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経済効果は確かに大きいが…中国人爆買いを素直に喜べない事情
http://diamond.jp/articles/-/70643
2015年4月24日 姫田小夏 [ジャーナリスト] ダイヤモンド・オンライン
中国の統計によれば、この春節、中国人旅行客の訪日がもたらした消費額は10日間で60億元(約1125億円)にのぼった。4月の清明節の休暇では70億元だと言われている。この「爆買い」による経済効果は日本企業を潤す反面、国民生活に大きな影響をもたらしている。
「爆買い」は観光地や免税品店で起こる現象のみとは限らない。近年は、私たちの生活圏にも中国人観光客が訪れるようになり、「爆買い」の実態を身近で目にする機会も増えた。筆者もそのうちのひとりである。
3月、都内のドラッグストアに中年の女性が現れた。歯ブラシが陳列されている棚の前に立つと、目の前にぶら下がっている歯ブラシを右手でおもむろに鷲掴みにした。その右手が何度か往復すると、左腕で抱える(なぜかカゴは持たない)その歯ブラシの束はみるみる大きくなった。
女性が狙っていたのはライオン製の「ビトウィーン」、特価78円の商品だ。近年、都内でも100円を切る歯ブラシは珍しくなった。安倍政権が8%の消費税を導入し、また円高を進行させたこともあり、「安くていい品」の流通は減る傾向にあるなかで、地元民にとってこの目玉商品は魅力的なものだった。
だが、特価品の歯ブラシは、筆者の目の前であっと言う間に姿を消した。
■「日本から持っていけばいい商売になる」
さすがにこれには驚いた。相手は知らずの中国人客だったが、思わず「そんなに買って転売でもするの?」と声をかけた。すると、「家族で使う」と答える。
しかし、この女性が買った歯ブラシの束は、向こう数年分のストックにも相当する。「家族向けの買い物」と説明するにはあまりに大量で不自然だ。
しばらくよもやま話をしていると、女性はこう打ち明けた。
「中国では日本の歯ブラシがよく売れている。現地での販売価格は高い。日本から持っていけばいい商売になる」
中国客の爆買いで店頭から姿を消したソンバーユ
このドラッグストアで爆買いの対象となるのは、これだけではなかった。「尊馬油(ソンバーユ)」ブランドのハンドクリームがそれだ。馬の脂肪が入ったこの商品は皮膚を保護する成分が高いことから、日本女性に秘かに愛されていた。だがこれも店頭から忽然と消えてなくなった。
入荷を待つこと数週間。しかし、1ヵ月以上待っても陳列棚の「尊馬油」コーナーは欠品のままだった。さすがにしびれを切らし、店員に次回の入荷予定を尋ねると、「いわゆる『爆買い』の影響です。中国の方にすごく人気で、出せば出すだけ、あればあるだけ買って行くのです」という答えが返ってきた。
今度は直接メーカーに問い合わせると、次のような事情が浮き彫りになった。
「品薄が原因で、日本の市場はもはや止まりかけています」。
もともと、馬の体から採れる原料そのものが希少であり、製品化には1年半を費やさなければならず、そう簡単には増産が図れないと言うのだ。ましてや「爆買い」という消費市場の急変にはとても対応できない状態だという。
尊馬油は、中国古来の文献に由来する馬の油の効能に注目した福岡のメーカーがこれを製品化したものだが、中国の伝統を取り入れた点を評価したのか、中国人の間では口コミで広がって行った。
一方、日本人の愛用者にとってこの商品はどんな魅力を持つのだろうか。京都市在住の女性は次のように語っている。
「あのハンドクリームは万能薬。手のみならず、髪の毛にもボディにも使える。成分の純度が高いので使っていて安心なんです」
ちなみに、この女性によれば、「数年前までこのハンドクリームは量販店で1000円もしなかった」という。ところが今では、定価は75ml入りで2160円、ドラッグストアなどの量販店でも1500円を上回る価格に跳ね上がってしまった。
この「爆買い」に対抗して、最近は店舗の対応も変化を見せている。「爆買い対象になりやすいものは、わざと棚に置かない」(都内ドラッグストア店員)というのだ。「問い合わせに応じて、一人1個ずつ提供する」ことで、販売のバランスを保とうとするための苦肉の策でもある。
