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安倍政権の「外交敗北」か!? AIIBに加盟申請しなかった日本の2つの誤り
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42952
2015年04月20日(月) 近藤 大介 北京のランダム・ウォーカー 現代ビジネス
■党中央と国務院が主導・牽引してきた経済発展の『新常態』
4月15日、この日の中国のトップニュースは、『習近平 国政運営を語る』という分厚い習近平主席の著書が世界で400万部を突破した、というものだった。中国のニュースによれば、中国国内はおろか、世界中がこの話題で持ちきりだという。
確かに日本でも昨年後半くらいから大型書店に並び始めたが(なぜかアマゾンでは売られていない)、私の周囲に買ったという人はいない。ちなみに私は、昨年末に北京に行った時、中国の知人からプレゼントされた。実はプレゼントしたいと持ってきた中国人は3人もいたが、二人目からは辞退した次第である。何だかお歳暮のつけ回しのようだったが、恐縮ながらまだきちんと読んでいない。私に持ってきた3人も、全員中国共産党員ながら、誰一人読んでいないようだったので、文句はあるまい。
さて、このトップニュースは、あくまでも「前座」である。この日、『習近平 国政運営を語る』の次に報じられたニュースと、3番目に報じられたニュースこそが重要だったのだ。
2番目のニュースは、国家統計局が第1四半期の中国経済の重要データについて発表した、というものだった。
この日の午前10時、記者会見に臨んだ国家統計局の盛来運スポークスマンは、前置きとして次のようにもったいをつけた。
「今年に入って、複雑な国際情勢と国内経済の下降圧力が増大する困難な局面に直面する中で、党中央と国務院は、『穏やかな中に進展を求める』ことを全体の基調として、経済発展の『新常態』を主導し、牽引してきた。経済発展の質と効率を高めることを最重要視し、スキームを調整し方式を変更。さらに突出した位置から改革開放を深化させ、市場の活力を刺激し、民生の保障を強化し、国民経済の運行をおしなべて平穏にし、スキームの調整を少しずつ進め、新たな動力の育成を加速させてきたのだ」
■GDPの伸びは7%どまり。インフレよりもデフレを懸念する状況に
だが、その後、世界の中国ウォッチャーたちが想像していた以上の経済の沈滞ぶりを、公表せざるを得なかった――。
まず、GDPの伸びは7.0%で、昨年の第4四半期の7.4%から0.4%落ちた。内訳は、第一次産業3.2%、第二次産業6.4%、第三次産業7.9%である。
工業生産に関しては、全国の一定規模以上の工業増加値は6.4%増加したものの(3月だけを見ると5.6%増)、国有のホールディング・カンパニーの増加値は1.7%の伸びにとどまった。1月から2月の全国の一定規模以上の工業企業の利潤総額は7,452億元で、前年同期比で4.2%の下降となった。
また、かつて2007年に李克強首相が「真のGDPを表している」と述べた発電量の伸びは、昨年より原油価格が2割以上安くなっているにもかかわらず、0.1%減となっている。かつ3月だけを見ると、何と3.7%減である。
農業を含まない固定資産投資は、7兆7,511億元に達し、13.5%アップ。だが、前年同期比では、4.1%ダウンである。消費・輸出・投資の中国経済発展の「三輪馬車」のうち、消費の伸びはいまひとつで、輸出は急落。政府主導の投資に頼らざるを得ない現状を、改めて明確にしたのだった。
内需の最大の牽引役である不動産部門も、惨憺たるものだった。新たな着工面積は2億3724万平方メートルで、前年同期比18.4%減。うち住宅の着工面積は1億6791万平方メートルで、前年同期比20.9%減。全国の不動産販売面積は1億8254万平方メートルで9.2%減。そのうち住宅の販売面積は9.8%減。全国の不動産販売額は1兆2,023億元で9.3%減。うち住宅の販売額は9.1%減。企業の不動産開発用の土地購買面積は4051万平方メートルで32.4%減・・・。まさに減、減、減のオンパレードである。
