http://www.asyura2.com/15/hasan95/msg/377.html
Tweet |
日本の貧困と格差(後篇) 「風俗でも抜け出せない『独身女性』の貧困地獄」
――亀山早苗(ノンフィクション作家)
「女性の活躍」をめざす安倍政権下で今、独身女性の多くが貧困状態にある。晩婚化が進み、離婚率も上昇。働きつづけなければならない女性は増えているが、正社員など夢のまた夢。AVや風俗に身を投じたとしても、赤貧から抜け出せないのが現実だというのだ。
●日本の貧困と格差(前篇) 「年金では生きていけない赤貧の現場」
●日本の貧困と格差(中篇) 「『貧困の連鎖』から抜け出せない『子どもたち』」
***
東京のとある下町。駅から3分の場所にある女性専用シェアハウス。エリコさん(33)=仮名=はここに住んでいる。現在、スーパーと弁当屋でアルバイトをかけ持ちしているが、月収は約11万円だ。
「ここは光熱費込みで家賃4万5000円。だからなんとか暮らしていけるんですけどね」
彼女の個室に案内された。いまどき珍しい3畳だ。座る場所にまごついていると、折りたたみマットレスの上を勧められる。小さなテーブルがひとつ。段ボールが5つほど重ねられ、小物や衣服はすべてそこにしまってある。
地方の高校から東京の大学へ。卒業後は正社員として就職。そこまではごく普通の人生だったが、
「上司のモラハラがひどかった。今だからモラハラだとわかるけど、当時は自分がいけないんだと思い続け、ストレスから胃腸炎になって血を吐いて……。仕事は続けられなかったですね」
3年で退職。だが実家には戻りたくなかった。子どものころ、継父から性的虐待を受けたことがあるからだ。継父は罪滅ぼしの思いからか、進学費用は出してくれたが、彼女は心の中で実家と縁を切っている。
「3カ月ほど失業保険をもらいながら療養し、元気になったので、いざ就職活動をと思って張り切ったけど、働く場所はなかった」
数カ月で30社あまりを受けたが採用されず、派遣会社に登録。正社員への道を模索しながら仕事をしていたものの、派遣切りが社会問題になった6年ほど前、彼女も仕事を失った。
「自分は生きる価値がないのかと落ち込みました。それからは派遣会社に登録するのが怖くなって、アルバイトをかけ持ちしています。30代も半ば近くなってこのままでいいのかと、常に不安と焦りがある」
シェアハウスには、人生を語り合える友人はいない。
「もう一度、正社員として働きたい。そのためのキャリアアップもしたいけど、今は余裕がない。マイナスのスパイラルに陥っていることはわかっています」
役所に相談に行ったこともある。もっと努力するように言われたそうだが、
「どうやって努力すればいいのか、もうわからない」
彼女は小さい声でそう言い、ため息をついた。
2012年の国税庁の調査によれば、女性の平均年収は268万円。一方、男性は502万円で、男女の賃金格差は驚くほど大きい。今なお、女性の労働は「家計の助け」としかとらえられていないのだろう。
だが、現実の社会では、晩婚化、非婚化が進むとともに、離婚率も上昇。女性も働きつづけなければ生きていけなくなっている。安倍内閣は「すべての女性が輝く社会づくり」を掲げている。しかし、収入が男性の半分しかなければ、女性が社会で活躍するとか、自立するとか、そんなことは不可能ではないか。
「小さな会社なので、年収は300万円に届きません。老後のためにとマンションを買ったけれど、手取り額が年々下がるので、ひたすら食費を切りつめてローンを支払っている。何のために働いているのか、わからなくなってきました」
独身のマホさん(40)=仮名=はそう嘆くが、正社員だからまだマシだ。日本の女性は非正規雇用で働く人の割合が54%と高く、男性の2倍以上に当たる。しかも、エリコさんのように一度「正社員」の道から外れると、二度と復帰できないケースも珍しくない。
したがって、働く世代の単身女性のほぼ5割が年収200万円以下。うち3割強の110万人は、114万円未満の貧困状態に置かれているというのだ。
NPO法人「ほっとプラス」代表理事で、社会福祉士の藤田孝典さんは言う。
「日本の貧困率が上がった要因は、1985年に労働者派遣法ができ、それがいろいろな業種に広がっていったせいだとする説があります。それ以外にも、家族の形態が変わったり崩壊したり、会社の福利厚生が減少したりと、いろいろな要因があると思います。いずれにしても、日本人の貧困化は、明らかに10年前より進んでいて、まったく歯止めがかかっていません。特に独身の若い女性は、企業でパワハラを受け、精神疾患にかかって退社し、そこから人生が変わってしまうことが多いですね」
■AVでも稼げない
かつて、AV(アダルトビデオ)業界が、貧困にあえぐ女性たちの受け皿になっている、と言われたことがある。だが、今やこの業界も厳しいと話すのは、モデルエージェンシー「ハスラー」社長のミュウさん。
「ここ数年、女優への応募は増えていますが、求められる容姿のレベルは年々上がっています。今では20代でも、『ちょっとかわいい』くらいじゃダメ。AVがだめならと風俗へ行っても、市場は同じなので、容姿がハイレベルでないと稼げません。人気のある子だって、AV1本に出演しても15万円くらいにしかなりませんから、仕事がコンスタントになければ食べていけません」
かつてはAVで当てれば、自分で店をもつことや事業を起こすことができたが、最近のギャラではとても無理なのだそうだ。
「AV女優のギャラが、1本2万円という話も聞きます。それでも仕事を受けてしまう子がいるから、どんどん価格破壊が生じているんです」(同)
だが、安いギャラを受け入れたとしても、20代も後半になると活躍するのはむずかしい。「若さ」と「美貌」を売りにしなければやっていけない業界では、年齢が大きなネックとなる。
AVがだめなら、最近増えている激安の性風俗はどうなのだろう。風俗産業は市場規模が5兆円、女性従業員(素人の援助交際は除く)が全国で約5万人にもおよぶと言われる。
