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山進さん(左)岡田兵吾さん(右)Photo:DOL
シンガポールはこうして“残業しない国”になった 岡田兵吾×秋山 進【前編】
http://diamond.jp/articles/-/70708
2015年4月27日 秋山進 [プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役]
DOLでもおなじみの人気連載「STAY GOLD!リーゼントマネジャー岡田兵吾のシンガポール浪花節日記」の著者であるマイクロソフトシンガポールシニアマネジャー・岡田兵吾氏を招き、当連載のホストを務める秋山進氏との対談企画が実現。残業の是非からシンガポールと日本の違い、マネジャーのあり方まで、熱く語り合った内容を前後編でお届けする。(構成/天田幸宏)
■シンガポールの魅力は日本にないコンパクトさと多様性
秋山 最初にお話ししてみたいと思うのが、リー・クアンユー氏の創ったシンガポールの魅力についてです。岡田さんの連載を読ませていただいて思うことがあります。21世紀は「アジアの世紀」といわれているけれども、本当はどの国が鍵を握るの? 実はシンガポールじゃないか。と普通に言われるほど、最近は大きなプレゼンスを持つようになりました。岡田さんはシンガポールに10年以上お住まいになって、どういう印象をお持ちですか?
岡田 移住した当初は「大丈夫?」といった目で見られましたが、シンガポールに住んで12年目に入りました。じつはシンガポールという国は当時から欧米人には注目されていて、「アジアのなかで欧米人が最も住みたい国」に9年連続選ばれていました。アジアの統括会社や多国籍企業のヘッドクォーターがある場所ですので、中国系はもちろん、欧米系、インド系、マレー系などいろんな国の人たちが働いていることが一番の特徴です。ちなみに、マイクロソフトシンガポールでは約60の国籍の人間が働いています。
秋山 しかも太平洋とインド洋を結ぶ要所という地理的にすごくいい場所にあるから、いろんな面で本当にいいポジションとっていますね。
岡田 そうですね。私もすごく驚いたのが、シンガポール港って2010年まで世界第1位の貨物取扱量を誇っていたことです(現在は第2位)。たとえば、ダイヤモンド。南アフリカで採掘された原石は、一度シンガポールに運ばれます。その後、インドで加工が行われ、またシンガポールに戻ってきて、今度は中国に送られて装飾が施される。最終的に商品となったダイヤは、消費国となるイギリスやアメリカ、日本、そして中国などに送られる。つまり、シンガポールはすべての物流、商流の中心になっているわけです。それが国策として行われているのですから、すごくうまいなと思いますね。
秋山 かつて、1995年ぐらいまでは外資系企業のアジアのヘッドクォーターといえば東京にありました。その後、香港にその座を奪われて、最近はシンガポールに移ったという印象があります。岡田さんがお勤めのマイクロソフトは、「アジアヘッドクォーター」といった表現をしているのでしょうか。
岡田 その前に、私の仕事を説明させてください。マイクロソフトシンガポール法人がアジアにおけるライセンサーなので、ライセンス契約の統括拠点となっているんです。私の仕事は、シンガポールを拠点に、おもに日本と韓国に出向いてマイクロソフト製品のライセンス管理、監査をすることです。日本、インド、中国・台湾・香港のグレーターチャイナリージョン(GCR)を除くオーストラリア含めたアジアの国々は、シンガポールがヘッドクォーターになっています。日本は今も市場規模が最大ですし、インド、GCRは新興国として急激に発達しているため、社内では「Japan, India, GCR and アジアパシフィック(APAC)」と4地域に分けて管理しています。
■残業させるのは命がけ?短時間で成果を追求するしくみ
おかだ・ひょうご
[マイクロソフト シンガポール シニアマネジャー]
大阪生まれ。同志社大学工学部卒業後、アクセンチュア(日本/アメリカ)、デロイトコンサルティング(シンガポール)、マイクロソフト(シンガポール)で19年間、業務・ITコンサルタントとして活躍。シンガポール移住11年、永住権を保持し、近年はアジア全域の新事業開発、業務改善、組織改革に従事。 人生の目標は「ソーシャル・チェンジ(社会変革)」、座右の銘は「Stay Gold!」。グローバルビジネス経験を活かして日本およびアジアの顕在化した社会問題を解決し、多くの人々が希望をもてる社会の実現をめざしている。
秋山 連載を読ませていただいていてすごくおもしろかったのが、シンガポールはとにかく「残業をしない国」ということでした。国家が発展を継続しているときなのに不思議です。今も根強く残っていますが、かつての日本は長時間労働をベースに国の発展がありました。ところが、シンガポールではメンバーに残業させるのが「命がけ」だというから驚きです。
岡田 シンガポールの評価基準は会社との契約がすべてですから日本のように上司の顔色を窺ったり、長時間残業することはまずありません。成果を出せばいつでもどこでも働けるし、それが許される。実際、私も午前中はオンラインミーティングが多いので、「定時出社」することはほとんどありません。
秋山 「定時出社しなくていい」というのはちょっと驚きというか、うらやましいですね。
岡田 シンガポールが短期間で急速に発展したのは、欧米の「いいとこ取り」をしたからだと思います。日本のようにやみくもに働きすぎず、日本が失敗した成果主義のよい部分を組み合わせた。そういった環境のもと、評価基準は成果だけでなく「就業時間の中で目標達成するやつが偉い」という風潮が生まれたのです。一方、日本の場合、トップセールスでも「飲みニケーション」しなくちゃいけないし、接待を含めた「お客さんに費やした時間や労力」で評価される部分がまだ残っているように思います。
■残業が減らないのは、「クリエイティブの罠」が原因
