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サウジアラビアはなぜ原油の増産を続けるのか 原油価格下落を穴埋め、過去最大水準に達する可能性も
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150424-00043606-biz_jbp_j-nb
JBpress 2015/4/24 12:24 藤 和彦
「4月のサウジアラビアの原油生産量は日量約1000万バレルと過去最高に近い水準だった」
韓国を訪問中のサウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相がインタビューの中でこう述べた。同国の原油生産量は3月も日量約1030万バレルと過去最高の水準だった(最近のピークは2013年8月の日量約1020万バレル)。
サウジアラビアの強気の姿勢の背景には、深刻な危機感があった。中国の需要低迷とロシア、クウェート、UAEといった競合国の安値攻勢に直面して、2014年の原油輸出量が前年比5.7%減となったからだ。2015年に入っても、生産量の10%に当たる中国向けの輸出量が、1〜2月に2011年以来の低水準に落ち込み、同8%を占める米国向けが1月にはほぼ半減していた。
石油輸出国機構(OPEC)全体の3月の原油生産量も、前月に比べ89万バレル増加して日量3102万バレルとなり、約4年ぶりの大幅増加となった。サウジアラビアに加えてイラクやリビアが増産したからであり、OPECの4月の原油生産はさらに増加する可能性があると言われている(OPECの原油生産能力は日量3350万バレル)。
国際エネルギー機関(IEA)は「米国で供給の伸びが鈍り、価格低下により原油需要が増えるため、今年下期に需給が逼迫する」と予想していたが、このような事態を踏まえ、4月15日、「均衡を探る市場の動きはまだ初期の段階であり、需給の引き締まりは予想よりも先になる」と見方を変更した。
■シェールオイル生産に「急ブレーキ」
一方、世界の原油価格は3月に付けた安値から約30%上昇した。これは、世界の原油価格下落を主導していたシェールオイルの生産に「急ブレーキ」がかかったことが主要因である。
米国内の石油掘削リグ稼働数は4月17日時点で前週比26基減の734基と2010年以来の低水準になり、1987年以来過去最長の19週連続の減少を記録した。州別に見るとテキサス州が15基減の411基と最大の落ち込みを示し、稼働数は2009年以来の低水準となった。
石油受け渡し拠点であるオクラホマ州クッシングで、4月13日の週後半の原油在庫が減少したとの情報が広まったこともあり、4月13日の週の原油価格の上昇幅は約4年ぶりの大幅高となった。
米エネルギー省は、同国のシェールオイル生産が5月に減少し、原油生産全体も6月に減り始めるとの見通しを示したため、ヘッジファンドによる原油価格上昇を見込む買い越しは8カ月ぶりの高水準に増加した。昨年後半から続いていたドル高が米国の利上げ観測によって一服したことも、原油価格上昇に一役買っている。リーマン・ショック後の原油価格は6カ月間急落した後、3カ月間の揉み合いを経て再び上昇基調を見せており、今後原油価格は反転するとの見方も増えてきている。
■サウジはなぜ原油増産の姿勢を取り続けているのか
とはいえ、世界の原油市場は依然として構造的に需給が緩みやすい状況にあり、「価格の反発は短期的な調整にとどまる」との見方が一般的である。このような微妙な時期に市場シェアを回復したサウジアラビアが、なぜ原油増産の姿勢を取り続けているのだろうか。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は4月13日、2014年の世界の軍事費を発表した。これによると、サウジアラビアの軍事費は2013年に続き世界第4位であり、支出額の上位国の中で最高の伸び率を記録した(前年比17%増)。2014年の軍事費は808億ドルとなり、日本の2倍近い水準に達し、軍事費の対GDP比率も10%を超えた(この比率は北朝鮮に次いで高いとする向きもある)。2011年にサウジアラビアの軍事費は413億ドルに過ぎなかったが、2012年から2014年後半までの原油価格高騰局面で、軍事費が倍増したことになる。
サウジアラビアのGDPにおける輸出額比率は5割以上、輸出額に占める石油売却代金の比率は約9割である。サウジアラビア政府は歳入の90%以上を石油収入に依存しているため、2014年末に策定した2015年度予算は約390億ドルの赤字となった。3月下旬から開始したイエメン空爆により軍事費は大幅増加し、赤字幅は大幅に拡大している可能性が高い(3月26日に開始した空爆は4月21日に終了したが、その間の戦闘機の出撃は2415回に及んだ)。
2015年1月に死去したアブドラ前国王は、近年オバマ大統領との間で中東政策を巡り意見の相違が目立ち、米国への不信感が募っていた。
4月14日、米エネルギー省は「米国は2017年までに天然ガスの純輸入国から純輸出国に移行し、15年以内にエネルギーの純輸出国に転じる」との見通しを明らかにした。この見通しからも明らかなように、エネルギーの中東依存度の低下によって米国の中東地域に対する関与の度合いは今後下がることはあっても高まることはないだろう。
就任後3カ月が経つサルマン新国王(79歳)も、自分たちの身を自分たちで守る体制への転換を模索し始めている。3月29日、アラブ連盟首脳国会議でアラブ合同軍を創設するとの声明を出したのはその一環の動きである。
