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日銀の異次元緩和から2年。国債を大量に買っている日銀だが、それによって国民負担が減っているわけではない(写真:ロイター/アフロ)
日銀が買う国債は、誰が責任を負うのか 異次元緩和の「都市伝説」のカラクリ
http://toyokeizai.net/articles/-/66165
2015年04月13日 土居 丈朗 :慶應義塾大学 経済学部教授 東洋経済
黒田東彦・日本銀行総裁の下での「量的・質的金融緩和」が始まって2年が経つ。「アベノミクス」3本の矢のうちの第1の矢と位置付けられ、デフレ脱却のカギを握っている。
■「満期が来た国債は、元本返済が不要」のカラクリ
異次元緩和政策ともいわれる「量的・質的金融緩和」では、日本銀行が国債を大量に市場で買い入れている。日本銀行が大量に国債を買い入れている間は、国債金利は上昇しにくく、発行した国債が満期を迎えて元本を返済しなければならないものでも、日銀が持っている限り、返済のための税負担は要らない。あくまでも、「日銀が持っている限り」であるが。
そのカラクリはこうである。日銀が国債を大量に買い入れているのは、市中に通貨(マネーストック)を増やしたいからである。市中に通貨を増やすことで通貨価値の低下につながれば、通貨価値と表裏の関係にある物価(ここでいう物価とは、専門用語でいえば一般物価)が上昇する。つまり、物価が下がり続けるデフレから、脱却できる。
そして、異次元緩和政策を続ける限り、日銀は市中に通貨を増やすことを目指しているから、買い入れた国債で満期が来ても、政府に元本の返済を求めても意味がない。なぜなら、仮に満期が来た国債に対して政府に現金償還を求めれば、政府は国民から得た税収を使って現金を日銀に支払うことになるが、それだと市中から通貨が減ってしまうことになるからである。異次元緩和政策を続ける間は、市中から国債を買い入れて通貨を出回せることが狙いなのだから、満期が来た国債の元本返済を日銀が求めては意味がなくなってしまうのである。
ちなみに、日銀が買い入れた国債で満期が来たものを、引き続き借り換えるときには、「日銀乗換」という方法がある。満期が来た以上、いったん返済したことにしなければならない。しかし、その国債を借り換えることにすれば、日銀が買い入れた国債をそのまま保有し続けることができる。そこで、政府と日銀の間で、満期が来た国債と取り換えるように借り換えるための国債を日銀に引き受けてもらうことにしている。これが、日銀乗換である。
だから、異次元緩和政策で日銀が買い入れた国債は、日銀が持っている限り、返済負担が生じない。それなら、いっそのこと日銀が保有する国債は、政府の借金とみなさなくてよいではないか、との声がある。
■デフレ脱却後は国民の税負担で返済必要に
だが、それは誤りである。日銀が買い入れている国債は、デフレが脱却できたら、国民の税負担で返済を迫られる。
そもそも、日銀が保有する国債で満期が来ても元本返済が必要ないのは、異次元緩和政策を実施しているためである。では、異次元緩和政策を実施しているのはなぜか。デフレを止めたいからである(異次元緩和政策でデフレを止められるか否かの議論は、ここでは不問とする)。
仮に異次元緩和政策でデフレが止められたとしよう。デフレが止まること、すなわち物価上昇が持続的に起こる状態となる。異次元緩和政策が功を奏して緩やかなインフレにできるか否かは、これまた議論が分かれるところだが、いずれにせよ、デフレが止まれば高率か低率かを問わず物価が上昇する。
そうなれば、まず、日銀は、異次元緩和政策をやめる。いわゆる「出口」である。そこで、国債の新たな買い入れはやめる。問題は、日銀がすでに買い入れた国債の行方である。
物価上昇は、その裏表の関係で通貨価値が下落し始める。お金を貸す側はその通貨価値の下落を補うために物価上昇率よりも高い金利をつけて貸そうとする。預金金利もデフレ期はほとんどゼロだったものがプラスの金利になる。すると、デフレ期に現金を持っていた民間の経済主体は、現金を金融機関に預けたり、プラスの金利がつく金融資産(国債を含む)に持ち替えようとする。民間の経済主体から預金等の形で現金を受け取った金融機関も、現金のまま持つことは望まないので、日銀に現金を引き取ってもらおうとする。
こうして、インフレになると民間の経済主体や金融機関はできるだけ通貨を持たなくなり、日銀は通貨を吸収するため、保有している国債を放出せざるを得なくなって、売りオペレーション(市場で国債を売る)を行うことを迫られる。
インフレになると(それはハイパーインフレでなくとも)、プラスの金利となるので、民間の経済主体は通貨でなく利息等が得られる金融資産を持とうとし、その中で国債は日銀ではなく民間が保有するようになる。民間の経済主体が保有する国債は、満期が来ると元本を(全額でなくとも一部は)返済しなければならず、そのために国民の税負担が生じる。
■インフレ甘受なら、結局「インフレ税」で負担することに
したがって、かつて日銀が買い入れた国債といえども、デフレが止まると、民間が保有することになって償還のための税負担が生じることになる。異次元緩和政策の狙いと、その狙い通りになった後のことを考えれば、自明のことである。デフレが止まっても、日銀が買い入れた国債の返済のための税負担が生じない、などということはありえない。
では、日銀は買い入れた国債を売りオペしなければよいのだろうか。そうすれば、インフレ下で、民間が保有する通貨が市中に過剰に残るため、高率のインフレになる圧力がかかることになる。そうなれば、やはり日銀は、物価の安定のために売りオペをして市中の通貨を吸収せざるを得なくなる。
多少高率のインフレを甘受すれば、日銀は異次元緩和政策で買い入れた国債を売らずに済むとみるなら、今度はインフレによる国債の価値の目減りに直面する。確かに、国債の返済負担が、インフレによって実質的に軽くなっているかのように見えるが、その裏表の関係で生じているのは、国民や日本円保有者に対する「インフレ税」の徴収である。
「インフレ税」は、東洋経済オンラインでの本連載の拙稿「経済財政諮問会議の『ゆるい議論』を許すなhttp://toyokeizai.net/articles/-/61348」(2015年2月23日)でも触れた。日本円を持つ者はインフレによってその通貨価値が奪われ、それと同時に日本国債の実質返済負担が軽くなる。この場合でも、誰かが日本国債の返済負担を負わされることには変わりない。
デフレ脱却は目指すべきである。しかし、デフレ脱却後のことも考えれば、これまでに負った日本国債の返済負担から逃れられないことを肝に銘じなければならない。だからこそ、日本国債の残高の増加は抑えなければならないのである。
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