秋山 生産性は高いほうがいいと、だれもが思います。ところが、知的生産の分野になるととたんに怪しくなる。これまでにないものを作る場合は、圧倒的な努力や時間といった「投入量が多くないと良いものはできない」と思い込んでいる人がとても多い。実は私もその一人ではあるのですが、一方で、それは単なる思い込みかもしれないとも思います。
岡田 だからこそ、早く仕事を片付けて生産性を上げることが必要だと思います。労働者にとって、時間管理は権利でもあり、義務です。とくにチームで生産性を上げることやクリエイティブで成果を出すには、勉強が絶対に必要。本を読んだり、ネットで情報を収集したり人脈を広げたりというのは、定時に帰宅した後で行うというのがシンガポールでは一般的です。
秋山 なるほど。日本の会社の時間は、会議のように公式な「組織の時間」と個人で考え作業する「個人の時間」以外に、打ち合わせのような雑談のような「集団の時間」と言われる時間がものすごく長いことが特徴です。通りすがりの上司につかまったら「ああ、こりゃ2時間はかかるな」みたいな(笑)。そこから面白いアイデアが生まれることもあるんだけど、「集団の時間」の使い方が上手な会社と下手な会社がありますね。
岡田 私は韓国も担当しているのですが、彼らもどこか日本人に似ています。人間関係を重視する飲みニケーションはありますし、残業もする。もしかすると、日本以上に働いているかもしれません。反対に、日本と韓国以外の国は「集団の時間」の上限を各人があらかじめ決めているように思います。たとえば、同僚と飲みにいくのは木曜日くらいで、その他はランチミーティングで済ませるといったように時間を合理的にマネジメントしていますね。
■日本のマネジャーに必要なのは「今ここで決める」という覚悟
「日本と外国企業では、物事の決め方にも違いがありますよね」(秋山)
Photo:DOL
秋山 実は私の連載の記事で、外国企業から来た人というのは、フランス企業の経験が長い人でした。とても個人主義的ではありましたが、会議では準備したうえできちんと発言するし、社長には「決断するのはあなただから、あなたが決めたことには従います」とはっきりと言える。仕事のできる人でした。物事の決め方にも違いを感じますね。
岡田 日本は今でも「メール文化」ですけど、我々は「メッセンジャー」を多用します。「メッセンジャー」は相手のステータスも確認しながら、複数のメンバーとリアルタイムに確認できるのが魅力です。打ち合わせなども顔を合わせて行うことは少ないですから、ちょっとしたことは「メッセンジャー」でメンバーを巻き込んでどんどん決めてしまいます。グローバルな職場環境の特徴は、最初のチームビルディングに労力をかけること。といっても初めて出会うメンバーと深夜まで飲みに行って、本音で語り合うくらいなんですが(笑)、そこから1年以上会わなくても、「メッセンジャー」や定期的な電話会議を通して密な関係を保ちつつ、良好な関係性を最初に構築して、それを持続させるんです。
秋山 以前、外資系の会社で働いていた時のことを思い出しましたが、決断力があるとかないとかいうことには、地理的要因が大きく影響していると思いますね。たとえば、アメリカのように国土が広大な国は、ここで決めなかったら次はいつ会えるかわからない。だからこそ「今、ここで決めてしまおう」という意識が働いている感覚があるように思います。その時に要領よく短時間で諸事情を考慮しながらしっかりと決断できる人が、いいマネジャーであり、経営幹部に成長していく。
岡田 マイクロソフトや他のコンサルティング会社には、マネジャーになるパスと専門家、つまりスペシャリスト職のパスがあります。「サブジェクトマターエキスパート」といいまして、彼らは別にマネジメントが下手なわけじゃない。日本の場合、「マネジャー=管理職=偉い」「専門家=管理職になれなかった人=偉くない」という図式がありますよね。シンガポールにおけるマネジャーは、「専門性を持ったタレントをマネージする人」という意味付けが強く、まったく日本とは違います。
■1日600通のメールをさばく優れたマネジャーの仕事術
「外資系でシナリオが3つも5つも出たら、反乱が起きますよ!」(岡田)
Photo:DOL
秋山 決断力ある優れたマネジャーは、仕事の依頼の仕方が上手ですね。そして、ちゃんと現場や専門家の意見を統合したうえで優先順位を決められる。決裁経路のことを英語で「レポートライン」といいますが、日本には組織図はありますが、レポートラインは存在しないと思います。ちょっと重要な議題になれば、結局、会議で決めるので、日本のマネジャーは自分で意思決定する必要がありません。
岡田 まさに稟議というのは日本独特の特殊な世界ですね。通常は裁量権が与えられているマネジャーが決めるもの。ところが日本の場合、彼が決められないうえにその上司も決められないから、複数のシナリオが必要になる。さらに、いろんなリスクを考えて、シナリオが3つ以上出てくることも。でも、よく考えたらこれって無駄じゃないですか。外資系でシナリオが3つも5つも出てきたら反乱が起こる。もう、本気で怒りだしますよ。「お前のせいで時間取られてる。それでもマネジャーなのか!」って。
秋山 そうですよね。岡田さんの連載で紹介されていた「5-15の法則」じゃないですけど、「社内の報告は5分で済ませる。そのための準備は15分で」というのが理想ですよね。岡田さんの上司なんて、600通のメールを一日でさばくわけでしょ。その根底には、こういった合理性の追求があるんですね。
岡田 マイクロソフトは全世界に120拠点あります。私がお世話になっているエグゼクティブの皆さんは、「Flying in the sky men」と呼ばれるほど、文字通り世界中をコンドルみたいに飛び回っています。そんな毎日のなかで決断を繰り返し、業務をグローバルに推進しています。「決断とは何か」そして「決断することの重要性」を教えてもらったように思います。
※後編(5月11日公開)に続く
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