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貧困状態でも生活保護を選べないシングルマザーの葛藤
http://diamond.jp/articles/-/70894
2015年5月1日 みわよしこ [フリーランス・ライター] ダイヤモンド・オンライン
2人の親がいても、育児は難事業。ひとり親家庭には、育児という難事業を一人で行う困難がある。さらにシングルマザーに対しては、女性ゆえの不利や困難が加わりやすい。
今回は、生活保護より幅広く利用されている児童扶養手当を中心に、シングルマザーの置かれている状況を大づかみに見てみたい。どのようなシングルマザーがいて、どのような経済的支援を利用しているのだろうか?
■シングルマザーが支える母子の「暮らし」とは?
シングルマザーの実態は実に様々だ Photo:milatas-Fotolia.com
「子どもの貧困問題との関連で、『シングルマザーは、こんなに大変で悲惨』というトーンの報道、あるいは支援者からの訴えが増えています。シングルマザーの困窮はひどくなっていますが、そうかといって、全てのシングルマザーがそういう目で見られたいと思っているわけではありません」
赤石千衣子さん(「NPO法人 しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長)は、「性差別に抑圧され続け、貧困状態にある母親と子ども」というイメージに傾きがちな私に、にこやかにクギを刺す。
「私たちのところ、『しんぐるまざあず・ふぉーらむ』に来るお母さんたちの状況は、本当にさまざまです。子どもさんの数と年齢、職業、収入、DV被害に遭ったことがあるかどうか……など。私たちは当事者の団体なので、『生活困窮者支援』を前面に出している支援団体に相談に行くシングルマザーの方々に比べれば、平均年収は高いです」(赤石さん)
1980年代初頭、自身もシングルマザーである赤石さんが設立した「しんぐるまざあず・ふぉーらむ(以下、ふぉーらむ)」は、2003年にNPO法人格も取得。調査研究・政策提言などを行う一方、電話相談・直接支援・交流会・相談会・支援者育成・親子の旅行など、さまざまな直接・間接の支援活動を展開している。
約400人の会員は、多数のシングルマザー・若干のシングルファザー・支援や応援を行う賛助会員から成っている。シングルマザーたちの背景は、ひとり親になった経緯だけでも、離婚・非婚・未婚・死別とさまざまだ。
赤石千衣子(あかいし・ちえこ)氏。「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長。1955年東京生まれ。非婚のシングルマザーとなり、シングルマザーの当事者団体活動に参加。婚外子差別廃止・夫婦別姓選択制などを求める民法改正活動、反貧困活動に関わる。シングルマザーとして生活保護を利用した経験も持つ。著書は『ひとり親家庭』(2014 年 4 月刊行、岩波新書)など。
「ふぉーらむ」の事務所は東京にあるため、会員の居住地も活動も、関東が中心になりやすい。しかし、年4回発行される会報とインターネット上の交流の場がある他、北海道・岩手・福島・関西・出雲・松山・福岡・沖縄に姉妹団体がある。
2015年3月10日、「ふぉーらむ」と姉妹団体の全国的な連携により、「子どもの育ちを保障し居場所を広げる支援を求める声明」が発せられた。
「(川崎中1殺害事件の被害者)上村遼太くんのお母さんの『遼太が学校に行くよりも前に私が出勤しなければならず、また、遅い時間に帰宅するので、遼太が日中、何をしているのか十分に把握することができていませんでした』『今思えば、遼太は、私や家族に心配や迷惑をかけまいと、必死に平静を装っていたのだと思います』という言葉は、多くのひとり親家庭の親と子が置かれている状況を伝えており、私たち母子家庭の親として、いつ私たち親子に起こってもおかしくない事件だと感じ、胸が張り裂ける思いです」
という書き出しで始まるこの声明は、子どもの貧困・ひとり親家庭の貧困・母子家庭の貧困をデータによって示し、ついで、
「子どもの貧困対策推進の大綱では、保護者の就労支援として、「家庭で家族が接する時間を確保する。また、貧困の状態が社会的孤立を深刻化させることのないよう配慮する」とありますが、実効的な施策は不十分です」
と、政府施策の不備を指摘する。
さらに、
「ひとり親家庭の子どもたちの健全な育ちが保障されていないために起きるこうした事件が続けば、社会全体を不安定化させることにつながりかねないのです」
と、決して「母親の自己責任」と放置するわけにはいかない社会的問題であることを示している。最後に、児童扶養手当の増額・生活保護の漏給問題(利用資格がありながら利用していない人々が多数存在する問題)の解決・スクールソーシャルワーカーを活用できる体制の整備・学習支援のみならず子どもたちの居場所を確保することの4点を提言している。
ひとり親世帯・特に母子世帯に対する公的支援のメニューは、これまでも「ない」わけではなかった。昭和20年代、「近代国家にふさわしい社会保障とは?」が政治の大きな課題であった時期、第二次世界大戦によって生み出された多数の孤児・寡婦・戦争による死別母子世帯の救済は重点的課題の一つであった。
戦後、GHQは戦死遺族への給付を禁じていたが、日本の独立後は、遺族年金が戦死遺族に給付されるようになり、続いて死別母子家庭にも遺族年金が支給されるようになった。全国未亡人連絡協議会が活発に活動し、母子福祉年金(1986年以後は遺族基礎年金)などを政府に要求してきた。しかし、しかし、あくまでも死別母子家庭中心の制度であった。遅れて1961年、生別母子家庭にも児童扶養手当が給付されるようになっていった。
■「児童扶養手当」がひとり親世帯の命綱?
