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フォレスター(写真、日本仕様)をはじめ北米での売れ行きが絶好調の最大要因 Photo:SUBARU
小さくても経営効率はダントツ!トヨタも敵わない「スバル」の底力
http://diamond.jp/articles/-/70642
2015年4月24日 佃 義夫 [佃モビリティ総研代表] ダイヤモンド・オンライン
■自動車決算ラッシュのなか目を見張る富士重工業の躍進
3月期決算の発表シーズンを迎えている。自動車メーカー各社の2015年3月期(2014年4月〜2015年3月)決算発表は、4月24日のマツダ、三菱自動車を皮切りに、5月連休を挟んで5月13日の日産発表で出揃うことになる。
日本の自動車各社は、リーマンショック以降の「六重苦」を乗り越えて、この3月期決算で多くが過去最高業績を発表することになりそうだ。改めて自動車業界好況を世に示すものとなる。
その中にあって、「スバル」ブランドの富士重工業の躍進が光る。富士重工業は、日本車8社(乗用車)の中で規模は最も小さく地味なメーカーだったが、ここへきて独自の技術力がクローズアップされ業績も向上、本業の儲けを示す営業利益率が2ケタ台で最も高い経営効率を確保してきている。
そんなスバル躍進の理由は何か、また富士重工業という自動車メーカーが「今面白い」と言われる背景は何か、今後どんな方向を目指すのかを探ってみた。
富士重工業の決算は、5月連休明けの8日に発表されるが、2015年3月期連結業績は売上高2兆8500億円(前期比18.3%増)、営業利益4100億円(同25.6%増)、経常利益3920億円(同24.7%増)、当期純利益2530億円(同22.4%増)が予想され、3期連続の増収、増益となる。連結販売台数、売上高、各利益ともに過去最高を更新することになる。
加えて、特筆されるのが売上高営業利益率が14.4%となること。(予想)自動車業界はもちろん、全産業での売上高営業利益率が3%前後といわれる中で、圧倒的に高い利益率を示してきている。
自動車各社にあってもあのトヨタでさえ、この3月期でようやく10%に届くことになり、ゴーン日産も5.1%にとどまる。(いずれも予想)富士重工業の営業利益率の高さが際立っており、ここに来ての躍進ぶりを物語るものである。
筆者は、長らく富士重工業を取材し、歴代のトップともつきあってきたが、同社が「こんな良い流れになるとは思わなかった」という感がある。過去、日産グループにあった立場から米GMとの資本提携に走り、そしてトヨタと資本提携に至るという過程を良く知っているだけに、そう思うわけである。
■「スバル」ブランドは北米でなぜこれほど強いのか
それでは、なぜ富士重工業の業績、経営はこれだけ向上したのか。
言うまでもなくスバルは、富士重工業のブランド名だが、富士重工業そのものを指す固有名詞として定着しているので、以下「スバル=富士重工業」として述べて行く。
スバルの業績向上の最大要因は、一言で言えば北米での成功である。今、スバル車は北米においてタマ不足で供給が間に合わないほど、売れに売れている。経営の「集中と選択」と言う意味では、北米戦略を最重点とした商品開発、ブランド力向上が功を奏したのである。
北米でのスバル車はもともと、雪の多い地域、山間地域などで四輪駆動の技術力で人気があったが、それは地域限定な人気だった。それを主力車レガシィのサイズアップなどと、スバル車の技術力(走りと安全性)の全米訴求、米販売統括会社SOA(スバルオブアメリカ)主導による全米ディーラーのイメージアップ展開などで、ブランド力を向上させていった。
結果、インセンティブ(販売奨励金)が小さくても売れ、収益性が高くなる。3月期連結業績のスバル車北米販売は、56万9000台、前期比19.2%増と大幅な伸びを示し、スバル車グローバル販売全体の90万6000台のうち半数以上を占めている。
北米での販売増と収益増がそのまま、現在の営業利益率14.4%という高効率業績に結びついており、北米戦略の成功が最大の主因というわけだ。
軽自動車の原点とも言えるスバル360 Photo:SUBARU
しかし、一方で国内での軽自動車開発・生産からの撤退と言う決断もあった。スバルと言えば、1958年に発売した「スバル360」が今日の軽自動車の先駆けとなった。当時、「てんとう虫」の愛称で呼ばれ大ヒットして以来、スバルは軽自動車の分野でも独自の世界をつくってきた。
そのスバルが2012年に軽自動車開発・生産から撤退し、ダイハツからOEM供給を受ける体制に切り替えたのである。
スバルのトップは、吉永泰之社長。2011年に社長に就任する前は、国内営業本部長を務めた経験を持つ、スバルで初の営業出身の社長だが、「軽自動車の開発生産を止め、コンパクトカーの開発生産も止めて、アメリカにリソースを集中させて成功することができた。北米で成功して利益が出れば、国内向けの開発ができるという戦略でした。国内での軽自動車生産からの撤退は重い決断だったが、グローバルで生き残るためだった」と、吉永社長は述懐する。
■技術力には定評があるもののこれまでは苦闘の連続だった
