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アベノミクスで賃金はどこまで上がるか
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150430-00015110-president-bus_all
プレジデント 4月30日(木)10時15分配信
■現在の日本経済は、良好な状態
企業収益と雇用の両面からみて、現在の日本経済は良好な状態にある。財務省の法人企業統計によると、2014年10〜12月期の全産業の経常利益は前年同期比11.6%増の18兆651億円と、過去最高を記録した。厚生労働省発表の15年1月の失業者数は231万人で、56カ月連続で減少を続けており、全国の有効求人倍率は1.14倍と、22年ぶりの高さとなっている。
これは、安倍晋三内閣の経済政策「アベノミクス」の成果といえよう。
景気回復に最も効果が大きかったのが、アベノミクスの「第一の矢」とされ、安倍内閣に選任された黒田東彦日銀総裁が実施した“大胆な金融緩和”である。これはインフレ目標の設定と大規模な量的金融緩和(日銀が、金利を下げるのではなく市場で国債などの債券を購入、市中にさらに貨幣を供給することで行う金融政策)の実施によりデフレを脱し、景気を回復させること、すなわちリフレーション(リフレ)政策を意味している。
デフレに対してリフレ政策が有効であるという考えは、米国では一般的なものだ。たとえば08年秋のリーマンショック後のFRBの連続的な量的金融緩和について、米国の経済学者の間ではほとんど反対はなかった。
しかし日銀関係者の間では従来、「日本のデフレは人口の高齢化やグローバリズムの進展に起因する構造的なもの。量的金融緩和でデフレは解消されない」という声が強く、多くの学者もそう主張していた。
そこで、量的金融緩和がどのような経路をたどって雇用や投資、景気の拡大に作用するのかを、具体的にみていこう。
リフレ効果の最初の表れは「円安」である。安倍政権がリフレ政策の採用を言明し、日銀がそれを実施したことで、12年平均の1ドル=80円弱という記録的な円高状態から、14年末には同120円弱と、2年で約4割も円安に振れている。
円安により、輸出企業の採算は大きく改善した。輸入品と競合している国内企業も経営が好転し、海外からの旅行客も増えて国内消費に寄与した。これが今の好況の一因だ。
なぜ、リフレで円が安くなるのか。為替レートは2つの通貨の総量の比に応じて変動する。中央銀行が金融を緩和すれば、その通貨の量は増え、安くなるからだ。このため金融政策は、それが実行されればもちろん、変化が予想されただけで為替レートにダイレクトな影響を与える。
中央銀行が供給する通貨の量を「マネタリーベース」と呼ぶ。日本の為替市場関係者は、2国間のマネタリーベースの比を示す表を、通貨取引で有名な投資家ジョージ・ソロスの名を取ってソロス・チャートと呼び、売買の指標としている。
円安と並ぶリフレ効果が、「予想インフレ率の上昇」である。“物価は下がってゆくもの”という予想が“これから物価が上がる”に変わると、それに応じて人々の行動が変わる。モノやサービスが値上がりするなら、「待っていると損」とばかりに、消費や投資が増えるのだ。日銀が2%というインフレ目標を宣言した意味は、ここにある。
予想インフレ率が上がると、株価も上がる。これは、海外の投資家の間で「予想インフレ率が上がれば投資と消費が増え、企業の収益が増加し、実質金利も下がるので投資も増え、株価が上がる」ことが常識となっているためである。
このため為替と同様、大々的な金融緩和による予想インフレ率上昇が予測されただけで、株式市場に大量の買いが入り、実際に株価が上がってゆく。13年の1年間で日経平均株価は57%上昇し、41年ぶりの上昇率を記録している。
同じように予想インフレ率アップで不動産価格の上昇も予測されるため、値上がりを見込んだ買いが入って地価も上がっていく。これは現在、特に東京都心部で顕著だ。
金融緩和で地価、株価が上昇すれば、それを所有する企業や個人にとっては融資が受けやすくなる。銀行からみた担保価値が大きくなるためだ。それは投資や起業を容易にし、雇用を拡大し景気を好転させる。
また、これまで企業や家計に眠っていた資金が株や不動産へ投資されることは、お金が1カ所に留まらず移動することを意味する。市中の通貨の量が一定でも、投資が活発化すると通貨の流通速度が上がり、企業や家計の収入が増えて景気が回復するのである。
デフレ予想がインフレ予想に変わることは、現実の経済にこれほど大きく影響する。
■賃金の上昇は景気回復より遅れて起こる
その一方で、「企業の収益力が上がっても労働者の賃金はあまり上がらず、実質所得がマイナスになっている」という批判がある。
これは『世界が日本経済をうらやむ日』共著者でエコノミストの安達誠司氏が強調した点だが、リフレによる景気回復は瞬時に始まるわけではなく、いくつかの現象が順を追って発生していく。