「まず、現在の制度とお母さんたちのニーズの間に、大きなギャップがあるんです」(赤石さん)
現状、制度の利用状況は、どのようになっているのだろうか?
「厚労省の最新の調査結果(平成23年度全国母子世帯等調査結果報告)では、シングルマザーの14.4%が、生活保護を利用しています。8.5%は、公的年金を利用しています。死別だと遺族年金を受給できることがあり、シングルマザーの6.4%は実際に利用しています。死別だと、遺族基礎年金または遺族厚生年金(夫が厚生年金に加入していた場合)を受給できます」(赤石さん)
この他に、シングルマザー自身が障害者である場合もある。シングルマザーの1.5%は障害年金を利用している。
遺族基礎年金額は。子どもの加算が加わると年間で100万円程度となり、児童扶養手当の満額支給の額(2015年4月現在、4万2000円)の2倍程度となる。遺族厚生年金があれば、かなり「生活は保障されている」と言うことができ、母親がパートで働いても生活は成り立っていく。死別母子家庭と生別母子家庭には、給付額でも大きな差がある。ちなみに、公的年金と児童扶養手当の併給は認められていない(2014年12月、児童扶養手当以下の低年金である場合は、児童扶養手当との差額が受給できるようになっている)。
「児童扶養手当は、シングルマザーの圧倒的多数、73.2%に利用されています」(赤石さん)
現在の日本における、ひとり親支援の模式図(赤石さん作成)。母子家庭に対しては、「困窮者支援=生活保護」という図式は、必ずしも当てはまらない
ひとり親世帯に対し、子ども1人の場合は1ヵ月あたり最大4万2000円(満額)が支給される「児童扶養手当」は、現在のところ、ひとり親世帯の「命綱」なのだ。なお、1961年の制度創設時は母子家庭に限定されていたが、2010年以後は父子家庭も対象とされている。
■なぜ、シングルマザーたちは生活保護を選ばないのか?
ひとり親家庭の相対的貧困率は54.6%(2012年、厚生労働省の調査[PDF]による)。シングルマザーに限定すれば、さらに高いだろう。児童扶養手当の捕捉率は73.2%。「貧困状態にあり、生活保護を利用していないシングルマザーの多くが、児童扶養手当を利用している」と見るべきだろう。一方、生活保護を利用しているのは、シングルマザーの14.4%。母子家庭の相対的貧困率を60〜75%と控えめに見積もれば、生活保護の捕捉率(利用資格のある人のうち利用している人の比率)は20〜25%程度であろう。
なぜ、シングルマザーたちは生活保護を利用しないのだろうか?
一例として、東京都に住む、子どもが2人いるシングルマザーを考えてみよう。母親は38歳、子どもは中学生1人・小学生1人とする。
母親自身は、非正規雇用ながらフルタイム雇用で「社保完」とする。収入は額面で19万、手取りは15万円といったところだろうか。これだけなら、生活は「カツカツ」だ。
しかし、児童扶養手当3万7000千円(年収が130万円を超えているので減額され、子ども2人でこの金額となる)・東京都の児童育成手当2万7000円(子ども2人分)を加えると、毎月の収入は21万4000円となる。しかし、生活保護費(生活扶助・住宅扶助・母子加算・児童養育加算)は26万7000円。生活保護基準以下の生活であることは間違いない。
「生活保護基準以下の収入ではあるけれども、生活保護を受けたいと思っていない、といいますか、考えたこともない方は、たくさんいると思います」(赤石さん)
理由は?
