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アメリカ西海岸の港が世界経済を止める 年収1700万円の人々がケンタッキーとマクドナルドとホンダを止めた
2015年4月15日(水) 坂口 孝則
ロサンゼルス港など米西海岸の港湾労働交渉で輸出入に遅れが出た(写真:AP/アフロ)
米国西海岸の労使交渉。
米国の港で働いている人たちがストライキをして、その影響で日本への食品が滞ったあの事件か――。と、この程度の認識をもっている人ならば日本でも少なくない。しかし、そのストライキをした組合員の年収が1764万円だったと知ったら、印象がだいぶ異なるに違いない。
今回は、米国西海岸で起きた労使交渉問題について、その概要から、労使問題の終了後はどのように報じられているかなどを含めて、総括的に紹介したい。
2014年末から2015年初めにかけて、意外な伏兵が私たちの食生活にダメージを与えた。ケンタッキー・フライド・チキンやマクドナルドが商品の一部の販売を中止すると発表した。マクドナルドは2014年12月に、ケンタッキーは2015年1月に、おのおのの代表商品だったフライドポテトを調達上の問題から販売中止せざるを得なかったのだ(マクドナルドはM/Lサイズを中止し、Sサイズは継続した)。すかいらーくも影響を隠せなかった。
また米国からの輸入牛肉も影響を避けられず、国内価格が上昇した。前年同期比で牛は約10%、豚は約20%も輸入量が減ってしまったから、部位によって上昇率は1〜3割にも至った。米国産の豚肉を中心に取り扱うとんかつ店では、他国産に切り替えて味を変えるわけにいかなかった。よって通常以上の在庫を抱えたり、それでも足りない分は空輸したりして、コスト上昇を受容するほかなかった。ただ、そういったフランチャイズチェーンはなかなか短期間で調達品を切り替えられないものの、スーパーなどではオーストラリア産に切り替えたり、レストランでも他国産に移行したりして何とか乗り切った。
食品の問題ばかりが報じられたものの、問題は食品にとどまらなかった。ホンダは米国とカナダの工場で突如2.5万台を減産した。これらの工場では日本で生産した部品を輸入して、現地で組み立てるノックダウン方式をとっているが、日本から届くはずの部品が滞ってしまった。ホンダは港から鉄道ではなく、まだマシなトラックに切り替え奮闘したものの、影響を軽微にできなかった。日産自動車も被害を受けたのは同じで、海運があまりに遅延したため、空輸によってなんとかラインをつないだ。米国市場が好調すぎた富士重工業はどうしても減産できなかったため、エンジンを空輸し70億円もの追加コストを支払った。
雇用主と労働組合の果てしなき戦い
さてその時、何が生じていたのだろうか。人々が耳にしたのは、米国西海岸の労使交渉なる話題だった。
初めて他国のストライキの影響で商品が入ってこない経験をした人もいただろう。これはPMA(Pacific Maritime Association)と呼ばれる太平洋海事協会と、ILWU(International Long-shore and Warehouse Union)と呼ばれる国際港湾倉庫労働組合の対立が原因だった。この争議は実にシアトルをはじめとして29もの主要港が関係する。
この争議が長引くことで、要するに港で荷役(にやく)という、貨物を運搬したりピッキング・仕分けしたりする業務が止まってしまった。雇い主であるPMAは、人員を削減し、さらに人員給与を引き下げてグローバルな競争力を向上させたかった。一方のILWUは雇用確保と賃金維持・上昇を目指して一歩も引かなかったとみられる。2014年の5月から開始した両者の交渉は、7月に労働協約の満期を迎え、何とか例外的に協約を延長すると合意したものの、10〜11月頃からは協約のない異常事態が発生していた。PMAは米国調停和解局に仲裁を求めたが、望みかなわず泥沼化していった。オバマ大統領も介在し、トム・ペレス労働長官を派遣したものの、交渉の難航が続いた。
