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官の介入・肥大化は正当化できるのか。写真は政投銀の所管省庁である財務省 Photo:yayoicho-Fotolia.com
政府系金融機関は本当に必要か
http://diamond.jp/articles/-/69903
2015年4月10日 安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長] ダイヤモンド・オンライン
政府は2月20日、日本政策投資銀行(政投銀)と商工組合中央金庫(商工中金)の根拠法の改正案を通常国会に提出した。2022年度までを目途としていた政投銀と商工中金の完全民営化の時期を先延ばしして、当面の間、政府が株式の一部を保有し続ける内容だ。また、官が主導するファンドも相変わらず跋扈(ばっこ)し続けている。
しかし、本来は民間でできることにまで官が介入し、市場規律を歪めるのは資本主義国家としての信認を失うものであり、金融立国の障害となるものだ。以下、どうしてこのような議論が出てきたのか、その背景を探ると共に、なぜそれが問題なのかについて考えてみたい。
■政府による企業支配を続けるまやかしだらけの法案内容
去る1月8日の自民党政務調査会の部会にて、「成長と安心のために必要な資金供給に関する当面の対応」なるペーパーが配布された。もちろん、それまでに財務省や経済産業省など関係各省は政府・与党との間で十分な根回しをしていたに違いないのだが、そのペーパーの内容については与党内でさえ、相当数の議員から異論が出るものだった。
その理由は、提案されている内容が、政投銀と商工中金の完全民営化の先送りであるばかりでなく、むしろ、それら政府系金融機関の業務拡大を目指すものだったからだ。
政投銀と商工中金の完全民営化を延期し、彼らに業務の拡大を許容する理由として挙げられていたのは、(1)成長マネーの供給、(2)セーフティネットマネーの供給、の2点だ。
いわく、「企業の潜在的な成長力を引き出すには、資本性資金を中心とする成長マネーが不可欠だが、現状、民間の担い手・市場が未成熟」「金融危機や大規模な自然災害は、実体経済に大きなダメージ。危機に対する備えなしには、企業は思い切った成長への投資ができない」。
そのため、政投銀には、危機対応業務の実施を義務付け、また、2013年に立ち上げた「競争力強化ファンド」について法律上の「特定投資業務」とし、2020年度末までの間、政投銀に対する政府の出資を可能とする。政投銀は2025年度末までに特定投資業務によるすべての投資資産を処分し、同業務を終了するよう努める。現在、政府が政投銀の株式の100%を保有しているが、特定投資業務の的確な実施を確保するため、2025年度末までは政府に2分の1超の株式を保有する義務を課し、その後も当分の間、政府が3分の1超の株式を保有するよう義務付ける。商工中金は政府が株式の約46%を保有しているが、当分の間必要な株式を保有する(下線筆者)というのだ。
政投銀は、この法改正に基づき、競争力強化ファンド(現在1500億円)を近く衣替えし、5年間で政府と同行が折半出資する5000億円規模のファンドにするという。これに対し、政投銀幹部は「毎年の投資額を1000億円規模で上乗せするには相当の努力が必要」として、地域金融機関に協力を依頼したという(3月20日付「ニッキン」)。
もちろん、自民党向けペーパーには、民業を圧迫しないことや、将来は民間が主体となるべきことなどを付け足しているが、政投銀の新たなファンドは2025年度までに終了するよう「努める」に過ぎず、政府による政投銀の株式保有は「当分の間」続けられるのだから、政投銀が政府の手足となって民間企業への投資を永遠に続けていくことが可能な内容だ。
つまり、民業圧迫はしないといいつつ、その実態は政府による企業支配が続けられるように工夫された、まやかしの法案とも言えるものだ。
■問題だらけの「官官ファンド」 投資家である国民が軽く見られている
政投銀が「競争力強化ファンド」をさらに拡充し、「特定投資業務」として創設する新ファンドは、新事業の開拓・異業種連携・休眠特許の活用・地域間M&A・業務再編など、民間企業の活動に対して資本性資金を投下しようというものだ。
筆者は連載第51回「乱立する官民ファンドはなぜ有害かhttp://diamond.jp/articles/-/61434」で、資本市場の規律を持たない官主導のファンドが跋扈する現状の問題点を指摘したばかりだ。ファンド募集の苦労もしないで、国民の税金を原資に、通常投資家(この場合は国民)がリスクに見合ったものとして要求するリターン(収益)目標さえない、多数の官主導のファンド(図表1)は、そのような甘いお金を得る民間企業にモラルハザードを生み、国民負担に直結する(その可能性は極めて高い)。
