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アメリカが寝返る可能性は? photo Getty Images
日米が参加しないAIIBの致命的欠陥。中国は必ず日本に水面下で参加を求めてくる
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42865
2015年04月13日(月) 高橋 洋一「ニュースの深層」 現代ビジネス
■日本は焦る必要はない
中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)をめぐり、財務省や外務省含めた日本政府の対応の遅さへの批判から、日本もバスの乗り遅れるなという論調がある。
国際金融機関の分野は、外交・安全保障と経済が交錯する分野だが、どうもこの問題を扱うマスコミは外交・安全保障の視点しかないようだ。
このため、親中側からは国際協力を口実に日本も早く参加せよといい、一方、反中側からは中国の国際金融体制への挑戦を許すなと未来永劫的に参加するなという。一体、何が正しいのだろうか。
この件について、筆者はテレビなどで解説(3月29日BS朝日『いま世界は』など)を行ってきたが、いつも、日本は焦る必要はないといっている。
ただし、テレビでは時間が短く、適切な解説する時間が短いので、本コラムで、どうしてそういう答になるのかを明らかにしよう。筆者へ別に反中国論者ではないが、外交・安全保障と経済の二つの視点から、これが日本の国益になるからだ。
なお、3月29日BS朝日『いま世界は』に筆者のカウンターパートとして出演していた宋文洲氏(経営コンサルタント)は、中国をビジネス拠点とする中国人なので議論する前から答が分かっている。宋氏は別としても、参加期限といわれた3月末になると、日本の対応の遅さを指摘し、日本も参加すべしと慌てたコメンテーターは確かにいた。ただし、そうした人は、この案件を最近になり知ったひとばかりだ。数年前からくすぶっていたことを知らない。
■イギリスを落としたのは中国外交の勝利
AIIBは、中国主導の国際金融機関である。国際金融機関は、海外での活動において相手国政府との関係などで民間金融機関では情報収集がやりにくい分野で存在意義がある。また、単純に公的な金融活動であるとともに、一国の外交戦略の一環でもある。その意味で、各国の国益がぶつかり合う場でもある。
AIIBは、BRICS開発銀行と並んで、欧米主導のIMF・世銀体制への挑戦と受け止められている。中国が両方とも主導している。
特に、AIIBは、参加国は40ヵ国を越えるだろうが、中国が資本の40〜50%を出資し、本部が北京、中国人がトップを務めるとみられる。一方、日米が主導し、67ヵ国・地域が加盟するアジア開発銀行(ADB)は日本と米国の出資が10%台、総裁は日本人だが本部はフィリピンに置かれている。この点、両者は似て非なるものだ。
中国だけで出資の半分を占める予定であることから、ガバナンスの点で大いに問題がある。具体的にいえば、AIIBの融資について理事会の関与がほとんどない。極端な話であるが、中国トップがある国へのインフラ投資を政治判断したら、AIIBはプロジェクトの採算性などを度外視して融資するようなものだ。
それにもかかわらず、英独仏伊が参加しようとするのは、あからさまな現実主義である。目先の中国の成長は魅力的であり、中国との関係で実利をあげようとしている。
しかも、中国は、オバマ政権がレームダックになって一番弱体化しているときを見計らって、しかもアメリカと現在微妙な関係になっているイギリスを狙ってきた。オバマ大統領はチャーチルの植民地政策を批判していたので、イギリスの関係は従来ほど強固でないのも、見透かしていた。
イギリスを落とせば、他のヨーロッパ諸国や英連邦諸国を芋ずる式に落とせる。イギリスのウィリアム王子が今月(2015年3月)訪中した段階で、勝負あった感じだ。アメリカは外交政策で失敗したのだ。
アメリカも、3月30日、ルー米財務長官を中国に派遣したが、時既に遅しだった。3月29日BS朝日『いま世界は』で、宋氏は、訪中しているルー米財務長官はきっと参加するから、今からでも日本は参加せよと発言したが、結果としては誤った発言だった。いかにも中国人ならやりかねない「はったり」だったが、筆者は、後で述べるような経済の視点から、アメリカが土壇場で参加するはずないと思っていたので、とりあえず無視した。
