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今や地方には、一家で何台も軽自動車を所有する家庭もある Photo:beeboys-Fotolia.com
なぜ軽自動車が売れまくるのか?大手も刮目する「グローバル軽」時代
http://diamond.jp/articles/-/69905
2015年4月10日 佃 義夫 [佃モビリティ総研代表] ダイヤモンド・オンライン
■ベストテンに7車がランクイン なぜ軽自動車が売れているのか?
2014年度(2014年4月〜2015年3月)に国内で売れた新車ベスト10のうち、軽自動車が7車種を占めた。国内新車販売全体での軽自動車比率は41%と、年度で初めて4割超となった。
そんなに売れる軽自動車とは、どんな存在なのか。グローバル化が進む自動車産業にあって日本独自の軽自動車はどう位置づけられ、軽自動車生産・販売の構図がどう変遷しているか。今後の軽自動車の方向性について、読み解いてみる。
2014年度に国内で売れた新車ベスト10のトップは、トヨタのハイブリッド車「アクア」だったが、軽自動車は2位にダイハツの「タント」、3位にホンダの「N-BOX」、4位に日産の「デイズ」、6位にスズキ「ワゴンR」、8位にダイハツ「ムーヴ」、9位にホンダ「N-WGN」、10位にダイハツ「ミラ」と、7車種がランクインした。ちなみ登録車(軽以外のクルマ)は、首位のアクア、5位のホンダ「フィット」、7位のトヨタ「プリウス」。アクア、プリウスはハイブリッド(HV)専用車で、フィットも売れた台数の6割がHVだ。これを見ても、国内で売れているのは軽自動車とハイブリッド車ということがわかる。
国内の新車市場全体は、2014年4月に実施された消費税増税(5%→8%)の影響を大きく受けた。つまり、消費税増税前の駆け込み需要と実施後の反動減である。年度ベースではこれが明確に現れ、1〜3月の駆け込み需要の高まりの反動減が4月以降予想以上に長引いた。結果、2104年度の総市場は529万7110台で、前年度比6.9%減となった。
新車総市場のうち、登録車が312万3980台で同8.9%減。軽自動車が217万3130台で同3.9%減。ともに消費増税の駆け込みの反動減が長引き前年度割れしたが、軽自動車市場の高水準はキープされており、日本国内の新車市場は今や軽自動車に支えられていると言っても過言ではない。
その軽自動車において、昨年度は大きなエポックがあった。スズキの新型軽自動車「ハスラー」がカーオブザイヤー(RJC)に選ばれ、さらに特別賞として「日本(ニッポン)の軽自動車」が表彰されたことである。もちろん、「ハスラー」が軽自動車SUVの新ジャンルを開拓する新型車として、並み居る小型車以上の新型車をさしおいてカーオブザイヤーを受賞したことは評価されるが、それ以上に注目されたのが「日本(ニッポン)の軽自動車」の特別表彰だった。
「小さいのに、便利で楽しい。トルクも太いし、乗り心地もいいし、ボディも好みのものが選べるニッポンの軽自動車。多士済済。1950年代に誕生してからすでに半世紀以上。数々の逆境を乗り越えて進化した。世界に例を見ない、日本独自のジャンル。改めてその栄誉を称えたい」
これは、主催者RJCの表彰理由である。
■「ようやく軽自動車が誉められた」 鈴木修会長のかつてない歓喜
これを最も喜んだのが、スズキの鈴木修・会長兼社長である。齢(よわい)84歳を迎えたこの自動車業界現役最長老経営者は、「ミスター軽自動車」とも呼ばれる。彼は筆者にこう語った。
「排ガス規制対応で危機に陥ったり、政府機関が軽自動車をなくせと提言したり、苦しいときに軽自動車を何とかしたいとやってきた。軽規格という制限の中でここまで成長させたのは、軽自動車各社の技術陣の努力の賜物。私もスズキ入社以来、50年軽自動車と共に生きてきたが、ようやく軽自動車が誉められた」
筆者も鈴木修会長とは40年近くの付き合いだが、これほど感慨深く嬉しそうに語ったのは、極めて稀なことである。
軽自動車は、日本のモータリゼーションの黎明期の1950年代に国が提唱した「国民車構想」に端を発する。排気量規格は当初の300ccから、360cc→550cc→現在の660cc以下と変遷し、ボディサイズも現在の全長3.40m以下、全幅1.48m以下、全高2m以下へと規格変更され、道路運送車両法でその枠が制約されている。
過去、排ガス規制、安全問題、登録車の大衆車クラスの台頭などから、その存在が危機的状況となった時期もあった。また、軽自動車は「がまん車」と呼ばれ、「走ればいい」と揶揄された時代もあった。
しかし、制約された規格の枠内で軽自動車メーカー技術陣が工夫をこらし、開発や小さいクルマづくりの合理的生産手法をものにする切磋琢磨が実を結んできたのである。今や、軽自動車のバリエーションはセダン系からハイト(背高)系、SUV、スポーツカーまでまさに多士済々だ。もちろん地味だが、トラック、ワンボックスバンの軽貨物車も農業・漁業や配送用として、堅調な市場動向を示す。
次世代車として多様なエコカーが出現する中で、軽自動車のガソリン車の燃費改善・向上への動きは、30km/L超競争の時代に入っている。昨年末にスズキが発売した8代目の新型アルトは、ガソリン車ナンバーワンの低燃費37.0km/Lを実現した。また、軽自動車にも先進安全技術が搭載されるなど、性能、品質、走り、デザインが大きく進化している。かつての「軽がまん車」のイメージは、完全に一掃された。
