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マーケット感覚を身につけよう
2015年5月2日 ちきりん
マーケットで負けるのは、「求めるもの」を決めない人【特別対談】田端信太郎×ちきりん(1)
社会派ブロガー・“ちきりん”さんの新刊、『マーケット感覚を身につけよう』の出版を記念する対談連載がスタートします。最初のゲストは田端信太郎さん。NTTデータに新卒入社後、リクルートにて『R25』の創刊と広告責任者を経験。その後、旧ライブドアのメディア事業責任者、『VOGUE』『GQ JAPAN』等のデジタル事業担当を経て、現在はLINE株式会社・上級執行役員 法人ビジネス担当を務められています。
マーケットを愛する“ちきりん”さんと、メディアへの深い知見を持つ田端さんの対談は、両者の深い結びつきを理解させてくれるものになりました。(構成/崎谷実穂 写真/疋田千里)
学校的世界よりも、マーケットのほうが多様性を許容する
田端信太郎(以下、田端) ちきりんさんの『マーケット感覚を身につけよう』を読ませていただきまして、僕は、割と自分は「マーケット感覚」ってやつを持ってる方だな、と思えたんです。「そうそう、そうだよね」と共感するところばかりでした。
田端信太郎(たばた・しんたろう)
LINE株式会社 上級執行役員 法人ビジネス担当。 1975年石川県小松市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げ、R25創刊後は広告営業の責任者を務める。その後、ライブドアに入社し、livedoorニュースを統括。ライブドア事件後には執行役員メディア事業部長に就任し経営再生をリード。さらに新規メディアとして、BLOGOSなどを立ち上げる。 2010年春からコンデナスト・デジタルへ。VOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年6月 NHN Japan株式会社 執行役員広告事業グループ長に就任。2014年4月から現職。 LINEなどの広告営業および、LINEビジネスコネクトによるCRM展開など法人ビジネス全般を統括。 著書に『MEDIA MAKERS』(宣伝会議)、『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
ちきりん 田端さんはそうだと思いました(笑)。マーケット感覚って、人生のどこかでそれを身につけてきた人は、みんなよくわかってるんです。一方で、自分がそれを持ってないことにさえ、気づかない人もいる。そういう人に「マーケット感覚って何?」ってのを説明するのは、すごく難しかった。
田端 でも僕はこの感覚を、こんな明快に人に説明できたことはありませんでした。読んでいて何度も「ちきりんさん、うまいなあ」と思いましたよ。特に婚活が市場化しているという例は、すごくわかりやすかったです。20代で見かけも性格も良いけど、学歴と年収が低い男性は結婚情報サービス会社を使うべきではないと。
ちきりん そうそう。ほかのマーケットでならいくらでも買い手がいるはずの男性が、明らかに自分に不利な市場を選んで苦戦してる。この婚活の例は、感想ブログなどでもよく取り上げられました。婚活にも複数の“市場”があるってことが、あまり意識されてなかったんでしょう。
田端 学校って、正解が一つだけ決まっている世界ですよね。でも、マーケットはそうではない。自分の主観で、例えば「売り」が正解だと思っていても、取引の相手方に、自分と違う考えの、買い手がいないと取引は成立しません。これは、ある意味で、とても厳しいんですが、ある意味で、救いもある。ある女性からは「NO」と思われてしまった婚活中の男性でも、他の市場にいけば、つまり結婚情報サービスではなく、合コンとかナンパでは人気がでるかもしれないというようにね。マーケットというと、すぐ市場原理主義だ、弱肉強食だ、とか思われるんですけど、マーケットというものは、実は多様性を許容しうるんですよ。
ちきりん それが、私が「みんなもっと積極的にマーケットに向き合ったほうがいい」と考える理由なんです。旅館の市場が典型的なんですが、例えば熱海には何百という旅館があるけれど、インターネットが普及して市場化が進む前は、『るるぶ』などの雑誌に取り上げられた、ごく少数の旅館だけが勝ち組になっていた。でもいまなら、独自の付加価値さえ提供できれば、ニッチな旅館でもネット検索でトップ表示されたり、「楽天トラベル」で高評価を得たりできる。マーケットって、「自分は権威にも組織にも選んでもらえない」と思う人こそ活用すべきものなんです。
田端 マーケットを上手に活用するためには、その既存の評価軸を理解しながら、そこから、自分のポジションをうまくずらす必要があります。小麦みたいなコモディティ商品の市場に、ただの一農家として参加しようとすると、他よりも安く売らないと勝てません。でも、「うちの小麦は有機農法です」とか、競争する軸を少しずらすだけで、その市場でも勝てる可能性がでてくる。「そもそも取引相手はなぜ?何を求めて?小麦を買おうとしているのか」という取引相手のカウンターパートの本当の動機を推察することが大事なんです。マーケティングではコンシューマーインサイトと言われる部分ですが、要は明確に言葉にされないような本音のニーズです。
インターネット化とは、市場化すること
ちきりん 自分が提供している小麦の価値はなんなのか、考えるってことですよね。
田端 ただお腹がふくれればいいという人もいるかもしれないし、子どものために安全なオーガニックのパンを作る材料がほしいと思っている人もいるかもしれない。
ちきりん パン向きの小麦とケーキ向きの小麦だって、求められる質が違うかもしれない。