賃金の上昇は景気回復より遅れて起こる。景気回復の過程では、まず正社員の残業とパートなど非正規社員の勤務時間が増え、次に労働時間増加では対応できなくなって非正規雇用の雇用者数が増え、続いて正規雇用の数が増え、それによって労働市場が人手不足となったとき、初めて賃金の上昇が始まる(図1参照)。
これは経営者の立場で考えればわかるだろう。企業は「賃金を上げないと新規の従業員を雇えない」状態となって初めて、新卒者や中途入社社員に提示する給料を上げるのであり、「賃金を上げないと自社の従業員に逃げられてしまう」という状況になって、ようやく既存社員の給料を上げようという考えに至るのだ。
GDP統計の「雇用者報酬」をみると、安倍政権誕生以降、順調に増加している(図2参照)。正社員の給料の伸びは鈍くとも、残業代が増えたり非正規雇用を中心とする雇用が増加し、企業から支払われる賃金の総額は増えているのである。アベノミクスによる景気回復がこのまま続けば、今後は正社員の給料も本格的に上がっていくはずである。
同様に、予想インフレ率が上がっても銀行貸し出しがあまり増えていない、という批判も聞くが、企業はデフレ期間中に手元に資金を積み上げており、景気拡大の初期段階では、投資するにも借金はせず手元のフリーキャッシュフローを取り崩す。銀行貸し出しが増えないのはそのためだ。さらに投資額が増え、手元のキャッシュで賄い切れなくなったとき、初めて貸し出しの増加が始まるのだ。
■消費税率を10%に上げないで本当によかった
1997年以降、日本で長きにわたって経済の停滞が続いた原因は、一にかかって日銀の金融政策にあった。デフレを払拭するのに必要な金融の緩和が行われなかったため、人々も企業もお金を手元に抱え込んでしまい、国内では投資も消費もふるわず、外需に頼ろうにも企業は円高という重いハンディを背負わされることになったのだ。
リーマンショックの際は、欧米各国の中央銀行が景気てこ入れのために、こぞって大々的な金融緩和に踏み切った。ところが、日銀だけがその動きに追随しなかったため、為替レートは急激な円の独歩高に傾き、金融危機などなかった日本が世界で最もひどい景気後退に陥ってしまった。半導体のエルピーダメモリや日本航空の経営破綻も、極端な円高で価格競争力を失った影響が大きい。
日銀OBには、経済が好転した今でさえ、「円安もデフレの解消も景気回復も、アベノミクスと関係ない」と言い張る人が少なくない。「とにかくリフレは効かない」とひたすら信じ込んでいるのだ。
14年にソウルで開かれた「世界知識フォーラム」のパネルディスカッションでは、リーマンショック後に適切な金融緩和を行わず日本に深刻な不況をもたらした白川方明前日銀総裁が登場し、同じく金融引き締めで韓国経済の低迷を招いた金仲秀前韓国銀行総裁や、利上げでユーロ経済を沈滞させたジャン=クロード・トリシェ前欧州中央銀行総裁とともに、量的緩和の問題点をあげつらっていた。私はその後の講演で、「これでは韓国国民がかわいそうだ」と話し、白川前総裁との仲直りはできなかった。
なお、14年通年のマイナス成長の責任は消費税増税にあり、アベノミクスにはない。
世間では、消費税増税もアベノミクスの一環と思っている人もいるかもしれないが、両者はまったく別物である。消費税増税を決めたのは安倍内閣の前の野田佳彦民主党政権であり、増税を主導したのは財務省だ。
13年はアベノミクス効果で経済が好調だったが、消費税増税のあった14年4月以降、日本は2四半期連続でマイナス成長に陥った。
消費税は消費者からお金を巻き上げるものであり、増税すれば人々の所得は低くなる。増税が実施された14年4月の段階では、景気は回復傾向にあったものの、まだ日本経済はデフレから脱却しきっておらず、賃金が上がるには至っていなかった。一方で円安による輸入物価の上昇が始まっており、それに加えて消費税増税が行われたのだから、国民の実質所得は下がることになる。実質所得が下がれば消費が低迷し、景気に悪影響を及ぼすのは当然である。
私は消費税5%を8%に上げたときはそれほど反対はしなかったが、次に予定されていた10%へのアップにははっきり反対した。14年4月の増税後の経済の指標が悪すぎ、「これでさらに消費税を上げたら大変なことになる」と思ったからだ。もしあそこで消費税率を上げていたら、今頃は相当に景気が悪くなっていたはずで、アベノミクスの恩恵もまったく感じられなかっただろう。あのとき上げないで、本当によかったと思う。
幸い15年に入ってからは、企業の利益水準や有効求人倍率など多くの統計が、過去15年間で最もよい数字を示している。設備投資や輸出の増加も始まった。アベノミクスは、リフレ政策がデフレを解消し景気を好転させ、かえって弱者のためになっている証拠を示し、日本国民により豊かな生活への希望を与えるのである。
イェール大学名誉教授・内閣官房参与 浜田宏一 構成=久保田正志 図版作成=平良 徹
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