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事態は深刻、下方向に広がる日本の格差
待ったなし!日本の貧困対策は経済対策そのもの
2015.4.13(月) 加谷 珪一
米首都に増えるホームレス状態、低賃金・立ち退き・高家賃
先進国のなかで日本と米国の貧困率は突出して高い。米首都ワシントンD.C.で、雪に覆われたままベンチに座り込むホームレスの男性(2013年3月25日撮影、資料写真)。(c)AFP/Karen BLEIER〔AFPBB News〕
政府が、これまでほとんど手つかずだった子供の貧困対策に乗り出そうとしている。2014年8月、「子供の貧困対策に関する大綱」を閣議決定し、今年度から必要な予算措置を実施しているほか、今年4月2日には首相官邸において「子供の未来応援国民運動」の発起人集会を開催。各界が協力して子どもの貧困対策に向けた国民運動を展開することを確認した。
一連の施策はあくまで社会政策的な側面が強く、経済政策という位置付けにはなっていない。そのせいか、国民の関心も今のところ低いままだ。しかし、日本の貧困はかなり深刻な状況となっており、このままの状態が続けば、個人消費の弱体化を通じて、経済成長の大きなマイナスに要因にもなりかねない。貧困に対しては、経済問題としての視点が必要である。
日本の貧困は格差大国アメリカ並み
日本はかつて「1億総中流」というキーワードがあったことからも分かるように、貧富の差が少ない暮らしやすい国と思われてきた。だが現実は大きく異なっている。最近は貧困に関する報道が増えてきたことから、ようやく社会にも認識されつつあるが、日本の貧困率は実はかなり悪い。
一般的に貧困の度合いは「相対的貧困率」(可処分所得が中央値の半分以下の人の割合)で表されるが、2012年における日本の相対的貧困率は16.1%となっており、先進国の中では突出して高い。福祉政策が手厚いと言われる欧州各国は1ケタ台のところがほとんどであり、これほど高い貧困率となっているのは米国と日本だけである。
相対的貧困率という統計については、実態との乖離が生じるとの批判の声もあるが、現実はそうでもない。日本の可処分所得の中央値は約244万円となっており、貧困レベルはこの半分の122万円以下ということになる。生活保護の給付総額を給付者数で割った単純平均は175万円なので、122万円は日本においてはかなりの貧困レベルだということが分かる。この水準の生活を強いられる世帯が全体の16%、数にすると900万に達する状況なのである。
貧困世帯の問題はそのまま子供の貧困という問題につながってくる。貧困世帯が多ければ貧困の環境で育つ子供が多いのは当然のことで、日本における子供の貧困率はやはり高い。これから知識産業で国を成り立たせる必要のある日本において、教育の機会均等が阻害されるような事態があってよいわけがない。
子供がいる世帯全体の貧困率は約15%だが、大人が1人という世帯の貧困率は大幅に上昇し50%を超える。大人1人の世帯の多くはシングルマザーと考えてよいので、この数値はシングルマザーの貧困率と言い換えることも可能だ。
シングルマザーの貧困が映し出す労働市場の硬直性
シングルマザーの貧困が多くなる原因の1つとして考えられるのが、非正規労働に従事する女性の割合である。女性の就業者のうち、非正規労働に従事する割合は50%を超えている。一方、男性の非正規の割合は20%に過ぎない。つまり非正規労働のほとんどが女性となっているのだ。
この結果、女性の平均的な月収は23万円と男性の約3分の2にとどまっている。これは全女性の平均値なので、女性の労働者の中には、もっと少ない金額しか稼げない人が数多く存在すると考えられる。特に、離婚を期にシングルマザーとなり、それまで目立った就労経験がなかった人の場合、非正規社員の雇用しかない可能性が高く、その結果、十分な収入が確保できない状態になっていると考えられる。その状態では、子供を育てることはおろか、自身の生活を成り立たせることも難しいだろう。
こうした傾向は日本だけのものではなく、程度の差こそあれ、シングルマザーほど生活が苦しくなる傾向が見られる。だが日本には他国ににない特徴がある。それは仕事の有無による環境の違いである。
他国の場合、シングルマザーでも仕事を持っている世帯の貧困率は低くなるのが普通だが、日本の場合、仕事を持っているシングルマザーの貧困率と、仕事を持っていないシングルマザーの貧困率がほぼ同じレベルとなっている(OECDによる調査)。つまり、日本では働いても働かなくても、収入がほぼ同じという状況なのだ。
考えてみればこれはおかしなことである。日本では他の先進国と比べればかなり安い金額ではあるものの、最低賃金が保障されている。所定の労働時間をフルに働くことができれば、この水準の年収にはならないはずである。
このような事態が発生している原因は、極めて短時間な就労機会しか与えられていないか、もしくは労働法制が守られていないかのどちらかということになる。かつてのドイツのように最低賃金が存在しなくても、市場メカニズムによって最低賃金は一定のレベルに収束するのが普通である。職があっても貧困に陥るというのは、先進国ではちょっとした異常事態であり、日本の労働市場の硬直性が極限まで来ている可能性を示唆するものといえるだろう。
日本は下方向への格差拡大
こうした状況は、格差拡大のメカニズムからも推察される。格差問題を扱ったフランスの経済学者トマ・ピケティの著作が大きな話題となったが、ピケティ氏が主張する全世界共通の格差拡大メカニズムは、バブル崩壊後の日本経済にはあまり当てはまっていない。
ピケティ氏が利用している世界の所得格差を調べたデータベースによると、2010年における日本のトップ1%の平均年収は約2100万円となっている。国税庁の調査でも、給与所得者のうち上位1%に該当する年収は1500万円以上となっており、思いのほか低い(個人事業主を含めるともう少し上がる)。ちなみに米国におけるトップ1%の年収は1億円を突破している。
ピケティ氏は、いつの時代も、資産の収益率(r)が所得の伸び(g)を上回っており、これによって富を持つ人とそうでない人の格差が広がると主張している。つまり恒常的に「r>g」が成立するので、格差が拡大するという仕組みである。実際、歴史的な推移を見ても、景気が良く、資産価格が上昇している時には格差が拡大することが多い。日本でもバブル経済期には格差が拡大する傾向が顕著であった。
リーマンショック以後、継続的に株価が上昇している米国において、所得が大きい人ほど資産価格上昇の恩恵を受けているのは明らかであり、これが格差の主な原因となっている。
だが日本の場合は、バブル崩壊後、経済と株価の低迷が続いたこともあり、高額所得者はあまり増えていない。日本における格差は、上方向ではなく下方向への格差拡大と考えた方がよいだろう。
日本の格差拡大は構造問題?
