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現地法人の地域別分布比率の推移
製造業の「国内回帰」:注目集めるが、動きは限定的――最適地生産の流れは変わらず
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150415-00010000-nipponcom-soci
nippon.com 4月15日(水)15時59分配信
最近の円安などを背景に、日本の製造業が海外の生産拠点を国内に戻す動きが見られる。しかし、大手企業が進めてきたグローバルな事業展開が方向転換する動きと見るのは早計だ。
■パナソニックやキヤノン、ホンダも
2015年の年明け以降、大手電機メーカーなどが海外で生産している製品の一部を国内に移す動きが明らかになった。 報道された事例を見ると、パナソニックは今春以降、エアコンや洗濯機など日本で販売する家電製品の一部を国内生産に切り替える方針である。シャープも昨年12月から、中国で生産していた家庭向けの空気清浄機や冷蔵庫の一部を国内工場に戻すための試験生産を始めた。
さらにキヤノンも今後3年以内をメドに、国内の生産比率を現行の4割程度から6割程度まで引き上げる計画。自動車業界でもホンダがベトナム工場で生産し国内販売する原付きバイクの一部を今年中に国内生産に切り替えるなど、同様な動きが続いている。
■円安・賃金上昇で国内とコスト差縮小
こうした動きを後押ししているのは、最近の円安と海外 生産コストの上昇だ。アベノミクスで急速な円安が進み、現在では1ドル=120円程度の円安になった。例えば、円は人民元に対し、この2年間で約30%価値が下がった。加えて、中国など新興国の経済成長で人件費も上昇している。 中国からの訪日観光客が日本製品を“爆買い”するのも相対的な日本の物価安が背景にある。
円安は国内生産品の輸出競争力を高め、逆に海外生産品の輸入コストを押し上げる。 海外生産品を日本に逆輸入しても割高になるため、国内生産に切り替えたほうが有利になるケースが出てくる。経済のグローバル化への流れは変わらないが、日本企業にとって円高→円安、新興国の賃金上昇などにより、海外事業環境が変化してきたのである。このため、穏当な形で生産拠点の国内回帰を検討するところが出てきても不思議ではない。
ただこうした動きは、あくまで海外 生産の一部縮小。 「国内工場の稼働率のリバランスであり、余っている既存施設の利用に留まるところが大半。海外工場を閉鎖し国内に工場を新設するような動きにはならない」というのが専門家らの見方だ。事実、キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長やパナソニックの津賀一宏社長も、国内回帰の動きを認めつつも、「海外拠点からの撤退などありえない」と している。
■新興国市場の魅力は変わらず
急成長してきた中国経済は2015年度に7・0%へ減速する。さらに、中国内での人件費はさらに上昇する可能性は あるが、それでも13億人を抱える 市場の魅力は変わらない。自動車産業を見ても、今や年間2000万台を超える新車が売れる市場は、世界で中国以外どこにもない。日本勢の シェアは欧米企業に比べ劣勢だが、 巻き返しに各社とも全力を挙げ ている最中だ。
自動車産業の場合、部品の下請け企業などすそ野産業も広く、大手メーカーの生産拠点が動けばその影響は広範囲に及ぶ。特に中国については、成長率が鈍化し社会問題など他のリスクがあっても、13億人の超巨大市場を手放すわけにはいかない。トヨタ自動車の豊田章男社長は当然ながら「グローバルな生産と販売の体制を変更する予定は基本的にない」と明言している。自動車に限らず、他の業種でも基本認識に大差はない。
パナソニックやキヤノンが海外生産の一部を国内に移す検討をはじめたのは1年以上も前からという。今回の「国内回帰」とみられる動きは必ずしも円安により決断したわけではない。さらに、海外で人件費が上昇しても製品の製造コストに占める人件費比率は25%程度で、これらの費用は国内外でもそう変わらない。つまり、生産拠点を国内に戻しても人件費の抑効果は限定的である。むしろ、新製品の国内生産にこだわるキヤノンの御手洗 会長兼社長は、国内生産を人件費に影響されにくいロボット主体の無人工場で行う意向を示している。
■製造業の海外生産比率は過去最高
では日本企業全体で見ると、海外事業の現状はどうなのか。
経済産業省がまとめた2013年度の海外事業活動調査(2014年7月実施)によると、製造業の海外生産比率は国内全法人ベースで22・9%、また海外設備投資比率は29・4%で、ともに過去最高水準となっている 。製造業の設備投資額についても 前年度比21・8%増と、4年連続で増えている。業種別に見ると、自動車など輸送機械(前年度比34・6%増)、化学(同29・1%増)などが増加。地域別では北米(同33・0%増)、アジア(同9・6%増)で伸びている。
また、2013年度に進出先から撤退(解散・移転を含む)した現地法人数は554社(前年度比44社増)。このうち製造業は214社(同2社減)、非製造業は340社(同46社増)である。他方、2013年度に進出した現地法人を地域別に見ると、中国やASEAN諸国に進出した企業割合が上昇。欧州、北米に進出した企業割合が低下、NIEs3(韓国、台湾、香港)に進出した企業の割合は横ばい――という。
この調査結果から見ても、日本企業の海外事業展開は業種や企業により戦略的な進出・撤退の動きは見られるが、全体として引き続き拡大基調にあるといえる。経済のグローバル化が加速する中で、需要のある地域における「地産地消」は定着している。為替変動を受けず、相手国・地域の需要に即応した製品の開発・生産・販売が可能であり、現地雇用を増やすなど進出国経済への貢献度も大きいためだ。
■最適地生産の流れは不変か
こうした内外状況を踏まえると、円安の定着により日本向けの逆輸入を減らし、国内生産に切り替える動きが一部で続く可能性はある。しかし、それでも国内の遊休工場を再利用する範囲での生産移転にとどまり、大型の設備投資を伴う動きが広がるとは思えない。 市場に近い国で生産する「最適地生産」の基本方針は動かないだろう。
日本は人口減少、国内需要の低迷、産業の空洞化など多くの課題を抱えている。それだけに、大手企業の生産拠点が戻ってくるのは 朗報だが、本格的な「国内回帰」は現実的ではない。経済再生や地方創生に資するためには 国内に眠る潜在需要を掘り起こし、新たな事業分野を創造するなど 別の対応が求められる。
nippon.com別館、文・nippon.com編集部・原田 和義
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