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コラム:AIIB参加問題、日本の様子見は正解=加藤隆俊氏
2015年 04月 28日 18:31 JST
加藤隆俊 国際金融情報センター理事長/元財務官
[東京 28日] - 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)。その創設メンバーへの参加を日本政府は見送ったが、これは常識的かつ合理的な判断だったと思う。ガバナンスの枠組みが不明瞭なうえ、事前に示された情報から判断すれば、現時点で政府が国民に対して参加メリットを明確に説明することは難しいからだ。
欧州からは英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペインなど約20カ国が創設メンバーに名乗りを上げたが、彼らの場合は、分かりやすい経済的メリットがある。中国の習近平国家主席は今年3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)でシルクロード(一帯一路)構想を前面に打ち出した。
これは、アジアと欧州などの陸(一帯)と海(一路)を結ぶ経済圏を対象に、中国が中心となってインフラなどを整備するという計画であり、AIIBによるインフラ投資がその実現を後押しすると期待されている。欧州側からすれば、巨大な中華経済圏との物流に要する時間の短縮など、はっきりした利得が見込める。一方、中国の東に位置する日本には、シルクロード構想の直接的なメリットが見えにくい。
AIIB参加を勧める識者の中には、内側から議論を尽くして、ガバナンスの枠組みや全体のインフラ投資戦略を望ましい方向に持っていけば良いとの意見もあるが、果たしてどうだろうか。客観的に見て、仮にそうした働きかけがうまく行かなかった場合、加盟申請はしたが、設立協定の内容が不十分だから、加盟を見送るというような判断が、中国経済の存在感や実力を考えた時に、現実的なオプションとなり得るかは、かなり疑問だ。
逆に中国がAIIBへの日本の加盟を強く希求しているような場合には、加盟申請を見送った日本がむしろ水面下で中国と交渉をし、日本が実質的な成果を確保することもあり得よう。
つまるところ、創設メンバーにならなかったデメリットは、設立協定の取りまとめに至る経緯を承知する立場にないという程度だろう。他の国際機関でも、あとから加盟する例はいくらでもある。まずはどのような設立協定ができあがるのか、その内容をよく精査して、日本として納得できるならば、次の機会に手をあげれば良い話ではないだろうか。
<常駐の理事会はなぜ必要か>
では、日本が参加するためには、いかなる条件が満たされる必要があるのか。まず何と言っても、組織運営の透明性と中立性を担保する仕組みができることである。
現在までに報じられているAIIBの概要を見ると、本部は北京、初代総裁には金立群・元中国財政次官(現在AIIBの多国間臨時事務局長)が就くことが予定され、かつその経済力から見て中国が最大の出資国になると想定されている。また、設立趣意書への署名式あるいは設立協定の交渉プロセスも中国主導で進められている。
これに対し、現在日米がそれぞれ約15.6%、中国が約6.4%出資するアジア開発銀行(ADB)の場合は、それら重要事項は交渉参加国による長年の議論を経て決まった。AIIB構想がこのプロセスを踏まずに中国主導の枠組みを前もって示していることは、投資案件の決定も中国が主導するAIIBの執行部が中心的に進めるのではないかとの疑念が高まる背景となっている。この疑念を払拭(ふっしょく)するためにも、参加国によって選出される常駐の理事会が設置されることを期待したい。
例えば、ADBでは、融資案件の可否を含め業務の運営は、アジア太平洋域内から8人、域外から4人の計12人のディレクター(理事)で構成される理事会に委ねられている。フィリピン・マニラの本部に常駐する12人の理事は、各加盟国が任命するガバナー(総務)で構成される最高意思決定機関、総務会によって選出されるが、事務局(執行部)の長かつ同理事会の議長である総裁もまた総務会の選挙で選出される仕組みになっている。
