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中国各地で大規模開発が進められてきた(写真は中国東部・江蘇省蘇州)〔AFPBB News〕
失速する中国経済:ソフトランディングなるか
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43634
2015.4.27 英エコノミスト誌 2015年4月18日号
中国の成長は降下しつつある。それはソフトランディングになるだろうか、それともハードランディングになるだろうか?
米国のテレビニュース番組「60ミニッツ」が2013年に鄭州という主要都市の新しい地区を訪れた時、この街を中国の不動産バブルのシンボルにした。「我々は、ゴーストタウンと呼ばれる街を見つけました」。番組のアンカーを務めるレスリー・ストール氏はこう言った。「何マイルも何マイルも何マイルも何マイルも無人状態です」
あれから2年経った今、ストール氏は同じことを言えない。彼女が立っていた人気のない道路は、絶えず車が行き来している。
昼食時になれば、労働者たちがのんびりした足取りでオフィスから出てくる。分譲地の窓には、洗濯物がぶら下がっている。
中国中部の人口900万人の都市、鄭州の東側にあるその新開発地区は、省と市の政府が事務所の多くをそこへ移転させた時に離陸した。その後、大学規模のキャンパスを持ついくつかの高校が生徒を受け入れ始め、この地域に家族を引き寄せた。
昨年秋には世界最大級の小児病院が開業した。1100床のベッドを持つ、明るい色をしたピカピカの施設だ。
この地域の初期の住人の1人、チェン・ジンボーさんは、2年ほど前の静けさが失われたことを嘆く。「今はラッシュアワーが悩みですよ」
■鄭州の開発の成功が意味すること
鄭州の開発の成功は、中国の過剰投資に対するいくつかの大きな不安が誤りであることを示している。ゴーストタウンのように見えるものも、正しい呼び水と多少の時間があれば、実体を得ることができる。だが、鄭州の開発は中国経済の転換点を迎えたことも象徴している。
鄭州は今なお野心的な計画を持っている。とりわけ空港周辺の巨大な物流拠点に関する計画はそうだ。
だが、このように大きな都市圏がすでに建設されているため、巨大な建設プロジェクトが経済に与える影響は漸進的に小さくなっている。鄭州の域内総生産(GDP)の成長率は昨年9.3%に低下した(それまでの10年間の平均は13%強)。低下傾向は今後も続くだろう。
中国で最も貧しい省の1つである河南省の省都として、鄭州は中国最後の大きな急成長フロンティアを支えてきた。鄭州の成熟は、中国経済の減速が循環的な落ち込みではなく、構造的な下降であることを示している。
数年前に力強い沿海部の省の成長が鈍った時、貧しい内陸部がその代わりを務めた。内陸部はしばらくの間は不足を補えるだけの規模があった。
河南省や、1人当たり所得が同様の水準にある他の内陸部の省には、中国全体の3分の1に近い4億3000万人の住人がいる。
それらの省が独立国家だったとしたら、ブラジルよりもインドよりも大きい世界第7位の経済大国を形成している。
極西部は中国最後の低開発地域だが、その重要性ははるかに小さい。人口が国全体の10分の1に満たないからだ。
そのため、中国にとっての問題は、成長率が過去の2ケタの伸びのようなペースに戻るかどうかではない。むしろ、成長の減速が漸進的な下降になるか――時には多少ガタガタするが危機には陥らない――、それとも、突然の危険な急降下になるかどうかだ。
4月15日に公表された統計は、さらに高度が失わたことを示していた。第1四半期のGDPは前年同期比7%増と、2009年初めの世界金融危機のどん底以来最も低くなっている。ストレスの兆候も表れている。資本が国外に流出しており、財政がさらに厳しさを増しており、不良債権が増加しているのだ。
だが、そこで話が全部終わるわけではない。中国は優れた底力も持っており、最も有害な歪みを正す決意も新たにしている。「成長は低下し続けるだろう」と国営金融機関、中国農業銀行のチーフエコノミスト、向松祚氏は言う。「我々の主な願いは、低下がスムーズに進むことだ」
■暴風雨警報
中国を覆う最も暗い雲は、不動産市場だ。鉄から家具に至るまで、それが及ぼす影響を計算に入れると、不動産市場は経済の2割近くの原動力となってきた。それが今度は、成長の減速要因になろうとしている。住宅価格は過去1年間で6%下落した。これは統計を取り始めてから最も大幅な落ち込みだ。
不動産市場が脆弱に見えるのはこれが初めてではないが、これまでの落ち込みは、市場を冷ますための意図的な政策によるものだった。ここ数カ月は、それとは逆だ。需要が、住宅ローン金利の引き下げなど、一連の支援策に反応していないのだ。これが、来るべき暴落の予想を刺激している。
