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人民元の利用は拡大している(写真:kikujungboy/PIXTA)
人民元はIMFのSDRに採用されるのか 国際化する人民元、「ドルへの挑戦」へ前進
http://toyokeizai.net/articles/-/66301
2015年04月15日 櫨 浩一 :ニッセイ基礎研究所 専務理事 東洋経済
SDR(Special Drawing Rights、特別引出権)は、1969年にIMF(国際通貨基金)が加盟国の外貨準備資産を補完する手段として創設した国際準備資産だ。SDRの価値は現在、ドル、ユーロ、ポンド、円の主要4通貨の加重平均(バスケット)で決められている。バスケットは通常、5年毎にIMF理事会で見直しが行われており、今年はその年にあたる。注目されているのは、通貨のバスケットの中に人民元が入るかどうかだが、10〜11月頃には結論が出るはずだ。
世界の貿易及び金融システムにおける通貨の相対的重要性を反映するように、SDRの通貨バスケットの構成は決められる。世界経済における中国経済の重要性が大きくなっているのは誰の目にも明らかだ。
世界のGDP(国内総生産)に占める各国のGDPの割合を見ると、1980年には中国は2.8%に過ぎず、アメリカの25.9%とは比較にならない規模だった。その後中国経済のシェアは1990年代後半から急速に拡大し、2010年には日本を抜いて世界第2位の経済大国になった。
IMFの予測では、2019年でもアメリカが21.8%を占めて第1位の経済大国の地位を維持するが、中国は15.3%とユーロ圏の15.4%にほぼ並ぶ見通しになっている。
■購買力平価ベースGDPではすでに中国は世界一
通常は、その年の実際の為替市場のレートを使って各国のGDPを比較するが、為替相場の変動により順位も大きく動いてしまう。中国の場合には人民元の為替レートを政府がコントロールしているので割安になっていると考えられている。こうした問題を考慮して、IMFは購買力平価(PPP)を使った経済規模の比較も発表している。
PPPを使った経済規模の比較では、アメリカと中国のシェアは2014年にはすでに逆転し、中国経済は16.5%とアメリカの16.3%を抜いて世界一となっている。これからFRB(米国連邦準備制度理事会)が利上げを行なってドル高が進む可能性が高いので、実際の市場の為替レートを使った比較では、中国経済はなかなか世界一にならないかも知れない。
購買力平価を使った場合には2019年には中国経済のシェアは18.7%となり、15.4%に留まるアメリカとの差は拡大していくという予測になっている。ニッセイ基礎研究所をはじめ、実際の為替市場のレートで換算しても2020年頃には中国の経済規模がアメリカ経済を上回ると予想している機関は、少なくない。
貿易の面では中国経済の重要性が拡大していることがより顕著だ。中国の輸出金額は2009年にはドイツやアメリカを上回って世界一になった。輸入金額でも、中国は2009年にはドイツを上回って世界第二位になり、2013年の輸入金額は1.9兆ドルに拡大して、アメリカの2.3兆ドルに迫る規模となっている。
■人民元のオフショアでの利用は拡大しつつある
経済規模や貿易面では中国の重要性が増したが、これに比べると国際金融市場での人民元の利用は進んでいないと言われることが多い。SWIFT(国際銀行間通信協会)の発表資料によれば、国際決済に使われる通貨の構成比率で、人民元は、米ドル、ユーロ、ポンド、円に次ぐ第5位を2014年11月から維持していたが、今年の2月には第7位に下がった。しかし、2月には春節の影響があったと見られる。2012年12月には第14位だったのだから人民元の利用は急速に拡大しており、ポンドや円を上回るのも時間の問題だろう。
人民元を使った金融取引には、中国の国内の金融システムに不安があることや、司法制度が信頼できないことなど様々な問題が指摘されている。また、為替レートの安定を維持するために、中国政府が人民元の国際的な取引の自由化を望まないという見方もある。
しかし、SWIFTの資料からは、人民元による国際決済は香港が約7割であり、香港以外の中国国外での利用が2013年2月の17%から2015年2月には25%へと高まっていて、オフショア市場での利用が拡大していることが分かる。中国は国内の規制を残したまま、オフショア市場での人民元の国際的な利用拡大をはかる方針だ。
BIS(国際決済銀行)の「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ」によると、世界の外国為替取引額は2013年4月の調査では1日で5兆3450億ドルに上る。貿易金額は年間で19兆ドル程度に過ぎない。貿易の決済需要は国際金融取引の中で重要でなく、対中貿易が拡大して世界一になっても国際金融の世界ではドルの圧倒的地位は変わらないと考えるかも知れない。しかし、貿易取引の拡大は人民元の国際金融取引を拡大する圧力として働いている。
中国との貿易取引を行うには、いやでも人民元で支払いをしたり、人民元を受け取ったりせざるを得なくなってくる。現在は、契約や支払いを米ドルで行う取引が中心だ。しかしこうした取引では、例えばドルと人民元、ドルと円という2回の外貨取引コストがかかる上に、為替レートの変動によるリスクも二重に発生する。
今後中国の輸入がさらに拡大すれば、人民元建ての貿易取引は拡大し、自国通貨と人民元との直接取引を拡大しようという動きはより強くなっていくだろう。中国と取引する企業は、自国通貨と人民元との間の為替レートの変動による損失を避けるためには、どうしてもある程度の人民元建ての資産・負債を保有することが必要になる。先行きの為替レートの変動に対するヘッジ取引の需要も増えていき、金融取引は重層化して急速に拡大していくだろう。
■「自由に取引できる通貨」であることが条件?