そこに7年前のリーマンショック以降、格安店が激増した。たとえば、「ブス、デブ、ババア」と謳って業界を席巻したデリヘル「鶯谷デッドボール」。客のみならず、仕事を求める女性たちが今、足を運んでいる。
「総監督」と呼ばれるオーナーは36歳で脱サラ、少ない資金で開業できるデリヘルを6年前に始めた。この業界、女性を集めるのが大変だと“修業”した店で実感したが、大変なのは女性の“レベル”を保つことであって、「だったら応募者をみんな雇ってしまえ」という結論に。身分証明書さえあれば、よほどのことがない限り誰でも雇い、彼女たちの個性を売りにする。
「女性に稼いでもらいたいし、私も儲けたい。とにかく貧困に陥っている女性は多いですね。うちは待機所としてマンションを借りているのですが、行くところがなくて、そこに住み込んでいる女性も何人かいます。自立を促すのですが、一度貧困に陥ると、なかなか脱することができない。それは実感しています」
デリヘルでは初めて、へアメイクの専門家も雇っている。努力して自分を少しでもきれいに見せれば、客も多くつく可能性がある。
彼の案内で事務所へと足を運び、待機所に住み込んで1年余りのAさん(44)と顔を合わせた。体型は太めだが、ハーフかと思うほど彫りの深い顔立ちで、若い頃はさぞ美人だっただろうと想像できる。ただ、表情がどこか暗い。最初は口数が少なかったが、ふたりきりになると徐々に口を開いてくれた。
■モチベーションがない
関東某県で生まれた彼女は、10代後半で家出を繰り返し、19歳でできちゃった結婚。遠方へ移り住み、両親とは縁が切れた。
「子どもが生まれて親とも少し距離が近くなったけど、夫は仕事を転々として生活は苦しく、5年ともたずに離婚。ふたりの子は夫が手放さなくて、私は単身で関東に戻ってきました」
26歳で再婚し、それを両親に知らせると、「親でも子でもない」と電話を切られた。再婚相手は暴力がひどく、数年で別れた。30代前半で再々婚をするが、またもDVに苦しめられ、36歳で独身に戻る。
かつて女性にとって、結婚は生活するための術でもあった。「結婚が就職」と言われたゆえんだ。が、就職が終身雇用につながらなくなったのと同じように、結婚もまた終身続くとは限らない時代になっている。
彼女はそれ以来、昼は近所の工場で梱包作業、夜はお好み焼き屋で働いてきた。それでも、手取りはせいぜい16万円程度。家賃5万円を払ってつましい生活を送っていたが、1年半ほど前、膝を悪くして働けなくなった。貯金も数カ月で底をついた。
「仕事を探したけど見つからない。そんなとき、友だちがここを教えてくれたんです。誰でも雇ってくれるならと面接を受けたら、雇ってもらえて」
周りの女性たちに教わったり、客に教えてもらったりして技術を覚えた。お金がなかったから、仕事の内容に抵抗を覚える余裕すらなかったと言う。2時間かけて店へ通ったが、交通費はかかるし、夜遅くまで仕事もできない。そこで店に住み込むことにした。
「最初は月13万円くらい稼げていたけど、最近は6万円程度。ここにいると家賃も光熱費もかからないし、誰かしら食べ物を持って来てくれたりするので、がんばらなくても生きていけちゃうんですよね。総監督には先週も、思い切り説教されました。そんなに自分に甘いといつまでたっても自立できない、と。わかっているんです。貯金もないし、将来を考えると不安だらけ。だから、がんばらないといけないんだけど」
ぽつぽつと語り、ときに目を赤く潤ませる彼女の気持ちが、不安定な収入でなんとか暮らしているバツイチ独身の私には、手に取るようにわかった。彼女は親とは縁が切れたまま。最初の夫のもとに残してきた子どもたちも、行方がわからない。「がんばるモチベーション」がないのだ。
それでも彼女は、
「生活保護だけは受けたくなかった」
と言う。だからこそ、この風俗に流れ着き、自立を目指したはずだ。生きる気力を奮い立たせるためにも、小さくてもいいから目標設定をしてみようよと、私は彼女に、祈るような気持ちで話しかけた。
「今日で5日、お客さんがついてない」
そう言ったAさん、あれから、何か目標は見つかっただろうか。
同じデリヘルで働くBさん(42)はどうだろう。昼の仕事をしていたが、病気になって透析治療を余儀なくされた父親を送り迎えする必要が生じ、時間の自由が利くこの仕事に移ってきたという。だが、
「がんばって、ひと月に平均30万円近くは稼いでいるけど、家賃を払いながら父と生活していくのはラクではありません。私の体調が悪ければ、とたんに収入は激減するし、何の保証もありませんし」
客の指名が殺到するごく一部の「売れっ子」を除けば、今や思い切って風俗業界に身を投じても、貧困は解消しない。あるいは、業界に受け入れられたとしても、仕事を続けられないケースが多い。そこには別の問題も絡んでいる。
「貧困に陥っている独身女性の相談は増えていて、子どものころ親に虐待されたり、学校でいじめにあったりと、環境がよくなかった人が多い。全人的に認められた経験がないので、せっかく仕事に就けても、ちょっと優しくしてくれる男性が現れると貢いでしまったり、仕事を辞めてしまったりする。“毒親”という言葉が出てきて顕在化しましたが、親との関係が悪い人も驚くほど多いんです」(前出の藤田さん)
結局、育った家庭環境の影響から自由になれないのだ。こうして社会が階層化し、男性と出会えたとしても、同じような境遇の人ばかり。いつまでも貧困から抜け出せない。
■生真面目な人ほど
独り者の40代なら、まだ食べていけるかもしれない。だが、さらに年齢があがると、不安定な収入のまま、ひとりで親の介護まで担わなくてはいけない。
50歳になるユカリさん=仮名=は、派遣で働きながら、母親とふたりで都内に暮らしている。母が受給する年金は国民年金のみ、それも月に4万円程度だ。ユカリさんの月収と合わせても、17万円ほど。狭いアパートだが家賃は8万円。光熱費を払うと、ぎりぎりの生活で貯金もできない。
