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地に堕ちた西武HD、私鉄トップへ華麗なる復活劇 巨額負債隠蔽事件から解体的大改革
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150501-00010000-bjournal-bus_all
Business Journal 5月1日(金)6時1分配信
3月20日、西武ホールディングス(HD)の株価が一時3290円まで上昇、再上場後の高値を更新した。その後も株価は3000円台で推移しており、昨年4月に初値1600円で売り出された同社の株価は、1年もたたぬ間に2倍近くまで上昇した。同社の株式時価総額は、今年1月19日に2850円の終値をつけた時点で9750億円となり、東京急行電鉄の9523億円を抜き、私鉄13社の首位に躍り出ている。
躍進の原動力は、ホテル・レジャー事業だった。訪日外国人の増加がその背景にある。日本政府観光局の調査によると、観光業界の悲願といわれた「訪日外国人1000万人」を達成したのは2013年末(1036万人)。昨年末は前年比29.4%増の1341万人まで伸びた。少子高齢化などで国内旅行客の減少に悩む鉄道業界にとって、訪日外国人増加は特需のようなもの。そんな中、「訪日旅行銘柄として投資家の人気を集めているのが、東海道新幹線を擁するJR東海と西武HD」(大手証券関係者)だという。
直近の15年3月期第3四半期(14年4月-12月)連結決算では、ホテル・レジャー事業の営業利益が全体の20.9%を占め、その構成比は大手私鉄の中で群を抜いている。ちなみに同決算期の東急電鉄の同事業のそれは7.0%にすぎず、近畿日本鉄道でも14.8%にとどまっている。
西武HDの後藤高志社長は今年の年頭訓示で「当社は国が目標とする『観光立国』よりハードルが高い『観光大国』を目指し、そのトップランナーになる」と、社内に檄を飛ばした。多額の負債を隠蔽した有価証券報告書虚偽記載事件を引き金に、「ブランドが地に堕ちた」といわれたプリンスホテルを先頭にしたホテル・レジャー事業を、同社はいかにして立て直したのか。
●後藤改革
メインバンクのみずほコーポレート銀行(現みずほフィナンシャルグループ)から西武鉄道(現西武HD)経営再建を託され、同行副頭取から西武鉄道のトップに転じた後藤社長がホテル・レジャー事業再建のために最初に行ったのは、事業縮小だった。全国に点在するホテル、スキー場、ゴルフ場の営業実態をすべて精査。当時167カ所あったこれら事業所のうち、赤字垂れ流し同然の事業所76カ所を05年2月からの2年間で売却・閉鎖し、事業規模を半数近い現在の91カ所へ一気に縮小した。
後藤社長は、この事業縮小と並行して組織改革も行った。それまで独自にリゾート開発を行っていたコクドをプリンスホテルに経営統合し、06年2月に持ち株会社の西武HDを設立。その下に西武鉄道とプリンスホテルを置き、両者が連携して経営改革できる体制に改めた。
しかし、これはあくまで本格的な経営改革に入るための土台固めのようなもの。本格的な経営改革には内部統制の改革、特に社員のモラルアップが急務だった。
「当時は社会からバッシングされていた影響もあって、社内はバラバラ。そこへ『みずほからリストラ部隊がやってきた』という受け止め方。『これから会社はどうなるのだろう』と、みんな疑心暗鬼に駆られていた」(西武HD関係者)
「西武帝国の独裁者」とも呼ばれた西武鉄道グループ元オーナー堤義明氏の下、社内の風通しも悪かった。当時は西武鉄道、コクド、プリンスホテルの3社を中心に西武グループが形成されていたが、グループ内の人事交流は皆無。当然、社員同士の面識もなく、所属が違えば完全な他社。管理職クラスでさえ、何かの折に顔を合わせると名刺交換から挨拶が始まる状態だったという。このため、もともと上を向いて仕事をする傾向が強かった社風に不安感が倍加され、それに嫌気が差した社員は去り、残った社員は自己保身に走るといったありさまだったようだ。
そこで後藤社長は本格的な経営再建に入った06年3月、「新西武グループ」の経営理念と社員の行動指針を明確にした「グループビジョン」を制定、社員のモラルアップに取り組んだ。社員へのアンケート調査などで現場の問題点を洗い出し、グループ間の人事交流などを盛んに行い、グループの一体感醸成に努めた。また、企業倫理規範、リスク・情報管理基準などコンプライアンス体制を整備し、経営理念と共にコンプライアンスの浸透を図るなど内部統制の強化にも努めた。
●レベニュー・マネジメント
一方、個別事業に目を転じると、ホテル・レジャー事業では収益改善が待ったなしの状況だった。
