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黒い職場の事件簿〜タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史
【第12回】 2015年4月21日 吉田典史 [ジャーナリスト]
「セクハラ」を口実に
あなたがリストラされる日
女性への1通のメールが命取りに? あなたも知らず知らずのうちに、「セクハラ社員」として会社に睨まれていないか? Photo:naka-Fotolia.com
今回は、前回の続編として、企業でセクハラに関わるトラブルが生まれる背景に迫りたい。東京管理職ユニオンの設楽清嗣氏に取材をしていくと、セクハラなどが生まれる構造には、「価値観共有」などと称して社員たちが1つになろうとする文化が関係しているようだ。会社の上層部は、組織がまとまりを欠いて混乱することを恐れるあまり、「異端社員」を認めたがらないものだ。そのため、あえて「みなで1つになろう」とアピールする。そんな空気のなかでセクハラ騒動の当事者となった社員たちは、どちらに非があるにせよ、男性側も女性側も「異端児」扱いされ、徹底的に排除される。ここにも、企業がタテマエとホンネを使いわける「闇」がある。
記事の後半では、日本の社会全体にもその「闇」が広がっていることを指摘した。あなたの職場では、「異端」を排除する空気が強まっていないだろうか。そして、そのことがセクハラ騒動の温床の1つになってはいないだろうか。
「君がどんな男性とつきあっているか
話してくれなかったのは、残念だね」
東京管理職ユニオンの設楽清嗣氏
設楽 (前回の記事で紹介したような)満員電車に乗っているときだけでなく、女性から積極的にアタックしてきた場合は、男性は気をつけたほうがいいだろうね。特にリストラのターゲットになっている社員に女性が近寄ってくる場合は、背景に何か組織的な陰謀があるかもしれない。会社は、そのくらい怖いところだよ。
筆者 会社員が生きるのは困難な時代なのですね……。
設楽 人事の評価は1日で変わり得るから。上の人たちはチャンスと思えば、その社員を切ってくる。少々仕事ができたとしても、辞めるように仕向けることはある。たとえばセクハラが判明しただけでも、「そんな男はもう辞めさせろ」となる。
一例を挙げると、都内に本社を構える外資系の製薬会社で、20年以上勤務して業務部長をしていた男性がいた。単身赴任で名古屋にいた。社内には労働組合があり、組合員の社員たちに聞き取りをしたところ、その部長のセクションでは時間外労働の管理が杜撰だった。
組合の執行部は、人事部に「こんなことでは困る!」と伝えた。そのとき、執行部は部長が社内の女性にセクハラを行っていることを聞いた。そこで人事部は、緊急に調査した。
筆者 結果はどうだったのでしょうか。
設楽 女性に誘いかけるメールが、ドワーっと二十数人分……。たとえば食事に誘い、その翌日メールを送る。「昨日の食事は楽しかったよ。君がどのような男性とつきあっているかを話してくれなかったのは、残念だね」といったように。その後も、しつこく送り続ける。
男性本人がそれらを認めたこともあり、会社は懲戒解雇処分にした。企業内労組は「懲戒解雇ではなく普通解雇にしてほしい」と経営側に交渉した。男性は20年以上勤務したから、という理由だった。結局、会社は普通解雇にした。男性は、それにも不満だった。そこでユニオンへ相談に来た。
セクハラメールを二十数人に――。
普通解雇にさせた労組はむしろ偉い
筆者 その企業内労組は骨がありますね。通常、懲戒解雇を普通解雇にすることは難しいですから。ましてや、企業内労組ならばなおさら難しいでしょう。
設楽 そのあたりは、私も同感です。男性から相談を受けた地方のユニオンは、東京の本社まで行って団体交渉をした。それに私も立ち合った。地方のユニオンの役員は、「リストラは許さんぞ! セクハラの名を借りたリストラをしやがって……」とすごむ。
それに対して、会社の人事部長らは冷静。「まぁリストラであるのか、セクハラか、これから説明をしますから、よくお考えください」と言いつつ、メールを読み上げる。それは、男性が女性社員に送ったものだった。
筆者 察しがつきますね。懲戒解雇になるくらいですから……。
設楽 人事部長は、いくつかのメールの文面を読み上げる。彼は、派遣や新入社員の女性にばかり送りつけていた。挙げ句に、メールでホテルにまで誘っていた。部長は「こんなものは、氷山の一角です。会社としてこれが黙っていられますか?」と我々に聞き返す。
