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日本人の残業が減らず賃金が低下する本当の理由 抜本的な変革が必要な日本企業のビジネスモデル
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150427-00043621-biz_jbp_j-nb
JBpress 2015/4/27 12:24 加谷 珪一
先日、市場関係者の間にちょっとしたショックが広がった。何とか横ばいで推移したと思われていた2014年の給与がマイナスに下方修正されたからだ。
昨年(2014年)の春闘は、政府が企業に対して異例の賃上げ要請を行ったことから、15年ぶりの高水準で妥結した。今年の春闘も昨年に引き続き高い水準の賃上げが実現する見通しである。しかし、給与全体でマイナスが続いているということは、中小企業の昇給が十分に進んでいないことをうかがわせる。
賃金がなかなか上昇しない一方で、労働者の残業は増え続けている。3月末には少子化対策大綱が閣議決定され、仕事時間と生活時間のバランスが取れるよう、職場における働き方を見直す方針が示された。
目の前にある課題への対処方法としては、賃上げ要請やワークライフバランスの追求はそれなりに意味があるかもしれない。だが、なかなか賃金が上がらず、残業時間も減らない背景には、日本企業特有のビジネスモデルと雇用環境という根本的な問題がある。この問題に正面から取り組まない限り、状況を大きく改善することは難しいだろう。
■結局、2014年の給与は前年比マイナスだった
今年2月に厚労省が発表した毎月勤労統計によると、2014年の所定内給与は24万1338円で前年比横ばいという結果だった。昨年は政府からの要請もあり、大企業を中心に2%以上の賃上げが実現した。春闘は大企業が中心であることから、その効果は限定的とも言われるが、全体の水準が前年比でマイナスにならなかったのは、政府による賃上げ要請の効果によるものと理解されている。今年の春闘でも同様の賃上げが実現すれば、いよいよ前年比プラスに転じることが期待されていたわけである。
ところが、4月3日に発表された最新の調査結果では、この数字がマイナス0.4%に下方修正されてしまった。毎月勤労統計は、新しい企業の賃金を統計に反映させるため、おおよそ3年ごとに調査対象企業の入れ替えを行っている。対象企業を入れ替えた後、過去に遡って結果の修正を行った結果、2014年の給与は結局マイナスになってしまったのである。
2013年と2012年の数字も下方修正されていることを考えると、昨年だけの問題ではなく、全体として賃金はまだ下がっていると認識すべきだろう。その意味では、今年の春闘がもたらす効果についても、あまり期待しすぎない方がよいのかもしれない。
全体の賃金が上がらない要因の1つは非正規社員の増加と考えられる。2014年における正社員の数は3278万人であった。2013年は3294万人だったので、1年間で正社員の数は16万人減少している。一方、2014年における非正規社員の数は1962万人で、2013年と比較すると56万人も増加した。つまり全体的に見れば非正規社員の割合が増加しているということになる。
非正規社員の給与は正社員より著しく低いことから、仮に賃上げが行われたとしても、全体の数字を押し下げる可能性がある。つまり非正規社員の問題を解決しない限り、賃上げの効果は限定的となってしまうのだ。
■残業問題と非正規社員の問題はリンクしている
賃金が増えない中、労働者の残業時間は増加の一途を辿っている。2014年の所定外労働時間つまり残業時間は過去20年で最長を記録した。各社とも残業時間を減らすため、ノー残業デーなどを設定しているが、実質的に機能していないところがほとんどである。
伊藤忠商事は、昨年からワークライフバランスの追求を目指して、勤務体系を朝型に見直す取り組みを行っている。夜10時以降の業務を禁止し、割増賃金の適用範囲を始業時間前の午前9時まで拡大することで、社員の早朝出勤を促すというものである。朝型に転換すれば、ダラダラと深夜に残業するという弊害は解消できる可能性が高く、実際、同社では、残業時間を減らすことに成功したという。ただ、こうした措置を導入しても、処理しなければならない仕事が減少しなければ、抜本的な残業時間の削減は難しいだろう。
日本全体として見た場合、残業時間の拡大と非正規社員の増加には関連性がある。非正規社員に対しては、雇用契約上、長時間の残業は要請しにくい。正社員の数を削減し、非正規社員の数を増やした場合、処理しきれなかった仕事は、正社員が長時間残業で対処している可能性が高く、これが残業時間を増加させる一因となっている。
もっとも今年に入ってからは人手不足がかなり深刻化しており、非正規社員の増加に歯止めがかかりつつある。しかし、人手不足から、非正規社員の正社員化を進めた場合、総人件費が増大してしまうので、企業は賃上げに対して消極的になってしまうかもしれない。
日本の雇用市場はこのようにがんじがらめの状態となっており、単純に賃上げを推奨すれば状況が改善するという状況にはなっていないというのが現実だ。
■雇用の硬直化はビジネスモデルの硬直化
