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[創論]市場のプロが見る新興国
中国の減速は意図的 エコノミスト ジム・オニール氏
新興国の経済が岐路にさしかかった。米利上げでマネーが流出する可能性がささやかれ、中国経済の減速も逆風になる。金融市場に精通する著名エコノミストのジム・オニール氏と、米投資会社ブラックストーン・グループの最高経営責任者(CEO)、スティーブン・シュワルツマン氏に聞いた。(聞き手は編集委員 梶原誠、ロンドン=小滝麻理子)
――中国の景気が減速し、ブラジルやロシアの経済も低迷しています。この3カ国にインドを加えたBRICsを軸とする新興国の時代は終わったのですか。
「初めに言っておきたいのは、すべての新興国を一緒に論じることにもはや意味がないということだ。BRICsのうちインドは2014年5月のモディ首相の就任後に成長が加速した。同国の国内総生産(GDP)は14年に7%以上増えた。ロシアやブラジルの経済と同列に扱うことはできない。過去10年間はこうした有力な新興国がほぼ同じタイミングで成長してきたが、これからは3つのカテゴリーに分けて考えるべきだ」
――どのような観点で分類するのでしょうか。
「1つ目は中国だ。同国の経済は世界で最も興味深く、重要だ。中国の減速を懸念する人は多いが、あくまでも意図的なスローダウンだ。これまでのペースで高成長が続けば、必要な資源の確保などが難しくなっていたかもしれない。経済を安定させるための調整とみる方がよい。実質成長率が7%に鈍化しても中国は毎年、世界のGDPを数兆ドル規模で押し上げ、とても大きな影響力を持つ。08年の金融危機を乗り越え、さらに成長した。中国の指導部は外国の専門家の懸念をよそに、うまくかじ取りをしている」
「2つ目のカテゴリーは資源が豊富で、従来は国際商品価格の上昇により潤っていた国々だ。ロシアのほか、ブラジルをはじめとする中南米やアフリカの諸国を指す。こうした国がいまでは商品価格の下落により苦戦を強いられているのは知っての通りだ」
「最後の3つ目は、構造改革を積極的に進める姿勢をみせているグループだ。インド、インドネシア、メキシコなどがあげられる。インドネシアは天然資源に恵まれるので2番目のカテゴリーにも入るが、その上にあぐらをかくことなく、燃料補助金の削減を含む構造改革を始めた。それぞれのカテゴリーに含まれる国の事情を踏まえ、将来性などを判断することが大事だ」
――ロシアやブラジルは成長軌道に復帰できますか。
「両国の経済はいずれも石油をはじめとする資源に依存しすぎた。今後は民間投資を促し、バランスのよい経済構造に仕立て直さなければならない。ただ、ブラジルに関しては、01年に私がBRICsという言葉を使い始めた時点でも、ほかの3カ国ほどの勢いはなかった。その後の成長率にもムラがみられた。これからも一定の期間、観察をしていく必要がある」
――BRICsからブラジルとロシアを除き、「IC」に改める考えはありますか。
「結論を出すのはまだ早い。仮に19年までブラジルとロシアが現状の低い成長を続けるようなことがあれば、私の過ちを認めようと思う」
――新興国への投資は戦略としてなお有効でしょうか。
「BRICsという概念は投資のためでなく、経済をとらえるためにつくった。これから10年ほどの間も、投資の基本はBRICs関連になると考える。米アップルの決算をみても、新興国の消費拡大が(企業活動に)大きな影響を与えるのは明らかだ」
「これから成長を期待できる新興国はメキシコ、インドネシア、ナイジェリア、トルコの4カ国だ。私は各国名の頭文字を結んで『MINT(ミント)』と呼んでいる。08年の金融危機の後、ナイジェリアは日本よりも世界経済拡大への貢献度が高い」
――国際通貨基金(IMF)は新興国を中心とした潜在成長率の低下を理由に世界経済見通しを抑え気味です。
「私はIMFの見通しには常に批判的だ。原油価格の下落は日本、英国、ドイツなど資源輸入国にとっては実質的に大きな減税効果がある。先進国の景気拡大は新興国にとっても追い風だ。私がIMFのチーフエコノミストなら、むしろ見通しを上方修正をする。各機関の世界経済に対する見通しは悲観的過ぎる」
――新興国が長期的に成長を続けるならば先進国にどのような影響を与えますか。
「これからの10年間はいろいろな面で米国と中国の地位の逆転がみられるだろう。足元の米経済には循環的な勢いがみられるが、構造的には期待されるほど強くない。米GDPの7割は個人消費で、貯蓄率の低さや純輸出額の伸び悩みなどの問題はさほど改善していない。新興国の台頭にともない、先進国も構造転換に努めなければならない」
Jim O’Neill 元米ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長。新興4カ国を頭文字から「BRICs」と命名。58歳。
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成長を支える中間層 米ブラックストーン・グループCEO スティーブン・シュワルツマン氏
――年内にも見込まれる米利上げを控え、新興国が身構えています。
「あまり心配はしていない。米国の引き締めは、市場が予測するより小幅で、かなりゆっくりとしたペースにとどまると見ているからだ」