地方のユニオンの役員たちが、解雇された男性から事前にどのように聞いていたのか正確にはわからないが、私は「ヤバイ、こんな交渉はするもんじゃない」と思ったね。そこでとりあえず、団体交渉をいったん休憩した。すると地方のユニオンの役員は、「設楽さんたちは軟弱!」と言い始める。
結局、我々東京管理職ユニオンは手を引いた。「ホテルに行くことを堂々と書いている部長を守るために、こんな交渉はできない」と言ったんだ。私は、地方のユニオンの役員にこうも言った。「その会社の企業内労組は立派だよ。懲戒解雇すべきものを普通解雇にして、退職金まで支給させたのだから。労組としてお礼を言うべきだ」。
我々も当然のごとく労働者を守るけれど、あそこまで行き過ぎた行為をしている男性のことは、守れないよ。
社員の人事評価は1つのきっかけで
たった1日で変わってしまうもの
筆者 セクハラなどで問題になると、男性社員はそれを口実にされて、あっという間にリストラされることがわかりました。そもそも、「この人を辞めさせよう」と決めるのは誰なのでしょうか。人事部でしょうか、それとも……。
設楽 会社によって違いがあるけど、外資系企業はもともと人事部には、さしたる権限がないよ。営業で言えば、トップである担当役員や本部長、その下の部長クラスで決められることが多い。人事部に相談は、ほとんどしていないだろうね。
筆者 日本企業にも、そのような会社が増えています。
設楽 大きな会社は、その事業部の上のほうで決まっていると思う。本部長などのところで。この下にいる部長などを巻き込んで、組織として動き、辞めさせることが多い。その意味で、「縦のライン」は用意周到に辞めるように仕向けてくる。
筆者 それが悲しいところですね。私がそのラインの動きを感じたのは、1990年代後半。当時勤務していた報道機関でも、似たようなことが起きていました。組織的にみんなが動いて、特定の社員に対して退職強要などを行う。本来会社は、仕事をすることにエネルギーを割くべき場所なのに……。
そのラインの人たちは当時40代後半で、今はもうほとんどが定年退職しています。20代だった私には理解ができないことであり、会社に恐ろしいくらいの幻滅を感じた経験でした。
当時も今も相変わらず、メディアや有識者は「成果や実績を残せば会社員は認められる」、さらには「上に上がれる」「転職も独立も可能」と煽りますね。しかし私は、十数年前からその認識を疑っています。論理が飛躍しているようにしか思えないのです。「人間が評価している」という事実が抜けている。人間への洞察が甘いのです。
設楽 そんな認識は甘いですよ。会社とは、「生きるのに困難な組織」なのですから。人事の評価などは、何かのきっかけでたった1日で変わるもの。これが、会社ですよ。上にいる人たちも、部下から狙われることは十分にある。
たとえば、リース関連事業に18年勤務していた41歳の営業次長がいた。営業部の27歳の女性を酒に誘った。3回も……。いずれも断られた。しつこいよね……。3回目は本来、禁じ手なのに。ところが、4回目もまた誘った。それで女性から訴えられた。4回目はNGだよ。男性は、もっと互いの関係を見ることができないといけないよ。そんな目の肥え方が重要。
男性のほうの会社員にアドバイスするならば、同じ会社の女性と深い関係になることは避けたほうがいい。あえて言うよ。「止めろ」って。成績がよくても、何かがあれば評価は1日で変わるのだから。
筆者 セクハラ行為を口実に社員をリストラしようとする会社の怖さを、男性はよく認識するべきでしょうね。一方で、セクハラ被害に遭った女性たちの多くが、今も泣き寝入りをしているであろうことも、問題視すべきではないでしょうか。
私はこうしたセクハラトラブルが起きる背景に、組織における「ホンネとタテマエの闇」が、巧妙に関わっているようにも感じます。日本企業は、弱い者いじめをするのが巧妙。強い者に媚びて弱い者を潰すことが好きなのだろうな、と考えています。何かトラブルが起きても、みんながそれを見て見ぬふり。セクハラ疑惑をかけられた男性のみならず、セクハラを告発する女性をも「異端者」と見なして、徹底的に排除する伝統が強くありますからね。
それと反対の組織のケースとして、今も印象に残っているエピソードがあります。私が東京管理職ユニオンに取材でうかがうようになったのは、1990年代後半。当時深刻な金融不況となり、山一證券や北海道拓殖銀行などが経営破破綻した頃です。設楽さんたちの執行部は、リストラを行う企業や経済界、政府などへの批判を機関紙に毎回載せていましたね。
