠を超えて、この役割なら賃金はいくらといった相場観もできて、転職もしやすくなると思います。
雇用の流動性が高まると労働生産性が高まるという調査結果もありますので、今の日本に必要な考え方だと思います。ただし、賃金水準は、労働集約か否かなどの事業特性や個別企業の業績によって決まるものです。かつてのように日本全体で一律の賃上げを続けるのは非現実的です。
もう一つ必要なのは、組織運営全般の見直しです。組織の都合を最優先する組織運営をしていると、いつまでも社員の働く意欲は上がらず、労働生産性は改善されません。前出のケネクサ社の調査では、社員のエンゲージメントの高さと企業業績には相関があることが分かっています。
日本企業にとって大仕事ですが、賃上げの原資を広げるという意味でも、社員の働く意欲を高める組織運営や人事の仕組みを取り入れ、労働生産性と企業業績を高めることが求められます」
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