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格差大国・米国でも、これだけの困窮者支援がある
http://diamond.jp/articles/-/70282
2015年4月17日 みわよしこ [フリーランス・ライター] ダイヤモンド・オンライン
米国の貧困と格差の拡大は、日本以上に深刻だ。「自己責任の国」とされる米国では、公的扶助は「甘やかさず、就労へと圧力をかける」という目的のもと、少なくとも現金給付部分については、日本よりも低く抑えられていると理解されている。
しかし米国の福祉を考えるとき、民間セクターによる福祉を無視することはできない。大きな予算規模と組織力を持つこともある民間団体の数々が、公共の一部として、行政を補完する機能を果たしているからだ。
■ただの“物資配布センター”ではない 困窮者に尊厳と勇気を与えられる場
米国・サンノゼ市にある非営利団体「Sacred Heart」に設けられた食料品配布コーナーの様子。支援を受ける人々は、ショッピングのように品物を選択できる
Photo by Yoshiko Miwa
「おはよう、今日は何のために来たの? 何も心配することないわよ。スタッフは親切だし……」
60歳前後と思われる女性が、私ににこやかに話しかけた。女性は、空の大きなキャリーカートを押していた。2015年2月のある朝、午前8時40分ごろのことだ。
私は、米国・サンノゼ市中心街から3キロほど離れた場所にある非営利団体「Sacred Heart(聖なる心)」のコミュニティセンターの前にいた。センターが活動を開始するのは、午前9時。ドアの前には、既に50人ほどが行列していた。なお、キリスト教色の濃い団体名ではあるが、現在のSacred Heartには特定の宗教との関係はない。
私は、女性の好意に感謝し、「日本から来たジャーナリストなんです」と自己紹介した。女性は驚いた様子で、周囲の人々に「わざわざ日本から来たんだって!」と語った。周囲に、さまざまな肌の色の男女数名が集まってきた。一人ひとりに挨拶し、今日、このコミュニティセンターにやってきた理由を尋ねる。「食糧のため」「衣服のため」「仕事を探すため」とさまざまだ。
食料品・衣類の配布を受けに来た人々のカート。帰途は物品でいっぱいになる Photo by Y.M.
そうこうするうちに、行列の人数は増えていき、100人ほどになった。子ども15人、20代・30代が20人、40代・50代が15人、60代以上が50人、といった感じだ。全体の70〜80%は有色人種。現在も根強く残る米国の人種差別が、はっきりと目に見えてしまう。しかし、人々の表情は明るい。知り合いと、あるいは初対面の人々と、楽しげに談笑している。中には、暗い表情を浮かべて下を向いている人もいるけれども。
9時になった。センターのドアが開き、人々はセンターの中に入っていく。私も中に入った。もちろん、事前に取材アポイントメントは取っている。ディレクターのChad Harris氏に、センター内を案内してもらった。
衣類配布コーナー。女性向け衣類は数も種類も充実している Photo by Y.M.
困窮者に対し、統合された支援を提供するこのセンターでは、食料品や衣料類の配布も行われている。配布コーナーは、まるでスーパーマーケットや衣料店のようだ。棚やハンガーに、商品であるかのように、食料品や衣料類が並べられている。「カスタマー」と呼ばれる利用者たちは、品物を選び、カートやバスケットに入れていく。食料の90%は「セカンド・ハーベスト」から、10%は商店やレストランの「give」と「cleaning」を掛けた「gleaning」によって提供されている。衣料品は個人からの寄付が多い。「商業主義で買いすぎる衣服を、寄付して無駄にしないことは、良い解決」とHarris氏は言い、「男性はあまり衣服を買い過ぎないので、男性用衣料品が不足しがちなのが悩み」と苦笑する。
「配布される物品を、カスタマーが自分で尊厳をもって選べることが大切なんです。尊厳、仲間意識、尊敬を、私たちは大事にしています。たとえば食料の配布では、私たちは食料をカスタマーに渡し、カスタマーは私たちに希望を与えるという関係にあります」(Harris氏)
ショッピングと異なるのは、出口にレジのようなカウンターがあり、数量がチェックされることだ。たとえば衣料類には「1人1回あたり5点まで」という制限がある。靴・靴下・インナー・バッグも含めての「5点」であるから、決して多くはない。しかし、食料品は1ヵ月あたり最大6回・衣料品は1ヵ月あたり最大2回、配布を受けることができる。配布も含め、さまざまなサービスを受けるためにセンターを訪れる人々は、1日あたり平均で300〜400世帯ということだ。
Chad Harris氏。Sacred Heartでディレクターを務める Photo by Y.M.
