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孫泰蔵氏(「MOVIDA JAPAN 株式会社 HP」より)
孫正義の弟、ガンホー創業者…異端の経営者の“正体” 「金に執着しない」経営で大成功
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150501-00010004-bjournal-bus_all
Business Journal 5月1日(金)6時1分配信
孫泰蔵氏といえば、「ソフトバンクの孫正義社長の実弟」「ガンホー・オンライン・エンターテイメントの創業者」として広く知られているが、もともとはゲーム業界に限らず、多くのIT関連企業の起業に直接的・間接的に関与したベンチャー経営者にして、コーディネーター、ベンチャーキャピタリストでもある。20代の頃はホームグラウンドのヤフー周辺にとどまらず、電子商取引(EC)システムのコンサルタントとして、ホームセンターのコメリなど数多くの企業のネットストアの立ち上げに関わり、日本のECの発展を陰で支えてきた実績がある。
その泰蔵氏が東京大学経済学部在学中の1996年2月に設立した最初の企業がインディゴだった。前年発売のマイクロソフトのOS「ウィンドウズ95」で、インターネットの普及と商業利用が加速し始めるという絶好のチャンスを生かすために、大学卒業後に予定していた起業を在学中に前倒ししている。ヤフー日本語版のプロジェクトを任されたのをはじめ、システム開発、家庭でネットの利用を指導するインストラクター派遣、パソコン教室の企画などが、インディゴの初期の業務内容だった。
当初の資本金1000万円を出資したのは、まだ学生だった本人でも兄の孫正義氏でもなく、事業計画書を読み、泰蔵氏から熱意あるプレゼンを受けてOKを出した父親の知人だった。その人が「起業家・孫泰蔵」の出発を後押ししたエンジェルといえる。
筆者は96年夏に、ある雑誌の「若手起業家特集」で、起業して間もない23歳の泰蔵氏にインタビューしている。その時に泰蔵氏は「僕にとって本当のインキュベーターは、友人が友人を紹介してくれたりして、それまでに築いてきた人脈です」と話していた。まだ大学生でも、公認会計士を目指す友人は経営や会計、司法試験合格を目指す友人は法律問題の相談相手になった。創業すると当初からヤフー日本語版の立ち上げという大きなプロジェクトを任されたが、友人や知人が「泰蔵くんの会社を手伝おう」と手弁当で駆けつけ、徹夜覚悟のきつい仕事にも付き合ってくれたという。決して、ソフトバンクグループから人を借りてきて間に合わせたわけではない。インタビューでの「今の僕は人のネットワークによって支えられています」という言葉は決してポーズではなく、本心から出たものだったのだろう。
96年はネットの商業利用が始まってまだ間もない頃で、今の大手ネット関連企業のほとんどはまだ影も形もなく、「ネットで大儲け」などメディアで伝わる海外発のヨタ話が横行する中、企業もネットをどう活用すればいいか暗中模索の状態だった。しかし、まだソーシャルネットワーキングサービス(SNS)などがない時期に泰蔵氏は、「間にはコンピュータと通信が介在しても、ネットは生身の人間と人間を結びつけるネットワーク」と看破していた。「事実、ネットを通じて海外のすごい才能を持った人たちと出会えて、人脈がどんどん広がっています。この拡大する人脈のネットワークを利用しない手はありません」と話していた。
●正義氏は泰蔵氏の起業に1円も出資しなかった
泰蔵氏にとって正義氏は、どんな存在だったのだろうか。年齢が15歳も離れていて、兄がソフトバンクを起業した時、泰蔵氏はまだ小学生だった。兄が事業をどんどん拡大した頃は中学・高校生で、共通の話題もあまりなかったという。どこの家庭でも年が離れた兄弟というのは、大体そういうものだ。ましてや正義氏は、ビジネスの成功者で並の兄ではない。
泰蔵氏が起業を志した時、正義氏は弟に起業や経営についていろいろアドバイスしており、ソフトバンクはインディゴにとって最重要取引先だったが、立ち上げ段階では1円も出資していない。当時もソフトバンクは多くのベンチャーに出資しており、インディゴの起業に1000万円出資しようと思えばできたはずだが、それをしないのは「身内ではなく他人を一から説得して、他人のカネで起業してみなさい」という、起業家の先輩としての正義氏の見識だったのかもしれない。このことが結果として、孫兄弟がその後もお互いに起業家として「いい関係」を築いていく原点になったともいえる。
雑誌の若手起業家特集で、泰蔵氏のページにつけられたタイトルは「兄には兄の、僕には僕の夢があります」だった。2013年にガンホーはソフトバンクの連結子会社になったが、この兄弟は共同経営者でもなければ、主従や同盟者のような関係でもない。まるで仲の良い起業家仲間のようだ。現在、泰蔵氏のプライベート・カンパニー(資産管理会社)といえるのが、インディゴから発展してガンホーやブロッコリーの大株主になっていたアジアングルーヴ合同会社だが、ソフトバンクとの間に直接の資本関係はない。泰蔵氏は、かつてソフトバンクのグループ企業の取締役を務めたこともあるが、現在はソフトバンク関連企業の役員になっていない。
