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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第122回 財政破綻論者の足掻き
http://wjn.jp/article/detail/9715490/
週刊実話 2015年4月30日 特大号
'15年4月5日の日本経済新聞に、興味深い記事が掲載された。
〈財政再建、深まる対立 東大教授・吉川洋氏/京大教授・藤井聡氏〉
と題し、デフレ脱却と経済成長により財政を健全化(政府の負債対GDP比率を引き下げる、という定義になる)するべしと主張する藤井聡教授と、歳出削減を優先するべきという吉川洋教授が「紙上討論」をしたのである。
結論から書いてしまうと、藤井教授が正解だ。現時点の日本国が吉川教授方式で社会保障費や公共事業などの歳出削減を実施すると、逆に財政健全化を達成できない。
理由は、政府の財政を健全化させる、つまりは「政府の負債対GDP比率」を引き下げるためには、分母である名目GDPを拡大させなければならないためだ。
名目GDPを支出面で見ると、【民間最終消費支出】【政府最終消費支出】【民間住宅】【民間企業設備】【公的固定資本形成】【在庫変動】【純輸出】という需要項目の合計になっている。名目GDPを成長させるためには、これらの需要項目の金額を増やさなければならない。
吉川方式で社会保障や公共事業を削減すると、【政府最終消費支出】や【公的固定資本形成】といった需要項目が縮小してしまう。
結果的に、名目GDPは小さくなり、政府の負債対GDP比率は上昇する。つまり、財政がかえって悪化してしまう。
さらに、税収の源は名目GDPだ。国民は所得から税金を支払っており、かつ「所得の合計」がGDPであるため、政府の租税収入と名目GDPは、ほぼ同じ動きをする。
吉川方式で政府の歳出を削減し、名目GDPが小さくなると、政府の租税収入までもが減ってしまうわけだ。
結果的に、政府の財政赤字(赤字国債の発行)は増えざるを得ない。
ところで、両教授の討論において、吉川教授が、
「日本の国債は日本人が持っているから大丈夫という議論もある。しかし、株式で考えればわかりやすいが、株主が日本人ならば大丈夫なのか。大切なのはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)で、国債でいえば財政の健全性だ」
と語ったのに対し、藤井教授が反論する場面がある。
藤井教授は、
「借金が深刻かどうかは、借金がどのくらいあるかと一切関係ない。1万円借りるだけで破綻するケースもあれば1兆円でも破綻しないケースもある。重要なのは、きちんと返せるかだ。実際、実質破綻しつつあるギリシャと全然違うのは、通貨発行権のある自国通貨での債務かどうかという点だ。所有者が日本人かどうかという以前に、国債が円建てかどうかということが破綻リスクを考えるにあたって決定的な意味を持つ。実際、自国通貨建て債券で完全破綻した国家は筆者の知る限り存在しない。破綻論者はいつもそれを無視するし、実際、今、吉川先生もその一点を外して、破綻リスクを論じている。もちろん、日銀がこれ以上、貸せなくなる可能性もゼロではないから、確かに長期的に財政破綻が起こる懸念はゼロではないが、そのことに過度に引きずられて当面の財政政策を決めるのはいかがなものか」
と、反論した。
要するに、通貨発行権がある独自通貨国が「自国通貨建ての国債」の財政破綻(債務不履行)に陥る可能性はない、という話であるが、何と太字部分(本誌参照)が丸々削除されてしまったとのことである。
日本経済新聞の記者は、いわゆる財政破綻論にとって「決定的に致命的」な部分を故意に「落とした」わけだ。
ちなみに、筆者も以前、某テレビ番組において、
「日本国債は100%自国通貨建てであり、子会社の日本銀行が買い取れば政府の実質的な負債は消滅するため、財政破綻などあり得ない」
と語ったのだが、その部分が見事にカットされたという経験を持つ。
恐らく、というか間違いなく、財務省や御用学者など財政破綻論者にとって最も都合が悪いのは、
「日本国債は100%自国通貨建てであり、子会社の日本銀行が買い取れば政府の実質的な負債は消滅するため、財政破綻などあり得ない」
という事実が広まることなのである。
上図(本誌参照)の通り、日本銀行が「国内の銀行から国債(等)を買い取り、新たな日本円を発行する」形の量的緩和を継続しているため、政府の「実質的な負債」は恐るべき勢いで減っている。
具体的な数字を書いておくと、政府に返済義務がある「日銀以外保有の国債・財融債・国庫短期証券」の金額は、ピークの'12年9月から'14年末までに、何と69兆円も減った。
日本政府は子会社の日銀に国債を買い取らせることで、2年強の期間で「国の借金(正しくは“政府の負債”だが)」を70兆円近くも減らしたわけである。
当たり前の話として、日本円発行の権限を持つ日本政府が、日本円建ての債務の不履行(財政破綻)など起こすはずがない。
この決定的な事実を「国民」に知らせまいと、様々な情報操作が行われているのが、現実の日本なのである。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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