この騒動で初めてロックアウト(就労拒否)という言葉を知った人も多いと思うが、西海岸では荷役のスピードを極端に遅くしたり操作を意図的に非効率にしたりする、スローダウンが多用された。これら港が一斉に止まってしまえば、米国経済には1日当たり20億ドルもの影響が出ると試算される。しかし、労働者にとっては6年に1度の契約更新時期であり逸してはならぬ聖戦だった。
西海岸を使った航路は、アジアと米国を結ぶ大パイプだ。やむなく西海岸を使わないルートが模索されたものの、東海岸経由ではその分時間を要した。ジャスト・イン・タイムに間に合わない企業はやむなく空輸にするケースもあった。物流の世界で、単発的に切り替えることをスポット契約と呼ぶ。いま東海岸経由のスポット契約は高騰しており、前年同期比で50〜60%も上昇している。この数年間で最も高い水準だ。
年収1700万円から1900万円の労働戦士たち
西海岸では2015年2月20日に労使交渉が合意し、このまま締結に向かうとみられる。争議内容は秘密であるが、年間の給料を3%ほど引き上げたようだ。しかし、いくつかの港では労働組合が荷役作業をしばし止めている。西海岸のスポットは値下がりしているが、まだ客先からの信頼完全回復は見込めない。
この労働争議が終了した時に、市場が衝撃をもって迎えたのは、「組合員の平均年収は14万7000ドル」という一文だった。年収が多い組合員は、16万2000ドルに至る。平均年収は1ドル120円で計算すると1764万〜1944万円となる。それが3%も上がる。なお、これについては正確な記述がないため断言は避けるものの、湾岸関係業務は簡単な受け付けだけでも7万ドルはくだらないと噂されていた。
しかも、この停滞は荷送人に対して深刻なほど西海岸のイメージダウンをもたらした。ログインは必要であるものの、このページに、東海岸の貨物量に対して、西海岸のそれは右肩下がりになっている図がある。
自動化に対抗する湾岸労働者たち
こういった西海岸の労働争議は今に始まったことではない。契約更新の時期は常に風物詩ともいえる争いを重ねてきた。このところ激しかったのは2002年のことだ。同じく西海岸29の港で施設封鎖が決まり、約200隻もの貨物船が荷役作業できず大混乱をもたらした。ちなみにこの時にとばっちりを受けたのもホンダで、主要部品をやむなく空輸した。
この時に話題になったのも自動化だった。西海岸労働組合の発言力が高まったのは、アジア向けの貿易が拡大していたにもかかわらず、機械化がむしろ自分たちの雇用を減らすと懸念したからだった。ただ経営側からすると、高まり続ける労務費に対して、もはやコストを抑える手段は省人化と自動化しかなかった。しかし、とはいえ、一瞬で自動化できるはずもない。目の前の仕事を放棄されてしまえば、経営側としてもどうしようもない。労働争議の経済被害額は1日10億ドルとも20億ドルともいわれた。
ブッシュ大統領(当時)はタフトハートレー法に基づいて指揮権を発動した。このタフトハートレー法とは、米国の労働争議が経済に多大な影響を及ぼすと判断した場合にのみ、ストライキの一時停止の命令を許可するものだ。この動きにより、皮相的には解決したように見えたものの、実際には労組側は作業を“安全上の問題”からゆっくりとした作業を繰り返した。
当時の労働争議の影響は大きく、クリスマス商戦が始まった後も、小売店で販売される予定だった衣類等が海上にあったり、各家電量販店や玩具店の棚がガラガラになったりした。当時はスパイダーマンの等身大人形3000体が海上に取り残されたため、販促時期に間に合わず、その多くが捨てられた。その他、売り時期を逃すと全く売れなくなる“シーズンもの”の多くが弊履と化した。
一般的な教訓
この労働争議事件から得られる一般的な教訓は何だろうか。凡庸だが2つあるとすれば、調達先の多様化と、物流網の二重化となる。
マクドナルドがポテト調達に苦しんでいる時、私は某テレビ番組で状況を解説した。するとSNSを通じて、「馬鹿野郎。そんなに困っているなら、じゃがいもを店でむいて揚げろ」という意見があり笑った。
確かに、米国産ポテトのみに依存するのも問題だ。もちろん、ポテトに限らず、品質と味の均一化から、調達先の二重化はすぐには難しいかもしれない。ただ、米国と豪州、米国とアジアといったように、多様化することが重要だろう。