問題は現実に存在しているが、このような災害警報は誤診に基づいている。中国は売れ残った住宅の山の上に座っているというよく聞く意見は誇張されている。
こうした主張をする人たちは、不動産の販売と建設の乖離を指摘する。
公式統計によると、昨年の住宅販売は2009年より20%多かったが、進行中のプロジェクトはその時から2倍以上増えている。
それが本当なら、建設中の住宅の在庫を消化するのに5年かかることになり、世界金融危機以前の3年から増えていることになる。
だが、こうした見通しの多くは、実際には地面に開いた穴に過ぎない。資金不足で停止されている案件もあれば、開発業者がもっと市況が強い時に売るのを待ちたいという事情で中断されている案件もある。このことを示す証拠は、不動産の竣工件数やセメント生産によって示される実際の建設活動だ(図1参照)。
■不動産市場、成長の原動力から足かせに
こうしたデータは、販売の実勢とぴったり合致している。
不動産コンサルティング会社Eハウスによると、現在の販売ペースで中国の新築住宅の在庫をさばくためには16カ月かかり、市場が今より良い状態だった時の10カ月から増えている。
これは悪化を示しているが、とても悪夢とは言えない。
中国の不動産市場が供給過剰の重圧で崩壊する段階ではないというのは良いことだ。悪い知らせは、その成長が鈍っていることだ。住宅部門は、政府が私有財産の所有権を認めた後、今世紀初めに離陸し始めた。
都市への大量の人口流入が需要を増大させた。中国の都市化率は、1990年の26%から現在の55%まで2倍以上に上昇している。これらの要因はどちらも弱まりつつある。多くの中国人は、元々住んでいた国が支給する箱型の建物よりおしゃれな住宅にすでにグレードアップしている。そして、都市化のペースは鈍っている。
多くのアナリストは今、年間約1000万戸に達している住宅販売が間もなく減少に転じると見ている。建設される住宅はまだたくさんあるが、年を追うごとに少なくなる。
住宅ブームの寿命について過度に楽観的だった人たちは、代償を払っている。
中国の鉄鋼メーカーは、年間12億トンの生産能力を作り出していた。昨年生産された8億2000万トンが恐らくピークになるだろう。
そのため、不動産は中国経済にとって原動力から足かせに変わりつつある。大手銀行UBSのワン・タオ氏は、建設の伸びが10ポイント低くなるごとに、GDPが約3%下振れすると試算している。タオ氏は、今年、そのペースの半分程度の減速を予想している。
より控えめな現実が実感されつつある。河南省の南部では、固始県が現在人口50万人の中心都市を120万人都市に拡大したいと考えていた。建設工事は熱狂的に進められている。ハンマーがカンカン鳴る音や掘削機が唸るような音が市内各地の通りに響き渡っている。
だが、住宅販売が期待に届かないことから、固始県は目標を下げ、今では80万人都市を目指している。開発区に指定された郊外のぬかるんだ野原は、手つかずのままになる運命のようだ。
■債務に足を引っ張られる経済
中国が不動産市場を甦らせる1つの方法は、世界金融危機が起きた2008年にやったように、国内銀行を使って現金を経済に流し込むことだ。だが、そうすれば、ひどい過ちを犯すことになる。
当局者はすでに、前回の融資ブームが残した問題に対処するのに手いっぱいだ。債務残高は急増し、2008年にGDP比150%程度だった残高が現在は同250%を超えた(図2参照)。
1990年代の日本と過去10年間の西側諸国の大部分では、それより小規模な債務増加が金融不安の前触れとなった。
債務が経済の歯車を詰まらせているため、中国の融資は効果が弱くなった。
金融危機以前の6年間には、1元の新規融資が約5元の経済生産をもたらした。危機以降の6年間には、1元の融資が3元の経済生産しか生んでいない。
銀行各行は、資産の1.25%しか不良債権化していないと報告しているが、投資家は、本当の数字が10%に近いかのように銀行株を値付けしている。銀行自体の内部にも不信感がある。ある大手金融機関の信用調査担当者は「本社は地方を信用していない」と言う。
最近まで、中国は成長することによって債務問題から抜け出すことができた。その選択肢はもうない。
デフレが到来し、経済が弱くなっていることから、名目成長率は数年前の3分の1程度になっている。
2015年第1四半期までの1年間で名目GDPはたった5.8%しか拡大していない。
■1990年代後半との違い
