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鈴木寛「混沌社会を生き抜くためのインテリジェンス」
【第29回】 2015年4月30日 鈴木寛 [東京大学・慶応義塾大学教授、文部科学大臣補佐官]
若い世代への教育投資を阻む
シルバーデモクラシーを憂う
http://diamond.jp/articles/-/70882
将来世代への投資がなければ、国が衰退してしまうのだが……
こんにちは、鈴木寛です。
先日、知人から「先生のお名前をまさか週刊誌の中吊り広告で拝見するとは」と驚かれました。彼が話題にしていたのは先日発売の週刊プレイボーイ(4月27日号)。投資家の山本一郎さんと対談した記事が掲載されました。
私と若者向けの娯楽雑誌の“ミスマッチ”に意外な思いをされた方もいるかもしれませんが、選挙年齢の18歳引き下げが現実味を帯びてくる中で、高齢化社会対策やシルバーデモクラシーの問題を若い世代に知ってもらえればと思い、ご協力した次第です。今回のコラムは対談を補足します。
「小泉時代」がラストチャンスだった
もはや回復は絶望的な日本の人口
対談でも述べましたが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを境に私たちの国を何とか持続させるには、体質改善をしていくしかありません。ダイヤモンド・オンラインを愛読されるビジネスパーソンの方であれば、ご承知のことではありますが、経済成長は「生産年齢人口」に比例するものであり、21世紀に入ってからは「イノベーション」の要素が強まって、「経済成長=生産年齢人口×イノベーション」になっています。
この関数に当てはめると、日本は今のところはアベノミクス効果で何とか景気を持ち直したように見えていますが、中長期に見れば厳しい現実が待ち受けていることは明らかです。すなわち、2008年頃に始まった人口減少に歯止めが効かず、一方でアメリカ、EUよりもR&D(研究開発)投資額が大きく見劣りする中では劇的なイノベーションを繰り出すのも難しく、マイナス成長を待ち受けるしかありません。
手厚い家族手当で出生率を回復したフランスに倣うべきという提言もしばしばされますが、遅きに失したと言わざるを得ません。団塊ジュニア世代はもう40代。女性が今から複数の子どもを出産するのは困難です。
振り返れば、民主党政権下の子ども手当政策でやや回復の兆しもありましたが、焼け石に水。せめて5年ほど継続していればある程度の成果は出せたのかもしれませんが、リーマンショック後の不況に伴う財政事情の悪化により、第一弾のみで終わらざるを得ませんでした。最大のチャンスは団塊ジュニア(1972〜74年生まれ)が子育て世代に差しかかる2000年代前半にありましたが、当時の小泉政権、並びに野党も含めて、人口問題が国政の大型アジェンダにはなりませんでした。
そうなると、残された選択肢は移民政策です。シンガポールのように「学歴」、あるいはオーストラリアのように「資産」に応じて選別的に開放するやり方を取る考えもありますが、地政学的に見て中国からの流入が多数派になるのは間違いありません。
一方で各種の日本人向けの世論調査では、尖閣問題や反日デモが起きて以来、中国に対するマイナスイメージが固定化しています。移民政策が政治的アジェンダに上がれば、国論が二分する事態になるのは必至。そうなると向こう数年で移民政策に関して劇的に変化があるようには思えず、日本の生産年齢人口の目立った回復はもはや望みようがありません。
対策は生産能力を上げること
そのためには教育投資しかない
現状の課題はここまでとして、有効な対策はあるのでしょうか。
政治的には複雑でも目指すべき方向は実にシンプルです。言い古されていることではありますが、GDPを増やすための人材育成(=教育投資)と、社会コストを減らして若い世代に富を移転する社会保障改革(=年金削減)に集約されます。
まずは人材育成。日本はGDPが世界3位といっても、1人当たりのGDPで算出すると、OECD34ヵ国では中位に過ぎません(2013年は17位)。まだまだ生産能力を上げる余地はあります。日本の労働生産性は34ヵ国中22位。少子高齢化により働く人の数が減っても、労働生産性が上回れば1人当たりのGDPは上昇しますので、まだまだ引き上げる余地はあります。そして、女性の大卒者の低い就業率(34ヵ国中最下位クラス)を上げ、まだ働けるシニア世代にも頑張ってもらい「底上げ」をすれば、衰退のスピードを落とすことが可能です。
一方で、ITや介護福祉等の今後伸びていくサービス分野では、一定の知識、技能が要りますので、教育を通じた「人材の高度化」を社会的にしていかなければなりません。