「カスタマーがセンターをしばしば訪れることになる、という点が重要なのです。お互いに、相手を理解する機会が増えます。センターのスタッフや他のカスタマーとのつながりも、少しずつ強くなっていきます。カスタマーとしてセンターを利用しながら、ボランティアとしてセンターで働くようになる人々も、数多くいます」(Harris氏)
物品の配布、あるいは何らかのサービスの見返りとして、ボランティアとして働くことが要求されているわけではない。しかし、「あそこで働いている人たちは、みんなカスタマーでボランティアなんですよ」とHarris氏が示す一角には、笑顔を浮かべて生き生きした様子の人々がいる。物品の配布を受けるためにセンターに通っているカスタマーが、「自分もボランティアとして働ければ」と望むようになるのは、自然の成り行きかもしれない。
衣料品寄付コーナーの様子。人々が自動車に不要な衣料を積んで訪れては、左手のコンテナに衣料を入れて去っていく Photo by Y.M.
「パワーを持つために、ボランティア精神は大切です。労力の提供だけではなく、スキルを身につけ、必要とされる知識を習得し、人から人へとパワーを伝播させていくことで、『違い』を生み出していくことが重要なんです」(Harris氏)
配布コーナーだけで1日あたり10〜30名、全体では1日あたり50〜150名のボランティアスタッフの多くが、もともとは配布を受けるためにやってきた困窮者だったという事実は、それだけでカスタマーたちを勇気づけるだろう。
「パワーある存在にすること、エンパワメントとは、少しだけ『違い』を作っていくことの連続です」(Harris氏)
■親と子の貧困を同時に解決する教育プログラムとは?
冷蔵庫を持たない人のための基本食材詰め合わせ。内容は、米・パスタ・乾燥豆・野菜の缶詰 Photo by Y.M.
とはいっても、物品の配布を受けながらのボランティアから、職を得て経済的自立を実現できるまでの道のりは長い。
「食料の配布は、目の前の生活困窮の問題を、即座に解決します。さらに教育によって、その人がよりパワフルになり、職を得ることができるようになります」(Harris氏)
生活困窮状態に陥る人々は、充分な教育を受けていないことが多い。また、移民の場合には英語力の不足によって、就労が困難であることも多い。もちろん、欠けているものを教育によって補えば、求職も容易になるだろう。その教育を成功させるためには、どうすればよいのだろうか? 何らかの強制力が必要なのではないだろうか?
「いいえ。それぞれの家族と強い関係を持つことが、成功のカギです」(Harris氏)
就学前の子どもたちのためのコーナー。親に対する英語教育・子どもに対する幼稚園入園準備教育をセットにした教育コースも用意されている Photo by Y.M.
Sacred Heartが提供している教育プログラムは、対象年齢も内容も多岐にわたっている。その一つに、ラテン系移民の親と就学前の子どもを対象にした9ヵ月のコースがある。親は英語教育を、子どもは幼稚園入園に備えた教育を受けることができる。
「親が、子どものケアのための費用を負担することなく、英語を習得できるところがミソなんです」(Harris氏)
成人の職業訓練のためのコーナー。求職に必要なスキルを充分に身に付ける機会が用意されている Photo by Y.M.
Sacred Heartは、英語・スペイン語・中国語・ベトナム語の4ヵ国語に対応している。ベトナム人が多い理由は「分からない」ということだ。また、中国人のカスタマーは若干いるものの、韓国人・日本人は極めて少ないという。日本人が少ない理由を尋ねられたが、見当はつかなかった。同胞コミュニティの中で、相互の助け合いが行われているのかもしれない。
いずれにしても、子どもたちが学校に通うようになれば、学校生活のサポートも必要だ。Sacred Heartは「宿題クラブ」という放課後プログラムを開催している。米国では、小学生にあたる年齢の子どもを「子どもだけ」の状態にしておくと、ネグレクトとして親が処罰対象になる。生活のために働く必要がある親は、放課後の子どもの居場所を必要としている。
「それに、ここに来れば、パソコンも使えますからね。学校や教員によっては、パソコンが必要な宿題を出すこともありますから」(Harris氏)
子どもたちのためのコーナーの一角。小学生のための「宿題クラブ」の会場としても使用される。図書コーナーもある Photo by Y.M.