消費に関しては、小売消費総額は7兆715億元で10.6%アップ。うち都市部が、6兆709億元で10.4%アップ、農村部が1兆7億元で11.6%アップである。最新の3月の統計では、消費総額が10.2%アップだった。
なかでも特に伸びが顕著なのが、ネット通販である。商品とサービス合わせて、売上高7,607億元で41.3%アップ、総消費額に占める割合は8.9%になった。第2四半期には、10%の大台に乗る可能性がある。
貿易は、総額5兆5,433億元で6.0%減。輸出は3兆1,493億元で4.9%増、輸入は2兆3,940億元で17.3%減である。さらに最新の3月の統計を見ると、総額は1兆7,555億元で13.5%減。輸出も8,868億元で14.6%減、輸入は8,687億元で12.3%減である。特に輸出が、これまでの黒字から赤字に転じたことは大きい。中国最大の貿易相手であるEUの景気が、一向に上向かないことが最大の要因だ。後述するようにAIIB(アジアインフラ投資銀行)の件も同様だが、中国経済とEU経済が、ますます一体化の様相を呈し始めている。
消費者物価(CPI)は1.2%で、最新の3月が1.4%である。昨年9月に2%を切ってから、これで7ヵ月連続で2%未満となった。つい数年前まで「物価上昇を4%以下に抑える」ことを政府の最大目標にしていたことを思えば、隔世の感がある。いまやインフレよりも、むしろデフレを懸念しなければならない状況となっているのである。
1〜3月までの国民の平均収入は、6,087元で、9.4%アップ(物価上昇分を除くと8.1%増)。都市住民は8,572元で8.3%増、農村住民は3,279元で10.0%増。2月末時点での農村部から都市部への労働者は、1億6,331万人で、602万人減となっている。第1四半期の労働者統計は、春節の「民族大移動」が入るため、第2四半期以降を見ていかないと正確な分析はできない。
産業構造では、第三次産業が51.6%で、前年同期比1.8%増。第二次産業が42.9%、第一次産業が5.5%である。昨年初めて、第三次産業が過半数を超えたが、今後、中国経済を牽引するのは、第二次産業から第三次産業へと、完全に移行していくものと思われる。
銀行の貸出高は、3兆6,800億元アップで、前年同期比で6,018億元アップした。3月末時点での銀行の貸出残高は、85兆9,100億元で、前年同期比14.0%アップ。人民元の預金残高は124兆8,900億元で、10.1%アップである。これは日本円に換算すると、約2,400兆円! 日本人の預金残高を軽く抜き去ってしまった。
以上が、習近平政権が最近、声高に主張している、経済の「新常態」の姿である(統計の数値が正確であったと仮定して)。
■中国企業の「足場」を周辺国家に拡大する「一帯一路」構想
いまのところ、「新常態」とか「穏中求進」などと称して取り繕っているが、最新の3月の統計を見ても、相当厳しい分岐点に差しかかっているのは確かだ。
これを突破する最有力の方策は、中国人が伸び悩む国内市場を飛び出して、海外の市場で稼ぐことだ。特に、中国の富の6割以上、基幹産業に限って言えばそのほとんどを担っている国有企業が、海外インフラを受注することが、今後の中国経済の持続的な発展の重要なポイントとなる。
こうした発想から、2013年秋以降、習近平主席らが唱え始めたのが、「一帯一路」構想である。「一帯」は、中国から中央アジアに向かう陸地の「シルクロード経済ベルト」で、「一路」は、中国から海上を東南アジアへ向かう「21世紀海上シルクロード」だ。これは、周辺外交を内政の延長と捉え、中国企業の「足場」を周辺国家に拡大していく政策に他ならない。
この「一帯一路」を進めるにあたって、最大の障害となるのが、周辺諸国のインフラ整備の不足である。現在、中国と国境を接する14ヵ国は、すべて中国よりも貧しい国家である。そのため、中国企業の拡大が、国境を越えてスムーズに行かない。例えば、高速道路、高速鉄道、整備された港湾や多くの空港などは、中国国内にあっても、隣国にはないからだ。
幸い中国には、この3月末で3兆7,300億ドルという世界最大の外貨準備高を誇っている。そこで中国が「胴元」となって、周辺諸国のインフラを整備していこうという発想になったのである。そうすれば、中国企業が周辺諸国のインフラ整備も行えて、一石二鳥というわけだ。