「80歳の母は最近、あちこちが痛いと言うようになったけど、医療費を考えると病院にも気軽には行けません。せつないです。私も持病を抱えているので、これ以上は働けない。これでいざ介護となったら、どうすればいいんだろうと、不安でたまらない。親子ふたりで心中するしかないかもしれません」
やはり、ユカリさんも生活保護は考えていない。不正受給が問題視される生活保護だが、多くの人は国に食べさせてもらおうなどとは思っていないのだ。つまり、生真面目な人ほど貧困から抜けられない。
都会、特に東京は家賃が高い。衣食は切りつめることができても、家賃はどうにもならない。
「先進国では、所得が低い層に家賃を補助したり、公営住宅を提供したりするのが当たり前です。でも日本は、低所得層に分配するシステムが、生活保護を除いて整っていない。政府が大きく政策の舵を切って格差を是正していかないと、大変なことになる。個人の努力でどうにかなる時期はとっくに過ぎています」
藤田さんの口調が熱い。
若い女性、離婚して独身に戻った女性、未婚のまま熟年を迎える女性――。日本では今、あらゆる立場の女性にとって、貧困が他人事ではなくなっている。女性の労働が「家計の助け」だという意識を改め、男女の賃金格差を解消する。女性が安心して継続的に働ける社会にシフトする。そのために経済的支援も惜しまないことだ。そうしてはじめて、「すべての女性が輝く社会」が実現できるはずだ。
3回にわたり、現代日本の貧困と格差について考えてきた。老年、子ども、女性。いずれの間でも社会の階層化と、貧困の固定化が進んでいた。また、昨日まで平穏無事な家庭生活を送っていた人が突然、貧困側に陥るケースも珍しくなかった。いったん貧困状態に陥ると、そこから抜け出るのは容易ではない。虐待やDVといった今日的な社会問題の多くも、実は、貧困と切り離せないことがわかった。今月から生活困窮者自立支援法が施行されるが、貧困問題の解決なくして、日本の社会の再生はない。そのことだけは明らかになったように思う。
http://www.gruri.jp/article/2015/04130800/
日本の貧困と格差(前篇) 「年金では生きていけない赤貧の現場」――亀山早苗(ノンフィクション作家)
コツコツと働けば定年後は年金で相応の暮らしが、というのは過去の話だ。年金は引き下げられ、医療費や介護保険料は上昇。ひとたび不慮の事態が発生すれば、赤貧状態に突入する。もはや誰にとっても他人事ではない貧困と格差の現状を、3回にわたり報告する。
●日本の貧困と格差(中篇) 「『貧困の連鎖』から抜け出せない『子どもたち』」
●日本の貧困と格差(後篇) 「風俗でも抜け出せない『独身女性』の貧困地獄」
***
支給された国民年金からアパートの家賃を支払うと、お金はほぼ残らない。ガスも電気も止められ、野草を食べたり、ホームレスの炊き出しに並んだり……。そんな生活をしている70代男性を民生委員が見つけ、NPO法人「ほっとプラス」の藤田孝典代表理事の元へ連れてきたことがある。
「誰かが見つけてくれれば、まだ救われる。でも、無年金、低年金の人はこうした状態に陥るケースが多いんです。それは今後、ますます増えていくと思います」
と藤田さん。国民年金を一生懸命払い続けても、老後に支給されるのは、月額6万円になるかどうか。とても暮らしてはいけない。
70代になって自営の店を廃業。貯金と夫婦ふたりの国民年金でなんとかやっていけると思いきや、アルツハイマー病を発症、妻や子どもたちとトラブルを起こして離婚し、生活保護をもらっていたが、ついにひとりでは暮らせなくなって特別養護老人ホームヘ――。
こんなケースも枚挙に遑(いとま)がないと藤田さんは言う。
厚生労働省が行った平成24年の「国民生活基礎調査」によると、高齢者世帯の5割以上が「生活が苦しい」と訴えている。自分は会社員だから関係ないと思っている読者諸氏も多いかもしれないが、決して他人事ではない。今日、いつ誰が「貧困層」に堕ちても不思議はないのだから。
老後破綻は大まかに言って3つのパターンに分かれる、と言うのは、経済ジャーナリストの岩崎博充さん。1つは前述のような無年金、低年金の人たち。ただ、当時の国民年金は「義務」ではなかった。老後の資金くらい自分で稼げると思っていた人も多い。
働きに働いたものの、バブルで人生が狂ってしまった男性がいる。坂巻孝雄さん(73)=仮名=だ。
サラリーマンになったことは、高校を出てから一度もない。百科事典や不動産の営業など、完全歩合制の仕事を転々とし、バブル期には月収が100万円近くあった。都内に購入した大きな一軒家は、近所でも有名な豪邸だったという。
「そのうえ、不動産に投資してさらに稼ぎたいと欲が出て、妻には内緒で、家を担保に銀行から5000万円を借りました。その当時は、自分の老後資金くらい自分で稼げると思っていたから、公的年金も払ってないし、ろくに貯金もしてなかったんですよ」
ところが、バブルは弾けた。以前ほどの収入は得られず、一方、銀行からの取り立ては厳しくなるばかり。坂巻さんはついに、借金の存在を妻に打ち明ける。それが3年前のことだ。
「離婚騒動にもなりました。それはなんとか免れましたが、家を売る決意をしました。そのときは自殺まで考えましたね。苦労して手に入れた家を売る衝撃と悲しみは、他人にはわかってもらえないと思います」
まだ1000万円の借金がある。今、坂巻さんは週6日、警備員のアルバイトをしている。収入は月16万円ほど、妻もパートで働いているため、なんとか暮らしている状態だ。ただ、年齢を考えると、いつまで働けるか……。
「老後破綻の2つめのパターンは、残った住宅ローンが払いきれなくなるケース。3つめは単身世帯のケースです。平成19年の『国民生活基礎調査』によると、65歳以上の女性全体における貧困率は28・1%。男性は22・9%です。ただし単身世帯にかぎると、女性は50%、男性でも40%が貧困層になるというデータがあるんです」(岩崎さん)
