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黒田東彦日銀総裁はこれからどう動くのか(写真は2014年10月31日の追加緩和決定時、撮影:尾形文繁)
「日銀は政治に支配され、動けなくなった」 ストラテジストの森田長太郎氏に聞く
http://toyokeizai.net/articles/-/68600
2015年05月02日 大崎 明子 :ニュース編集部長 東洋経済
日本銀行の4月30日の金融政策決定会合は多くの市場関係者の予想通りの内容だった。金融政策は現状維持で、展望レポート(「経済・物価情勢の展望」)では、実質GDP(国内総生産)、消費者物価指数(除く生鮮食品)の見通しがいずれも下方修正された。
消費者物価指数(除く生鮮食品)の見通しは2015年度プラス0.8%(1月時点の見通しはプラス1.0%)、2016年度はプラス2.0%(同プラス2.2%)、2017年度は予定されている消費増税の影響を除くケースでプラス1.9%と示された。2016年度に前年比上昇率2.0%の物価目標達成の時期をずらしてきたのも、それまでの黒田東彦総裁の発言から予想されていた。
今後、日銀はどう動くのか。SMBC日興証券のチーフ金利ストラテジスト森田長太郎氏に見通しと黒田日銀が置かれている苦しい状況をどう見るか、聞いた。
■追加緩和の可能性は後退している
――黒田東彦総裁が就任し、量的質的緩和を開始してちょうど2年が経ちました。2年でインフレ率2.0%を達成するはずが、どんどん後ろにずれて、2016年度となっています。
これまでは「15年度を中心に」と表現するなど少しずつ「2年」の幅を広げてきたが、今回は総裁会見でも、「2年程度を目途に」という部分よりも「できるだけ早期に」という部分が強調されている印象だ。一種の決着がついたのではないか。
――足元の物価は消費増税を除くベースでは0%強です。一部で観測されている今年10月の追加緩和はあるのでしょうか。
昨年の10月末には原油価格の下落を理由に追加緩和を行ったが、今年2月に入ってから、「原油価格の下落は経済にはプラス」「基調インフレはしっかりしている」と論理がすり替わっていた。政府サイドはこれ以上の円安は望ましくないと思っているから、追加緩和は軽々にはできない。
森田長太郎(もりた・ちょうたろう)●SMBC日興証券 チーフ金利ストラテジスト。慶応義塾大学経済学部卒業。日興リサーチセンター、日興ソロモン・スミス・バーニー証券、ドイツ証券、バークレイズ証券を経て2013年8月から現職。日本の国債市場での経験は通算で20年超に及ぶ。グローバルな経済、財政政策の分析などマクロ的アプローチに特色。機関投資家からの人気が高い。近著に『日本のソブリンリスク』(小社刊・共著)。『国債リスク 金利が上昇するとき 』(小社刊)(撮影:田所千代美)
原油価格が日銀の想定しているような1バレル当たり70ドルに速やかに戻ったとしたら、原油価格は年末近くには前年比でプラスに転じる。まだ10月の「展望レポート」の段階では、「ここから物価が上昇する」という見通しを示して、同レポートの中間評価を行う2016年1月まで引っ張るのではないか。さらに2016年4月の「展望レポート」まで何もしない可能性もある。
そこまでいっても、7月には参議院選挙があるので、それとの絡みで政治的な判断とならざるを得ない。さらに円安を加速するからダメ、ということになるかもしれないし、あるいは株価が下がっていれば株価を持ち上げるために政治的圧力が強まる結果、やるかもしれない。
2%との乖離は少なくともまだ1〜2年では埋まらない。しかし、年間80兆円の国債の買い上げはオペレーション上も行き詰まってくる。もはや2%はシンボリックなものでしかなく、デフレに戻らず物価が緩やかに上昇していけばいい、ということになるのではないか。
■ リフレ派の主張は実現せず
――結局は政治の要請で決まるということですね。
日銀、FRB(米国連邦準備制度理事会)、ECB(欧州中央銀行)を比べて見たときに、日銀がもっとも政治に従属している、ということになってしまった。FRBはファンダメンタルズと市場とのギャップを修正しようとしているが、日銀はそもそも2年で2%のインフレ目標の実現というファンダメンタルズからまったく乖離した目標を掲げてしまったから、修正どころじゃなくなっている。
――そもそも、安倍政権のもとで日銀が採用したいわゆるリフレ派の人たちの主張である「マネタリーベースを積み上げればインフレになる」という理論が間違っている?
すでにかつての翁・岩田論争(注)で決着している。マネタリーベースとインフレは関係ない。銀行が持っている国債と日銀の当座預金を交換する取引でしかないからだ。市中に出回っている広義のマネーとインフレとの関係ですら曖昧だ。円安はマクロ的に見れば日本経済にはプラスであり、インフレの要因にはなる。だが円安自体も金融緩和がきっかけではなく、欧州の債務危機がおさまったことで、2012年秋には100円に戻っていた。あとはアナウンスメント効果だけだ。
(注)翁・岩田論争は、当時の翁邦雄・日本銀行調査統計局企画調査課長(現・京都大学教授)と岩田規久男・上智大学教授(現・日本銀行副総裁)によって1992年9月から『週刊東洋経済』誌上で展開されたマネタリーベースとマネーサプライの関係、その効果をめぐる論争。1993年3月まで続いた。
マネタリーベースとインフレは関係あるのか(写真:M・O/PIXTA)
■国民にイリュージョンを売る
――なぜ、エコノミストの一部は金融緩和に過度な期待を寄せるのか。
もともと米国の経済学者は一種の既得権益グループをつくっている。フリードマンやケインズでもそう。自然科学であれば仮説がいずれは検証されるが、そもそも自然科学ではない経済学は、検証されない。言いっ放しになってしまうことが、経済学の最大の問題だ。そうした中で、経済学者という職業を守ろうとすれば、政策への反映を図っていこうということになる。政策の役に立ちますよ、といえば、錬金術的になる。商売としての経済学だ。
なぜ多くの経済学者が財政政策でなく、金融政策を主張するかといえば、財政政策は選挙で選ばれた政治家の仕事だからだ。だから、金融政策にがっちりしがみついて、中央銀行に乗り込もうと考える。そういうグループが米国の経済学者のコミュニティを形成している。まさに政策を売り歩くいかさま師達が流派を形成している。
――それに倣って日本でも日銀批判が始められたわけですね。
日本では長らく金融政策も含めたマクロ経済政策を官僚が統括していたので、まったく入り込む余地がなかった。最近になって、妙な野心を持った人たちが日銀への攻撃を始めた。リフレ派と呼ばれる人たちの「日銀官僚の手から金融政策を取り上げる」という主張は「自分たちの商売にする」ということだ。だが、乗っ取ったからには結果に責任を持つべきだ。
米国ではリーマンショックが起きたことで、経済学者の地位が大きく低下して死活問題になった。だから今、米国の経済学者らは何とか理論と現実を調整する努力を始めている。日本の一部のリフレ派のように古典的な貨幣数量説にしがみつく人はいなくなっている。
結局、「成長の限界」というものが見えてくると、1930年代と同じことで、国民にイリュージョンを売って歩く政治になる。それにリフレ派の主張が合致した。1930年代には、軍部や一部の政治家が、満州国は日本の政治的、経済的な拡大路線の「生命線」だと主張し、国民の熱狂を誘導していった。そして、その権益を維持するために日本は破滅的な方向に向かっていった。現在は軍事的な事態とは全く関係はないが、「成長の限界」に対してイリュージョンを拡散して国民の目をそらすような経済政策になっていやしないか。
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