田端 そうそう。それぞれの人の動機を見極めて、自分が有利になれる市場に出るべきなんです。先ほどの「るるぶ」だけの時代から「楽天トラベル」の時代というのもそうですけど、インターネット化されるというのは、市場化されるってこととほぼイコールですよね。この本は、インターネットについて書いた本ではないけれど、インターネットの影響による変化がよくわかるようになっています。
ちきりん ネットって、市場レベルがすごく高い。ネットがない時代は、テレビや雑誌が取り上げた「おいしいケーキ屋さん」しか人気になれなかった。でも、いまは食べログ1位とか、SNSでバズった「話題のケーキ屋さん」にも客が殺到する。テレビが取材先として選んでくれなくても、市場で評価されることで生き残れる時代です。
田端 たしかにそうですね。民主的な時代になりました。マーケットって民主的なものでもありえるんです。
ちきりん そういえば私も、田端さんと本田哲也さん共著の『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』も、「わかるわかる!」とうなずきながら読みました。
田端 ありがとうございます(笑)。
ちきりん 特に私の本に書いた「市場の選択」とつながるのが、「伝えたい規模によって、最適なメディアは異なる」という話です。例えば「ちきりん」の場合、ターゲットにしてるのは10万人からせいぜい30万人の読者です。最初から1千万人、1億人に伝えようとは思っていないんですね。だからメディアにでる時も、こんなお面を使ってる。数十万人の読者獲得が目的だと、経歴や外見を隠すことが興味を引いて、それ自体が価値になるからです。でも1千万人規模の市場を狙いたいなら、顔を隠すなんてありえない。勝負する市場が違えば、勝つ方法も違ってくるってことです。
田端 なるほど。
ちきりん 「市場で認められる」というレベルにもいろいろあって、数万人に評価されて、年収で600〜800万円くらい稼げればいいのであれば、すごい切り札がなくてもやっていけると思うんですよ。「ニッチな分野でそこそこ知られている人」になるのは、そんなに難しくありません。必要なのはマーケット感覚だけです。一方、1千万人に支持されて何十億円も稼ぎたいなら、マーケット感覚に加え、オペレーション能力など、組織力も併せて必要になります。自分が狙ってる市場はどんな市場なのか。そういう視点を持つことも大事ですね。それ自体がマーケット感覚なんですけど。
新卒採用の面接で「3年後に自分がほしい給料」を聞くわけ
田端 そのマーケット感覚って、「そもそも、自分は何を求めてそのマーケットに参加してようとしているのか」を自覚することも含まれますよね。「自分が何を欲しいか」、そしてそれと引き換えに「自分は何を差し出してもいいか」をわかっている人同士が、お互いの持っている価値を交換するためにある仕組みがマーケットですから。僕はよく、新卒採用の面接をしているときに、「いくらでもいいから3年後に自分がほしい給料を言ってみて」と聞くんです。額は、500万円でも、3千万円でも、1億円でもいい。ただ、それがなぜ欲しいか、なぜその額なのか、なぜその金額を自分がもらうに値するのか、を説明してほしいんです。
ちきりん それぞれの人のお金との向き合い方が表れそう。
田端 そうなんです。みんなほとんどちゃんと答えられないですね。でも、そこを自覚していないと、将来困ると思うんですよ。株式市場で一番カモられるのって、どこまでも儲かればいいと思って、際限なくダブルアップする人。で、最後にやられてすってんてんで去っていくことになる(笑)。カジノもそうですけど、ここまで勝ったらやめると決めておいて、スパっと勝ち逃げできる人がけっきょく一番儲けますよね。それはその人が「自分が儲けたい金額」「必要な金額」というのを事前にちゃんと分かっていたからできることなんです。
ちきりん 確かに「欲しいものだけ取って終わりにする」というのが一番賢い。
田端 そしてメディアでいうと、それはリーチの規模や認知度なんです。例えば、自分は会計が専門だから、ベンチャー企業の会計実務を解説するメルマガを、経理セクションの人向けに発行して、1万人から月1000円課金できればいいや、と思ったら、それ以上の層に知られるための広告は打たなくていい。
ちきりん ゴールを決めていないとダメなのって、起業家もそうですよね。仲間とやりたいことがやれればいいのか、売上げ100億円の会社を目指すのか、3千億円の会社を目指すのか、Appleみたいな世界企業を目指すのか。それによってやるべきことが全然違う。
田端 わかるなあ。時価総額を大きくすることはあくまで手段であるべき。企業にとってのマーケットである資本市場も、事業展開をしていくうえでの手段・ツールであるべきなのに、主客転倒して、マーケットに評価され株価を上げること自体が目的になっちゃってる会社って、ありますよね。
ちきりん ええ。それに目先のお金の価値を重視するあまり、プライスレスな価値に目がいかない、というケースもあります。先日、定員200人の名古屋の会場で講演をしたら、チケットが1日半で売り切れたんです。すると、「500人規模の会場にしていたら、入場料収入が倍になったのにもったいないのでは?」と言う人がいたんです。でも、それは違うよねと(笑)。だって私からすれば、1週間かけて500枚のチケットを売って少々収入が増えるより、1日半でチケットが売り切れ、「ちきりんの講演チケットはプラチナチケットだ!」という評判が得られるほうがよっぽど価値が高い。
田端 しかもそれって、長期的に見れば金銭的にもプラスになりますよね。
ちきりん そうなんです。「前回はチケットが手に入らなかったけど、次こそは!」と待ち望んでる人がたくさんいる状態って、広告を打って意図的につくろうと思ってもつくれないですから。自分の提供価値は何か、ということに加え、どうすれば自分の価値が上がるのか、そういう視点で考えるのもマーケット感覚だと思います。
(次回へ続く)
http://diamond.jp/articles/-/71020
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