貧困率とは、国民を所得順に並べ、順位が真ん中の人の半分未満しか所得がない人の割合、すなわち「相対的貧困率」のこと。単身者の場合、平成24年のデータでは122万円未満になる。今、日本の相対的貧困率は、OECD加盟国の中で第2位。すでに日本は世界でも有数の格差大国で、それは、とりわけ高齢者の間で開く一方だというのだ。
■介護サービスも受けられず
千葉県在住の浅田容子さん(56)=仮名=の母、栄子さん(80)=同=も、夫の死後は厳しい生活を強いられた。夫は福岡で会社を経営していたが、17年前に突然死。長男が後を継いだものの、不景気のあおりを受けて倒産した。あとには数千万円の債務が残り、連帯保証人になっていた栄子さんと容子さんは、自己破産するしかなかった。
「その後は母を千葉に呼び寄せ、うちの近くにアパートを借りました。母も清掃の仕事をしていたけど、月に7万円稼ぐのがせいぜい。そのとき、まったく年金にも入っていないことを知りました。家賃が5万ですから、私が面倒を見るしかありません」(容子さん)
栄子さんは昨年、転倒して骨折。入院中に認知症も発症した。介護認定を受けたところ、要介護1。グループホームにも入れず、自宅で見るしかないという状態になっていた。
「夫は定年になって別の仕事をしていますが、うちも生活はかつかつ。お金がないのは本当にせつない。世の中、金持ちでないとじゅうぶんな介護さえ受けられないんだと、絶望的な気持ちになりました。病院に泣きついてソーシャルワーカーに話を聞いてもらったら、介護度認定見直しによって要介護2になって。さらにケアマネージャーを紹介してくれ、生活保護を申請するよう教えてもらいました。生活保護がおりれば、グループホームの費用もまかなえる。それを知って、ようやくほっとしました」
今、生活保護受給の報せと、グループホームが見つかるのを待っている。
「自宅で母の面倒を見ていますが、私も仕事があるので、ずっと一緒にはいられない。認知症を発症した母は人格も変わり、怒ってばかりいます。食事を用意して出かけると、『エサを食べさせられている』と文句を言うし。先日も、『いっそ殺してくれ』と言うので、『殺せるものなら殺したいわよ』と言い返して号泣してしまいました」
容子さんの目から涙がぼろぼろこぼれる。仕事に家事に介護。自分たちの生活だけで手一杯なのに、認知症の母の面倒を見なければならないつらさが伝わってくる。それでも、母をグループホームに入れるあてができただけ、まだマシなのかもしれない。
千葉県船橋市内の在宅介護支援センターでソーシャルワーカーをしている関山美子さんは、同様のケースが増えていると話す。
「国民年金をもらえたとしても、それだけでは生活保護以下の生活しかできません。そこから消費税や保険料を払わなくてはいけない。結果、介護サービスは、それを受けるべき状態の高齢者が受けられない。貯金を取り崩しながらつましい生活をしている高齢者は本当に多く、生活保護基準以下で暮らしている例も少なくありません。けれども、多くは『御上の世話になるわけにはいかない』『生活保護だけは受けたくない』と頑(かたく)なにおっしゃる。『誰にも迷惑をかけたくない』『貧しいのは自分の責任だ』という言葉を聞くと、とてもせつなくなります。私の立場では、お金がないために病院に行けず、介護サービスも受けられずに命を落とすくらいなら、生活保護を受けたほうがいいとしか言いようがありません」
■厚生年金をもらっていても
昔は経済が右肩上がりで、高齢者は医療費無料という時代もあった。いざというときには子どもたちが何とかしてくれた。だが、今は子どもたちも非正規雇用が増え、生活に余裕がない。長生きする親と、不安定な生活の子どもたち。そのうち老老介護となって共倒れになる恐れもある。
実際、高齢の母と娘が同居しているケースも増えている。娘は非正規で働きながら、体の弱ってきた母を支えるしかない。高野美穂さん(51)=仮名=が力なく口を開く。
「短大を出て就職したけど、20年前、過労で体調を崩して退職。結婚を考えていた彼ともうまくいかなくなって……。療養後、再就職しようとしましたが、不景気だったので、正社員にはなれなくて。それ以来、アルバイトでしか働いていません。今は80歳の母の国民年金と私のバイト代、合わせても20万にならない。そこから家賃を払うと、残りは11万あるかないか。光熱費や健康保険料、介護保険料を払うと、食べるのがやっとです。母も、今はまだ自分のことはできるけど、この先、病気になったらどうしたらいいのか……」
母親が病気になったりケガをしたりすれば、一気に生活は立ちゆかなくなってしまうだろう。美穂さんはときどき将来への不安に耐えきれなくなり、過呼吸に陥ることがあるそうだ。
では、厚生年金さえもらっていれば生活は安泰なのかといえば、そんなことはない。人生は「まさか」の連続だ。
都内在住の坂口亮一さん(69)=仮名=は、同い年の妻と息子(40)の3人暮らし。長女は結婚して北海道にいる。
高校卒業後、とあるメーカーに就職し、60歳の定年まで無事に勤め上げた。大手企業ではなかったから給料は高くなかったが、妻もパートで協力、ふたりの子は大学を出してやることができた。退職金は1000万円ほど。うち500万は自宅のローンの支払いに消えたが、やりくり上手の妻は800万ほど貯金をしておいてくれた。そして、坂口さんは定年後も関連会社で、嘱託として働いた。
「60代後半になったら年金も入ることだし、仕事は週に3日くらいにして、夫婦で旅行をしようと話していたんです」
だが、65歳になり、ようやく年金が入るようになると同時に、妻が倒れた。心筋梗塞だった。手術を3回もおこなって一命はとりとめたが、入院、転院を繰り返すことになる。
「妻が入っていた医療保険は給付額1日数千円と少なく、貯金を取り崩していくしかありませんでした。しかもその頃、結婚していた息子が離婚して、ひとりで出戻ってきたんです」
息子は自宅に帰ってくるや、仕事もやめ、ひきこもるようになった。坂口さんは妻の看病に忙しく、息子の様子にまで気が回らなかったという。
「そのうち仕事を探すだろう、今は疲れているのだろうからそっとしておこう、と思ったのが間違いでした。息子は養育費を払うと言いながら、働いてもいないから払えず、結局、私が払うしかなくなったのです」