しかし、そうした人材高度化のための投資を誰がするのか、社会のコンセンサスが定まっていません。1990年代までなら企業が行っていました。当時は終身雇用でしたので企業側も「いずれは元が取れる」つもりで投資しましたが、終身雇用が崩壊し、大手メーカー等では、グローバル化で社員の半数を外国人が占めるようになった会社も少なくありません。そうした中、会社としての人材投資のインセンティブが薄れてしまいました。
では、国がやるのかといえば、対談で山本さんからも指摘されたように現下の財政状況では、何千億円もの投資額をどこから捻出するのかという問題にぶち当たります。アメリカのように民間で寄附文化があれば奨学金等も整備されていますが、若者が大学卒業後も教育ローンの返済に苦しむような状況です。
まともな奨学金が無ければ、ハーバードやスタンフォードで学ぶ意欲も能力もある若者が、年間600万円もの学費を捻出できる家庭に生まれないとスタートラインにも立てないということです。グローバル競争が激しくなれば、高度化された人材が少なくなることは敗北を意味します。教育の機会均等から見て不健全であるだけでなく、国益の損失にもつながりかねません。
社会保障費への切り込みは必須
だが現状では絶望的に難しい
そうなると、ピケティを持ち出すまでもなく、格差是正のため、社会的分配が必要です。ただし、ピケティに関する私のコラムでも申し上げたように、日本が抱える深刻な格差問題は世代間の再分配こそが主要テーマです。金融資産1400兆の6割を60歳代で保有している中で、これから30兆、40兆と増えていく社会保障費に切り込まないわけにはいきません。
国の予算を組む上で、多くの国民の目には財務省が権勢を振るっている印象がおありと思いますが、実は“隠然たる影響力”があるのはやはり政治です。というのも、現在の政治システムでは年金をはじめとする社会保障のカットが難しい以上、各省庁も社会保障費の伸びを意識して予算を組まざるを得ない側面があります。
先述したように、生産年齢人口を維持するためには、シニア世代にも働けるだけ働いてもらわないとなりません。ただし、現役世代並みに稼いでいる、あるいは現役時代ほどではなくても、住宅ローンや教育費等の大型コストが終わった後の可処分所得があるシニアにまで従前どおりの年金給付をする意義はあるのでしょうか。
財政力に限界が生じ、若い世代の投資分を捻出しなければならない状況にあっては、どこかのタイミングで年金を切り下げざるを得ません。しかし、シニア世代が多数派を占めるシルバーデモクラシーの状況では、絶望的です。
発想の転換で介護を投資に
将来的には輸出産業にもなり得る
しかし、発想を転換してみると違った視点を持つことができます。
あくまで理論上の例えですが、年金が多少切り下げられてもリタイアを機に東京を離れ、地方に移り住めば生活コストを下げられます。ところが現実に起きているのは逆の事態。地方に住んでいる、年老いた1人親を都会に住む現役世代が呼び寄せ、やがて要介護となっても施設の不足のために「待機介護」になるような状況です。
そこで年金をカットして、まずは教育、そして、医療、介護にも一部回すのが得策です。
介護の充実は一見、シニア世代への配分を手厚くするように見えますが、生活費等に「消費」される年金と違い、若い世代への「投資」になり得ます。というのも、介護予算を増やすことで介護市場を充実させれば、需要があっても介護士不足のために施設が潰れる事態はなくなり、むしろ産業と人材を育てることにつながるからです。つまり若い世代が介護のスキルを身に付け、人手が充実すれば、地元でも介護することにつながり、現役世代が1人親を無理に呼び寄せる必要もなくなります。
さらに長い目で見れば、超高齢化社会の日本で育成された介護マネジメントシステムは、遠くない将来、日本と同等以上に深刻な高齢化を迎えると言われる中国や韓国等への「輸出産業」にもなります。
先述した移民政策との関連で言えば、外国人の介護人材の受け入れをどうするかも真剣に検討していかなければなりません。以前、フィリピンの女性らが介護福祉士試験を受けた際、日本人でも書けないような難解な漢字に苦闘していることが批判的に報道されていましたが、障壁を抜本的に見直し、3〜5年の期間限定ビザを発給して受け入れる等の対応策が求められるのではないでしょうか。
自治体推計の総人口は2億人!?
“不都合な真実”を含めて議論を
しかし、超高齢化社会で予想される問題で一番厄介なのは、課題がまだカタチとなっておらず、優先的に議論すべき対象として社会的合意ができていないことです。しかも俎上に上っているデータやファクトの中にも微妙なものもあります。以前、地方自治に詳しい専門家の方から「全国の自治体で推計する将来人口の数を全て足すと2億人を超えてしまう」という指摘をされたことがあります。
「不都合な真実」を含め、政治家、行政、企業、マスコミ、国民が地に足を付けた議論をすることが出発点です。
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