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夢のエネ、日本が先陣 東芝社長 田中久雄氏
トヨタ自動車がガソリンの代わりに水素で走る燃料電池車(FCV)「ミライ」を発売するなど、エネルギーインフラとして水素を活用する動きが相次いでいる。水素社会の実現の見通しやその姿について、水素関連ビジネスを進める東芝の田中久雄社長と、環境・エネルギー問題に詳しい安井至・東京大学名誉教授に聞いた。
――化石燃料のように車を走らせたり電気を作り出すことのできる水素が、クリーンなエネルギーとして注目されています。水素関連の新規ビジネスに意欲的に取り組んでいますね。
「東芝には水素利用の研究を1960年代から約50年続けてきた歴史がある。燃料電池は78年に研究を始めた。これまでの取り組みが実を結び始めた。国内に約11万台普及しているエネファーム(家庭用燃料電池)の半数以上は東芝が供給している」
「最近も太陽光発電の電気から作った水素を貯蔵・利用できる自立型エネルギー供給システムを開発し、川崎市で実証試験を始めた。2020年代にはさらに規模の大きいシステムを投入する」
――水素に注目する理由は何ですか。
「電気を水素に変えて貯蔵したり運んだりすることができ、二酸化炭素(CO2)を排出しない。人類にとってのいわば夢のエネルギーと言える。地球温暖化問題を考えれば環境への負荷の小さいエネルギーを使っていかなければならない。エネルギーの安全保障上も、特に日本のような化石燃料の自給自足ができない国では水素利用は重要になってくる」
「水素関連の新しいビジネスが生まれることも期待している。今は助走段階で、東京オリンピック開催を経て20年代には相当な勢いで市場が広がるという実感を持っている。現在約7兆円とされる世界の水素関連の事業規模が30年には40兆円、50年には120兆円になるとの試算もある。東芝自身は20年度に水素関連ビジネスの事業規模を1千億円にする目標を掲げている」
――水素社会の実現に向けた課題は。
「3つある。水素の製造、貯蔵・輸送、発電の各段階でさらにエネルギー効率を上げること。水素や関連インフラのコストを下げること。そして規制の緩和だ。最初の2つについては産業界が努力をするが、水素の利用コストを下げるための補助制度など政府の果たす役割も重要だ」
「規制を適正化するためやるべきことも多い。東芝が開発した自立型水素エネルギー供給システムでは、水素ガスを約8気圧というかなり低い圧力で貯蔵している。10気圧以上の設備だと法令で管理者の常駐が義務付けられるためだ。もしトヨタの燃料電池車の水素タンクのように700気圧まで圧縮可能なら、同じタンクに約100倍の水素をためられる」
――水素社会の将来像をどうイメージしていますか。エネルギーの大半が水素に置き換わるのでしょうか。
「そうはならないだろう。火力発電や水力発電、原子力発電、大規模太陽光発電など様々なエネルギー源とならぶ一つになる。水素は火力や原子力のような大型集中電源には不向きで、比較的規模の小さい地域単位での利用に向いている。燃料の調達コストが高い離島での利用や、地域での分散電源に適しており、少なくとも最初はそこから始まるだろう」
――水素で大規模な発電をするのは現実的ではないということですか。
「水素は環境負荷の小さい手段で作ったものを使いたい。太陽光や風力など再生可能エネルギーから水素を作るのがよいが、日本はこうした方法で大量の水素を作るには適していない。大規模な水素発電用には、太陽光発電などの条件の良い海外で安く大量に作った水素を輸入して使うことは考えられる」
――日本だけが突出して水素社会を目指すことは、「ガラパゴス化」につながるという見方もあります。
「それは違う。ドイツなど欧州諸国や米カリフォルニア州、最近では韓国なども水素を重要とみて動き始めている。日本は水素関連の技術では世界のトップを走り有利な位置にある。立ち止まってしまえば、海外に後れをとり、逆の意味でガラパゴスになってしまうのではないか」
――東芝のエネルギー事業といえば原子力というイメージが強い。水素ビジネスとどうすみ分けるのですか。
「原子力だけでなく火力発電や水力のプラントも手掛けているが、エネルギーのニーズは国や地域によって多様だ。世界を相手にビジネスをしており、顧客の求めに応じて多彩な電力を提供するというのが基本スタンスだ。その中でも水素エネルギーは今後重要な位置を占めるのは間違いない」
たなか・ひさお 海外駐在14年あまりの国際派。13年6月の社長就任以来、「創造的成長」を旗印に社内に号令している。64歳。
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普及期到来は50年先 東京大学名誉教授 安井至氏
――水素社会が訪れる時期をいつごろとみていますか。
「2070年代から80年代には間違いなく水素社会が到来しているだろう。その移行期に当たるのがおそらく50年代。日本だけでなく世界中でそうなるし、そうならざるを得ない。(地球温暖化の原因となる)二酸化炭素(CO2)の排出規制が世界的に強まり、70年代にはCO2排出をいや応なくゼロにしなければならなくなるからだ。そうした状況では、水素を利用するしか解決策がない」