下方向に格差が拡大してしまうのは、日本経済が成長をストップさせてしまったからである。ここ20年の間に、先進各国は名目GPDを約2倍に拡大させてきたが、日本はずっと横ばいが続いている。経済は相対的なものなので、GDPが横ばいだったという事実は、日本人の購買力がここ20年で半分に低下してしまったことを意味している。
日本経済が横ばいだからといって企業の収益が横ばいでよいということにはならない。株式市場は企業に対してグローバル経済と同レベルの利益成長を要求する。経済の基本構造が変わらず、企業のビジネスモデルも大きく変化しない中で、利益水準を上げる唯一の方法が、人件費を中心としたコスト削減であった。
多くの企業が安易なコスト削減策として非正規社員を増やし、その結果、労働者の所得が減り、貧困が拡大した可能性が高い。また、基本的な産業構造の転換に手を付けていないので、労働市場はいつまで経っても硬直的なままである。
日本の労働行政は大企業に勤務する正社員の雇用維持を最優先しているので、労働基準法の徹底は現実問題として優先順位が低い。また日本の生活保護制度は捕捉率が低いため、多くの貧困層の生活をカバーできていない。こうした状況が重なり、働いても貧困から抜け出せない層が増加する事態になっている可能性が高いのだ。これはまさに日本経済の仕組みそのものがもたらした構造的問題といってよいだろう。
こうした下方向への格差拡大に対処するのは非常にやっかいだ。米国のように上方向への格差拡大であれば、富裕層の税負担を重くして、所得を再配分すればよい。オバマ政権は今年1月、格差解消のため富裕層課税を強化する方針を打ち出し、一般教書演説に富裕層課税策を盛り込んだ。これまで過剰に保護された富裕層への減税を定常状態に戻すということであり、政策としては極めてシンプルなものである。
共和党が課税強化に反対しているので、実際にこれが実行されるのかは微妙だが、政治的な決断さえあれば、米国の格差問題は比較的容易に解決する。
いずれかの方法を決断しなければならない
ところが日本の場合には、先ほど述べたような構造的な問題を抱えており、単純に再配分を行えばよいという状況ではない。日本には高額所得者が少ないので、いわゆるトリクルダウンも期待できないのが現実だ。このままでは、貧困層の拡大を通じて、個人消費の弱体化がじわじわと経済を蝕んでいく可能性がある。
1つの解決方法は、安倍政権の成長戦略でも議論されたことではあるが、雇用の流動化を通じて産業構造の転換を促進することである。雇用の流動化と労働法制遵守の徹底を同時に行えば、劣悪な環境で働く労働者の状況を改善できる可能性がある。ただし、雇用を流動化するということになれば、失業者の数が増加する可能性が高い。正社員を中心に安定雇用を享受していた人たちからの反発が予想されるため、この政策を決断するのは容易ではないだろう。
企業に余力がない中、所得の再配分をさらに強化するということになると、やはり財源が必要となる。安倍政権が打ち出した子供の貧困対策は、各界を巻き込んだ国民運動という形になっているが、税金で直接支援しない形が模索されているように見えるのは、やはり財源の問題が大きいからであろう。
日本はすでにかなりの累進課税となっていることに加え、そもそも高額所得者が少ない。このため高額所得者の課税をこれ以上増やすのはあまり現実的とは言えない。
一方、年収600万円以下の層における所得税率は3%以下と実質無税に近く、この層の所得税強化は理論的には可能かもしれない。だが、雇用の流動化と同様、ボリュームゾーンであるこの層への課税強化を政治的に決断することは極めて難しいだろう。
結局のところ、再分配を強化するには、広く薄く負担する消費税の増税ということになってしまう。消費税の再増税もハードルが高いが、上記の2つの政策と比較すれば実現性は高いかもしれない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43479
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