教育の重要性は分かっていても、低所得層の親たちはしばしば、自宅に充分な学習環境を作ることができない。親たちが少しでも収入を増やそうと悪戦苦闘する間にも、子どもたちは成長していく。親や家庭の状況がどうであれ、子どもたちに充分な「育ち」「学び」の機会を提供することは、公共または公共に準じる力をもつ共同体が行うしかない。
もちろん、教育の機会は、成人に対しても提供されている。会計やパソコンのスキルを学び、資格を身につけ、魅力的な履歴書を作成し、面接に臨むまでの就労支援の道のりが用意されている。
「パワフルな、安定した就労が出来るようになることが重要です」(Harris氏)
どこまでも、キーワードは「エンパワメント」なのだ。
■素晴らしい民間支援があっても解決できない米国の貧困問題
Sacred Heart Community Serviceの建物全景。周辺にはベンチも用意され、落ち着ける雰囲気が醸しだされている Photo by Y.M.
それでも「政府は、人々をエンパワメントすることを好んでいないんです」と、Harris氏は言う。
1964年、近隣の困窮者を支援する目的で個人が創設したSacred Heartは、現在、概ね20億円の年間予算規模で活動するNPOとなっている。収入のうち60%は寄付、35%は政府からの助成だ。米国の現在が、低賃金労働にしか就けない人々と格差の存在によって支えられていることは、広く知られた事実でもある。
「でも私たちには、資金を使う自由があります。私たちがヴィジョンを示して、資金を得て、事業を展開することによって、政府は人々にパワーを与えることになります」(Harris氏)
人々の「エンパワメント」によって地域に貢献し続けているSacred Heartと地域行政の関係は良好だ。また、他のNGO・NPOとの間にも、密接な協力関係がある。いささか思惑と異なろうが、政府も価値は認めざるを得ないところであろう。
困窮者に対する幅広い支援を展開するSacred Heartは、食・衣・教育・就労だけではなく、もちろん住に関する支援も行っている。住居を失う可能性のある人々への家賃助成・居住の安定に関する助成の他、光熱費助成・住居の補修に関する助成を、公的制度の利用支援も含めて行っている。
しかし、いったん住居を失ってホームレス状態になると、再び安定した居住を確保することは難しいそうだ。背景には、ニューヨーク市同等にまで高騰した、サンノゼ市の居住コストがある。もちろん、Sacred Heartは、路上生活者に対しても、食料・シャワーと着替えの提供・居住のための支援を行っている。郡全体で7000人と言われる路上生活者を「少し、減らすことはできていると思う」とHarris氏は言うが、
「私たちの使命は、希望と機会と行動を作り出すことによって、貧困から自由なコミュニティを構築することです」
というSacred Heartのミッションの実現を妨げるものは、数多い。
2時間ほどの訪問を終えた後、私は、すぐ近くのハンバーガーショップで昼食を摂りながら、溜め息をついていた。Sacred Heartの現在のあり方と到達点は、掛け値なく素晴らしい。しかし、それでも解決できない問題の深刻さに働きかける手段は何もないのだろうか?素晴らしさと深刻さの両方に、溜め息が漏れてしまう。
そんな私に、20代と思われる一人の男性が、声をかけてきた。朝、行列していた一人だった。男性は、
「わざわざ日本から、僕たちを気にかけて、見に来てくれて、ありがとう。これ、さっき、あそこでもらったバッグ。あげるよ」
と言う。自分が気に入って使いたかったであろうそのバッグを、気持ちとともに、ありがたく頂いた。生涯、大切にしたい。
次回は、日本・大阪で路上生活者に対する多様な支援活動を展開する団体「ホームドア」代表・川口加奈氏へのインタビューだ。2015年3月、「Googleインパクトチャレンジ」で、グランプリと5000万円の助成金を射止めたホームドアは、生活困窮者支援と自分たちの「これから」をどう考えているのだろうか?
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