SDRの通貨バスケットに人民元が入ることに、どのような意味があるのだろうか?SDRの価値を決める通貨となるための条件は、「世界の貿易及び金融システムにおける通貨の相対的重要性」だけではなくて、自由利用通貨(Freely Usable Currency)であるという条件がある。
2010年11月に実施された前回の見直しでは、財・サービスの輸出額と他の国々が外貨準備として保有している額に基づいて構成比が決められた。人民元は貿易での利用などで重要性が高まっているものの、自由に取引できないという理由で採用が見送られた。
IMFが発表している外貨準備の通貨別構成でも、通貨の判明分の中では米ドルが6割以上でユーロが2割強、ポンドと円がそれぞれ4%程度、カナダ・ドルとオーストラリア・ドルがそれぞれ2%程度だ。ここには人民元の影も見えない。
インド中央銀行のラグラム・ラジャン総裁は、かつてIMFの調査局長だったことがあるが、著書の中で「・・・原理的にはこうした(人民元の)所有は、IMFによって(外貨)準備として見なされない、なぜなら人民元は交換可能な通貨ではないからだ。」(筆者の訳)と述べている(Fault Lines: How Hidden Fractures Still Threaten the World Economyp248、邦訳『フォールトライン』)。
人民元が各国政府や中央銀行に保有されていないのではなくて、各国は外貨資産としてある程度保有しているものの、世界の外貨準備残高の通貨構成の半分近くを占めている「不明」の中に含まれているか、そもそもIMFが発表している外貨準備残高の中に入っていないという可能性が高いと筆者は見ている。
これまでのルールでは、人民元がSDRのバスケットの中に入るということは、自由に取引できる通貨だと認められることと同義だ。人民元が突然外貨準備通貨として認められることになり、IMFが発表している外貨準備の通貨別構成の中で大きな比率を占めていることが分かる、という可能性もあるだろう。
■SDRに採用されることで重要性がより高まる
中国との間の貿易がさらに増えて行けば、自国通貨と元との間の為替レートの変化が輸出入を通じて、各国の経済に与える影響が大きくなって行く。中国との経済的な結びつきが強い国では、自国通貨を米ドルに連動させるよりも人民元に連動させることのほうが重要性を増すことになる。政府や中央銀行が為替市場に介入するために、人民元を外貨準備として保有する必要性がもっと高まるはずだ。
3月にアメリカ、カナダの専門家と意見交換した際には、ほとんどの人が人民元が主要国際通貨になるのはかなり先の話だとみていた。貿易取引で元の利用は拡大するものの、国際金融取引におけるドルの地位は揺るがないと考えていた。しかし、人民元がSDRの通貨バスケットに採用されると、それをきっかけに新興国や発展途上国を中心に金融機関の行動が変わっていく可能性が高いのではないだろうか。
アメリカはIMFで事実上の拒否権を持っており、人民元をSDRのバスケットに入れることを阻止することは不可能ではない。最近注目を集めているAIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立の背景には、IMFの議決権を新興国や発展途上国により多く分配するというガバナンス改革が、アメリカの反対で進まないこともある。SDRに人民元が採用されるかどうかは、現在のIMFを中心とした、アメリカのドルを用いる国際通貨体制の将来にも大きな影響を及ぼす。SDRの見直しはどう決着するのか。行方からは目が離せない。
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