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中国で苦戦する日本企業にありがちな過ち 「真の課題」が存在しているのはどこだ?
http://toyokeizai.net/articles/-/66069
2015年04月19日 フィリップ・ル、重本 憲吾 :アクセンチュア 東洋経済
日系日用品メーカーで務める架空の人物のフィクションのストーリーとともに、中国での再成長基盤の構築を模索する多くの日本企業への実践的な処方箋を提示する本連載。第2回は課題分析の視点を取り上げる。
第1話はこちら:日本企業は、なぜ中国で「踊り場」にあるのか
http://toyokeizai.net/articles/-/65915
(第1話のあらすじ……日系日用品メーカーA社に転じて5年目の沢木慶介(41)は、社長から突如「中国へ行き“ダンス”を止めて来い」との指示を受ける。中国事業は10数年来の成長曲線が止まり、売り上げ、シェアとも横ばい状態だった。さっそく中国へと飛んだ沢木。そこで、「張岳良」という男と出会う。彼を片腕として中国改革が始まる(記事中の図表はすべてアクセンチュア作成)。
「張くん、腹が減ったな……」
「沢木さん、もう少しで完成じゃないですか。もうひと頑張りしましょう。今日は杭州料理の名店を予約していますから」
今、沢木たちは上海近郊の「杭州」という街に来ている。世界遺産の西湖で有名な都市だが、観光には目もくれず、西湖を見下ろすクラシックホテルの会議室で丸2日間、合宿中である。課題の全体像を整理した上で、今後の実行計画を集中討議しようという腹である。
この1カ月、中国に根を張り、営業、財務など各分野の専門家をそろえるコンサルティング会社に依頼し、各拠点を回って業務ヒアリングとデータ調査を重ね、改めて第三者の目で課題を洗い出してもらった。もちろん、沢木や張たちも、すべての調査に同行し、自らの目と耳で課題の実相をつかもうとしてきた。
今回の調査では、ヒアリングの最後に、「3年後も会社に残りたいか?」「日本人駐在員のマネジメントスタイルについてどう思うか?」など、直接の業務とは関係ない、モチベーションやコミュニケーションに関するやや突っ込んだ質問もしてみた。
沢木の会社では、毎年、本社人事部主体で満足度調査は実施していたが、5段階評価のおざなりなものであって、この機会に社員の具体的な生の声を引き出して経営改善のヒントにしたいと考えた。
今回の合宿1日目で調査結果の報告があり、その報告を踏まえて張やコンサルタントを交え議論を繰り返した結果、ようやく課題の全体像が見えつつあった。
沢木は、バリューチェーン全体にわたって課題が網羅されたホワイトボードを、腕組みをしてしばらく眺めていた。
「まったく、想像以上にひどいな。ただし、2年間の期限までに解決して再び成長軌道に乗せなければ、おれはクビだ(笑)」
沢木は冗談めかして言ったが、半分本気だった。そのくらいの覚悟でやるつもりでないと、中国に飲み込まれてしまうだろう。(続く)
■課題分析の決め打ちは御法度
中国を再成長の軌道に乗せる場合、当然、課題分析から入ることになる。ただ、拙速な“決め打ち”はご法度だ。まずは現地現物で、主要拠点のあらゆる機能を調査することが必要となる。
「営業に問題があるから」と営業マンにヒアリングするというだけではなく、その前後の工程(開発、受注、物流、生産)や、営業オペレーションを下支えするバックオフィススタッフ(財務、人事、購買)にもヒアリングしたほうがいい。
というのは、真の課題は、部署と部署の間、プロセスとプロセスの間に存在することも多いからだ。
たとえば、本社で集中処理をしているはずの受注業務がうまくいかず、結局営業がエラー対応や顧客への説明などで忙殺された結果、店舗回りなどの本来の仕事にしわ寄せがきている、というケースなどがある。
ある意味、総合診断―ヘルスチェックをする感覚だ。ここで、心から信頼のおける中国人の存在が役に立つ。通訳を介していてはコミュニケーションのスピードも、理解の深さにも限界がある。自分と完全に考えやビジョンを共有できている仲間に、自分の目として口として、現場に入り込んで実態を探ってもらうのだ。
■効率的に課題を洗い出す
なお、内部のリソースが限られている場合、コンサルティング会社など外部を使ったほうが効率的なこともある。たとえばアクセンチュアでは、中国で業務調査(特にバックオフィス関連)を実施する場合、以下のフレームワークに基づいて効率的に課題を洗い出していく。
