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AIIB参加について、日経新聞は主張がブレていないだろうか?
AIIBへの対応でブレた日経と経済界のダメ具合
http://diamond.jp/articles/-/70893
2015年5月1日 岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授] ダイヤモンド・オンライン
中国が年内の設立に向けて動いているアジアインフラ投資銀行(AIIB)。こちらへの参加問題について見ていくと、多くの経済人(=大企業経営者)と経済界の御用新聞である日経新聞が大きくブレているようです。
■AIIBに参加する必要はまったくなし
実際、3月ころまでは「AIIBは意思決定プロセスなどが不透明なのだから、日本は参加する必要なし」といったトーンの主張が多く見受けられました。ところが、イギリス、フランス、ドイツといったヨーロッパの主要国が参加に舵を切り、最終的に57ヵ国と予想以上に多くの国が参加を表明すると、「日本も参加しないとアジアのインフラビジネスに乗り遅れる」、「アジア開発銀行とAIIBが協調してアジアの経済発展につながるプロジェクトを推進できるよう、日本もAIIBに参加すべき」、「アジア市場の将来性を見据えた外交戦略を考えるべき」と、それまでとは正反対の主張に変わっています。
しかし、現実には、既に多くの識者がネット上で主張しているように、現段階で日本がAIIBに焦って参加する必要性はまったくありません。
というのは、日米が参加しなければ、AIIBの格付けは確実に低くなるからです。AIIBへの中国の出資比率が最大になる(50%とも3分の1とも言われていますが)のが確実な中で、中国自体の金融市場における格付けが高くないことを考えると当然ですが、国際機関としては非常に低いAマイナスになるのではという噂もあります。
そうなった場合、AIIBが金融市場から資金を調達するときの金利はアジア開銀より1%高くなるのではないかと言われています。また、そもそもAIIBは投資不適格と判断せざるを得ないのではという声もあります。
こうした金融市場での現実を考えると、日本が自ら焦って中国にAIIB参加を働きかける必要などまったくないと言えます。
また、AIIBは中国の建設会社の救済策だと見る向きもあります。中国経済が減速する中で、国際的に資金を集めて不況に喘ぐ中国の建設会社の仕事を作るのが目的という推測です。習近平が提唱する「一帯一路構想」が中国を中心に考えていることからも、AIIBの当面の仕事は中国内のインフラ整備になる可能性が高いと思いますので、この推測は妥当ではないでしょうか。
しかし、それでは、中国が最大出資国となり、中国人が組織のトップとなり、本拠地が北京に置かれるという、中国政府の下部組織のようなAIIBが他国の信用を使って採算性の低いプロジェクトを実施することになりかねません。その意味で、意思決定プロセスが不透明なままで税金を投入できないという財務省の主張は、至極真っ当であると言えます。
■今更のAIIB参加論は「認知的不協和」の典型例
このように考えると、参加を見合わせた日本政府の判断は正しいにも拘らず、なぜ多くの経済人やその御用新聞である日経は、そうした当たり前の指摘もせずにAIIB参加論に傾いてしまったのでしょうか。
彼らの行動は、行動経済学でいう「認知的不協和」の典型例と捉えることができます。認知的不協和とは、自分の考えや前提としていた条件が間違っていたと分かったときに感じる心理的葛藤を指します。いくつかのアジアの国が参加を表明したときは、それらが参加しても大したことはないと高を括っていたのに、参加するはずがないと信じていたG7加盟国が参加を表明し、かつ57ヵ国と多数に感じる数の国が参加したことで、「参加する必要ない」と考える前提が崩れてしまったのです。
おそらくその根底には、多数と違うことをする場合に何となく不安を感じるという「ハーディング現象」に加え、イギリス、フランス、ドイツといったヨーロッパの主要国の判断は常に正しいに違いないという時代遅れの思い込みもあるのではないでしょうか。
ところで、認知的不協和が生じた場合、人は、自分の考え方を都合よく変えたり、詭弁を弄して他者に原因を求めたりして、なんとか不協和を解消しようとします。要は自己正当化です。
AIIB参加問題でも、まさにこれが起きました。英独仏が参加を表明し、また57ヵ国という多数の国が参加することが判明すると、多くの新聞が一斉にそれを予想できなかった財務省や外務省の情報収集の不足や遅れを厳しく批判し始めました。まさに自己正当化のために原因を作り上げたのです。
しかし、残念ながらこうした政府批判は、そもそもの動機が自己正当化だから当然とは言え、まったくの的外れと言わざるを得ません。もし政府を批判するとしたら、アジア開銀のシンクタンクであるアジア開発銀行研究所が2009年に、
・アジアでは2010〜20年に総額8.3兆ドルものインフラ投資が必要
・総額8.3兆ドルに上る巨額の資金を捻出するため、公的なアジア・インフラ・ファンド(AIF)を立ち上げ、アジア域内貯蓄マネーや世界の投資マネーを収益性のあるアジア地域インフラ・プロジェクトに結びつけるべき
・AIFの資金源に関しては、政府、政府系ファンド、多国間の開発銀行、二国間援助機関、民間の資金などの活用も考えられる(下線は筆者が付した)
という提言を発表しており、AIIBはこの提言を中国が実現しようとしているとも言えることを考えると、日本政府がこの提言を実行に移さなかったことこそが非難されるべきだからです。ちなみに、この提言が公表されたときは民主党政権でしたから、民主党もAIIB参加問題を巡って政府を批判する資格はないと言えます。
■経済人や日経を反面教師にしよう
このように考えると、改めて日本の大企業経営者の多くと日経のダメさ加減を感じざるを得ません。経済人といえば公人であり、新聞は社会の公器と言われるのですから、どのようなときでも日本のことを考えた正論を主張すべきなのに、それよりも自己の認知的不協和の解消の方を優先してしまっているのですから。
いずれにしても、現状で焦ってAIIBに参加しようとするのは最悪な選択です。米国とがっちりタッグを組んだ上で、中国のお手並み拝見に徹するのが次善の策としてベストな選択ではないでしょうか。その意味では、自民党が全体としては焦って動こうという感じになっていないのは好材料です。もっとも、その理由が冷静な思考というより右寄りの方が多いからというのもどうかと思いますが…。
いずれにしても、本件から私たちが学ぶべき教訓が二つあるように思えます。一つは、彼らのしたり顔での正論っぽい主張は絶対に信じないようにすべきということです。もう一つは、自分の発言や行動において彼らの轍を踏まないようにすることではないでしょうか。人は、自分の考えや行動へのコミットメントが強ければ強いほど、認知的不協和に直面するとその解消を最優先しようとします。しかしそれは、判断や意思決定を間違えさせる要因になります。ダメダメな経済人や日経は、せめて反面教師として活かすしかない気がしてしまいます。
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