妻が蓄えてくれた貯金は、みるみる減っていく。そのうち、家に置いてあったお金がなくなっているのに気づいた。息子である。坂口さんは、何度も息子に「仕事を探せ」「具合が悪いなら病院へ行け」と言ったが、息子はのらくらとしているだけだった。
「妻は今、リハビリ病院にいます。高額療養費制度などを利用していますが、それでも、あれこれ含めると月に6万円以上かかります。妻が倒れてからは年金だけの生活で、月に20万円になりません。息子が払うべき養育費が月に3万円。息子にせびられて1万、2万と渡すこともあります」
小さな声で、坂口さんは話し続けた。妻が倒れて4年で、彼自身4キロも痩せたという。食事は自炊しているが、妻の料理とはほど遠い。安い米を手に入れ、閉店間際のスーパーで安くなった総菜を買う。60代とは思えないほど皺の多い疲れた表情に胸が痛む。
■相談することもできない
「息子との諍(いさか)いも増えています。『そろそろ働いたらどうだ』と声をかけると、『仕事を探しに行くから金を貸してほしい』と言う。『ちゃんと探しているのか』と叱ると、のそっと私の前に立つんです。今にも殴られそうでね。警察にも相談しましたが、誰かに危害を加えたわけではないので、いかんともしがたいと……。こんな息子になってしまったのも、私たちのせいなんだと思います」
預貯金はすでに200万円を切っている。妻の病気が長引けば、坂口さんの生活が破綻するのは目に見えている状態だ。
「預金通帳を見るたびに心臓がどきどきするほど、不安でたまりません。妻は私が行かないと食事もとらない。少し認知症が入ってきているかもしれない、と医者に言われました。だけど、もう看病だけしてはいられない。元いた会社にすがりついて、半年前から関連会社で週3日、働かせてもらっています。月に7万円くらいにはなるのですが、それを知った息子にせびられて困っています」
坂口さんは大きなため息をつくと、「どうしてこんなことになってしまったのか」とつぶやいた。1000万円を超える貯金があったとしても、夫婦どちらかが大病をすれば、あっけなくなくなってしまうのが現実なのだ。
しかも、こういったケースでは、まだ生活が完全に破綻していないので、どこかに相談することさえできない。坂口さんも、妻が倒れてからは親戚づきあいをほとんどしていないし、病院の相談窓口に行ったこともないそうだ。
「他人に迷惑をかけたくないから」
今まで社会を支えてきた人たちが、そうやって社会と縁を絶つように孤立していく。彼の場合、息子のことも頭痛のたねだが、誰にも相談できていない。
厚労省が目安として発表している厚生年金の平均給付額は、約22万7000円。だが、総務省の調査によれば、高齢者世帯の消費支出の平均は約23万4500円にのぼる。最低限の消費支出に、年金がついていっていないのだ。
しかも、高齢になれば健康を損ねる確率も高くなるし、オレオレ詐欺にあったり、投資だと騙されて預貯金を預けてしまうケースも増えていると、前出の藤田さんは言う。厚生年金だけでは、不慮の事態にはとても対処できない。
河合克義・明治学院大学社会学部教授は、根本的には、年金制度の水準が低いことが高齢者の貧困を深刻化させていると言う。
「年金額が実質引き下げられていますし、国民健康保険や介護保険など、払わざるを得ない保険料が、生活をさらに圧迫している。それを支える家族も、ぎりぎりの生活をしていることが多い。貧困状態にある高齢者は他者との交流が少なく、生きがいをもっていないケースがよくあります。人間は、ただ生きるだけではなく、たまには旅行に行ったりコンサートに行ったりするような生活をすべきなんです。それが憲法に謳われている『健康で文化的な最低限度の生活』のはず。今は、その権利が崩れ去っていると思います」
高齢者の貧困問題は、まだまだ表層に出てきていない。しかし、ギリギリの生活に不安を抱えながら、黙って耐えている人が大勢いる。それは、明日のあなたの姿かもしれないのだ。
***
亀山早苗(かめやま・さなえ)
1960年、東京生まれ。明治大学を卒業後、フリーライターに。幅広く社会問題に取り組む中でも女性の恋愛や生活、性をテーマとした著作を数多く刊行。『女の残り時間』『救う男たち』など著書多数。
●日本の貧困と格差(中篇) 「『貧困の連鎖』から抜け出せない『子どもたち』」
●日本の貧困と格差(後篇) 「風俗でも抜け出せない『独身女性』の貧困地獄」
http://www.gruri.jp/article/2015/03300800/
日本の貧困と格差(中篇) 「『貧困の連鎖』から抜け出せない『子どもたち』」――亀山早苗(ノンフィクション作家)
これからの日本を担う子どもたちの6人に1人が貧困に喘いでいるという。元来、子どもの可能性は無限大のはずだが、貧しく教育への関心が低い家庭で育つと、学力も自己肯定感も低いままになる。そうして「連鎖」する貧困が今、日本の未来に暗い影を落とす。
●日本の貧困と格差(前篇) 「年金では生きていけない赤貧の現場」
●日本の貧困と格差(後篇) 「風俗でも抜け出せない『独身女性』の貧困地獄」
***
「週に2回しかお風呂に入っていない」
「ごはんは給食がメイン。夜は菓子パンひとつ」
「朝は食べない。夕飯はごはん1杯とふりかけだけ」
これが18歳未満の子どもたちの声だと信じられるだろうか。21世紀の今、あなたの隣で現実に起きている事態だと想像できるだろうか。日本は今、18歳未満の子どもの6人に1人が貧困だと言われているのだ。
「今日はごちそうが食べられるんだ」
ボランティアで子どもたちの勉強を見ているTさんに、中学1年のタダシ(13)=仮名=がそう言った。手には300円が握りしめられている。待ち合わせたファストフード店でハンバーガーとコーラを買い、うれしそうに食べ始めた。育ち盛りにそれだけでは足りないだろうと、Tさんが何かごちそうしてあげると言ったが、タダシは頑なに拒否。足りると言い張った。
