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銀行株 グローバルな比較優位
http://www.asyura2.com/15/hasan95/msg/653.html
投稿者 rei 日時 2015 年 4 月 24 日 12:05:44: tW6yLih8JvEfw
 

広木 隆「ストラテジーレポート」 
2015年4月23日  
銀行株 グローバルな比較優位 
http://www.monex.co.jp/Etc/00000000/guest/G903/strategy/index.htm 

昨日、日経平均が終値で2万円を回復して引けた。そのことに関してレポートを書かないのか?と複数の筋から聞かれたが、答えは14日付けのレポートで述べた通りである。

<日経平均2万円台回復というのは確かに嬉しいことではあるが、その一方、それほど手放しで喜ぶほどではないと思う。日経平均は一番ポピュラーな指数だが、機関投資家のベンチマークはTOPIX。TOPIXは15年ぶりどころかリーマン前の高値にすら届いていない。その意味では日本株市場全体が15年ぶり高値に戻ったとは言い切れない。>

日経平均が2万円の大台をザラ場でワンタッチしたのが4月10日。そこから日経平均は調整気味の動きだったが、実は主力株は堅調地合いが続いていた。NT倍率の低下に表される通り、先行した日経平均が足踏みする傍らで、時価総額の大きな主力株には買いが継続して入っていた。まさに出遅れ物色、循環物色の動きになっていたのである。

昨日の日経平均2万円回復を主導したのが、銀行株をはじめとする内需・金融・不動産株である。特にメガバンクが売買代金でも上昇率でも上位を占める上げ相場というのは、本当に迫力がある。感覚的な物言いで恐縮だが、見ていて身震いするような相場つきであった。

「銀行株 反撃の狼煙」というレポート書いたのは2月12日。そこから昨日までの上昇率を見ると、TOPIXが1割の上昇にとどまる一方で、東証銀行株指数は2割と倍の上昇率となっている。改めて自慢するまでもなく、どんぴしゃりの、絶妙のタイミングで銀行株推奨のレポートを書いたのであった。

日経平均、15年ぶりの2万円台回復。その原動力となったのが銀行株の上昇。背景には銀行株の出遅れ感があるだろう。日経平均が15年来の高値を更新する傍らでTOPIXはリーマンショック前の高値にも届いていないと上述したが、TOPIXが高値をつけた2007年2月を100とすると銀行株は当時の半値にとどまっている。しかし、この金融セクターの力強い上昇を、ただの出遅れ感、循環物色で片づけるのは無理がある。

市場で解説される金融株上昇の理由は、日銀の追加緩和期待が高まったためだというものである。日銀は30日、金融政策決定会合を開くのにあわせて経済・物価情勢の展望(展望リポート)を公表する。ウォールストリートジャーナルなどが「15年度の物価上昇見通しを従来の1%から0%台後半に下方修正する検討に入った」と報じたことが追加緩和への期待を高めたという見方がある。前日に浜田宏一内閣官房参与が「コアコアでも物価目標を達成できないのであれば、追加緩和をする必要がある」と語ったことも、追加緩和期待に拍車をかけたという。

しかし、追加緩和期待とは具体的に何を期待しているのだろう。仮に国債購入額をさらに上積みするとして、これ以上長期金利を潰しても、銀行にとっては迷惑なだけである。まさか、次に緩和があったら完全に国債マーケットが機能不全に陥り、金利が上がる、それが金融株にとってのメリットだ - ということを織り込んでいるならスゴイけど、そこまで穿った見方は誰もしていないはずであろう。

銀行株上昇の理由が、単なる出遅れ修正でもなく、日銀の追加緩和期待でもないとすれば、いったい何なのか?

それは、金利のタームストラクチャー(期間構造)の観点からグローバルな比較優位が日本の銀行にあるからだというのが僕の考えである。

3/17付のレポート「ここからが本番」で、自動車・電機・機械等の日本を代表するグローバル製造業が市場の牽引役になっていないのはグローバル・ポートフォリオ運用の投資家から見れば、日本の製造業はドイツ企業に割負けするからであると述べた。ROE、バリュエーション、金利水準(特に実質金利)のどれをとってもドイツをはじめとする欧州企業を選んだほうが魅力的である。自動車ならトヨタ、日産、富士重を買わないでフォルクスワーゲンやBMWを買えばいい。電機・機械なら日立、三菱重工を買わずにシーメンスを買えばいい。自動車部品ならデンソーを買わずにコンチネンタルやヴァレオを買えばいい。そう述べた。

だが銀行株に関しては例外である。日経平均を15年ぶり2万円台に押し上げた原動力となった銀行セクターは日本市場においても圧倒的なアウトパフォーマーであるが、グローバルで見ても他国の金融株のパフォーマンスを凌駕している。



銀行のビジネス・モデルを超簡単に表すと、「短期で借りて、長期で運用する」ということである。ざっくり言ってしまえば、長短金利差が利潤の源泉である。国債のイールドカーブを見ると、超短期の3カ月国債と10年債のスプレッドは、日本が31bps、ドイツが55bps、米国が195bpsである。これだけで言えば、日本のスプレッドに魅力はない。