では、なぜ日本の雇用市場はこのような状態になっているのだろうか。それは、日本企業のビジネスモデルが時代に合わなくなり、自社が生み出す付加価値が相対的に低下しているにもかかわらず、その状況を変えようとしないからである。長時間残業を評価する社風といった問題は、結果として表面化している現象にすぎない。
企業というものは、資金を調達して設備投資を行い、人を雇って事業を行う。設備投資は、長期的な視野に立って実施するものなので、設備投資の額やその結果としての減価償却は一種の「固定費」ということになる。一方、従業員は設備に比べれば柔軟に増減させることができるので、「変動費」として扱うことが可能だ。
実際には、人を減らしすぎれば業務に影響が出るし、過剰な設備がある場合には、損失として処理しなければならず、両者の配分には一定のバランス感覚が必要となる。単純に人減らしをすればよいというものではない。ただ、利益減少のバッファとして設備投資を減らすことは、企業の長期的な成長という観点からはあまり望ましくないものと理解されていることだけは間違いないだろう。
ところが日本企業の場合、これとはだいぶ状況が異なっている。日本企業全体の売上げは、ここ20年間、ほとんど伸びていない。内需企業であれば、人口増加の抑制に合わせて売上の伸びが鈍化しているということであり、輸出企業の場合には世界シェアを伸ばしていないということになる。日本企業の成長が止まったということは、日本企業がビジネスモデルを大きく変えていないということを意味している。
一方、日本企業が雇用する従業員の数はむしろ増加しており、このままでは企業は利益を減らしてしまうことになる。利益率を維持するためには、給与を抑制するか、他の経費を削減するしか方法はないが、日本企業はその両方を行ってきた。正社員の数を減らし、非正規社員の数を増やすことで総人件費の抑制を進めると同時に、設備投資の額を減らし、利益を捻出してきたのである。
このところ若干の上昇傾向が見られるものの、日本企業における設備投資の水準(売上高に対する比率)は低下傾向が続いている。将来への先行投資であるはずの設備投資を抑制しているわけだが、その狙いが、現在の雇用環境の維持であることは明らかだ。
■日本企業は変化を望んでいない
もちろん企業の経営者も手をこまねいていたわけではないだろう。ビジネスモデルを変革し、より付加価値の高い事業にシフトすれば、人件費を増やす原資も生まれてくる。多くの経営者がそうした道を模索したに違いない。だが今のところ多くの日本企業が目立ったビジネスモデルの転換を行っておらず、付加価値の向上を実現できていないというのが現実である。
コンサルティング会社のデロイト トーマツ コンサルティングの調べによると、日本企業における新規事業領域が売上高に占める割合はわずか6.6%だった。米国や中国における同種の調査では、米国は11.9%、中国12.1%と日本の2倍近くの数値となっている。
さらに新規事業の内容をより詳しく見てみると、日本企業がいかに変化に乏しいのかが分かる。米国企業は新規事業のうち、自社として新規であるだけでなく世の中にとっても新規性の高い事業が半分以上を占めている。これに対して、日本企業における新規事業の中で、世の中にとっても新規性のある事業の割合は11%、事業全体から見ればわずか0.7%しかなかった。つまり、日本企業が取り組む新規事業は米国や中国の半分以下の水準であり、しかも新規事業のうちの90%が自社にとっての新規事業でしかなく、世の中にとっては目新しくない事業ということになる。
ここ数年、日本の大手企業が積極的に取り組んでいるテレビ通販事業などはその典型と言ってよいだろう。その会社にとっては新規事業であっても、テレビ通販そのものは以前から存在する古い業態である。またテレビ通販が巨大企業の屋台骨を支える規模に成長する可能性はゼロに近く、同事業への進出は、抜本的なビジネスモデルの変革にはつながらない。
■人が変わらないとビジネスモデルも変わらない
企業とは不思議なもので、新しい事業を始めるには、新しい人材が必要となる。同じ人材が新しいビジネスの知見を高め、革新性の高い事業を生み出すことも理論的には可能なはずだが、現実にはそうはいかないことがほとんどである。よほどの企業でなければ、人材の入れ替えなくして、革新性の高い事業を継続して生み出すことは難しいと考えた方がよいだろう。
残念ながら、日本企業はその離れワザを20年にもわたって追求し続けたものの、結局、成果が得られなかったということになる。だが当の日本企業には、難易度の高い取り組みを行ってきたという認識は薄いかもしれない。これが、現状の雇用環境を維持したいという潜在的な願望から来るものであるならば、そろそろ現実を見据える時だろう。
これまで、雇用流動化の問題は何度も浮かんでは消え、本格的な議論の対象にはならなかった。だが、日本が高度経済成長を実現できた背景として、戦争という大きな断絶によって強制的な人材の入れ替えが行われたという側面を無視することはできない。成長のためには、効果的な人材の再配置が必要という企業活動の原点について、正面から取り組む勇気が必要であろう。
雇用のすべてを市場メカニズムに委ねる米国型雇用システムは日本の土壌に合わない可能性が高い。そうだとすると、解雇要件が極めて緩い一方、失業者に対する手当が厚いドイツや北欧などゲルマン圏の雇用システムが参考になるかもしれない。
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