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オーウェル「動物農場」より酷い世界 マネーが飼主の農場
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2015年04月27日 世相を斬る あいば達也
以下はピケティ氏の論理をパクりながら、後付で屁理屈をこねている理論派株屋さんのコラムだが、読んでいて一番感じた点は、ああ、やはり資本主義も金融主義も終焉を迎えようとしているのだな、と云う印象を持った。武者氏が、不思議だという企業利潤率は10%にあるのに、資金の調達コスト(長期金利)等は0%〜1%台と云うアンバランスの説明が困難だと言っている。ピケティ氏の経済論で問題な点は、資本主義の延命に根ざしている為に起きる、説明不可能な部分があったと云うに過ぎない。
また、武者氏が例示した、利潤率と利子率が連動していない点に関してだが、彼は水野和夫氏の本は避けて通っているのだろう。利子率が、概ねゼロに近づくと云う事は、利息を生む需要がないから、金がだぶつくことである。企業は内部留保や社債発行等で資金を調達する能力がある。金融当局は、経済の底割れを怖れて、資金供給を増加させる。そうなすると、株価が上がる、企業利潤を向上させる、自社株買いでROEを上げる。こういった、実体経済の需給による論理ではなく、金融のみによる論理が幅を利かせたために起きる現象だが、リーマンショックにより、その方法も限界を露呈した。
問題なのは、資本主義でもなく、金融資本主義でもなく、まったく異なる経済イデオロギーが誕生していないことから派生する矛盾なのだと思う。新しい方法論が見えていないので、古いシステムを半信半疑で稼働させているわけで、まるで40年越えの原発を延長再稼働させているような状況が、現在の世界の経済事情なのである。だから、世界の七不思議みたいな現象が、あっちでもこっちでも起きるわけである。新しい経済理論が生まれるよりも、貨幣経済から脱却するくらい古い、物々交換的な経済の仕組みと共同体の構築と云うのは、一つの経済イデオロギーとして考えられるのだろう。
その共同体の中では、目安となる利子率と利潤率の幅を決定し、その枠の中の自由と云う制限を設けるくらいにしないと、やはり、強いもの勝ちの競争原理は益々激しくなり、格差の世界から、差別の世界に移行するわけで、人類が持たなければならないと理解してきたフェアネスの世界は遠ざかり、オーウェルの『動物農場』的な地球の誕生を見ることになるのだろう。それでも、あのお伽噺は豚が支配者で、まだしも血が通っていたが、マネーは属人的でも、属生物でもないのだから、あまりにも無残だ。お伽噺にもなりゃしないね(笑)。
≪ ピケティ氏の主張ほど単純じゃない市場の現実(武者陵司)
今のマーケットや世界経済、そして政策に関する定説がない。非常に多くの人が異なる意見を言い、一般の方々は様々なオピニオンリーダーの意見を聞いて、ますます混乱してしまう。そこで現在、経済・市場で展開されている最も大事な鍵は一体何かということを少し私なりに説明してみたい。
その最大のポイントは、資本のリターンと成長との兼ね合いだろう。「r=資本のリターン」が「g=成長」よりも大きいという、不等式「r>g」が大ブームになったトマ・ピケティ氏の議論である。
トマ・ピケティ氏は、資本のリターンが著しく高く、一方、成長が低いということによってどんどん格差が拡大していく。このまま格差が拡大していくと、経済は退廃していくので、この格差拡大を是正する政策が必要だ。それには資本に対する累進課税を国際的に導入することが必要だ、と主張している。
ニューヨークでは、たった1%の人が圧倒的富を支配しているということで「Occupy Wall Street」という運動も起きるなど、格差論がブー ムになる経済情勢が現実に存在している。ピケティ氏が言っているように、資本のリターン、企業の利益は経済の成長率よりもはるかに大きい。お金持ちがもうかる、企業がもうかる。ならば、それだけで今の経済情勢が理解できるかというと、そうではない。それは、現在起こっていることの半面であり、もう1つ起こっている現実は、成長よりも資本のリターンが低いということである。
資本のリターンには2通りある。ピケティ氏が指摘する経済の成長率よりも高い資本のリターン、これを「r1」としよう。他方で経済の成長率より低い資本のリターン「r2」ということも起こっているのである。
r2は何かというと、長期金利だ。日本の長期金利が今、0.3%台。ドイツの長期金利は、もう0.1%未満台、米国でも2%未満というように空前の低金利が続いている。長期金利は経済の成長率より低いということが起こっている。となると、一体何が起こっているのだろうか? この2つの事象は同時に起こっている現実であり、片一方の不等式だけで今の経済は説明できない。現在の経済を説明する最も適切な不等式は一体どのようなものかと言うと、「r1>g>r2」である。r1が企業のもうけ、利潤率、そしてr2は企業の資本コスト、金利、利子率、そしてgが成長率である。
