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大塚家具騒動、娘社長が既婚であれば起こらなかったのか 世襲企業における「娘婿」の効用
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150429-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 4月29日(水)6時0分配信
ところで、「歴史にifはない」といわれるが、大塚家具社長の大塚久美子氏がもし結婚していたならば、今回の騒動も起こっていなかったかもしれない。いや、これから結婚しないとは断言できないので、未来予測として、今後結婚することも視野に入れて話を進めてみる。
もし、久美子氏が結婚していた(する)とすれば、今はありえない別の歴史が動いたことだろう。それは、娘婿(久美子氏の夫)が社長になっていたかもしれないという仮説である。
もっとも大塚家には男兄弟、娘婿がいる。今回の騒動で父・勝久氏側に回った長男・勝之氏は、東京大学法学部を卒業した後、大塚家具取締役専務執行役員営業本部長などを務めた。一部報道によると、長男の家に男子が生まれたことから、直系の孫に同社を継がせるため、昨年7月、久美子氏は社長を解任されたとのこと。次男は久美子氏側についた取締役営業副本部長の雅之氏。勝久氏から「クーデターを起こした」と名指しされた取締役流通本部長の佐野春生氏は、娘婿(三女の夫)である。
もし、久美子氏と結婚した夫が妻よりも経営者としてはるかに優秀な資質を持ち、佐野氏と違い、勝久氏とうまく渡り合える人物であれば、今回の騒動に至らず、別の解を見いだせたかもしれない。久美子氏は夫の意見を聞き、心変わりしていたという「ストーリー」も想像できる。あくまでも、これは仮定の話にすぎないが、日本企業では娘婿がお家騒動に火をつけるのではなく、あくまで、創業家との融和を保ちながら、より発展に導いた事例が少なくない。
●「娘婿企業」スズキの事例
そこで、典型的な「娘婿企業」を紹介しておこう。
「娘婿がこの会社をだめにした、と後ろ指をさされたくない一心で、これまでがんばってきた」
こう話すのはスズキの鈴木修会長。その言葉通り、同社を軽自動車大手から、急成長中のインド四輪自動車市場でトップシェアを占め、欧州でも躍進する世界的な小型車メーカーへ脱皮させた。1920年に創業されたスズキでは、二代目以降、現在の会長兼社長の鈴木修氏に至るまで、歴代、優れた娘婿がトップを務めてきた。
鈴木氏だけでなく、優秀な娘婿が会社を大きく成長させた事例は少なくない。京都の商家では、娘が生まれると父親は大変喜ぶ、といわれている。長男に後継ぎを限定すれば、選択肢が狭まる。万が一、放蕩息子ではなくても経営者としての資質に欠ける人が継承すれば、「売り家と唐様で書く三代目」にもなりかねない。その点、娘婿を後継者に据えようとすれば、世襲を維持しながら選択肢は一挙に広がる。
一口に世襲といっても、日本と中国、韓国では大きな違いがある。中国、韓国が血のつながりを重んじるのに対して、日本は家の持続的発展を優先し、必ずしも血縁でなくてもよいと考える。その結果、娘婿という制度が必然的に生まれたのである。
とはいえ、娘婿にも想定外のリスクはある。スズキでは、次期社長に就任すると目されていた娘婿の小野浩孝取締役専務役員が、07年12月12日、膵臓がんのため52歳の若さで急逝した。その10年以上前から同社の後継者問題が注目されていたが、鈴木氏は80歳を越えた今も「俺は中小企業の親父」と言い放ち、現場を回り、檄を飛ばす、強烈なリーダーシップを発揮し続けている。
スズキのようにアクシデントが生じた場合、世襲企業では致命傷になりかねない。アクシデントが起こってからどたばたするというのでは遅すぎる。親族だけでなく、社内にとどまらず社外にも目を配り、選択肢を広げておくことが後継者問題のリスクマネジメントになる。少子高齢化が急激に進行している日本の現状を鑑みれば、なおさらそういえるのではないか。
女性役員の登用が珍しくなくなってきた時代である。大塚家具のように娘に継がせているケースも少なくないが、息子の嫁が経営者の器であれば、トップに据えてもいいのではないだろうか。
ファミリービジネスながら、社長は夫に任せ、妻は大企業の役員となり、「経営者の器」を発揮しているケースが最近見られた。
4月1日付で日産自動車の常務執行役員から専務執行役員に昇格した、星野朝子氏である。星野氏は日本営業本部と日本マーケティング本部を担当する日本事業のナンバー2になった。星野氏の夫は星野佳路・星野リゾート社長である。
●帝王学の早期教育が奏功
ところで、経営学ではサラリーマン社長が経営する会社よりもファミリービジネスのほうがパフォーマンスは良い、と実証した先行研究がいくつかある。その最大の理由は、会社=自分の人生、と世襲経営者は考えるからである。すでに息子に継がせることを公言している社長にその理由を聞くと、「我々親子は会社に命を懸けていますから」(大山健太郎、アイリスオーヤマ社長)という答えが返ってくる。また、二代目が会社を着実に成長させている企業の先代は「小さい頃から寝食を共にする中で、いつも会社の経営について言い聞かせてきました」(高原慶一朗、ユニ・チャーム社長)と帝王学の早期教育が奏功したことを強調する。
このように現在、大企業でも世襲を実践しているところは少なくない。ましてや「世襲で行く」と腹を決めている中小企業であれば、長男がいても、より経営に意欲的で命を懸けてくれる優れた娘婿、嫁がいれば任せてもよいのではないか。
ただし、彼らの才能を最大限に発揮してもらうには、大前提としてファミリーの理解と応援が必要である。同族の軋轢は経営のマイナス要因になってもプラス要因にはならないからだ。
(文=長田貴仁/岡山商科大学教授・経営学部長、神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー)
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