スバルは、戦前の航空機メーカーの中島飛行機を前身とし、技術力には定評があった。水平対抗エンジン・四輪駆動をその技術力の特徴として「玄人好み」と言われたり、「スバリスト」と呼ばれるスバル車を乗り続けるファンも多かった。それでも、これまでの経緯を振り返ると苦闘の連続だった。
1990年代末までは、日産自動車との資本提携関係にあり、日産グループとして社長も日産、あるいは興銀(当時のメインバンク)から送り込まれていた。一方で、富士重工業という社名にもあるように、中島飛行機を源流とした自動車以外の航空機事業、産業機器事業、バスボディ事業(その後撤退)など、多角的な経営形態を継続していた。
自動車事業も水平対抗エンジン、四輪駆動の独自技術が売りだったが、軽自動車と小型車分野でシェアは停滞気味で、あくまでも日産グループの一員と言う位置づけだった。それでも米国生産進出にあたっては、いすゞとの合弁生産進出(SIA)という異色の組み合わせを選んだこともあった(その後いすゞが撤退)。
それが、日産が1999年に仏ルノーの傘下入り、ルノー日産連合として再生スタートしたことを機に状況が一変。当時はまだ世界の「ビッグ1」であった米GMとの資本提携に切り替えたのが、日産出身の田中毅社長(当時)だった。つまり、20世紀から21世紀への移行時における「自動車世界大再編」の渦の中で、GMグループとして生き残りを賭けたのである。GMグループとして、軽自動車分野でスズキとの提携、部品共通化を模索したのも、その流れだった。
しかし、その頼みのGMがリーマンショックで経営破綻し、米政権の救済を受ける事態に陥りGMとの提携を解消、トヨタとの資本提携へ動いた。結果的にこの十数年間で、スバルの経営はめまぐるしく変遷した。
また余談だが、歴代の社長はスバルというブランドの浸透を目指し、スバルと富士重工業という社名のギャップを解消しようと、「スバル」への社名変更を常に検討していたという事実もある。しかし、航空宇宙部門も持つ経営体制から変え切れずに今日に至っている。
トヨタと共同開発したスポーツカーBRZ Photo:SUBARU
いずれにしても、トヨタグループ入り(トヨタ16.48%出資)してからは、米国工場のSIAにおける自車生産に加え、トヨタ車のOEM生産で稼働の安定化が図られ、国内でトヨタとスポーティーカーを共同開発(「BRZ」と「トヨタ86」)し、市場投入する体制へと結びつけた。
スバルの社風は、中島飛行機の流れを汲んで現社名のように「重いイメージ」があった。技術屋のプライドは高く、かつて日産の言うことも聞かなかったというエピソードを聞かされたほど。一方で、社長が他社から長年送り込まれてきたこともあり、「重厚・おっとり型」でもあった。
それが2000年代に入り、プロパー社員から社長が選ばれるようになり、現在の吉永社長で3人目となる。小規模でも生き残る方向へと、「集中と選択」経営に舵を切り、ニッチでもスバルの存在感を出す運転支援技術「アイサイト」の訴求などが実を結びつつある。特に自動車業界では珍しい営業出身者の吉永社長が、強い技術屋集団を尊重しつつ、スバルに求められるニーズをブランド化に結び付ける取り組みを進めている。
■スバルはどこへ向かうのか 真に「際立つ」ための正念場
それでは、スバルがこれから目指す方向とは、どこだろうか。
スバルは、現在2020年に向けた中期経営ビジョン「際立とう(きわだとう)2020」を進めている。それはスバルが、自動車メーカーとしては小規模であるものの、持続的に成長していくために、「大きくはないが強い特徴を持つ質の高い企業」を目指すというもの。その実現に向け、「スバルブランドを磨く」「強い事業構造を創る」という2つの活動に集中的に取り組み、付加価値経営をさらに進め、環境変化への体制を高める、というものである。
2020年の収益イメージとして、安定的に業界最高位の営業利益率を確保し、持続的成長により「世界販売台数110万台+α」「売上高3兆円+α」を実現するとしている。
つまりスバルとしては、かつて「プレミアムブランドを持つグローバルプレイヤーを目指す」と謳ったプレミアムブランド戦略よりも、独自の技術(水平対抗エンジン・四輪駆動に運転支援システム・アイサイトなど)を生かした「スポーティ」ブランドの確立を目指していくということだろう。
また、パワートレインの多様化、電動化への流れという側面では、スバルの水平対抗のプラグインハイブリッド(PHV)を開発中だという。SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)分野を中心としたラインナップを、強化していくことになる。
世界市場戦略としては、「北米一本足打法になり過ぎているのでは」との見方も出るなかで、北米を最重要地域としながらも、日本国内や中国での販売強化を課題とする。国内営業本部長を経験した吉永社長が、営業面をどれだけ強化できるか、その手腕が問われる。
いずれにせよ躍進を果たしたスバルだが、真に「際立つ」ための正念場はこれからだ。北米での成功をいかにトータルへの成功に繋げていくことができるか。奇しくも同社は、新宿西口に約半世紀も構えてきたスバル本社ビルを売却し、2014年8月に竣工した恵比寿の地、新エビススバルビルに移ったばかり。山椒は小粒でもぴりりと辛い――。新本社とともに、スバルは次のステップを踏むことになる。
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