彼は幼いころ両親が離婚。母方の祖母とふたりきりで、6畳1間の木造アパートに暮らしている。祖母の年金は6万円弱。アパート代は叔父が払っている。ときおり実母が送金してくるようだが、食べるのがやっとの生活だ。本人は詳細を話さないが、Tさんによれば、
「給食がいちばんの栄養源だから、実際、夏休みは少し痩せていましたね」
昼間は芝居の稽古、夜は居酒屋でアルバイトをしながら暮らすヨウコ(21)=仮名=もまた、父母が離婚し、母とふたりきりで貧しい生活を送ってきた。
「母は昼も夜も働いてましたね。夕飯はいつもコンビニで菓子パン買って食べてた。学校行事に母が来たことなんてない。私は学校でいつも『臭い』『汚い』といじめられてた。遠足のときだっておやつもなくて……、先生がおやつをくれたこともあったなあ」
それでも、育ててもらってありがたいと思わなくちゃいけないんだろうけどね、と笑う。実際には、夜中に男を引っ張り込んで喘いでいる母が嫌でしかたなかった、とつぶやいた。
悪い仲間とつるむようになり高校を中退、家出を繰り返した。夜中の繁華街をほっつき歩き、男とホテルへ行ったこともある。風呂に入れてごはんを食べさせてもらい、あげく小遣いをもらえるなら、「ウリ」も悪くないとさえ思った。家に戻っても貧しい暮らしが待っているだけだから……。
「私は小学校のころ、自殺願望がマックスだった」
そう言うのはヤスコ(23)=仮名=だ。父は遠方に単身赴任、母のもとに生活費は送られてこなかった。
「給食だけが頼りだった。家で夕飯を作ってもらったことがなく、お腹がすいて野草を食べていました。いちばんおいしいのはクローバーの茎。友だちの家に行くと、キャットフードやドッグフードも食べてた」
明るくそう話す彼女の顔を、私はまともに見ることができなかった。
日本で格差社会が広く認識されるようになったのは1990年代のこと。そして2006年、経済協力開発機構(OECD)が対日経済審査報告書で、日本の相対的貧困率がOECD諸国中、アメリカに次いで2位だと報告した。政府は09年、相対的貧困率について初めて大々的に発表し、このときの調査で、子どもの6人に1人が貧困状態にあると推測されたのである。
前回(日本の貧困と格差(前篇) 「年金では生きていけない赤貧の現場」)も書いたが、相対的貧困率とは、所得が国民の平均値の半分に満たない人の割合。12年の場合、2人世帯で可処分所得が173万円未満、4人世帯で244万円未満の世帯の子どもがそれに当たる。国立社会保障・人口問題研究所の社会保障応用分析研究部長である阿部彩さんは言う。
「大人の社会に格差が存在するなら、当然、子どもの間にも生じます。日本の子どもの貧困率は徐々に上昇していて16%になっている。この数値はOECD諸国の中でも高いことに加え、母子世帯の貧困率が突出して高く、特に母親が働いている母子世帯において高いと報告されたのです」
日本の母子家庭では、母親の8割以上が働いている。この数字もOECD諸国の中で突出して高い。つまり父親や国からの援助が少ないのだ。日本では子どもの貧困は、そのままシングルマザーの貧困なのだ。現在、シングルマザーは108万人いると言われ、その平均年収は223万円。ちなみにシングルファーザーは380万円。子どもがいる世帯全体の平均年収658万円に対し、シングルマザーのそれは約34%で、シングルファーザーは約58%(11年母子世帯等調査)。シングルファーザーの世帯も経済的に苦しいが、シングルマザーの苦境は察するにあまりある。
■DVが絡んでいる
もちろん、シングルマザーは以前からいるが、昔は今よりも、彼女たちを社会が支えていた。
「離婚した母親には、給食の調理員とか学校の用務員とかの仕事があったものです。社会がどんどん効率化され、そういう仕事がなくなってしまったんですね」(阿部さん)
バブル直後に離婚が増加したとき、シングルマザーを積極的に採用する企業もあった。理由は「シングルマザーのほうが若い女性より一生懸命に働くから」だった。以前はそういう立場の女性を応援する社会の許容度が、今より高かったと思われる。しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長の赤石千衣子さんも言う。
「シングルマザーの7割が、生活が苦しいと言っている。母子家庭の半数が貯金50万円以下という状態。年金や健康保険に未加入の人も1割います」
さらには、約8割が電気やガスを止められた経験があるというデータもあるが、どうしてそれほど生活が苦しくなるのか。親元へ帰ればいいじゃないか。我慢して離婚しなければよかったじゃないか。そう思った読者諸氏、実は、多くにDVが絡んでいるのだ。子どもがいて生活の見通しもたたないのに、単なる女性たちのわがままで離婚するケースは少数だといっていい。
北関東に住むヨリコさん(35)=仮名=は、26歳のとき2歳年上の男性と同棲。すぐに妊娠して結婚した。
「優しかった夫が、気に入らないことがあると目の前でモノを壊したりするようになったんです。私が友人と連絡をとるのも嫌がって、携帯電話のメモリを全部消されたことも。最初に暴力をふるわれたのは些細な口げんかからでしたが、その後、なし崩しに殴ったり蹴ったりするようになった。一度はお腹を蹴られて流産しかかりました」
彼女はある国家資格をもって働いていたが、流産の危機で入院。仕事も辞めざるを得なくなった。入院中に、夫が家にデリヘル嬢を連れ込んでいたこともわかったが、それでも「子どもが生まれれば変わってくれる」と信じていたという。
だが、息子が生まれても夫はまったく世話をしない。あげく借金が発覚。それでも夫のギャンブルや浮気は止まらない。同時に暴力は加速し、ヨリコさんは常に全身打撲の状態だった。
「子どもを検診に連れていったとき、困っていることはないかと役所の方に聞かれ、夫に暴力をふるわれると話したんです。そこでDVについて教わってやっと、それがいけないことだとわかりました。姑に相談しても『夫に暴力をふるわれるのは嫁がいけないから』と言われ、私の我慢が足りないんだと思っていた」