――水素社会の実現は半世紀以上も先になるのですか。
「無理して大がかりに水素を使わなくても、今ある技術で50年くらいまではもたせることができる。例えば自動車では、水素を今のように化石燃料などから作る場合、水素の製造から車の走行までにCO2をどれだけ出すかを考えると、燃料電池車(FCV)はハイブリッド車と大差はない。市街地は電気で走り長距離走行時にエンジンを使うプラグインハイブリッド車を主体に当分は十分やっていける」
「ユーザーがFCVをどれほど選好するかという問題もある。ハイブリッド車が登場したときは、燃費性能が良くて維持費が安いという魅力があった。同じエコでもエコロジー(環境)ではなくエコノミー(経済)が好まれた。だがFCVの維持費はハイブリッド車より高くなると考えられ、コスト面のインセンティブが弱いだろう」
――政府によるてこ入れなしでは、FCVは普及はしないということですか。
「普及の道筋がはっきりと見えない。FCVに燃料を供給する水素ステーションは事実上何もないところから作り始めることになる。水素ステーションの数が少なければFCVは売れないし、FCVが増えなければ水素ステーションを作って商売をしようという人は出てこないだろう。政府はステーションの建設に補助金をつけると言っているが、FCVが100万台まで増えるまでいったい何年かかるだろう」
――現実的な普及策は。
「環境省などが音頭をとって、まずは県庁などの公共の場の近くに水素ステーションを建てさせる。水素はできるだけ太陽光発電など再生可能エネルギーから作ることにして、CO2排出量を抑える。こうした水素を利用しようとFCVを導入する自治体が増えるだろうし、住民にもそうした水素を買う人が出てくるだろう。このような形でエネルギーの地産地消を進める一環としてFCVを普及させるのがいい」
――水素社会が立ち上がるまでは、水素の由来を問わずにとにかく関連インフラを作るという道筋もある。
「20年の東京オリンピックでFCVや水素関連インフラを盛大にデモンストレーションする構想がある。そこで使う水素はCO2の排出を伴わない炭素フリーのものだ、と言えなければならない。水素の由来を問われずにすむのは19年までだ」
「水素は化石燃料の改質など様々な方法で作ることができるので、その環境への負荷の大きさはそのままではわからない。水素の流通にあたっては製造過程でCO2がどれほど排出されたかを表示するカーボン・フットプリントという仕組みをぜひ導入する必要がある」
――水素は爆発しやすいので取り扱いが難しいといった技術的な問題が指摘されてきました。
「屋内で燃やして使うのは危険かもしれないが、これからの主流である燃料電池で利用する場合は問題がないだろう。水素は軽すぎるので貯蔵や運搬の効率が悪いともいわれていたが、トヨタの『ミライ』が搭載する700気圧の水素燃料タンクは実用レベルに達している。水素製造の技術も水の電気分解ならほぼ確立しているし、効率も良くなっている。水素利用の技術は相当のところまできた」
「だからといって成り行きまかせで水素社会がすぐに訪れると考えるのは早計だ。水素社会が実現する前提として、政府がCO2の排出量を大きく減らすという目標を立てることが必要だ。日本の温暖化ガス削減の自主目標が近く決まるが、それが意欲的な内容であれば、様々な削減策をとらなければならなくなるので、政策面で水素利用への勢いがつく。逆に削減目標が緩いものであれば、水素利用の機運はしぼんでしまうだろう」
やすい・いたる 国連大学副学長、製品評価技術基盤機構理事長を歴任。環境問題を解説するホームページを運営している。70歳。
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〈聞き手から〉 動き出せば変化は速い
水素社会は必然的に訪れるものだという見方で2人の意見は一致するが、見通し時期について隔たりがある。田中氏が2020年代を水素社会の開花期と見るのに対し、安井氏は二酸化炭素(CO2)の排出規制という社会からの圧力が現実に強まらない限り、到来は先に延びると予想する。
水素社会の議論が熱を帯びているのは、東芝の水素事業やトヨタ自動車の「ミライ」の例に見られるように、関連技術がかなり成熟し事業化の見通しが立てやすくなったためだ。
環境対策面からの要請も強まっている。米カリフォルニア州ではゼロエミッション車の一定以上の販売を義務付ける制度が18年から強化される予定で、対応策の切り札は燃料電池車と見られている。
水素ステーションのように既存のインフラを水素社会仕様に作り替えるには時間がかかるが、いったん歯車が回り出すと変化は速い。新たなエネルギー革命への流れを見極める時期にさしかかっている。
(編集委員 吉川和輝)
[日経新聞4月26日朝刊P.9]
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