安全保障を重視するサルマン国王の下でその重責を担うのは、国王の息子であるムハンマド国防相である。ムハンマド氏の年齢は30歳前後と若いが、国防相は国王になるための登竜門の1つであり、王位継承権の上位に一気に躍り出た感がある。新国防相は「国王のえこひいき」との批判を払拭する意味でも、イエメンでの軍事作戦をなんとしても成功させなければならない。今後、イエメン情勢によっては軍事費がさらに拡大する可能性がある(イエメン南部タイズの政府側の旅団司令部を「フーシ派」が制圧したため、4月22日、サウジアラビアは空爆を再開した)。
一方、中枢から外されているとの見方も出ており影が薄いのがムクリン皇太子(69歳)である。初代国王(イブン・サウード氏)の息子の中で最も若いムクリン氏は、母親がイエメン出身のため傍流とされてきたが、同じく「ズデイリ・セブン」(ズデイリ妃が生んだ7人の王子)の一員でないアブドラ前国王が自身の死後、一族の後見を託す狙いで抜擢したとされている。今後、新旧国王の取り巻きの間で抗争が起きるかもしれない。
また、サウジアラビア内務省が4月20日に、「国有石油会社アラムコの石油施設等に対する外国からの攻撃の可能性に関する情報を得ており、治安部隊に出動態勢を整えるよう指示した」と発表したように、サウジアラビア政府はISIL(いわゆるイスラム国)に加わる若者やイエメンのフーシ派がが国内でテロを引き起こすことにも警戒しなければならない。
このように内憂外患を抱えるサウジアラビア政府にとって、原油価格下落のデメリットを増産で補いたいという誘惑にかられていてもおかしくはない。予算穴埋めのため、今後原油生産量を前例のない水準まで引き上げる可能性があるのではないだろうか(サウジアラビアの原油生産能力は日量1250万バレル)。
OPECは2カ月後の6月に再び総会を迎えるが、サウジアラビアの姿勢に対して不安を覚えるOPEC加盟国から、「2008年以降設定されていない“加盟各国に対する生産割り当て”の復活を検討すべきだ」との意見が出てきている。イランへの石油に関する制裁解除によりイランの原油輸出が増加する可能性があり、OPEC全体で対処する必要があるという理由である。米エネルギー省は「イランへの制裁解除により、2016年の1バレル当たりの原油価格は5〜15ドル下回る可能性がある」と指摘している。
だが、生産割り当ての復活は市場シェアに直結するため、激しい議論を呼ぶことは必至である(OPEC全体の原油生産能力は日量日量約3350万バレル。日量3000万バレルという数字は生産目標に過ぎない)。
■原油価格急落と金融リスクの高まり
話題を世界経済に転じると、原油価格急落は、当初期待されていた景気押し上げ効果を生まないばかりか、エネルギー分野での大量リストラというデメリットが目立ち始めている。世界のエネルギー関連業界の人員削減数は既に10万人を大幅に上回っており、その大半は米国に集中している(3月の統計によればテキサス州は約2万5000人の雇用減となり全米で最悪の数字だった)。
このような事態を踏まえ、JPモルガンは今年第1四半期にエネルギー関連企業向け融資の焦げ付きに備える意味で、商業銀行部門の貸倒引当金を積み増した。
またバンク・オブ・アメリカによれば、債務を積み上げてきたジャンク級(投機的格付け)のエネルギー企業が打撃を受けているため、デフォルトに陥る可能性が最も高いと投資家が考える「ディストレスト債」(経営破たんしたり経営不振の企業が発行する債券)の発行残高は過去1年で倍以上に増加(1210億ドル)し、市場価格はリーマン・ショック以来の大幅安となっているという。
原油価格急落により産油国の外貨準備高が減少していることも気にかかる。例えばサウジアラビアの外貨準備高は2月に202億ドル減少した。これはリーマン・ショック直後の2倍のペースであり、少なくとも15年ぶりの大幅減であった。OPEC諸国が市場に流動性を供給するのではなく流動性を吸収するようになるのは20年ぶりのことである。
IMF(国際通貨基金)は4月16日に発表した国際金融安定性報告書の中で「金融リスクが過去半年で高まっており、市場は流動性が『突然』消え、ボラティリティが急激に増大するような状況に陥りやすくなる可能性がある」と警告を発している。IMF加盟国の間でも、「IMFは苦境に陥った各国への貸し手となるだけはなく、リーマン・ショックの際に米FRBが主導したような、世界の金融安定化を実行する『システム全体の警察官』に進化する必要がある」との要望が高まっている。
■原油価格急落で弾けようとしている「債券バブル」
主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議(4月17日)では、中国が提唱する「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」ばかりに焦点が集まったが、その声明の中で「各証券清算機構の脆弱性に対処し、市場ショックに確実に耐えられるよう、規制当局が講じる政策行動を採る」ことが盛り込まれた。
ここで言う清算機構とは、主に市場関係者の間で「ダークプール」と呼ばれる私設取引システムのことを指す。金融派生商品(デリバティブ)の活用事例が増加したことで、ダークプールは急速に拡大している。しかし匿名性が高いため新たなタイプのリスクが生まれつつある。政策当局者は、ダークプールが破綻すれば市場に大混乱を招くとの懸念を有している。
規制当局が政策行動を採るのは世界経済の安定化のためには望ましいことである。だが、世界各国の中央銀行が前例のない規模の刺激策を続けているために生じた「債券バブル」が、原油価格急落により弾けようとしているときに、それを穴埋めできる規模の量的緩和策が存在するのだろうか。
6月のOPEC総会の結果が、2014年11月と同様に世界の失望を招くものになれば、世界の原油価格のさらなる下落を招き、金融危機の懸念が一層高まることになる。サウジアラビアの今後の動向からますます目が離せなくなっている。
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