あとから、実は姑も舅から暴力をふるわれていたことを知った。それを見て育った夫は、女は力でねじ伏せればいいと思い込んでいたのだろう。
■貧困は連鎖する
その後、仕事を辞めて彼女を見張るようになった夫から、「殺してやる」などと脅され、ヨリコさんは心身ともに追いつめられていく。ついにある日、10カ月にもならない息子を抱いて逃げた。気づいて追ってきた夫に後ろから蹴られ、玄関に置いてあったバットが息子に振り下ろされそうになったとき、彼女は必死に息子に覆い被さった。そしてバランスを失った夫を突き飛ばし、息子を抱いて飛び出した。走りながら携帯で110番に通報し、目についた一軒家に走り込んでかくまってもらったのち、警察に保護される。
「全身の写真を撮られ、アザだらけで肋骨も2本折れていました。その日は友だちの家に泊めてもらい、翌日、シェルターに行きましたが、入ったとたん、ほっとして涙が出ました」
DVシェルターで2週間をすごし、隣県の実家におそるおそる戻ったが、両親はともに病気療養中。物心ともに頼るわけにはいかず、寮のある水商売へ。だが、DVの後遺症で、ものが壊れる音や男性の大きな声が聞こえると、耳鳴りや吐き気がひどくなる。フラッシュバックにも苦しみ、リストカットを繰り返した。
「接客することもできなくなり、困り果てて生活保護を受けたいと役所に伝えました。『資格もあるし、両親もいるから無理』と言われましたが、後日、友人が役所に付き添ってくれ、私の手首の傷を見せて、『自殺未遂を繰り返している彼女を見捨てるんですか』と」
こうして半年ほど生活保護を受給したのち、もとの国家資格を生かせる仕事に復帰。だが、心身の不調は続き、何度も仕事を辞めざるを得なかった。子どもに食事を作ることもままならず、ご飯と具のない味噌汁で数日しのいだことも。息子の成長が同じ年の子に比べて遅いと思い込み、自身を責め続け、摂食障害になった時期もあった。
子どもが4歳になったとき、とうとう彼女は児童相談所と話し合って息子を施設に預けた。まずは自分の心身を立て直すことにしたのだ。そしてこの春、ようやく子どもを引き取れるまでになった。
DVを受けた期間は1年でも、その後、立ち直るまでに7年近い月日を要している。その間に貧困は定着していく。だが、シングルマザーの貧困は、その世代だけではおさまらない。
学歴だけで人生は決まらないときれいごとを言っても、高校ぐらい出ていないと就職もできない。高校中退で正規職員になれないシングルマザーは教育費も捻出できず、子どももまた低学歴になる。
「その負の連鎖が怖い。しかも今、子どもを救わないと、経済的な損失が大きくなります。その子たちが大きくなったとき、きちんと税金を払えなければコストがかかるだけ。だから今、投資するべきなんです」(阿部さん)
■継続的に働ける社会を
実際、取材を進めてみると、親が貧困状態で教育に関心がない家庭では、子どもも勉強する習慣をもてないことが多い。
「私がそうでした」
と、アケミさん(25)=仮名=は言う。
「3歳のとき両親が離婚して、母と年子の妹の3人暮らし。父は気が向くとお金を送ってきたようですが、ぎりぎりの生活でした。なんとか食べることはできても、母は『女の子は勉強なんかしなくていい』と。地元の最低レベルの商業高校を卒業して、契約社員として大手企業に勤めました。すると周りの正社員は女性もみんな大卒。私は営業アシスタントの仕事だったけど、いつまでたっても仕事の内容がわからないし、周りの女性たちの話についていけない。いかに自分が勉強してこなかったかがわかった。それまでは同レベルの人たちとしか接してこなかったから、これでいいと思っていたんです」
母と同じような人生は送りたくないと一念発起。仕事をしながらひとりで受験勉強を重ね、ついに3年前、大学に合格した。
「これでやっと貧困の連鎖から抜けられる。やはり人間は、基本として知識がなければ、自分を変えることはできないんだと思う。環境を変えるきっかけがあったのは幸せでした」(同)
しかし、貧困家庭で育った、学力も自己肯定感も低い子どもたちの中で、アケミさんのように“貧困の連鎖”から抜け出ることができたケースは例外的だ。
子どもたちを貧困から救い出すもっとも簡単な方法は、経済的支援だが、教育支援もまた重要だ。ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんが言うように、「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペン、それで世界を変えられます。教育こそがただ一つの解決策」という面があるのかもしれない。
「公立の学校は高校まで無償化されたけど、それはあくまでも授業料だけ。制服、体操服、鞄、靴など、学校生活全般に意外と費用がかかるんです。母子家庭にはそれがきつい」
前出の赤石さんが言う。
シングルマザーたちの多くは、パソコンを買う余裕もないため、情報が行き届かないことも多い。
現在、就学援助の制度を使えば給食費が出るし、さまざまな団体が食料支援をしている。月に何度か子どもたちを招いて無料で食事をさせる「子ども食堂」の輪も広がっている。塾に行けない子どものための無料塾も、自治体ボランティアやNPO、あるいは完全に有志によるものなど、さまざまだ。しかし、こうした救済ネットの存在を知らない人もいる。
「そうした情報を知っている人は、ちょっとおせっかいでも、知らなそうなシングルマザーに知らせてあげてほしい。また、シングルマザー側も、助けが必要なら声を上げてほしい」
自身もシングルで子どもを育てた経験のある赤石さんが、切々と訴える。
「日本のシングルマザーの就労率は世界的に見ても非常に高い。年配の人たちは、ほんの少しでいいから温かい目を注いでください」
そこには、非正規社員として働く女性たちの現実も見える。就労率こそ高くても、契約社員として働きながら日給が時給になり、収入は右肩下がりになる。あるいは、派遣社員として働くものの、年を追って仕事がとれなくなる。