企業は大変もうかっており、利潤率は世界的に著しく高い。配当利回りは2%。企業の益回り(株価に対する1株利益)は今 6〜7%、そしてROE(自己資本利益率)は10%以上となっている。では、企業が商売をやる時に必要な資金の調達コストはというと、国債の金利は日本も欧州もゼロ%台、米国だって1%台と、両者との乖離(かいり)が著しく大きくなっている。
普通は利潤率と利子率はほとんど連動すると考えられ、本来だったら「r1=r2」。景気が良くて企業がもうかる時には当然金利が上がる。実際過去はそうであった。これが教科書的な経済の姿なのであるが、今起こっているのはr1とr2が極端に乖離し、そのサンドイッチになって成長率が停滞している。この現実をどのように解釈するかということが、今の経済情勢を理解する最も重要な鍵なのではないだろうか。 これは、投資戦略の策定にあたっても決定的に重要な事柄である。r2にお金を投資したリターンはほぼゼロ。r1に投資したらものすごい高リターン。ならばr2を売ってr1を買えばいい。あるいは、r2で借金をして、r1を買えば、もっとレバレッジが高まる。
問題はこの高い利潤率と低い利子率の同時進行が長期的に続くかどうかであるが、実は、この利潤率と利子率の乖離はすでに10年以上続いている。2005年、グリーンスパン米連邦準備理事会(FRB)議長は「コナンドラム(Conundrum)=謎」と発言した。彼が「謎」だといったのは、「経済は成長し企業利益が増加している、さらにFRBが金融引き締めをしているにも関わらず金利が上がらない」という現実である。
その後リーマン・ ショックの過程で成長率がマイナスに陥ったために一時的にその謎が解消されたように見えたのだが、リーマン・ショックが終わってみたら、再び利潤率と利子率の大きな乖離が起こっている。つまり、これはもう10年にわたって続いている現象なのである。ということは、10年前に何をすればよかったかというと、 借金をして株を買っていたら非常に大きなリターンが得られたのである。
さて、このような現実はトマ・ピケティ氏のような、いわゆる資本課税によって調整できるものなのかどうかと言うと、恐らくそれだけでは解決できないだろう。今起こっている現実、2つのrそれぞれが、成長率を挟むという不 等式を、どう説明するか。これは端的に言って、非常に高い利潤が非常な低金利をもたらしているというように理解すべきだと考える。
つまり、企業は大もうけしている。もうかったお金を再投資できなくて遊ばせている。だから金利が下がっている。つまり、高利潤と低金利は、実は今進行している技術革新、グローバライゼーションの結果起こっている。いってみればメダルの裏表であるという可能性が強い。
このように企業がもうかり、金利が低いというこの現実の先に何があるかというと、場合によっては経済が成長するのにお金が遊んでいる状態はやがて経済を退廃に導く可能性がある。お金が遊んでいるということは、実は労働も遊んでいるということなのである。お金と人が遊んで、企業だけがもうかっていたら、経済は崩壊するという危険もある。
しかし他方で、遊んでいるお金と労働を有効に活用して成長率が高まれば、今度は経済はより発展し、人々の生活が良くなるということも起こり得る。つまり、この不等式を正しい方向に使えば、株価は上昇し経済は繁栄し、人々の生活が良くなるという展望が描かれる。
今、主要国で行われている量的金融緩和(QE)というのはまさしく、この両者の乖離を新たな需要を作ることによって、あるいはお金を有効に使うことによって縮小していく政策である。しかし、乖離をそのまま放っておいたら、場合によっては、経済は大恐慌のような破局的悪化に陥るという可能性もある。 この点についての十分な説明は別の機会に譲るが、強調したいポイントは、今多くの人があまり気付いていない、2つの不等式、この不等式をどのように理解するかということが、株式投資や経済の予想をしていく上で決定的に重要な鍵なのだということ。そしてトマ・ピケティ氏などオピニオンリーダーたちの議論だけでは不十分なのだということを知っていただきたい。
やはり鍵は遊休資本と遊休労働をフルに活用する需要創造にある。QEはそうした政策の中枢にあると考えるべきなのである。
*武者 陵司(むしゃ りょうじ) 武者リサーチ代表、ドイツ証券アドバイザー、埼玉大学大学院客員教授。1949年9月長野県生まれ。73年横浜国立大学経済学部卒業。大和証券株式会社入 社。企業調査アナリスト、繊維、建設、不動産、自動車、電機、エレクトロニクスを担当。大和総研アメリカでチーフアナリスト、大和総研企業調査第二部長を 経て97年ドイツ証券入社、調査部長兼チーフストラテジスト、2005年副会長に就任。09年7月株式会社武者リサーチ設立。主な著書に「アメリカ 蘇生 する資本主義」(東洋経済新報社)、「新帝国主義論」(東洋経済新報社)、「日本株大復活」(PHP研究所)、「失われた20年の終わり」(東洋経済新報 社)、「日本株100年に1度の波が来た」(中経出版)、「超金融緩和の時代」(日本実業出版社)など。 ≫(日経新聞)
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