また、中国が前回、不良債権の増加に見舞われた1990年代後半と比べると、金融システムがはるかに複雑になっている。当時は国営銀行がほぼすべての融資を担っていた。金融危機以降は、その割合が3分の2未満に落ち込んだ。規制の緩い「シャード―バンク(影の銀行)」が残りの大部分を占めている。
だが、債務の大幅な増加が必ず危機をもたらすという鉄則はない。多くのことは、債務がいかに管理されるかにかかっている。
中国には、いくつかの利点がある。債務の大部分は国内で保有されている。多くの場合、債務者と債権者の双方が政府という同じ君主の支配下にある。国有銀行はすぐに国有造船会社から債権を回収したりしない。これが、造船会社が問題を片付ける時間を稼いでくれる。
また債務は一部に集中している。家計はあまり借り入れを行っていない。中央政府も同様だ。主な債務者は地方政府と比較的狭い範囲の企業だ。すなわち、国有企業、不動産デベロッパー、建設会社だ。
今、不動産セクターで初の大規模なデフォルト(債務不履行)が生じる可能性によって中国の防衛策が試されている。汚職事件に巻き込まれたデベロッパー、佳兆業集団は債券保有者と債務再編について協議している。
今のところ、金融業界に伝染する動きはない。投資家は格付け機関のムーディーズと同じ結論に達した。佳兆業は孤立した事例であり、システミックリスクの兆候ではない、ということだ。
その点において、中国の債務問題は不動産の低迷と似ている。急性の危機が生じる可能性は低いが、予後の診断はまだ厳しいのだ。信用の伸びは前年比で15%未満に落ち込み、過去10年間の平均値の4分の3以下に下がった。
だが、名目成長率はそれ以上に低いことから、中国の対GDP債務比率は上昇し続ける。このため融資はさらに減速しなければならない。これが地平線上のもう1つの暗雲だ。
■バックアップ電源
中国経済に関する報道は時として、これがあたかも信用を燃料とした1つの巨大な不動産バブルであるかのような印象を与える。
それが事実だったとすれば、建設と融資の二重の減速はそれだけで、成長率を1ケタ台前半に引き下げ、場合によっては景気後退をもたらすだろう。これは何年も最も弱気なアナリストが喧伝してきたシナリオだ。
中国の景気下降はまだ続く余地があるが、そのような悲観論は一貫して的外れだった。あまり評価されていないかもしれないが、単純な理由は中国が大陸規模の経済であり、1つ、2つの産業よりずっと多くの強みがあることだ。
また、中国が中所得国の地位を得た今、爆発的なキャッチアップ成長の時代が終わったとはいえ、より緩やかなキャッチアップの余地はまだある。購買力平価ベースで見た中国の1人当たりGDPは1万2000ドルで、トルコのそれの3分の2に届かず、辛うじて韓国の3分の1に達した程度だ。
中国が切に必要としている消費主導型成長への移行は始まったばかりだ。投資は経済生産の50%を占め、日本や韓国が最も著しい成長段階で記録した水準をも大きく上回っている。経済のリバランスがなければ、産業の過剰生産能力は増える一方で、資本利益率を一段と損ねることになる。
ようやく、かすかな希望の光が見えてきた。
投資の伸びは近年、半分に低下したが、消費の伸びは安定を保った。将来、中国の成長が鈍るにつれ、成長に対する消費の貢献度は高まっていくはずだ(図3参照)。
これは部分的には、社会的セーフティーネット(安全網)を築く政府の取り組みの進展の証しだ。
まだ進行中の作業だが、健康保険、老齢年金、無料の学校教育は中国人の驚くほどの貯蓄性向を抑制する助けになったようだ。家計貯蓄率は所得の40%で近年上昇が止まっている。
それ以上に重要なのは、経済構造の変化だ。サービス業は2年前に工業に取って代わって中国経済の最大セクターになり、その差は拡大している。昨年はサービス業がGDPの48.2%を占める一方、工業のシェアは42.6%に低下した。
サービス業の方がより労働集約的で、このことが2つの利点をもたらす。
まず、中国は今、以前より低いレベルの経済成長でより多くの雇用を生み出すことができる。
中国の成長率は昨年、過去20年以上なかった低水準に落ち込んだが、1320万人分の都市部の新規雇用を生み出し、過去最大を記録した。
第2に、堅調な労働市場のおかげで、賃金が安定的に上昇し続けた。これは人々が消費を増やすための必要条件だ。
正式に貧困地域に分類されている固始県でさえ、住民が衣料品店や美容院、街に1つしかない外資系レストラン(ケンタッキー・フライド・チキン)に押し寄せている。
ここに住む多くの人と同様、チャン・ユーリンさん(43歳)は成人期の大半をよそで過ごし、仕事があるところへ働きに行った。北京で建設作業員、上海で配達人として働き、鄭州市でアイスクリームの卸売業を営んだ後、妻子と暮らすために固始に戻った。