こうして中国がブチ上げたのが、いま話題のAIIB(アジアインフラ投資銀行)である。そしてその関連ニュースが、4月15日の3番目のニュースとなった。
この日、中国財政部は、AIIBの開設時(今年末までに開設を予定)の参加国を発表した。以下の57ヵ国が、正式に参加の意向を示したという。
(国名アルファベット順)オーストリア、オーストラリア、アゼルバイジャン、バングラデシュ、ブラジル、ブルネイ、カンボジア、中国、デンマーク、エジプト、フランス、フィンランド、ジョージア(グルジア)、ドイツ、アイスランド、インド、インドネシア、イラン、イスラエル、イタリア、ヨルダン、カザフスタン、韓国、クウェート、キルギスタン、ラオス、ルクセンブルク、マレーシア、モルジブ、マルタ、モンゴル、ミャンマー、ネパール、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、オマーン、パキスタン、フィリピン、ポーランド、ポルトガル、カタール、ロシア、サウジアラビア、シンガポール、南アフリカ、スペイン、スリランカ、スウェーデン、スイス、タジキスタン、タイ、トルコ、UAE、イギリス、ウズベキスタン、ベトナム。
ちなみに、参加を希望したが中国側が拒絶したのは、台湾と北朝鮮である。漏れ伝わるところでは、「台湾は中国の不可分の領土であるから国家として参加する資格がない」「北朝鮮は規則に従わないリスクと、アジアのギリシャになるリスクがある」というのが、拒否した理由のようだ。
とはいえ、台湾は水面下で個別に交渉して、加入させるのではないか。台湾は、ADB(アジア開発銀行)には「中国台北」の名義で、APEC(アジア太平洋経済協力会議)には「中華台北」の名義で参加しているからだ。また、北朝鮮の金正恩第一書記と中国の習近平主席は、5月9日にモスクワで行われる対独戦争勝利70周年式典で"ニアミス"する可能性がある。その時、金正恩が習近平のもとに立ち寄り、参加許可を迫れば、習近平はどうするのだろうか?
ともあれ、東アジアの主な国で、自ら加盟を申請しなかったのは、日本だけなのである。この現実をどう見るか?
■アメリカは一夜にして、中国に寝返る可能性が十分ある?
私には、日本が「二つの誤り」を冒しているように思えてならない。
一つは、「中国軽視」である。これは、「時代の変化への軽視」と言い換えてもよい。
安倍首相や麻生財務相は、日本が加盟申請しない理由として、「ガバナンス(運営の仕組み)と透明性が確保されていない」ことを挙げている。
実は同じことが、日中間のビジネスの現場でも、頻繁に起こっている。私は2012年まで3年間北京に住み、日中ビジネスの世界に身を置いてきたが、日中間の齟齬の連続だった。
中国企業C社が、日本企業J社に、あるビジネスの提携話を持ちかける。J社はC社が持ってきた「企画書」を見て、「ガバナンスと透明性が確保されていない」と言って突き返す。C社は、「まず両社で提携してビジネスを始め、その中で足りないところを補完していこう」と申し出る。「走りながら考える」のが中国人だからだ(一般にアジアはこのタイプの国が多く、「細部まで考えてから走り出す」のは日本くらいだ)。
だがJ社は、「ガバナンスと透明性が確保されていない契約書にサインはできない」の一点張りだ。かつJ社では、社内会議を開くたびに、悲観論に傾いていく。こんなリスクがある、あんなリスクもあるという意見が飛び交ううちに、責任を取る人がいなくなって、「ではしばらく様子を見よう」という結論になるからだ。
こうした日中間の押し引きをやっているうちに、C社はどうするか。J社に代わる他国の同様の提携相手を探し始めるのである。それは韓国のK社だったり、EUのE社だったりする。K社はJ社ほどの技術と経験がないが、すぐにサインすると言う。E社も投資額こそ少ないものの、乗り気である。こうして、C社、K社、E社で事業が動き出すというわけだ。
いざ提携事業が始まってみると、C社の潤沢な資金力にモノを言わせて、意外に成功しそうな勢いだ。そこで、今度は日本のJ社の方から、「わが社も加わってもいいよ」と持ちかける。