サプライチェーンの用語ではこれをダブルソースと呼ぶ。理想は平時から、調達先を二重化することだが、可能ならば緊急時にのみ調達できる相手を見つけておく方法もある。その際は、通常価格の倍以上で調達することになろうが、平時から二重化するよりもトータルコストは安価になる。
次に物流網の二重化だ。これも文字通り、同じ域内でモノを運ぶ複数ルートを用意しておくことだ。先ほどの米国西海岸の例でいえば、東海岸がそれに当たる。東海岸では皮肉なことに、自動化が進んでいる分、労使の深刻な争議は見られない。東海岸では遠隔操作できるクレーンや貨物管理を機械化していたのだ。
西海岸から東海岸に移せば、航路はより多くの時間がかかる。ただし、あらかじめ東海岸ルートを想定して全体日程を組むことは可能だろう。実際に、2002年にこの労働争議により中湾岸、東湾岸に移された貨物のうち10%は永久に移されたままで、西海岸に戻っては来なかったといわれる。さらには、2014年の労働争議のあと、多くの荷送人が東海岸等の代替策を検討している。
西海岸これから
この米国西海岸の労働争議が奇妙な後味を残す。やりすぎは別にしても、ストライキ自体は認められた行為だし、労働者の権利を向上するものだ。しかし、給与がもともとあまりに高かったり、自動化に反対し権利を声高に叫ぶあまり技術進歩が相対的に遅れていたりする。さらに諸国への影響は軽微なものではなかったし、また米国内にも輸入者は甚大な被害を被った人たちがたくさんいる。
グローバル時代にあって、海上物流が止まってしまうことは一国の被害には留まらず、影響は全世界に広がる。その中にあって必要以上のストライキは、ゆっくりと自国並びに自らの首も締めていく。
例えば生産がやっと戻った日本の工場で、同様の過激なストライキが起きたらどうだろう(これは比喩であり過激なストライキがたやすく起きないと分かっている)。目の前の事象だけ捉えれば、「代替される労働者」vs「機械」の構図となる。しかし、工場全体の技術革新遅れに伴い、いつの間にか客先からの生産量が減少していき、もともとの労働量さえ確保できなくなるかもしれない。
2019年には次の交渉が始まる。ILWUは伝統的に、契約満期のタイミングをもって、新しい契約を交渉するタイミングではげしい交渉を繰り返す。東海岸の労働者たちは、西海岸の混乱に乗じて、結果的に再び貨物量を増やすことになるのだろうか。
西海岸の労働組合は、その攻撃的な態度を変えてこなかった。それは、これまで米国が輸出大国としても輸入大国としても、西海岸を中心にしてきたからだ。労働組合の声がすぐさま小さくなることはないだろう。
労働組合、自動化、ストライキ、リスクヘッジ、調達遅延……どうも、ここには縮図としての労働問題が表出しているように思われる。
このコラムについて
目覚めよサプライチェーン
自動車業界では、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車。電機メーカーでは、ソニー、パナソニック、シャープ、東芝、三菱電機、日立製作所。これら企業が「The 日系企業」であり、「The ものづくり」の代表だった。それが、現在では、アップルやサムスン、フォックスコンなどが、ネオ製造業として台頭している。また、P&G、ウォルマート、ジョンソン・アンド・ジョンソンが製造業以上にすぐれたサプライチェーンを構築したり、IBM、ヒューレット・パッカードがBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を開始したりと、これまでのパラダイムを外れた事象が次々と出てきている。海外での先端の、「ものづくり」、「サプライチェーン」、そして製造業の将来はどう報じられているのか。本コラムでは、海外のニュースを紹介する。そして、著者が主領域とする調達・購買・サプライチェーン領域の知識も織り込みながら、日本メーカーへのヒントをお渡しする。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150414/279909/?
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