「米連邦準備理事会(FRB)は利上げを急いで米国の成長が止まったり景気後退に陥ったりする可能性を恐れている。米国は超低金利政策を続けていたのに、成長は本来あるべき速度より遅い状況が続いてきた」
――中国経済の減速も新興国の成長に冷や水を浴びせています。
「悪影響は避けられないだろう。中国は、投資依存の経済からサービスや消費が主役の経済へという大きな転換を進めている。いわゆる『新常態(ニューノーマル)』への変化により、成長率は落ちるだろう。韓国など、中国への経済の依存度が高い国にとっては逆風で、我々も投資先を見つけるのが容易でない」
「それよりも世界にとり重要なことは、この構造変化によって中国経済がかつてのような勢いでは天然資源などを買わなくなるという点だ。中国に資源を輸出する国の成長力を損なうだろう。影響はカナダ、オーストラリアといった先進国のほか、ブラジルなど新興国にも及ぶ」
――中国経済の構造転換は順調に進むと思いますか。
「変化は一筋縄ではいかない。一時的には投資に再び依存するなど、行ったり来たりの局面もあるだろう。だが長期的な方向性は明確だ。改革が進めば、ゆっくりだが持続的な成長が可能になる」
「忘れてならないのは、たとえ成長率が6%台に減速しても世界第2位の経済大国としては極めて高い水準だという点だ。このスピードで『軟着陸』という表現を使うことにすら違和感を覚える」
「当社はいま中国で、ショッピングセンターや倉庫などの不動産に投資している。中国では中間層が拡大しているし、構造転換で消費も増えていくとみるからだ。住宅などの不動産市況は軟調だが、消費者向けサービスに関わる不動産の価値は高まるはずだ」
「仮に米国が大幅な利上げに踏み切り、中国が景気後退に陥れば新興国にも世界経済にも大きな衝撃をもたらすだろう。だが、そのシナリオが現実のものになる可能性は低い。米国でも中国でも、事態は緩やかに進行している。アジアで金融危機が相次いだ1990年代と比べれば、消費を支える中間層の拡大や教育水準の向上などを背景に、発展した新興国も多い」
――昨年のモディ政権の発足後、インドの改革に対する期待が高まっています。
「インドの前政権に対しては国民が不満を募らせていた。私も同じだ。政権交代は問題があったからこそ起きたのだ。モディ首相はメッセージが明確で政策の透明性も高い。官僚主義や経済の非効率性など乗り越えるべき課題が多く、1年で解決できるものではない。それでもインドは正しい方向に変わった」
「インドには投資家として強気でいる。私たちはすでにインド最大級のオフィスビルのオーナーだ。前政権の時代、投資マネーに見放された資産を割安に購入してきた。(政権交代で)局面が変わり巨額の投資に満足している」
――これから成長する新興国と苦戦する新興国を分ける条件は何でしょうか。
「最も早く露呈するのは石油に収入を依存する国とそうでない国との明暗だ。原油価格はピーク時から6割以上も下がった。逆境にある国の中では『緩衝材』があるかどうかで運命が分かれる。例えば長く続いた原油高の時代に得た資金だ。この巨額のお金を政府系ファンドのような形で蓄えてきた国がすぐ原油安の打撃を受けることはない」
「長期的にはリーダーの力量と政策で新興国の間で大きな差が生じる。南米のコロンビアは歴代大統領の政策も奏功し、過去25年間の大半でプラス成長を続け、年平均4%近く成長してきた。混乱が続いた隣国のベネズエラとは違う」
「(3月に亡くなった)シンガポールのリー・クアンユー元首相の功績からは学ぶことが多い。東南アジアの貧しい小国を世界有数の豊かな国に発展させ、逆風を受けても伸びていけると証明したからだ。教育水準の高さ、豊かな貯蓄、変化を恐れない戦略的な計画のなせるわざに違いない。そしてリー氏は、多くの友人を世界に持っていた」
Stephen Schwarzman 1985年にブラックストーンを創業。3000億ドルを運用する世界屈指の投資会社に育てた。68歳。
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<聞き手から> 優勝劣敗の時代迎える
米金融緩和の終了はこれまでも新興国からの投資マネーの逆流を誘発し、新興国の経済が混乱する引き金になった。94年の利上げ後にメキシコ通貨危機が、97年の利上げの後はアジアやロシアの危機が続いた。今回は中国の減速という重荷ものしかかる。
市場における世界的なカリスマの2人は、そんな逆境の中でも成長するためのヒントを示した。オニール氏はインドネシアの改革を、シュワルツマン氏はインドの方向転換を前向きに評価している。
強いリーダーが、競争力を高める改革を断行し、その政策が見通しやすければ、少々の逆風にさらされてもマネーは逃げない。反対に、カネ余りの追い風に甘えて経済の底力を強める努力をしてこなかった国から順に、マネーは見切りをつけるはずだ。
オニール氏が新興国ブームのきっかけとなった「BRICs」という概念を発案したのは14年前にさかのぼる。米中という2つの大国による経済正常化の試みをきっかけに、新興国は優勝劣敗の時代を迎えつつある。
(梶原誠)
[日経新聞4月19日朝刊P.9]
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