また、コンサルティング会社を使うことで、第三者の視点で、客観的に課題を指摘できることもひとつの価値がある。前任者否定につながったり、力関係上、営業の課題を強く言えなかったりなど、せっかく見つかった課題が矮小化されてしまうケースはゴマンとあるからだ。
さて、沢木たちは洗い出された課題を前に、何にどんな順番で取り組むことに決めたのか。引き続き議論を追ってみよう。
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沢木は赤色のマーカーを手に取り、コンサルタントの久保田に問いかけた。
「まずは“創って、作って、運んで、売る”というバリューチェーンを再構築することから始め、その後で、ヒト・モノ・カネといったリソースがうまく事業側に流れるバックオフィスの仕組みを整える、というのが常識的なアプローチですかね」
「そうですね。ただし、御社の場合は、先ほども課題として報告しましたが、直近で対応すべきテーマが2つあります……。“モノの流れの目詰まり”と、“カネの不正流出”です」
沢木は苦いものを飲み込んだような顔をした。
「いくらテレビCMなどで消費者の需要を開拓しても、欠品や過剰在庫など、中間流通に課題があり、市場にモノが出ていかないのでは売り上げにつながりません。また、今の貴社は、売り上げを伸ばしても、“穴の開いたバケツ”に売り上げを流しているようなもので、カネが不正にどんどん出て行ってしまい、利益が残らない状況です」
沢木はわかったというふうに手で制し、張のほうに向き直った。
「よし、では卸を巻き込んだサプライチェーン改革にまずはメスを入れよう。次は、カネのガバナンスだ」
言いながら沢木は、「物流」と「財務」のハコを、力強くマーカーでぐるぐると囲んだ。
その後3時間、再び議論を交わし、中国事業を再成長軌道に乗せるために何にどんな順番で取り組んでいくか、変革ステップを固めた。
最後の8番目に、「経営の現地化」を織り込んでいるのも沢木のポイントである。国には出していないが、この取り組みを通じて、2年後までに張を自分の後任候補にする、という強い覚悟があった。
沢木は課題と実行計画が整理されたホワイトボードの前に立って満足そうな表情を浮かべた。
「よし、まずは流通改革だな。来週から忙しくなるぞ。ではみなさん、その前にエネルギー補給といきましょうか」
1時間後、杭州の老舗レストラン「張生記」で名物料理の“東坡肉”(醤油と砂糖で味づけされた豚の角煮)に舌鼓を打つ沢木たちの姿があった。
――“戦場”に放り込まれた以上は、必ず“戦果”を上げて帰らなければならない。活路は、前だ。
沢木はよく冷えた青島ビールを喉に流し込みながら、静かに決意を固めていた。(次回に続く)
■物流やキャッシュが成長のボトルネックに
議論の中で、沢木たちは大変いいポイントに気づいた。物流(運び)やキャッシュが成長のボトルネックになっているケースは、新興国、特に中国ではよくある話だ。
日本と比べて代理商と呼ばれる卸の経営レベルが低く、また領収書の偽造なども簡単にできる国でもある。“穴の開いたバケツ”を修理しなくては、いくらよい商品を開発して営業マンを強化しても、意味がないことは明白だ。
また、カネだけではなく、モノ・ヒトも含めたバックオフィス(経営基盤)の再構築に取り組もうとしていることも評価できる。
@ 標準化・効率化・集約化を進め再成長局面での業務ボリュームの増加に手を打ちつつ、A リスク管理・ガバナンスを強化し、B 事業が求めるリソースを適時に供給できる仕組みを整える。
この3つに(先んじて)取り組んでこそ、ダンスが止まった後、継続的な収益の成長を実現できる礎が築かれる。
さらに、最終的な「経営の現地化」を改革アジェンダに組み込むことも重要なポイント。ローカルマーケットで永続的に勝っていくには、ローカル人材に経営を任せる状況にもっていくことが必要だ。口で言うのは簡単だが、ローカル人材が成長できる仕事を与える、権限委譲できる仕組みを作るなど、意識的に取り組まないと達成できないアジェンダでもある。
次回以降は、「ダンス」を止めようと中国市場で奮闘する沢木たちの活躍をストーリー仕立てで追いながら、中国での再成長基盤の構築を模索する多くの日本企業への実践的な処方箋を提示していくことにしよう。(第3話へ続く)
(使用イラスト:apichart / Imasia)
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