01. 2015年4月14日 04:00:07
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追加緩和があれば1ドル130円も為替相場に潜む本当の危機 2015年4月14日(火) 田村 賢司 世界の景気回復を牽引する格好の米国経済の先行きを決める利上げの動向に注目が集まる。当初言われた6月はほぼ無くなり、秋か年末との声も広がる。一方で日本は日銀の追加緩和も想定される。為替相場はまた波乱もあり得る。みずほ銀行チーフマーケットエコノミストの唐鎌大輔氏に日米金融政策と円の行方、日本経済への影響などを聞いた。 (聞き手は田村 賢司) 米国の利上げ時期を巡って、世界の株価が激しく動いている。日本の景気への影響も大きい。時期をどう見ている。 唐鎌 大輔(からかま・だいすけ)氏 2004年慶応義塾大学経済学部卒業後、JETRO入構、貿易投資白書の執筆などを務める。2006年、日本経済研究センターへ出向し、日本経済の短期予測などを担当。2007年、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向。2008年10月、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)入行。国際為替部で為替分析を担当している。著書は『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月) 唐鎌:先日発表された今年3月の米国の雇用者数(非農業部門)が、前月比12万6000人増となり、市場が事前に予想した数字の下限に近いものとなった。これで、従来言われてきた6月の利上げは完全になくなったと思う。私自身は元々、6月実施はないと見ていたが、裏付けられた格好だ。
雇用者数の増加が低調だった理由として、年初の悪天候や米国西海岸で港湾労働者のストが長引いたためと言われるが、悪天候はほぼ毎年のことだ。あまり理由にはならない。12万6000人というのは、2013年12月以来、ほぼなかった数字で、そこまで悪くなるには理由があるはずだ。 早ければ今年9月に追加緩和も まだ利上げをする環境ではないということか。 唐鎌:変動が比較的大きい食品とエネルギーを除いたコアCPIと呼ばれる消費者物価指数は今年2月で、前年比1.7%の上昇にとどまっている。まだまだ高くはない。 しかも、先進国の中では唯一、金融緩和を終える出口戦略に入り、引き締めに向かっている。このため、ドルが高くなっており、企業の決算もよくない。利上げとなれば、さらなるドル高は避けられないからもっと影響が出る。米国の金融政策を受け持つFRB(連邦準備理事会)からも、その辺りを懸念する声が出ている。はっきり言えば、そんなに心配ならやらなければいいというくらいだ。 それでもなぜ、利上げをしようとするのか。いつ頃と見ているのか。 唐鎌:一つには、これまで金融緩和からテーパリング(緩和縮小)に行き、利上げという方向で進めることを、FRBは市場と対話しながら進めてきた。それをやらないというわけにはいかない。「できなくなる前に一回は実施したい」という思いもあるだろう。 それに利上げをしておけば、不況が来た時に下げることができる。金融政策での対応余地を持ちたいということもあるだろう。 それで、実施するとすれば早くて今年9月、順当に行けば12月ではないか。今の景気情勢からみれば、そのくらいだろう。 一方で日本はまだ金融緩和の縮小は見えない。為替に影響する日米金利差は拡大するから、一層ドル高円安が進むことになるが。 唐鎌:米国の利上げに加え、もし日銀が年内に追加緩和を行うようなことがあれば、ドル円の為替レートは年内に1ドル=130円もあると見ている。追加緩和がなければ125〜126円というところではないか。 日銀の追加緩和について言えば、元々、2013年4月に「2年で物価を2%」とした目標の言い方を変えなければいけないはず。現状、その期限は「2015年度中」といった解釈になっており、2016年3月までということになっている。もし、今年秋に米国と同じベースの食品とエネルギーを除く消費者物価指数(いわゆるコアコアCPI)がマイナスで安定したら、その目標を変えないといけなくなるはずだ。「2年」という期限を変更(実質的には放棄)するとなると、それは判断の下方修正であり、年内の追加緩和がロジカルということになる。 再び円安が進むのか ドル円レートの推移 単位:円 政府・与党は追加緩和を嫌うはず ただ、さらに円安が進めば、輸入物価が上がり、実質賃金の目減りとなりかねない。追加緩和は、政治的に難しい面もある。 唐鎌:その面は否定できない。輸出物価を輸入物価で割った交易条件指数は、定義上、通貨の実力を示す実質実効為替レートの本来の水準(均衡水準)を示すと言われる。ところが、2008年頃からはその水準から遙かに離れた円高が続いてきた。アベノミクスが始まった頃からこれが修正されて来たところだ。 とはいえ、円安があまり進むと確かに「輸入物価が上がるから、賃金の上がり方が少ないと手取りが減ることになる。それは国民に不評だから、政府・与党には不都合な話になる。昨年秋、1ドル120円になった時に国会で「円安対策が必要だ」という議論をまじめにやっていた事を思い起こしてもらえば分かるはずだ。 しかし、追加緩和をして物価を押し上げようとしたところで、原油が反転上昇したりすればどうなるのか。 唐鎌:それは最悪のシナリオだろう。今の景気は原油安にかなり支えられている面もある。原油が反転上昇すれば、景気にダメージがある。もし、追加緩和をしてでも物価を押し上げようとしたところで、そうなると困ったことになりかねないという問題もある。足元では為替相場が凪状態のように見えるかもしれないが、これだけの大きな問題をはらんでいる。 このコラムについて キーパーソンに聞く 日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150413/279867/ |