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高度サービス産業で成長する米国経済と、取り残される日本
http://diamond.jp/articles/-/70880
2015年4月30日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] ダイヤモンド・オンライン
このところ、アメリカ経済の強さが際立っている。
為替レートでは、ドル高が続いている。この1年間で、ドルは、円に対してもユーロに対しても、大きく増価した。こうなったのは、日本とユーロで金融緩和政策がとられる一方で、アメリカが金融緩和政策の時代から脱却しつつあるからだ。
しかし、この説明は表面的なものだ。問題は「なぜアメリカだけが金融緩和から脱却できるか?」であるからだ。ドル高の理由は、もっと深い。
金融緩和から脱却ができるのは、アメリカの実体経済が強いからである。つまり、ドル高はアメリカ経済の実体面での強さの反映だということができる。
■強さが際立つアメリカ経済と停滞する日本の鮮明な対比
アメリカ経済の強さは、さまざまな指標で確かめることができる。
まず、実質GDP成長率の推移を見ると、図表1のとおりである。
ここで示したどの国も、リーマンショックでマイナス成長に落ち込んだ。そして、2013年頃まではユーロ危機の影響があり、やや複雑だ。ただし、アメリカはかなり急速に回復した。
図表の15年よりあとは、IMFの推計である。これで今後の成長を見ると、かなり明瞭につぎの3つのグループに分けられる。
第1は、アメリカ、イギリス、それにアイルランドであり、2%強の成長を続ける。リーマン前に比べれば決して高成長とはいえないが、先進国間の比較でいえば、かなり高い成長率だ。
第2はドイツで、1%台の成長である。
第3が日本で、1%台ないしそれ未満の成長率しか実現できない。日本の停滞ぶりは、とくに第1グループ諸国との対比において鮮明だ。
つまり、アメリカ金融緩和脱却後の世界において、先進国は3つのグループに分かれることになるわけだ。第1はアメリカ、イギリス、アイルランドであり、先進国の中では最も高い成長率を実現する。第2はユーロの主要国であり、第1グループよりは低いが、成長を実現する。そして第3が日本であり、停滞を続ける。
もちろん、IMFの予測がそのままの形で実現するとは限らない。しかし、この推計は、さまざまなデータを用いてなされたものだ。そうである以上、われわれは、これを無視するわけにはいかない。以下では、なぜこのような違いが生じるのかを考えることとする。
■1人当たりGDPでアメリカは日本の1.7倍になる
1人当たりGDPの推移を見ると、図表2のとおりである。
日本の1人当たりGDPが低下し、他の先進諸国との間で大きな差ができつつあることが分かる。IMFの予測では、2020年には、アメリカの1人当たりGDPは、日本のそれの1.7倍にもなる。
ここには、もちろん為替レートの影響がある。日本の値が13年頃以降急速に低下したのは円安が進んだためである。しかし、上述のように実質成長率に大きな差があるのだから、これは、単に為替レートの変化だけを反映しているものではない。1人当たりGDPにおいて日本のランキングが下がっていくのは、日本経済の実体的な構造に問題があることを示している。
では、日本経済が抱える構造的な問題とは何だろうか?
その手掛かりが、図表2にある。これを見ると、つぎの諸点が注目される。第1に、アイルランドの1人当たりGDPは、02年以降は一貫してドイツ、イギリス、日本より高い。03年から09年までは、アメリカより高かった。このことは、日本ではあまり知られていない。
第2に、イギリスは08年まではドイツより高かった。そして15年以降、再びドイツより高くなると予測されている。
つまり、アメリカが圧倒的に強いのは事実としても、アメリカ、イギリス、アイルランドからなるグループと、日本とドイツのグループに分けることもできるのである。
前者は、市場の働きを重視した経済であり、後者は市場と組織のバランスを重視する混合経済的色彩の強い経済だ(なお、前者は、しばしば「アングロサクソン的経済」と呼ばれる。しかし、アイルランドはアングロサクソンではないので、この呼び方はあまり適切なものとは思われない)。
これからの世界では、市場の働きを重視する経済が高い成長率を実現するのだ。
■専門的サービスが牽引する新しい成長のかたち
以下では、アメリカ経済の新しい成長パタンがどのようなものであるかを見ることとしよう。
アメリカの産業別国民所得を見ると、図表3のとおりである。
