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[真相深層]脱農協、北の国から
高値の牛乳、一部で値下げ 本州へ安値で「越境」
明治や森永乳業など大手乳業の牛乳値上げが相次いでいる。円安による飼料の値上げなどで原料乳(生乳)が値上がりしているためだ。そんな中、東北や中部地方では逆に製品を値下げする中堅メーカーが出てきた。背景には酪農王国、北海道の生産者の脱農協と本州進出の動きがある。
大手は値上げ
「今春から売り出す牛乳は価格を下げられる」。山形県天童市の乳業会社、富士乳業の東海林恵社長は自信を示す。中部地方でも1パック2円以上値下げし関西向けに出荷を始めた業者がある。大手乳業はここ数年、値上げを繰り返し、今春も牛乳などを2〜8%程値上げしている。2社が値下げできるのは、低コストの北海道産の生乳を農協系の組織を通さず安く仕入れるためだ。
生乳の集荷・販売のほとんどは農協をベースに全国10地域にある「指定団体」が一括して担ってきた。農林水産省が主導してつくった仕組みで、日本の酪農を1960年代から支えてきた。全国の生乳シェアの半分以上を占めるのが北海道産で、指定団体は北海道産が本州に流れ込むのを防ぐ役割も果たしてきた。
生乳の流通は指定団体を通じて用途別にコントロールされている。北海道産の多くはチーズやバターなどの加工用に回り、本州以南は牛乳用がほとんど。加工用は牛乳用より買い取り価格が安く北海道の酪農家の収入は抑えられる。その代わり国から補助金が出る。
しかし飼料高などで生産コストが上昇し、生乳を値上げしても採算悪化に歯止めがかからない。最近は体力のある北海道の大規模酪農家でさえ、収益の出る販路を開拓する必要に迫られている。
昨年4月、北海道幕別町の田口畜産は指定団体であるホクレン農業協同組合連合会(札幌市)への出荷をやめた。田口畜産は乳牛約600頭を飼う大規模酪農家だ。代わりに既存団体からは「アウトサイダー」と呼ばれる本州の卸会社に販売を切り替えた。タンクローリーが庭先で集荷した生乳は本州の乳業会社に直接運ばれ牛乳になる。田口広之社長は「農協に出荷するより手取りが1割以上増えた」と話す。
流通制度に不満
田口畜産が取引を始めた生乳卸のMMJ(ミルクマーケットジャパン、群馬県伊勢崎市)は農協を通さずに酪農家と乳業メーカーをつなぐ全国的なネットワークづくりを進めている。現在は全国の約30の酪農家から生乳を買っており、北海道では田口畜産に続き帯広市などの酪農家も加わった。伊勢崎市には同様の取引を手掛けるラクテックスもある。
「越境」販売は過去にも生乳が余った局面でおこり「南北戦争」などと呼ばれることもあった。供給過剰の解消に伴い騒ぎも収まったが今回は一時的な流入で終わらない可能性がある。酪農家の経営環境は厳しく、指定団体を通じた流通制度への不満がたまってきているためだ。
指定団体との取引は全量を無条件で委託するのが原則で酪農家は販売などに口を出せない。指定団体は売り先の乳業会社に出資しているケースもあり「酪農家の利益になる交渉ができるとは思えない」(北海道の酪農家)との声もあがる。
北海道産の流入は「乳業メーカーにも酪農家にも脅威だ」(本州の指定団体)。東京大学大学院の本間正義教授は、対抗するには「付加価値の高い独自製品の販売や、日本産乳製品の評価が高いアジア市場の開拓などが必要になるだろう」という。
例えば岩手県岩泉町で「なかほら牧場」を営む中洞正氏は、独自に高級牛乳を生産・販売しブランド化を図っている。一般的な乳牛よりもコクのある乳を出すジャージー牛などを飼育。輸入飼料を使わず山地で放牧して育てている。牛乳は1本千円程度だが、東京の百貨店などで人気だ。
酪農の衰退に歯止めはかからず2014年度の全国の生乳生産量は90年代のピーク時から15%減り730万トン程度になりそうだ。環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉次第では、輸入品の流入もありうる。農水省でも指定団体の制度を見直し「全量委託」の条件を今春から緩和した。農協を中心にした地域すみ分けの仕組みに、ほころびがみえ始める中、酪農家は選択を迫られている。
(吉野浩一郎)
[日経新聞4月11日朝刊P.2]
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