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消費者物価について問われ、笑顔で対応する日銀・黒田総裁。筆者は、現状のまま進むと日銀は窮地に陥る、と危惧する(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
日銀金融政策決定会合で追加緩和はあるのか 30日の会合で緩和がなければ相場は暴落?
http://toyokeizai.net/articles/-/68198
2015年04月29日 小幡 績 :慶應義塾大学准教授 東洋経済
4月30日は日銀金融政策決定会合である。
ズバリ追加緩和はあるのだろうか?
ないだろう。理由は3つ。
第一に、その必要がない。
第二に、必要があったとしても手段がない。
第三に、手段をひねり出すことはできるが、市場へのプラスがない。
これらの理由により、追加緩和はないと予想する。
■なぜ追加緩和の必要性はないのか?
まず、必要性であるが、これは、私が今の日本経済に必要ない、と思っていることは別にして、黒田日銀総裁の考えとしても、必要がないはずだ。
黒田氏は、期待インフレ率の維持を最重要している。デフレマインド脱却がすべてであり、それを金融政策上の用語で置き換えると、期待インフレ率の維持、2%への上昇あるいは収束である。だから、足元のインフレ率は関係ない。原油安による一時的な現実のインフレ率低下であれば、将来の予想インフレ率は変わらない。それならば、追加緩和は必要ない。
昨年10月末に追加緩和を行ったのは、原油安により、インフレ率が低下したからではなく、それをきっかけに、原油だけでなく、物価水準税対に対する見通し、期待インフレ率が低下するリスクが少しだけ高まったからである。現実のインフレ率は関係ない。関係あるとすれば、期待インフレ率に影響する、という意味で関係あるのであって、それ自体は関係ない。
問題は、黒田氏の言葉を借りれば、欧米市場と違って、日本市場だけ、期待インフレ率の2%でのアンカー(錨)が存在しないので、日本では、現実のインフレ率も重要である、ということだ。現実のインフレ率が低下しないことが、期待が崩れそうになったときに、支えになるものであり、そのために、現実のインフレ率が必要だ、ということだ。
世俗的な言葉で言えば、こびりついたデフレマインドは、なかなかなくならない。人々がデフレ予想を捨てるときというのは、現実の「手で触れるインフレ」を感じて初めて、「デフレが終わった」と信じることができるようになることだけだ。だから、現実のインフレが必要だ、ということだ。
したがって、原油価格が回復してきた今、追加緩和は必要ない。株価も上がり、ベアで賃金が上がっているとメディアが囃す中では、デフレ予想は頭をもたげず、期待インフレを維持するための追加緩和は必要ない。
■もし現実のインフレ率がマイナスになったら?
問題は、現実のインフレ率がマイナスになったときだ。日本人のデフレマインドを過度に警戒する立場としては(私としては、ある意味、それは日本の一般的な経済主体を蔑視していることに近いと感じる。哀れで愚かに、デフレマインドに苛まれている臆病者、といったところか)、これはマインドにダメージを与える可能性がある。
このとき、再び原油が下落するか、あるいは世界経済が変調するなどした場合には、追加緩和の可能性が出てくるかもしれない。しかし、それは景気が減速することとは無関係であり、あくまで、マインド(気分というと、突然いい加減なものに聞こえるが、同じことだ)の問題である。追加緩和の必要性は、インフレ率がマイナスになったときに、世間が騒ぐかどうかにかかっている。
第二に、では、そのときにどんな手段をとるか、というと、その手段がない。国債は新規発行国債を買い尽くす勢いであり、これ以上の増加は難しい。それどころか、景気は良いので、国債の発行額は多少減る傾向にあるだろう。だから、現在の買い入れ水準の維持も難しい。だから、買う国債がないので、手段に窮するということだ。