「健康保険証が使えず、医療券で医者にかかるなど『制約が大きい』と思っているんです。スティグマの問題もありますし。だから、望まないんです」(赤石さん)
「その判断は、間違ってはいない」と認めざるを得ない。「自立支援」の名のもとに、行政に痛めつけられる可能性もある(前回参照)。やっと就労でき、就労を継続したら、次は生活保護基準以上に稼げる職業に就くことを求められる。子どもが2人いれば、東京都で手取り年収350万円程度が目安となる。可能性はゼロではないだろう。でも、生活保護を必要としているシングルマザーの多くにとって、実現可能性はどの程度だろうか?
さらに地方では、「生活保護か、車か」の究極の選択となりやすい状況がある。もちろん生活保護を利用していても、職業・障害などの理由によって自動車の保有・運転を許可される場合もある。しかし、そのような運用は極めて限定的かつ例外的だ。
生活保護制度は、「最低限度だけど、健康で文化的な生活」、つまり「ゼイタクではないけれど、普通の暮らし」を実現するためにある。しかし現在では、利用しないでいれば苦しく、利用しても苦しい。「利用しないでいれば苦しい」を少しでも緩和できるのは、児童扶養手当。
本来ならば、困難な状況にあるシングルマザーに「究極の選択」を迫る状況自体が、解決されるべき問題だ。しかし、目の前の子どものためには、その解決を待っているわけにはいかない。
■「母親の自己責任なら給付されない?」児童扶養手当の不適切な運用
児童扶養手当は、シングルマザーたちにとって、生活保護よりは利用しやすい制度である。しかし、生活保護の「水際作戦(申請権侵害)」と同様に、行政によって不適切な運用がされることも多い。
「たとえば、結婚しないで子どもを産んで児童扶養手当を申請した場合、申請時に妊娠の経緯などを聞かれてプライバシーが侵害され、申請をあきらめるようなこともあります」(赤石さん)
この他、「子どもの父親が近くに住んでいるので、偽装離婚と疑われて児童扶養手当が給付されない」といった事例もある。「ふぉーらむ」では、このような扱いを受けたシングルマザーに対し、受給を支援する活動も行っている。
2014年12月、子とともにシェアハウスに住んでいたシングルマザーに対し、「シェアハウスに親族ではない男性がいる」を理由として、国立市が児童扶養手当を支給停止としたことが報道された。報道は広い議論と批判を呼び、2015年4月17日、厚労省による課長通知へとつながった。報道(朝日新聞記事http://u111u.info/ktEh)によれば、
・
「ひとり親に支給される児童扶養手当について、『事実婚』の状態かどうか生活実態を確認して判断し、適切に支給するよう求める通知を厚生労働省が各都道府県に出した。シェアハウスに住んでいる場合など、自治体が判断に迷うケースが増えているためで、判断の具体例も示した」
ということだ。
未だ不適切な運用も行われている現状はさておき、児童扶養手当が「子どもの貧困」のある程度の緩和に対し、大きな役割を果たしていることは間違いない。
「繰り返しになりますが、シングルマザー全体を見ると、生活保護を利用しておられる人が、約14%。児童扶養手当を利用している人が、約73%。年金を利用している方々、就労収入・養育費・実家からの援助などだけでやっていけている人もいます。生活保護を受給している人は、DV被害、子どもの病気、子どもの障害などなんらかの困難が重複していることが多いのです」(赤石さん)
ひとり親世帯の公的支援に関する状況を少しでも正確に理解するためには、この図式を念頭に置いておく必要がありそうだ。
次回は引き続き、赤石千衣子氏のインタビューを紹介する。不完全で本人のニーズに沿っていないことも多いとはいえ、行政は、現金給付以外にも数多くの支援メニューを用意している。それらの支援メニューは、どのように「自立支援」の役に立っているのだろうか? 政策決定のあり方に、問題はないだろうか?
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