そんな軽自動車だが、登録車のような所有権登録制度がなく、「届出」制であり、多くの自治体で車庫証明が不要。現在、おおむね人口10万人以上の都市で、ナンバープレート公布後保管場所の届出が必要となっている。また、税制面や保険料などで軽自動車の維持費が安い。
税制面での優遇、あるいは軽自動車の「恩典」と言った見方が、国際社会や国内からも論議されてきた。TPP (環太平洋戦略的経済連携協定)交渉の中でも、日本の農業が前面で注目される一方、米国は日本の軽自動車規格が米製自動車の参入障壁だから「廃止すべき」と主張してきた。
また、かつては自動車業界内からも軽自動車の恩典に異論を唱える声が上がった時期がある。それは、エントリーカー(入門車)として軽自動車と登録車のリッターカークラス(大衆車)の競合が激しかった頃で、軽自動車が登録車に対して税制面で有利なことなどによるものだった。
しかし、TPPでの米国の主張も、日本で米国車が売れないことに対する不満からのゴリ押しであり、「どこの国のメーカーでもつくってもらえばとオープン。優遇税制でもなければ、非関税障壁でもない」というのが日本の主張。米国側も何となく主張を引っ込めてきた状況にある。
一方、国内自動車業界としても、自動車関連諸税について軽ユーザーの税負担が国際水準であることに鑑み、まず軽自動車の税制をベースに自動車全体の税制を抜本的に見直すべきとの観点で一致してきている。
■今や国内新車販売の4割超に トヨタや日産も乗り出す市場の構図
今や、軽自動車は国内新車販売の4割以上を占め、特に地方部で需要が根強い。大都市部では、公共交通機関ネットワークが形成され、移動手段として活用されているが、地方ではクルマなくして生活ができない、移動手段が他にないというのが実態だ。「一家にクルマが1台」という時代から、今では「家族1人に1台ずつ」が普通になりつつある地方において、住民の複数台保有には軽自動車が必ず含まれている。場合によっては、軽自動車は一家に2台、3台のケースもある。
日本国内の自動車市場は、ピークがバブル景気の頂点だった1990年で777万台。これを境に停滞期に移り、現状で500万台のラインをキープしているが、今後の少子高齢化や総体的人口減、消費構造の変化といった要因で市場が縮小する予測が多く出されている。いずれにしても保有の循環ビジネスのトレンドから自動車保有が大きなベースとなる。ただ、7800万台の四輪車保有が横ばいから減少にある中で軽自動車保有は微増の傾向を続けている。
軽自動車の位置づけが高まる中で、軽自動車生産・販売の構図はここへ来て大きく変わった。かつて日本の乗用車メーカー8社のうち「軽メーカー」と言われてきたのはスズキ、ダイハツ、三菱自、マツダ、スバル、ホンダの6社だった。このうち、軽自動車生産からマツダ、スバルが撤退。一方でトヨタ、日産が軽自動車販売にも乗り出した。マツダ、スバルは生産を止めたが、スズキ、ダイハツからOEM(相手先ブランド製造供給)による販売を継続している。今や乗用車8社全てが、軽自動車販売を扱う時代に変わった。
それだけ、軽自動車が自動車販売店の品揃えに欠かせなくなったわけである。日産は、冒頭の新車販売ベスト10に三菱自からのOEMである「デイズ」が4位に入り、自社生産車をさしおいて日産の最量販車となっている。三菱自との共同開発に加え、近い時期に軽自動車の自社生産に踏み切ることになりそうだ。
ホンダも一時期、軽自動車を軽視していた向きもあったが、リーマンショックを機に国内軽自動車の開発・生産を大転換して、国内市場シェアを伸ばした。一方でスズキ、トヨタをバックとするダイハツのトップ争いは熾烈で、2014年は年間でスズキ、年度でダイハツがトップとなった。
その軽自動車だが、4月から地方税である軽自動車税が増税となり、逆風も吹いている。軽自動車をベースにした税制面の簡素化、タックスオンタックスの改正などの道が正当な論理性だが、やはり「売れているから取れるところから取る」という論理で、軽自動車がターゲットにされたのか。
■「ガラパゴス軽」から「グローバル軽」へと進化できるか?
今後の軽自動車の行方だが、やはり何と言っても、日本独自の規格による軽自動車が将来にわたって存続していけるかという点が焦点となる。グローバル化が進み、ゴリ押しではあるがTPP交渉下で米国が行っているような主張は、軽自動車の位置付けが高まるほど、海外から顕在化することもあろう。
だが、「軽ガラパゴス現象」と揶揄する見方は、短絡的に過ぎないのではないか。軽自動車のモノづくりについては、ダイハツの合理的かつ効率的な「小さいクルマづくり」に、親会社のトヨタが驚嘆したという事実がある。かねてから排気量660ccエンジンをボアアップして海外展開してきた軽自動車。グローバル戦略としては、800ccとか1000ccが欲しいとの見方が強いのも確か。だが、国内での軽自動車規格がこれ以上拡大すると、軽自動車ではなくなるという事情がある。
軽自動車をベースに、早くからインドに生産面で進出してトップシェアを維持し続けるスズキ、インドネシアで高い実績を誇るダイハツを見ると、今後も新興国地域で軽自動車のモノづくりは生かされていくはずだ。「日本固有だから云々より、それぞれの国々で個性があっていいし、小さなクルマでいいものを供給することを貫く」という、鈴木修・スズキ会長の軽自動車への信念に共感する。
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