こんな関係を、どう表現すればいいのだろう。地球は、金星のように太陽に近すぎず、火星のように太陽から遠すぎない「ちょうどいい距離(ハビタブル・ゾーン)」に位置しているので、生物が誕生して進化できる環境を持つ奇跡の星になったという話がある。そんな惑星を、『3びきのくま』(福音館書店)という英国の童話の主人公の女の子の名前にちなんで「ゴルディロックス惑星」という。正義氏と泰蔵氏は、少なくとも表面的には、太陽と地球のように近づきすぎず、しかし遠く隔たりすぎてもいない「ちょうどいい関係」を保っているようだから、「ゴルディロックス兄弟」と呼んでもいいかもしれない。
●事業組織のひとつのかたち「メタボール・コーポレーション」
起業したばかりの若き泰蔵氏は「メタボール・コーポレーション」という将来の事業体構想を披露してくれた。「メタボール」とは、コンピュータグラフィックス(CG)の用語で「n次元の有機的なオブジェクト」という意味。
メタボールの円は中心を同じくする同心円になっていて、その核の部分には泰蔵氏が創業したインディゴが位置して、全体をとりまとめるコーディネーターの役割を果たす。そのすぐ外側の円にはプロジェクトリーダーがいるが、彼らはインディゴの社員ではなく、それぞれが独立した起業家。彼らがさまざまな分野の優れた人材に声をかけては参加を募り、プロジェクトを立ち上げる。声をかけられる人材も自らの才能を売り物にする一種の起業家で、最も外側の円を形成する。そんな「インディゴ、プロジェクトリーダー、才能ある人材」という三重構造の同心円を「メタボール」と呼んでいた。このネットワークは雇用関係ではなく独立した個人と個人のネットワークなので、プロジェクトごとに声がかけられて集まって結成し、終了すれば解散して離れていく。そうやって離合集散を繰り返しながら、変化の激しいITの世界にフレキシブルに対応した。
それは、たとえるならばジャズのミュージシャンがライブのたびに声をかけ合って集まり、セッションするようなものだ。ジャズライブを企画して会場を借りるプロモーターは別にいて、お客さんを呼べるようなネームバリューのあるミュージシャンが、「ドラムはこの人、トランペットはこの人」というように一緒にやりたいと思った実力のあるミュージシャンに声をかけ、「○○&カンパニー」「○○&フレンズ」といった、かりそめのユニット名でライブをする。それが評判になると、集まっていたメンバーは別のミュージシャンからも声がかかり、また同じようなかたちで集まりライブをする。そうやって人脈がどんどん広がっていく。
同じようなことが音楽に限らずクリエイターの世界でもごく普通にあり、人と人のネットワークの上で、個性と個性がぶつかり合う中から斬新なものが生み出される。学生ベンチャーを立ち上げたばかりの泰蔵氏は19年前に、そんな人と人とのネットワークで成果をあげるしくみをITビジネスの世界でやろうとした。
当時、ITの世界の優れた才能の多くは企業の中に囲われていて、「兼業禁止」のルールがあり、会社の許可がなければ、そうした外部のネットワークへの協力は禁じられていた。その状況は現在もそれほど変わってはいない。泰蔵氏はそれを承知で「会社をつくらなくても、起業すると手を挙げてくれるだけでいい。集まってネットワークをつくり、いい仕事をしよう」と呼びかけていた。
それから19年の歳月が経過する間に、多くの優れた才能が企業の枠から飛び出し、ベンチャーの旗を揚げたり、それに協力したりしてITの発展に貢献した。泰蔵氏はガンホーの前身の会社を設立し、オンラインゲーム『ラグナロクオンライン』の将来性に着目して、韓国のグラビティから国内運営権を獲得すると、驚異的な成長を遂げた。13年3月にアジアングルーヴはガンホー株をソフトバンクに売却して利益を得ている。
●カネで人を動かす起業家と、志で人を集め、動かす起業家
起業したばかりの頃の泰蔵氏の「メタボール・コーポレーション」という発想は、「人はカネでしか動かない」ではなく、「人は志で動く」ということに立脚している。例えば、ジャズのミュージシャンが「あの人と一緒にセッションしたい」と思うのは「たくさんカネをくれるから」ではなく、「いい音楽がやれると思うから」「音楽的に得られるものが大きいと思うから」だろう。ベンチャーの人脈もカネ、利害得失でかき集める関係以外に、その志に触れて、「いい夢が見られると思うから」「自分も得られるものが大きいと思うから」といった動機で集まってくるネットワークがあってもよく、現にそれはあるはずだ。カネは、その後からついてくる。
「カネに対する執着心がないと起業は成功しない」と言っている人がいるが、それは「人はカネでしか動かない」と言っているのに近い。それでも成功を収めることはできるが、そんな起業家と、人脈のネットワークを大切にし、志で人を集め、動かそうとする起業家では、タイプが違う。それは別にいい悪いではなく、出発点が異なっている。
泰蔵氏は近年、スタートアップ支援を目的とするベンチャーキャピタル、モビーダジャパンを設立し、IT分野にとどまらず多くの若手起業家やベンチャーをセミナーで直接指導しては育てているが、自らのスタートアップ時は、カネではなく志で人を集めて動かせるような起業家を目指し、結果として成功を収めた。これから起業を目指す人にとって、示唆に富む話ではないだろうか。
寺尾淳/ジャーナリスト
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