■中国は必ず日米に参加を求めてくる
ただし、いつでも経済の視点、これは国際金融の常識といってもいいが、その議論のためのタネは後で述べるようにまいておいた。
なお、たしかに、イギリスが落ちたという外国事情はあまり官邸に上がっていなかったようだ。この点は、今の財務省も悪い。ただし、今焦って参加するのはもっと国益に反することになる。
長い目でみれば、AIIBに一定の関与をするのは外交戦略上当然であるが、国際金融の常識から考えて、今は焦ることはないというのが重要だ。
番組の中でまいたタネとは、メインキャスターの木佐彩子さんに、AIIBの格付けがどうなるかを質問してもらうように事前に頼んでおいたのだ。もし質問がなければ自分で説明するつもりだった。幸い、番組中にその質問があったので、AIIBはせいぜいシングルAクラスとなり、一般的な国際機関はトリプルAより低くなると説明した。
というのは、AIIBは中国主導であるということは、最終的には中国が後ろ盾になるわけだが、その格付けは、中国と同等になるというのが筋であるからだ。中国の格付けは、トリプルAのアメリカ、ダブルAの日本より下のシングルAである、シングルAでも、韓国より低い。
格付けというのは誰でも理解できる用語を使ったまでで、実は、AIIBのクレジット・スプレッドがどうなるかが、重要だ。中国、日本、アメリカのCDSレートをみると、それぞれ、1.38%、0.35%、0.19%だ(4月10日現在)。ということは、中国主導のAIIBと日米主導のADBは、資金調達コストで1%以上の近い差ができる可能性がある。
ということは、アメリカと日本が参加しないのは、AIIBにとって致命的な欠陥になる。これは単なるメンツの問題ではない。地位が三流になるにとどまらず、AIIBの資金調達コストが高まるので、AIIBの貸出金利が高くなって、日米が主導するアジア開発銀行(ADB)と競争しても、分が悪く勝負にならないことを意味している。
このため、中国は必ず日米に参加を求めてくるはずだ。その機会を狙って、理事会が実質的に関与できることを確保したらいい。
これが、国際金融の立場からみた、今焦って参加することはないという論拠だ。こうした外交では、希望的な観測は厳禁であるが、国際金融の常識からの合理的な予測は問題ないはずだ。
しかも、中国の金融システムは金利の自由化すら終了していない途上国並みの未熟なもので、国際金融業務のノウハウも乏しい。いずれアジアで実績のある日本に水面下では協力を求めてくるはずだ。その時点で、理事会が実質的に関与できるかどうかを見極めてから参加しても遅くはない。
■オバマ政権はキューバ優先、寝返らない
ただし、この戦略にも弱点はある。アメリカが寝返るかもしれないのだ。その可能性は少ないとはいえゼロではない。かつて、日本の頭越しに米中国交回復をしたこともある。
特に、外交は、議会の縛りが比較的に少ないので、政権末期にはしばしば使われる。これまで、外交案件としては、中東や北朝鮮案件があったが、今のオバマ政権はキューバの国交回復を選択したようなので、この点、中国案件にアメリカが方向転換する可能性はほとんどない。
キューバの国交回復は、意外な盲点であったが、今の状況では比較的ハードルの低い案件で、オバマ政権としては残された任期で道筋を付けられる、ほぼ唯一の案件だ。
しかも、キューバの国交回復では、@大使館設立、Aキューバのテロ国家指定解除、B経済制裁の三つのハードルがあるが、このうち@とAは議会の関与なしで、政権の権限でできる。このため、実際の国交回復までは時間がかかるが、道筋は付けやすい。
一方、AIIBでは、出資が必要になるが、それは予算マターで議会との調整が必要になる。となると、オバマ政権ではなかなか手が出しにくいはずだ。
さらに、キューバとの国交回復は、キューバを含め中南米に中国が進出していることの対抗策という性格もある。つまり、中南米というアメリカの庭先を中国に勝手にさせないという意図だ。この点からも、キューバ優先となるはずなので、AIIBでアメリカが寝返る可能性はまずないといえる。
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