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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 セブン一人勝ちの背景
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週刊実話 2015年5月7日 特大号
流通大手の決算が出そろった。セブン&アイ・ホールディングスは、グループ全体の売上高が前年比6.6%増の10兆2356億円となり、国内の小売業として初めて10兆円の大台に乗せた。
一方、ライバルのイオンも売上高が過去最高の7兆円超えを果たした。中小スーパーが次々に傘下に入るなど、いまや日本の流通業は、セブンとイオンの両雄が支配する構造に変わってきている。
しかし、本業の儲けを示す営業利益をみると、両社は明暗を分けている。セブン&アイ・ホールディングスが4年連続で最高益を更新しているのに対して、イオンの営業利益は前期比17.5%減の1413億円と、3期連続の減益となっているのだ。
両社は、もともとスーパーを母体にしているが、イオンの中心事業がイオンモールになっているのに対して、セブン&アイの売り上げの7割はセブンイレブンが占めている。
そして、両社は昨年4月の消費税引き上げ以降、まったく異なる経営戦略を採用した。イオンは、プライベートブランドのトップバリュ6000品目のうち、8割にあたる5000品目の本体価格を3%引き下げ、税込み価格を据え置く戦略に出た。一方、セブンイレブンは値下げに踏み切るのではなく、セブンカフェの中で100円コーヒーの販売を拡充したうえに、一部の店舗で100円ドーナツを投入するなど、手頃な価格で魅力の高い商品の品ぞろえを増やしていった。
私は当初、消費税引き上げで生活が厳しくなった消費者がイオンに殺到するだろうとみていたが、思ったほど客足は伸びなかったのだ。一方で、セブンイレブンは順調に売り上げを伸ばし、コンビニ大手3社の中で唯一営業利益増に結びつけた。
この差は一体どこから生まれたのか。両社の第一の差は、立地の差だ。セブンイレブンの立地の中心は、大都市中心部。それに対してイオンモールは、大都市の郊外あるいは地方部だ。アベノミクスの景気拡大は、地方部には及んでいない。一方、大都市部は東京を中心にバブルといってもよい活況を呈している。つまり、イオンモールは確かに多くの人を集めているが、所得の伸びない地域でビジネスをしているというのが、利益の出ない一つの原因になっている。
しかし、より本質的な問題は、イオンの顧客がほとんど庶民ばかりだということだ。だからイオンが消費税の引き上げに対抗して値下げをするというのは、まさに庶民のニーズに応える経営判断だったのだが、いかんせん、その庶民の所得が伸びなかった。
一方のセブンイレブンは、所得を増やした大企業の社員も利用している。また、共稼ぎが避けられなくなったり、長時間労働で食事を作る余裕のない庶民も盛んに利用している。つまり、アベノミクスによる格差拡大が、結果的にセブン&アイの業績を押し上げたということになるのだろう。
厚生労働省の毎月勤労統計によると、500人以上の規模の労働者の賃金が前年比で1.8%増えたのに対して、30人未満は0.0%だった。今年の春闘でも中小のベアはない。このままいくと、セブンとイオンの格差も、社会全体の格差拡大とともに広がっていくのかもしれない。
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