この夏には、家族を休暇で北京に連れて行くために6000元(970ドル)の予算を立てている。「以前はすべて貯金した。最近では、稼ぎの一部を使うだけの自信がある」と彼は言う。
■方向転換
リバランスするだけで中国が問題から逃れられると考えるのは慢心だろう。急増する債務と不動産への過剰投資は、中国経済の基盤の欠陥から生じている。
中国の規制は投資の選択肢を狭め、不動産が数少ない有望資産の1つになっている。これが住宅価格を高騰させている。地方政府は徴税の権限が限られているため、土地の売却に依存している。これが、さらなる不動産開発を招く。
また、中央政府が必ず都市を支えてくれるという考えから、銀行は信用力をほとんど考慮せずに融資する。これが経済に大量の不良債権を積み上げることになる。
経済成長がどんどん伸びていた時には、相互に関連するこれらの問題は容易に無視することができた。政府は今、もうこれらの問題を避けることができなくなった。そこで3種類の改革を試みている。
1つ目は金融自由化だ。中国の金融政策は今、中央銀行がすべての主要金利を統制していた5年前とはまるで別物のように見える。経済全体の資金調達コストは、市場に基づくものになっている。
銀行はさまざまな投資商品を提供して、預金獲得を争っている。家計は銀行口座に代わるものに貯蓄の30%を預けている(2009年は5%)。
公式な預金金利はまだ固定されているが、規制当局は銀行に柔軟性を与えており(現在は2.5〜3.25%の範囲内)、向こう1年内に完全に自由化することをほのめかしている。
政府は資本規制も緩和した。企業は以前、1億ドルを超す海外投資については政府の承認を得る必要があった。昨年後半、その基準が10億ドルに引き上げられた。
ここ数カ月、資本流出が急増している。一部には、中国人が自国への信頼を失っているためだと見る人もいるが、規制当局はもっと楽観的で、これはより均衡の取れた経済の兆候だと指摘する。
それ以外の道筋――人為的に低い金利で資金を中国国内にとどめ、無駄な投資を促すこと――の方がはるかに破壊的だったという。
改革の第2の分野は財政だ。これは始まったばかりの取り組みだ。問題は、地方自治体は歳出の責任が多過ぎ、歳入が不十分なことだ。中央政府は今後、地方政府への資金供給を増やし、新たな徴税権を与える。
修正された財政法では、中央の承認を得ることが条件になるとはいえ、すべての省が初めて債券の発行を許される。中国財務省も同省の債務を処理し始め、1兆元の債務を再編する計画だ。
3つ目の焦点が官僚機構の改革だ。ここでは進展はまちまちだ。
地方出身者が大都市に越して定住できるようにする戸籍制度(戸口)の改正は、途切れている。より健全な労働市場を生み出すためには、それ以上の改革が必要だ。
また、中国は動きの鈍い国有企業の大改革を望んでいた人たちを失望させたが、小さな変化は助けになる。非上場の国営親会社から上場子会社へ資産を注入すれば、中国中信集団(CITIC)のような企業は市場から厳しく監視されることになる。
同時に、中国政府はほかの重要なレバーの掌握も緩めている。新規企業を登記する手続きを簡素化した。例えば起業家は今、現金以外の資産を自己資本として使うことができる。そうした起業家は昨年、約360万社の企業を興し、その数は2013年から50%近く増加した。
改革自体が新たなリスクを生み出している。過去6カ月間の株式市場の強気相場は、国が金融自由化に乗り出した時によく起きる資産バブルの様相を呈し始めている。
だが、従来の経済システムをそのまま残した方が危険だ。
従来のシステムを維持した方が短期的には高い成長率を実現できるが、債務が一方的に膨らみ、やがて訪れるバブル崩壊のリスクを大きくするという代償を伴う。
総合すると、政策転換は、以前よりスピードは遅いが、より耐久性のある経済成長への移行を円滑にするはずだ。
この移行には時間がかかる。今のところ、投資はまだ経済の半分を占めている。鄭州市では、建設現場の埃が町の南半分を覆っている。労働者は巨大な新空港ターミナルを建設しながら、新しい地下鉄5路線のトンネル工事を進めている。トラックが高架道路の柱を運ぶ中で、夜には何時間も交通渋滞が起きる。
この混雑に見舞われている住民にとっては、差し迫った懸念は経済崩壊ではなく、たとえ昨年より弱いとはいえ、継続的な成長の頭痛なのだ。
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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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