買い入れ資産は、株もREITもあるが、どちらも、マーケットは過熱しており、これ以上は買いにくいだろう。したがって、ほんのわずか、国債を買い増すことにして、その数字の見せ方を工夫する、というのが、一番普通のさらなる追加緩和の手段であろう。
ここで問題なのは、第三のポイントである。そのような、みせかけの追加緩和では、市場はネガティブに反応してしまうのではないか、ということだ。それなら、追加緩和をしない方がまだましだ。
■「長期金利ターゲット」に追い込まれる日銀
つまり、これまで、黒田緩和は、常にサプライズをもたらしてきた。必要ない規模の緩和、予想できない、まともな思考ではあり得ない緩和を行ってきたから、株式市場や為替市場は、狂ったように反応した。狂喜乱舞した。そして、彼らは、刺激中毒になった。ギャンブル中毒と似て、大穴を当てないと、大きなサプライズでないと感じなくなっているのであり、それを期待しているのである。
この結果、このような追加緩和では、むしろ失望が大きくなり、ネガティブに反応することになる。「しけた緩和」を行ったということは、もはや派手な緩和は将来にもあり得ない、ということを意味するから。後は、追加緩和の可能性ゼロ、そうなるとせいぜい維持、いつかは緩和縮小、ということが、出口議論を封印していても、気分(投資家マインド)として出てきてしまう。
一方、追加緩和の可能性を示唆しつつ、動かなければ、将来の淡い期待は、少しずつの懐疑を生み出しながら、しかし、継続する。だから、市場に対する影響は、小型追加緩和なら、マイナスなのだ。
黒田緩和のサプライズ手法からすると、これは手段がないのと同じだ。手段として取り得ない。だから、追加緩和しないだろう。
しかし、実は、最終手段がないわけではない。例えば、BNPパリバの河野龍太郎氏が、「望ましくない手法」としながらも、「長期金利ターゲットに日銀は移行せざるを得ないところまで追い込まれるだろう」と危惧しながら、そう予想している。私もほぼ同じ考えだ。
長期金利ターゲットとは、通常の金融政策が短期金利をターゲットとする政策であるのに対し、ターゲット金利を短期(オーバーナイト)ではなく、長期金利にするものである。短期金利がゼロになっても、長期金利はプラスであり、これをさらに引き下げるためにターゲットしたらどうか、というものである。
実体経済においては、長期金利が借り入れ金利のベースになっているから、むしろ直接的な景気刺激策になるのではないか。良いことづくめではないか。量的緩和で得体の知れない未開のリスクを背負うよりも、王道に近い金利で行くべきではないか。
■日銀の「窮地スパイラル」が始まる?
長期金利ターゲットの理論的な問題点は、第一に、日銀が政策手段とするべきものは、自身でコントロールできるものであるべきだが、長期金利はそうではないことだ。長期金利とは、短期の金利の足し算である。短期の金利がコントロールできるならば、インフレや期待インフレと違ってコントロールできるのではないか、と思うが、それは間違いだ。
なぜなら、長期金利は短期金利の足し算ではないのである。短期の足し算に、将来という時間のリスクを足さなくてはいけないのである。そして、そのリスクに対する値付けを行っているのが、長期国債市場なのである。
日本政府の財務リスク、日銀の政策変更リスクを除いた、本来であれば、市場経済全体の、金融市場も実体経済も含めた、経済全体の将来へのリスク見通し、リスク許容度の値付けを行っている市場であり、経済においてもっとも重要な市場なのである。だから、この市場の機能を失わせるような、長期金利コミットメント政策は、理論的に行うべきではないのである。
私が、河野龍太郎氏の考え方と唯一違うのは、「長期金利ターゲット」が望ましくないことを日銀は分かっているはずで、黒田氏は、長期金利ターゲットの問題点をそれほど重く考えない可能性があるが、これは日銀のスタッフとは見解が分かれることになるのではないか。
このとき、日銀の現在の一体感が失われ、いよいよ、黒田スタイル、バズーカ緩和と呼ばれる手法にきしみが生じ、デフレスパイラルならぬ、日銀「窮地スパイラル」が始まるのではないか。
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