■長蛇の列と売り切れ御免、爆買いで空港も大混乱
爆買いの影響は空港にも現れる。4月中旬、成田空港国際線の第2ターミナルには、出発2時間前だというのに、すでに長蛇の列ができていた。
その長蛇の列の先頭をたどった先には、中国国際航空のチェックインカウンターがあった。列に並ぶのは中国に帰国する中国人観光客が大半であり、カートに乗せられたトランクや段ボールの山は、まさしく「爆買い」による戦利品といえよう。
チェックインカウンターは中国への帰国客で長蛇の列
ところが、この列は待てど暮らせど、なかなか先に進まない。かつて、ビジネス客が中心だった日中線は、比較的軽装のビジネス客が多く、チェックインもスムーズだった。少なくとも出発時間の2時間以上も前から長蛇の列が伸びることはなかった。
チェックインカウンターに目を凝らすと、そこにはオーバーチャージを指摘された中国人が荷物を減らして規定の重量に収めようとする姿があった。しゃがみこみ、トランクを開いて、重い物を取り除く、そんな光景がどのカウンターの前でも繰り広げられていた。これが、「長蛇」の原因である。長蛇の列には順番待ちの高齢者や小さな子どももいるとなれば、好ましい光景だとは言えない。
さて、これだけ買い物をしても収まらない旺盛な購買意欲、中国人観光客が向かうのは搭乗ゲートに近い免税の土産品店だ。レジカウンターには日本の銘菓「白い恋人」や「キットカット」が十数箱と山のように積みあがっている。たったひとりでこれだけの数を買うのだ。
売り場は早くも「売り切れ御免」が続出中だ。まさにその消費形態は「あればあるだけ買う」というもので、さながら奪いつくされた戦場さながらの光景だ。そしてレジで待っているのは、またしても長蛇の列である。
■中国相手のリスクを考えると増産にも踏み切れない
筆者は2011年3月の、中国沿海部で発生した塩の買占めを思い出した。福島第一原発の事故直後、中国では「ヨウ素入りの塩が放射性物質の沈着を防ぐ」という噂が流れ、市民は塩を求めて小売店に殺到、店頭の塩が品切れになる事態が発生した。今でこそ笑い話だが、中には一生かけても消費しきれないほどの塩を買うという「塩の独り占め」さえあったという。
2003年のSARS禍では「板藍根」という薬がそうだった。予防にいいと噂され、市民が薬局になだれ込んだ。
このように、誰かが「これはいい」と言ったその商品に、中国では一瞬にして火がつくことがたびたび起こる。多くの中国人の関心がその商品に注がれ、「皆が買うなら」の群集心理とともに買占めが起こる。
大量買いという特徴的な中国人の消費行動は、確かに日本経済に恩恵をもたらす一面もある。だが、その一方で、品不足や価格上昇という日本国内の消費者への影響も見逃すことはできない。増産すればいいではないか、という考えもある。だが、メーカー側は原料調達の事情などにより簡単に増産に踏み切れない。
ましてや、二国間の政治リスクを考えれば、メーカーもまた「爆買い」を手放しで歓迎はできないはずだ。ひとたび関係が冷え切れば、一瞬にして不買運動が起き、中国からの旅行者も途絶えてしまう。結果、中国人向けに準備していた在庫はだぶつく。どのメーカーも、これらのことは3年前に経験済みだ。
他方、世界に目を向ければ、もっと高額なものが買占めの対象になっている。カナダやオーストラリアでは中国人による不動産投資の結果、価格が急上昇し、本当に住宅を必要としている現地住人の手の届かないものになってしまった。
巨額の富を集中させた個人が、その富で買えるだけのものを買い占める。中国の発展過程が生んだ富の再分配のアンバランスは、今や別の国の生活者に影響をもたらそうとしている。
付加価値の高い製品につけられた合理的な価格、その日本製を喜んで買ってくれるのは有難いことだ。だが、爆買いという偏った消費は国民の「安定的な利用」を遠ざけることにもつながっている。しかも、「買占め」にも近い消費形態は決して手放しでは喜べるものではない。「爆買い」は経済効果のみならず、地元生活者への影響という目線からも議論されるべきだろう。
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