ある研究によると、社会経済的な階層の下位4分の1に属する子どもが、毎日3時間以上勉強して得られる学力は、上位4分の1に属してまったく勉強しない子どもの平均より低いという。こうして貧困の連鎖はやまない。
「本来は女性が継続的に働けて、賃金格差がない社会にならないといけない」
赤石さんがそう言うように、貧困家庭の就労状況を改善し、加えて経済支援をすることが、子どもの貧困率を下げるうえで欠かせない。だが、今の日本の財政状況で、どこまで可能だろうか。放置された貧困は連鎖しつづける。それが将来の日本に暗い影を落とすことだけは間違いない。
***
http://www.gruri.jp/article/2015/04060800/
風俗嬢として稼げるのはクラスで何番目にかわいい女の子までか――『日本の風俗嬢』(8)
日本の風俗嬢
中村淳彦 著
購入
AKB48のコンセプトは「クラスで5番目くらいにかわいい女の子」を集めたグループだという説があった(実際にはプロデューサーの秋元康氏は、「1番かわいくなくても、何か1番を持っている子を集めた」と語っているようで、別に「5番目」を集めたわけではないのだが)。AKBはともかくとして、最近のアイドルの中には、明らかに「クラスで1番」には見えない、かなり「普通の子」に近い容姿の持ち主もいるような観はある。
さて、それでは現在、競争が厳しいとされている風俗業界の場合、どのくらいの容姿の女性までが「就労可」なのだろうか。『日本の風俗嬢』(中村淳彦・著)には、「2014年版各種性風俗採用の難易度と給与」という表が掲載されている。
この表によると、クラスで1番かわいいくらいの女性ならば、「単体AV女優」になることも可能で、その場合のギャラは1本40万〜100万円。それよりも少し劣ると「企画単体AV女優」(1日12万〜25万)「高級デリバリーヘルス」(60分2万円以上)となる。
では、ごく普通のルックスの場合はどうか。
「一般的な見た目、無駄な肉のないカラダ、胸がBカップ〜Cカップという場合、就職できるのは、地方のファッションヘルスあたりです」(中村さん)
この場合は40分5000円くらいの収入となる。ちなみに、わざわざ「地方」と限定しているのは、都市部と採用基準やギャラが異なるからだ。
「時給5000円以上なら大もうけじゃないか」なんて思うのは早とちりというもの。実際には、ひっきりなしに客がつくわけではなく、また肉体的にもそうたくさん数をこなすこともできないので、このクラスの仕事となると、週4日勤務で月収は20万円台でもおかしくないのだ。
「風俗は荒稼ぎできる仕事」というのは、もはや幻想で、中村さんによれば1990年代までの話。その頃と比べると、現在風俗嬢の収入は半減しているという。
つまり、結論として、「ごくごく普通の子」でも風俗で働いて生活費くらいを稼ぐことは不可能ではない。が、決して濡れ手に粟とはいかないという厳しい現状なのである。
「まだまだ風俗は社会的に負の烙印をおされる仕事です。高収入を得られる見通しが立たないならば、風俗ではなく別の道を探すべきだと思う」と中村さんは語っている。
ハダカになっても稼げない「風俗嬢」の天国と地獄 リアルな月収を大公開!――『日本の風俗嬢』(1)
日本の風俗嬢
中村淳彦 著
購入
性風俗業界というと、金銭面で行き詰った女性が最後に駆け込む業界というイメージが強いかもしれない。しかし、最近は必ずしも誰もが「就職」できるわけでもなければ、ましてや「荒稼ぎ」できる商売ではない、と指摘するのは中村淳彦氏。
中村氏は性風俗やAV(アダルトビデオ)の業界を長年取材してきたフリーライター。新著、『日本の風俗嬢』(新潮新書)では、その蓄積を生かして現代日本の風俗業界を活写している。同書では、女性の「外見スペック」と収入との関連についても詳細に説明されており、興味深い。
■高級ソープで月収128万円
外見が良ければその分だけ高収入が期待できるのは、当然だろう。AVを除く風俗業で、もっとも高い収入を得られる可能性が高いのは、「高級ソープランド」勤務だという。
「ただし、就職するには、誰もが美人と思うくらいのルックスが必要です。
入浴料2万円、サービス料4万円で、サービス料がすべて収入になったとします。出勤日数が週4日としても、1日お客が二人つけば日給8万円。月収で128万円にはなります」(中村氏)
かなりの肉体労働なため、ある程度の休日はどうしても必要となる。同書によれば、同様の条件(週4日勤務)で計算した場合、「大衆ソープランド」で月収80万円、「店舗型イメクラ」ならば月収64万円くらいになるという。
■地方では月収20万円台
なんだ、やっぱり稼げるじゃないか、と考えるのは早計だ。ここまではあくまでも高収入とされる業態の話。
「ピンクサロンとなると、都市部の人気店であっても、そんなに稼げません。時給は2500円くらい。お客一人あたりの歩合給が500円としても、週4日勤務で月収は36万円くらい。
それでもまだ都市部はお客がいるからマシなほうです。
地方の格安デリヘルであれば、お客一人あたり8000円貰えるとしても、1日につくのは二人くらいだから、日給は1万6000円。週4日勤務ならば月収は25万6000円にしかなりません。
同様に、地方のピンサロだと月収20万円台でもおかしくないのです」
こうなると、あえてハダカになる意味があるのだろうか、という疑問がわいてくるのは当然だろう。中村氏は、「ある程度のルックスがあって稼げるのならばまだいいですが、そうでない場合、収入は一般の仕事と大差がなくなります。将来の結婚や病気、周囲にばれるなどのリスクを考えると、わざわざ性風俗で働くメリットはありません。別の道を探した方が賢明でしょう」と語っている。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150413-00010000-shincho-soci&p=4
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。