堤時代は主要3社の独立性が強く、経営も「利益なき売り上げ至上主義」が横行していたという。例えばホテル事業では各ホテルが価格競争に走り、極端な割引で客室稼働率を上げたり、食にこだわる料理長が採算度外視の食材を購入して自分の料理を自慢したりしていた。そこでホテルごとのコストを精査し、採算割れする客室稼働や料理の排除を進め、ホテル従業員にもコスト意識を浸透させた。
同時にホテル運営の効率化を目指し、米国のホテル業界に定着しているレベニュー・マネジメント導入にも取り組んだ。レベニュー・マネジメントとは季節やイベントの有無に即した客観的な需要予測、需要に即した価格設定、ターゲットを絞った集客などで、ホテル事業の収益拡大を目指す販売管理手法。その結果、10年後半頃からホテル事業の収益が向上し始め、ホテル事業で実施した収益改善の成果をレジャー部門にも広げていった。
証券アナリストは「こうしたホテル・レジャー事業立て直しの成功が、訪日外国人増加を追い風に同事業を活性化させ、再上場後の西武の株価上昇に貢献した」と分析する。
経営再建が軌道に乗ったとみられる今、株式市場が注目するのは成長戦略だ。
これについて西武HDは、2月26日に発表した「西武グループ中期事業計画(15-17年度)」の中で、17年に営業収益(売上高相当)5300億円、償却前営業利益1054億円の数値目標を掲げ、訪日外国人の獲得強化を軸にした成長の図式を描いている。
もちろん、以下のような4項目の具体策も示している。
「プリンスホテルの訪日外国人客のグループ内施設への送客や回遊」
「重点エリア(都内、西武鉄道沿線、軽井沢・伊豆箱根のリゾート地)での訪日外国人客のグループ内施設での回遊促進」
「重点エリア内施設における多言語表記、外国語対応スタッフ配置、食事等宗教対応などによる訪日外国人客受け入れ態勢の早期整備」
「西武グループが一体となった訪日外国人客獲得のプロモーション活動強化」
北海道から九州まで41カ所に点在するプリンスホテル(グループ全体の宿泊施設は50カ所)が連携するだけで、訪日外国人客取り込みのためのさまざまなサービス展開が可能になるのは想像に難くない。それは他の私鉄系ホテルや大手独立系ホテルとの差別化要素にもなろう。ちなみに西武HDは、17年度のホテル・レジャー事業の売上高について14年度比9.8増の1985億円を目標にしている。
●爆発的成長力を秘めた不動産事業
このほか、成長戦略の潜在能力として期待されているのが不動産事業だ。
西武HDは東京23区内に約47万平方メートルの土地を所有している。三菱地所の約33万平方メートル、住友不動産の約31万平方メートル、三井不動産の約25万平方メートルを上回る。さらに東京23区以外の国内各地に合わせて約4246万平方メートルの土地を所有しており、両方合わせると山手線内側の2倍程度の土地を所有している計算になる。所有地の規模だけで見ると、国内最大級の不動産会社といえる。この潜在資産をいかに有効活用するかが、同社最大の課題とされる。
それを踏まえ、現在推進中の旗艦プロジェクトが「紀尾井町プロジェクト」だ。これは「赤プリ」の愛称で親しまれた「グランドプリンスホテル赤坂」跡地の再開発計画。16年夏の竣工を目指し、地上36階建てのホテル・オフィス・商業施設の複合施設1棟と、地上21階建ての賃貸マンション1棟から成る「東京ガーデンテラス」を建設中だ。
東京・池袋でも「池袋旧本社ビル建て替え計画」が進行している。これは池袋駅南側の旧本社ビル跡地と西武池袋線西側の西武鉄道所有地に大型オフィスビルを建設、両棟を西武池袋線上空をまたぐデッキでつなぐ計画だ。18年度中の竣工を目指している。
西武HDが昨年6月にこの計画を発表したことから、「豊島区が進めている『池袋駅および駅周辺整備計画』との連動で、池袋を大きく発展させる可能性が出てきた」(不動産業界関係者)と注目されている。
豊島区が進めている計画は「池袋駅南デッキ構想」と呼ばれている計画。JR池袋駅西口のメトロポリタンプラザビルと東口の西武百貨店を、池袋南側のJR山手線をまたぐデッキでつなげる計画だ。この南デッキを西武の建て替え計画のデッキとつなぐと、西武の大型オフィスビルと一体化したビル群が池袋駅南側に形成され、池袋の副都心機能が強まると期待されている。
この他、西武が「計画はまだ白紙」としている高輪・品川地区約13万平方メートルの再開発にも期待が高まっている。27年の開業が予定されているリニア新幹線の始発駅が品川駅と決まり、同駅周辺の再開発構想が盛り上がっているからだ。不動産関係者は「国と東京都の再開発計画が具体化すれば、西武HDの所有資産は大化けする可能性が高い」と興味津々だ。
再上場に向けて暗闘した米投資会社サーベラスとの決着という宿題は残っているものの、「後藤改革」による西武の成長戦略は、これからいよいよ本格化しそうだ。
(文=福井晋/フリーライター)
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