「金融・保険・不動産・賃貸」の国民所得が、製造業よりかなり高いことが注目される。この分野の国民所得はリーマンショックで落ち込んだが、その後回復し、現在の値はリーマンショック前より高くなっている。
製造業はリーマンショックの落ち込みから回復はしたものの、リーマンショック前の水準は取り戻していない。
最も重要なのは、日本の統計分類にはない「専門的、対ビジネスサービス」の値が製造業より高くなっており、しかもリーマンショックの影響をあまり受けず、現在まで伸び続けていることだ。
14年の値を07年と比べると、国内産業全体では国民所得は22.6%増加している。製造業は増加しているものの、増加率は17.9%増と、国内産業全体を下回る。
これに対して、「金融・保険・不動産・賃貸」は、29.2%というかなり高い伸びだ。「専門的、対ビジネスサービス」の増加率は28.1%であり、非常に高い。
以上で見たことから分かるように、アメリカで製造業が復活し、かつてのように国をリードする主要な産業となることは考えられない。
アメリカ経済の成長の中心は、高度サービス産業である。こうした産業は、ドル高によって影響を受けることはない。むしろ、労働力の国際移動を考えれば、ドル高になることによってインドなどから専門家をアメリカに引きつけ、さらに発展が促進されていくことになるだろう。
■製造業からサービス産業へのシフト 経済全体の所得が増えるメカニズム
つぎに産業別の賃金所得の推移を見ると、図表4に示すとおりである。
製造業では、リーマンショックで落ち込んだあと回復した。しかし、2007年に比べると13年は0.6%低い。
金融・保険ではリーマンショックで落ち込んだあと回復し、07年より3.7%高くなっている(*注)。
最も顕著な伸びを示しているのは、「専門的、科学技術的サービス」だ。リーマンショックであまり影響をうけず、13年は07年より22.8%も高くなっている。
このように、サービスへのシフトが顕著である。
詳細な産業分類でコンピュータ関連を見ても、製造業でのコンピュータの賃金所得はマイナス1%だが、サービスのコンピュータは41.7%も伸びている。
つぎに産業別の雇用者の推移を見ると、図表5に示すとおりである。製造業はリーマンショックで激減し、それ以降目立って回復していない。金融・保険はほぼ一定である。また、専門サービスは増えている。
13年の値を07年と比べると、製造業は13.7%の減、金融・保険ファイナンスは3.7%の減である。しかし、「専門的、科学技術的サービス」は、6.1%の増となっている。
このように、雇用者数で見ても、製造業が減少し、高度サービスが増加するという傾向が見られるわけだ。
ただし、製造業は、就業者数でのシェアは高いが、賃金所得でのシェアは低い。つまり、1人当たり賃金所得では、製造業は高度サービス産業より低いわけだ。
実際のデータで13年の1人当たり賃金を見ると、製造業では6万3625ドルだ。ところが、「金融・保険」では9万5586ドルであり、製造業の1.5倍となっている。「専門的、科学技術的サービス」では8万8772ドルであり、製造業の1.4倍だ。
このように、アメリカの場合、製造業より賃金水準の高い産業が存在するのである。そして、そのシェアがこれまで見てきたように拡大しているのである。
(注)図表3以後はすべてBEAのデータであるが、表によって産業分類が微妙に異なる。図表3の「金融・保険・不動産・賃貸」は、図表4の「金融・保険」よりは広い範囲をカバーしている。また、高度専門サービス産業の範囲も、図表3と4では異なるのかもしれない。
■日本の問題は製造業に代わる生産性の高い産業がないこと
アメリカの所得が全体として拡大するメカニズムは、このようなものだ。
これは、日本の場合と対照的だ。
日本では製造業の比重が低下する点ではアメリカと同じなのだが、製造業は他産業に比べて賃金が高い。それが縮小するから全体の所得が低下するのだ。
製造業の縮小自体は、新興国の工業化に伴うもので、不可避のことだ。問題は、それに代わる産業が製造業より生産性が高いか低いかなのだ。アメリカの場合の専門サービスは高い。しかし、日本の場合、成長産業である介護分野の賃金は低い。これが基本的な違いだ。
なお、アメリカの成長産業である高度サービス産業は、さまざまな面で従来の産業とは異質である。
それを示すひとつの指標が、自営業者の多さである。
雇用者数に対する自営業者数の比率を見ると、製造業では2.3%にすぎないが、「金融・保険・不動産・賃貸」では11.6%である。さらに、「専門的、科学技術的サービス」では、26.3%にもなる。
アメリカ経済は、組織が経済活動の中心で人々が大組織の中で仕事をする社会から、「自営業の時代」に移りつつあることが分かる。
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