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コラム:日本株上昇は夏までか、秋の波乱に要注意=山口曜一郎氏
2015年 04月 13日 19:17 JST
山口曜一郎 三井住友銀行 ヘッド・オブ・リサーチ
[東京 13日] - 日経平均株価は先週、15年ぶりの2万円台を回復した。引けにかけては売りが入ったため、終値では2万円を維持できなかったが、失望感はほとんどなく、すぐにもう一段の上昇がありそうな雰囲気だ。
そのような相場環境の中、実体経済においても楽観が少しずつ広がり始めている。特に昨年伸び悩んだ家計消費は、所得環境の改善とともに徐々に持ち直してくることが期待される。今回はこの部分に焦点を当てながら、景気と株価について考えてみたい。
<今年は所得・消費も改善へ>
しばしば、日本の所得環境が向上するには労働分配率の引き上げが必要だと言われるが、国際的に比較すると日本の労働分配率は、実は決して低くない。労働分配率とは、簡単に言うと、国全体で稼いだ所得を労働者や企業にどのように配分しているかを示す比率であり、労働者が受け取る雇用者報酬を国民所得で除したものだ。
2013年の日本、米国、ドイツの労働分配率を比べてみると、米国が65.6%、ドイツが67.9%だったのに対して、日本は69.3%となっている。しかし、その割にこれまで所得環境が良好だという話はほとんど聞いたことがなかった。
その一因は低成長にあったと言っていいだろう。2011年から2013年の国民所得の伸び率(マイナスの表記がない限り、プラス)は、米国の4.9%、5.6%、3.7%、ドイツの5.4%、1.4%、2.2%に対して、日本はマイナス1.7%、1.6%、1.3%だった。
そのため、雇用者報酬は0.7%、0.3%、0.8%と1%に届かない伸び率が続いた。しかし、2014年には、大手企業で久方ぶりにベースアップ(ベア)が実施され、賞与は夏季・冬季とも大きく増加、毎月勤労統計に見られる所定内給与も徐々に改善が進み、名目雇用者報酬は前年比1.8%に伸びた。
国民所得(要素費用表示)の発表はまだだが、名目国内総生産(GDP)並みの1.6%と推定すると、労働分配率は69.4%と僅かながら上昇。米独と比べて、国全体で稼いだ付加価値がより多く労働者に分配されたと予想される。
にもかかわらず、2014年の家計の実質消費支出はマイナス1.3%だった。この理由として2点挙げると、1つめは月並みだが、消費増税の影響が大きかった。前述の雇用者報酬を実質で比較すると、日本がマイナス1.0%だったのに対して、米独ともプラスでそれぞれ2.9%と2.8%だった。この点については、4月から経済データ上は消費増税の影響が剥落する。消費者行動という点で見ても、最近の景気ウォッチャー調査などから影響の後退がうかがわれる。
2つめは労働所得の分配にかかる部分であり、アベノミクスの中で、マクロの分配が改善しても、ミクロの分配に偏りが存在していたと考える。データが十分でないため推論に頼らざるを得ない部分があるが、例えば「平成24年経済センサス」の数字を用いて、1人当たり付加価値額から給与を引いた額が企業の取り分かつ賃金上昇余地だと考えると、大企業の余地が大きかった(290万円)のに対して、中小企業は余地が小さかった(100万円)。
この環境下での円安により、大企業の製造業は増益で賃上げ余地が広がった一方、地方の中小企業の非製造業では輸入コストの増加が一段と賃金上昇余地を狭めていた可能性がある。それゆえ、昨年10月末の日銀の追加緩和に対して筆者は、中小企業にとっても、そこで働く従業員にとっても、恩恵よりも副作用の方が大きいと警鐘を鳴らした。
しかし、そのような中、原油安がまさに神風となった。石油価格の下落は減税のようなものと言われるように、その恩恵は企業や家計に裾野広く効果が及ぶ。これを背景に家計・企業のセンチメントが好転、その間に各経済セクターの持ち上がりが少しずつ広い範囲に波及し始めており、2015年は家計の所得・消費環境が改善しそうだ。今年の家計所得と消費活動は昨年よりも良好なものとなるだろう。
<日経平均2万2000円到達は夏までが勝負>
では、日本株に対しては強気の見通しを持ってよいのだろうか。実は上記のような状況が株式市場に与えるインプリケーションは若干複雑だ。なぜなら、労働分配率が他国よりも高く、さらに上昇するということは、労働者の取り分が増える一方、企業の取り分が減ることを意味するからである。
つまり、労働分配率の上昇を補うだけの経済成長を実現しないと企業所得が減少してしまう。労働市場の改善が続く米国では構造問題もあって賃金の伸びが低水準にとどまっているが、そんな米国でも10―12月期は前期に比べて小幅ながら労働者の取り分が増え、GDPベースでの企業所得は前期比マイナス1.4%となった。
ただし、日本については過度に不安視する必要もなかろう。消費の伸び悩みが低成長の原因の1つとなっていた日本においては、所得・消費環境の改善は消費を増やし、それに伴う設備投資を促す可能性があるため、総合的にはポジティブに働く公算が大きいからである。
それに、何と言っても日本では、日銀による異次元緩和と、公的・準公的マネーによるポートフォリオ・リバランスの動きが、株式市場の大きなサポートとなる。これまでも、日本株の投資家は必ずしも日本の経済成長とにらめっこしながら株を買ってきたわけではなく、どちらかと言えば日本の金融政策や公的マネーの動きとにらめっこしながら株を買ってきた。景気回復期待という後押しを得て、日本およびユーロ圏の大規模緩和が株価押し上げに効く展開はもうしばらく続きそうだ。
企業業績見通しに基づくバリュエーション分析や、チャートに基づくテクニカル分析からは、日経平均で2万2000円は射程圏内にある。この水準を達成できるとしたら秋以降よりも夏までの方が可能性が高いと見る。年終盤にはリスクが高まってくるからだ。原油価格が現行水準にとどまれば、原油価格のマイナスのベース効果剥落もあって、日本、ユーロ圏ともに、秋にはインフレが下げ止まりから上昇に転じる見込みだ。
年前半に株式を含めたリスク資産の一段の上昇が進む一方で、秋から冬にかけて米国の利上げと日欧のインフレ反転のタイミングが重なり、金融政策の出口戦略に対する思惑が高まるようだと、株価の動きは不安定になりボラティリティが高まる。
また、ユーロ圏において、国債需給の過度な引き締まりや、マイナス金利の蔓延による金融機能不全といった国債買い取りに関する問題が浮上してくるとしたら、やはりこの時期あたりではないかと思われる。
米国が、株価維持のために利上げに慎重になる、あるいは非常に緩やかなペースにとどめる、という選択肢を選べば、リスク資産は一段高となる可能性があるが、その場合は逆にバブルのリスクが高まるため、米連邦準備理事会(FRB)がどこまで株式市場に配慮するかは読みにくい。よって、株式投資は夏までがいったんの勝負と見る。
*山口曜一郎氏は、三井住友銀行市場営業統括部副部長兼調査グループ長で、ヘッド・オブ・リサーチ。1992年慶應義塾大学経済学部卒業後、同行入行。法人営業、資本市場業務、為替セールスディーラーを経て、エコノミストとして2001―04年に ニューヨーク、04―13年ロンドンに駐在。ロンドン大学修士課程(金融学)修了。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0N40RR20150413
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