そして、国が、資本市場の規律のないファンドを乱立させていたのでは、本来日本が国策として育成すべき、資本市場の規律を持った真っ当な民間のPE(企業再生)ファンドを軒並み死滅させてしまうだろう。
◆図表1
資料:内閣官房「官民ファンドの運営に係るガイドラインによる検証報告(第2回)」
拡大http://diamond.jp/mwimgs/a/6/-/img_a6442527bde3667365264f077bd2f7e4661076.jpg
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しかも、今回提案されているのは、「官民ファンド」より、もっとたちが悪い「官官ファンド」だ。すなわち、ファンドの出資金の半分は国(産業投資)、半分は政投銀というが、政投銀は国の支配下にあり、その原資や資金調達の信用補完は国から出ているのだから、どこにも民間の影がない。
国民の税金が、「収益目標がない一方で、リスクだけは青天井」の事業に投下されるという話なのだ。通常のPEファンドの運営者が地を這うような努力をしてやっとの思いで募集した内外の機関投資家から常に厳格な監視を受け、仮に投資に失敗したら自らの資金も将来のキャリアも失うという厳しい規律を持って仕事をしているのに比べて、官官ファンドの投資家である国民は実に軽く見られたものである。
そもそも、今回の政投銀のファンドの投資対象は、民間のPEファンドが通常対象としている、まさにそのものである。しかも、先述のように、政投銀は、それだけの案件を探すのが難しいからといって民間金融機関に協力まで依頼しているというのだ。であれば、いったい、誰のためにこのようなファンドを作らなければならないのだろうか。民間のPEファンドは、豊富な実績やノウハウを持っていてもなお、必死で投資家を集める必要があり、そして、案件は当然自力で探している。仕事に取り組む厳しさは比較にならない。
官が主導する、資本市場の規律のないファンドの乱立は、こうした厳しい現実に直面している民間のPEファンドをさらに追いつめることになりかねない。
■産業金融への国の関与を即刻中止せよ
自民党のペーパーには、将来的には「大規模な民間ファンドの組成を実現」と書かれている。この問題意識が本当なら、極めて正しい。連載第22回・23回で詳細に述べたように、米国では、既に40年近く前の法改正を契機に、公的年金を含む年金マネーが民間PEファンドに流入することによって、産業の新陳代謝が進んだ。現在、欧米の大手PEファンドは、軒並み数兆円規模となっているが、その過半を年金や大学基金等から得ている。
日本に大規模なPEファンドが存在していない理由は、(1)年金資金がPE投資を行っていない、(2)銀行系ファンドや官民ファンドなど資本市場の規律を持たない擬似的なPEファンドが跋扈している、の2点に尽きる。
このうち、(1)については、今般の公的年金の運用改革で、公的年金による民間のPEファンドへの投資が許容されることとなり、大きな前進があった。政府としては、民間企業に対して資本性のニューマネーを機動的に投下できるのはPEファンドだけであることや、年金運用面でもPEファンドへの投資はリスクを低減しリターンを上昇させる可能性があること(連載第5回http://diamond.jp/articles/-/11177)などを踏まえて、公的年金ほか年金等の長期投資家の資金を「国産・民間・独立系」のPEへ誘導する施策を、一刻も早く練るべきだ。また、もし財政資金を使えるのであれば、官のファンドをつくるのではなく、厳しい資本市場の規律を持つ、民間独立系のPEファンドへのシードマネーの供給をより拡充すべきなのは明らかだ。
銀行系ファンドは、「債権の保全と株主の利益」という利益相反構造を内包し、5%ルールの抜け穴にもなることから即刻禁止すべきであり(連載第21回http://diamond.jp/articles/-/17937)、また、官民ファンド(今回の「官官ファンド」も含む)は既に述べた理由により、これまた即刻縮小すべきなのだ。これと正反対の方向である今回の法改正には懸念を持たざるを得ない。
政府系金融機関のその他の業務についても、民間金融機関で十分対応できるはずだ。危機対応業務についても、別に政府系金融機関を残す必要はなく、民間の金融機関に対して日頃から公共性の自覚を促すと共に、必要があれば緊急措置(信用保証制度の拡充など)を発動すれば足りるはずだ。
官が肥大化することは、必ず民間金融機関の機能を低下させることに直結する。地銀協の寺門会長も、2月20日のプレスリリースで「民間にできることは民間に委ねる」との原則を引用しつつ、民間の補完に徹するよう求めているが、筆者も全く同感だ。
民間の金融機関が、民間独立系のPEファンドと手を組んで、すなわち、民間が主導して「資本市場の規律ある産業金融」を実現していくことこそ、まさに金融立国への道である。
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