しかし、ここにはトリックがある。欧州ではECB(欧州中央銀行)がマイナス金利を導入しているため、短期債の利回りが軒並みマイナスとなっているが、それはあくまで銀行間の金利であるということだ。銀行は銀行間だけで資金のやりとりをしているわけではない。一般の預金者からも預金を受け入れているのだが、それにまでマイナス金利を適用するわけにはいかないのである。

11月6日付の読売新聞が、ドイツのオンライン銀行が大口預金に限り、預金額に応じて顧客から利子を徴収する「マイナス金利」を同国で初めて導入したと伝えている。マイナス金利を導入したのは独中部チューリンゲン州の小規模行、ドイツ・スカート銀行。預金総額が300万ユーロ超の顧客で、貯蓄口座に50万ユーロ以上を預けていた場合などに金利として0・25%が徴収される。

これはあくまでレアケース(稀な事例)だろう。同行がマイナス金利を導入した理由は、「金利状況を勘案すると採算を維持しながら商品を提供できなくなった」からだという。これは何も、地方のオンライン銀行に限らない。

ドイツ銀行のステファン・クラウス最高財務責任者(CFO)は、ユーロ圏の銀行はECBが導入したマイナス金利を受けて顧客から預金手数料を徴収することに尻込みするため、収益が悪影響を受けることになるとの見方を示したとロイター通信が報じている。クラウスCFOは金融業界のイベントのパネルディスカッションで、「われわれは当面コストを負担するしかなく、銀行がいつまで耐えられるか分からない」「顧客にとって、現金を預けるために手数料を支払うという状況を受け入れるのは心理的に難しいため、銀行はコスト負担を強いられることになる」「マイナス金利が維持される期間が長ければ長いほど、銀行のコスト負担はより困難になると」と述べたという。

これだけでも日本の銀行の比較優位がご理解いただけると思うが、もうひとつの視点に言及しておこう。それは、この長短金利差が将来どうなるか?というシナリオである。

  「銀行株 反撃の狼煙」のレポートの主旨は、日本の長期金利が自律的に底をつけたという点である。無論、すぐに上昇に転じるとは思っていない。しかし、これ以上、下がらないとすれば、いつかは上がるしかない。そんな兆しが出てきた点を評価したのである。一方、政策金利のゼロ金利解除はまったく見通せない状況である。Most Likely シナリオは長短金利差の拡大(イールドカーブのベア・スティープニング)である。これが起きるときに銀行株はもっとも買われる。

反対に米国はどうか?金融政策の正常化、すなわちゼロ金利解除は時間の問題である。それが6月なのか9月なのか、あるいは年内にはないのか別として、方向性は利上げであるのはほぼ間違いない。少なくとも、市場がその方向性を完全に織り込んでいるという点が重要である。政策金利 - FF金利は上がる。それに連れて短期金利は上がる。だが、長期金利は上がるだろうか?前回、2004年の利上げ時には、当初、長期金利はまったく反応せず、当時のFRB議長、アラン・グリーンスパンがそれを評して「コナンドラム(謎)だ」と言ったのは有名な話である。

低成長、ディスインフレのもと、米国債への需要は常に存在し続けるだろう。利回りは上がるとしても、それほど急激なものにはならないと考えられる。と、すれば、長短金利は拡大しないで、横ばい推移がいいところではないか。

長短金利差の方向性を考えた場合、日本はスティープニング(勾配が立つ)、米国はフラット(平坦)なままであろう。





ドイツはどうか?見かけのスプレッドは存在するが、それは短期金利がマイナスであるせいだ。ドイツの銀行は預金者への利率をマイナスにはできず、ゼロ近傍に下限が存在する。一方で10年債利回りは0.1%という水準だ。ドイツ銀行のCFOの発言からわかるように実態は逆ザヤが発生している。



ここまでの上昇をけん引してきたのは、いつもの通り、海外投資家の買いである。投資部門別株式売買動向をみると、海外投資家は4月第1週に4453億円、第2週に5910億円、第3週に3083億円と大量に日本株を買い越した。現物株で運用しているグローバル投資家は、ボーダーレスに銘柄選択をするところも多い。初めにカントリーアロケーション(国別配分)を決めて、ポートフォリオを構築するのではなく、国境を越えた銘柄選択の結果としてカントリーアロケーションがある。あるいは、現物のポートフォリオではみだした部分を先物でエクスポージャーを調整する運用方法もある(オーバーレイ・マネジメント)。



そうしたタイプの投資家はグローバルな金融セクターとして、日本のメガバンクを選好するだろう。欧州のマイナス金利、米国の政策金利の引き上げによる金利構造が日本のメガバンクの比較優位をもたらしている。

欧州の代表的な株価指数、ストックス・ヨーロッパ600に占める金融セクターのウェイトは23%と最大である。米国のS&P500業種別株価指数でも金融はインフォメーション・テクノロジーに次いで2番目のウェイトである。欧米の金融セクターから日本のメガバンクへ乗り換えるとすると相当な代替需要が発生すると考える。
 

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