際立つのは、一部の組合員らによる設楽書記長らへの批判を堂々と載せていたこと。執行部の運営などについて異議のある者が、数百字から長い場合は数千字の論文形式で書いていましたね。あれは、書記長の立場として不愉快ではありませんでしたか。多くの労組の役員は、あのような異論を認めないように思います。
設楽 批判をしてくる相手を憎んだことはないです。批判されることをストレスと感じたり、その相手を押さえつけたりするならば、もはやリーダーじゃない。指導者として最低ですよ。
筆者 とはいえ今は、そのような指導者が増えているように感じます。
設楽 様々な批判を受け、きわどいところを乗り越えてこそ真のリーダーです。たとえば、中小企業のワンマン経営者などは、異論を唱える社員を辞めさせたりしますね。あのような経営者は、優秀なリーダーとは言えないと思います。
批判を公表した東京管理職ユニオン
異質なものをそぎ落とすのは重大な誤り
筆者 2000年から02年にかけて、東京管理職ユニオンが連合に加盟するか否か、が大きなテーマだった時期があります。2002年、東京管理職ユニオンや東京ユニオンなどが、「全国ユニオン(全国コミュニティ・ユニオン連合会)」として1つに結集した。そして2003年に連合に加盟した。
東京管理職ユニオンの機関紙では、設楽さんたちを批判する組合員がいましたね。その批判は、私が読む限りでは強烈に思えました。設楽さんは連合加盟の推進派であり、反対する組合員たちは加盟反対。設楽さんはここでも、反対論や批判を機関紙に載せることを否定しませんでしたね。
設楽 反対論が高まるほどに、推進論が強くなるものです。断固たる自信があれば、怖くはないですよ。自信が過信にならないようにはしないといけませんが……。批判を受けることで、書記長として求心力を失っていないかと見られるならば、それで構いませんよ。そのような批判を乗り越え、連合に加盟する思いでしたから。
私には、リーダーとして自虐的なところや、マゾヒスティックな面があるのかもしれませんね……(笑)。意図的にきわどいどころを攻めて批判を受けることで、組合を活性化させようとしてきたこともあります。むしろ、組織として1つの意見や考えにまとまることなく、分かれている状態こそがいい。1つになり、価値観が固定的で保守的な状況が長く続くことがよくないです。互いに緊張感があるから、組織は強くなるのですから。
価値観共有を重視し異端児を叩く
セクハラ騒動の背景にある本音
筆者 そのような組織ならば、セクハラなどを受けた女性らが異端扱いを受けることがなくなるかもしれません。日本企業の風土にも同質の問題があるかと思います。「価値観共有」などと称して、とにかく1つになろうとする。異端を認めると、何かとまとまりに欠けて組織が混乱するからです。
設楽 混乱を恐れる不安感や恐怖感が組織を弱くし、衰退させるのです。異質なものをそぎ落とすのは、重大な誤り。違和感のあるものを抱え込むのが、組織や社会の強さです。人間のエネルギーのぶつかり合いが、組織の原動力となっていくのですから……。リーダーは、それが楽しいと思えないといけない。
ところが、違和感があるとそこをたたく。そして潰す。これでは、組織のダイナミズムを失いますね。ダイエーが崩壊した理由の1つも、ここにあります。オーナーであった中内氏の経営手法に違和感を覚えた側近たちが辞めていく。中内氏もその側近たちに、違和感を感じ取っていたのでしょう。
最近の政治にも言えることです。日本共産党は今や、明らかに面白くない党になっている。異論を認め、議論の場を与えない。党内世論を喚起しない。今の自民党も総主流派体制になっているから、いずれは党の力を弱くしていくでしょう。自民党の強さは派閥だった。賛否はあると思いますが、いくつもの派閥が激しく対立することで組織のダイナミズムを持ち合わせていた側面もあったと思います。異論や反対論が堂々と言える場をつくり続け、意見を闘わせるからこそ組織は強くなる。
筆者 そんなしなやかさがないと、セクハラやパワハラに関するトラブルが次々に生まれるでしょうね。日本の社会がそこまで深く捉えないことに、私は残念なものを感じているのです。
http://diamond.jp/articles/-/70433
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