理事会は、周辺環境・住民への配慮など、様々な点でプロジェクトを評価し、執行部に対して影響力を行使できる。むろん、その分、融資契約までには時間はかかるが、こうしたチェック機能がない場合は、仮に執行部の独走があったときなどに、止めることが難しくなってしまう。
国際機関というものは、仕組み上、赤字になることはほとんどないし、執行部メンバーが加盟国の議会に呼び出されることもない。特にトップは人事権も掌握し、通常の企業や政府機関に比べて、はるかに大きな影響力を有する。こうした状況を考えると、執行部の行動に一定の規律を強いる仕組みが必要であり、理事会はその有効な手立てとなり得る。
また、理事はADB同様、本部常駐としたほうが良い。テレビ会議やメールで議論するのと、本部にいて執行部スタッフに対して融資案件に必要な説明を直接求めるのとでは、判断材料にできる情報量に雲泥の差が生まれる。非常駐はセカンドベストの選択肢だ。また、理事会の構成国や意思決定権限などについても、不明な部分が多い。
さらに、この理事会問題に加えて、AIIBにADB並みのコード・オブ・コンダクト(行動規範)が備わるかどうかも見極める必要がある。AIIBも、他の開発機関と同じようにマーケットから資金を調達するだろうから、環境保全や法令順守の取り組みが一定の水準に達していないと、良い格付けもとれないし、資金調達コストがADBや世界銀行に比べて高くなってしまう。
ちなみに、ADBの場合は、融資対象国と話し合う際には、どのようにその国の経済開発に関与していくのか、つまり全体戦略をまず固めたうえで、それに沿って総合的な提案を行う。エネルギーや運輸、通信といったインフラプロジェクトもあれば、衛生面の改善に資するような融資もあるし、教育など社会基盤の拡充に必要なプロジェクトも支援する。
一方、AIIBはその設立目的からすればインフラ事業が主たる業務になるのだろうが、シルクロード構想以外に、どのようなビジョンを持ち、いかなる融資基準や調達ルールを適用し、また各々の事業評価を行っていくつもりなのか、現段階では不透明なことが多すぎる。この点は、開発金融に関して高い専門性を有する欧州勢が議論に参画することで、明確化されていくことを期待している。
<アジア開銀改革の好機>
最後に今後のADBの在り方について若干言い添えておきたい。むろんADB側も、アジアで高まるインフラ整備ニーズにより効果的に応えていくために、業務改革を加速させる必要がある。そうでないと、意思決定プロセスの簡素化と迅速化を進めるであろうAIIBに融資・出資申し込みの多くが流れてしまうリスクは確かにある。
その意味で、すでに報道されているADBの業務改革案は正しい方向にある。かねてより加盟国から課題として指摘されている融資手続きの簡素化・迅速化や現地事務所への権限移譲などは前倒しで推し進めていく必要があろう。また、ADBは港湾・道路・発電インフラなどに関わる優秀なプロジェクトエンジニアを多数抱えているが、今後はインフラファイナンスの新潮流に対応できるような投資銀行(IB)的な人材をもっと積極的に増やしていくべきだ。
アジアのインフラニーズに応えていこうとすれば、官民連携プロジェクトを手掛ける特別目的会社(SPC)なりに対して融資や出資を検討することも、これからますます増えていくだろう。ADBが関わることで、有望なインフラ事業のクレジットエンハンスメント(信用補完)に寄与するような流れを作り出すことが好ましい。これはおそらくAIIBも狙っていることだろう。
現実問題としてADBでは、インドや中国、東南アジア諸国連合(ASEAN)においては通常タイプの開発融資からは卒業の方向に向かっている。今回のAIIBをめぐる喧騒は、アジア諸国の開発ニーズにどう応えていくのかを見つめ直す「良いチャンス」になったと考えるべきではないだろうか。
*加藤隆俊氏は、元財務官(1995─97年)。米プリンストン大学客員教授などを経て、2004─09年国際通貨基金(IMF)副専務理事。10年から公益財団法人国際金融情報センター理事長。
http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPKBN0NJ0IM20150428
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