その時である。J社としては、しばらく前に自社にラブコールを送ってくれたC社であり、担当者も代わっていないことから、以前の淡い姿を思い浮かべている。ところが、1年前のペコペコしていたC社と、K社やE社との提携で自信を持ち始めたいまのC社は、まったくの「別人格」なのである。以前は、「社長職を譲る」「持ち株の49%を保有させる」などと甘言を尽くしていたC社は、いまやけんもほろろの態度でJ社に接してくるのである。
こうした交渉の綾を、外交交渉だろうがビジネスだろうが変わることはなく、パチンコのように、ある時突然、全開する。その時に一気呵成に交渉を成立させれば、こちらに信じられないような利益をもたらしてくれる。ところがモタモタしていると、すぐにフタは閉じてしまい、あとはどんなに球を打ち込もうが、絶対に穴には入らないというわけだ。
この「パチンコ理論」を今回のAIIBを巡る議論に当てはめてみよう。4月14日付『日本経済新聞』の「幻の日本人副総裁」と題した特集記事によれば、3月22日、AIIB初代総裁に就く予定の金立群・元ADB(アジア開発銀行)副総裁は、ADBの中尾武彦総裁と面会した際、「日本が創設メンバーに入ってくれれば、筆頭格の副総裁、そして日本単独の理事ポストを用意する」と申し出ていたという。
だが日本政府は、この申し出を蹴ってしまった。4月1日には、いまや「EUの中国応援団長」と化しているドイツのメルケル首相が、わざわざ安倍首相に電話をかけてきて、「AIIBの始動はもう止められないのだから、日本はEUと足並みを揃えるべきだ」と説得を試みた。さらに4月14日に、北京を訪問中の河野洋平元衆院議長と会談した李克強首相は、「ある国が他の国を呑み込むことはない」「後から参加した国が発言権を得られないわけではない」などと、参加を誘った。それでも安倍政権は、首を縦に振らないのである。そのうち中国の態度が豹変するのは、目に見えている。
安倍政権がこれほど強気なのは、「同盟国のアメリカがAIIBに懐疑的だから」という二つ目の理由に行き着く。そしてこれこそが、二つ目の誤謬に思えてならない。
いまのオバマ政権は、「アジアのことは中国と決める」という認識を顕著にした初めてのアメリカの政権であろう。安倍首相との首脳会談は1時間でも、習近平主席とは1泊2日で8時間以上も話すのである。中国から見ても、中日関係よりも中米関係の方が良好なのである。
日米中の3ヵ国関係を考える時、「3つの視点」が重要になってくる。まず、どの国でも最も強硬な軍は、日米vs中の構図である。ところがビジネスに直結した商務、財務の領域では、日米関係よりも米中関係の方がむしろ緊密だ。それは3ヵ国の貿易額や、アメリカ高官の中国訪問の頻度と日本訪問の頻度の差を見れば明らかだ。そしてちょうど中間に位置するのが外務の領域だが、いまのアメリカ国務省は日本よりも中国にシフトしている。
つまり、アメリカは一夜にして、中国に寝返る可能性が十分あると考えるべきなのである。アメリカは冷戦時代の真っ只中でさえ、日本の頭越しに大統領が中国を電撃訪問し、「ニクソンショック」と言われたほどだ。70年前に終決した太平洋戦争も、すべては「中国利権を巡る日米の争い」だった。
2015年は「オバマショック」を予期しておかねばならないだろう。いまのオバマ大統領と安倍首相との間に、そうならないだけの信頼関係があるとは、とても思えない。その意味で、安倍首相は月末に訪米するが、安倍外交がこれほど試される時はない。
日本国内で言えば本来、防衛省は対中強硬派、外務省もどちらかと言えば強硬派、だが財務省は対中穏健派だった。主にカネの流れから国際関係を見ている財務省は、中国の重要さを誰よりも認識しているからだ。
だが今回は、特に強硬にAIIB参加反対を唱えたのは、財務省だった。もっと正確に言えば、財務省の幹部たちだった。一部で取り沙汰されているように、「省益を国益に優先させた」のか、いずれ十分な検証が必要だろう。
AIIBは結果として、前述のように57ヵ国が賛同し、年末までに始動することになった。
後の歴史家は、「2015年を境に、『日本が牽引するアジア』から『中国が牽引するアジア』に変わった」と分析するかもしれない。これはどこから見ても、安倍政権の「外交敗北」である。
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