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AIIBが担う新シルクロード構想の裏側に透ける中国の焦り
http://diamond.jp/articles/-/69906
2015年4月10日 姫田小夏 [ジャーナリスト] ダイヤモンド・オンライン
中国政府は3月28日、中長期戦略である新シルクロード構想「一帯一路」の詳細を公表した。これにより、対象エリアやプロジェクトの基本構想(「推動共建絲紬之路経済帯和21世紀海上絲紬之路的原案与行動」)が明らかになった。
政治、経済、安全保障と中国の思惑を満載した新シルクロード構想は、アジア、欧州、アフリカ大陸とその海洋を舞台に、東アジア経済圏、欧州経済圏、この2つの経済圏の間に存在する内陸経済圏と、3つの経済圏により構成される。
その中でも陸のシルクロードとして重視されるのが、@中国−中央アジア−ロシア−バルト海を囲む欧州、A中国−中央アジア−ペルシャ湾を囲む西アジア、B中国−東南アジア−南アジア−インド洋のルートであり、海のシルクロードとして重視されるのが、C中国−南シナ海−インド洋/太平洋−欧州のルートだという。
また、中国国内のいくつかの都市を重要な窓口として指定した。中央アジアやパキスタンを経て南アジア、西アジアに抜ける要所となる新疆ウイグル自治区を、商業や貿易の中心を担う新シルクロード構想の核心に据えた。また、福建省を海のシルクロードの核心に据え、自由貿易区を建設する。
プロジェクトの重点は、港湾、エネルギー、通信、交通などのインフラ建設や、国際輸送の強化などのほか、貿易障壁の解消、原子力発電の開発、農水産業へのテコ入れなどを盛り込んだ。そして、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が融資を担う――。
■「世界の工場」が終息した今、雇用を守るため止むに止まれず
さて、中国がイニシアチブを握る新シルクロード構想は、中国の国際社会への影響力増大ばかりが注目されるが、ひとたび国内に目を向けると「崖っぷちの中国」があぶりだされてくる。そこには、やむにやまれず新シルクロード構想を打ち出したという切迫した事情がある。
「つい先日、広東省に出張に行ったのですが…」と話すのは都内のシンクタンクに在籍する中国人女性だ。仮の名前を陳さんと呼ぶことにしよう。この陳さんが明かす現地の状況は、つい数年前の「活況呈する中国経済」とはほど遠いものだった。
広東省では今、閉鎖する工場が少なくない。経済発展に伴う人件費や物価の上昇に加え、近年の地価高騰や通貨切り上げで、中国沿海部では生産の維持が困難になった。中国はまさしく「世界の工場」に終止符を打とうとしており、繊維工場や電子部品工場が相次いで倒産している。経営者が夜逃げするなどのニュースも決して珍しいものではなくなった。
数ヵ月分の給料の未払い、住宅積立金の持ち逃げ、年金の未納――、経営陣たちに裏切られた労働者たちの行き場のない不満が爆発する。何百人単位の労働者が街に繰り出して行う抗議活動も、広東省のあちこちで散見されるようになった。
失業者を生むのは工場閉鎖だけではない。マンション建設が下火になった今、建設現場の担い手だった農村出身の「民工」たちも行き場を失っている。彼らは重い資材は担げても技術がない。工場で働きたいと思っても雇ってもらえないのが現実だ。
マンションブームが去って路頭に迷うのは民工ばかりではない。当時、分譲マンションを仲介していた若者たちも、次なる就職先がなかなか見つからず、途方に暮れる。
街には職場を失った若者が、一日中スマートフォンを片手に手持無沙汰にしている。トランプ博打にのめり込む失業者もいる。人を騙して日銭を稼ぐ者もいる。
中にはスマートフォンのメッセンジャーアプリ「wechat」で鬱憤を晴らす者も。最近、こうした失業者がアプリを使って噂や流言を流すため、地元政府は手をこまねいている。
■雇用維持に必要な成長率を取り戻すための起爆剤
陳さんはいう。
「この就職問題を解決しないと、社会不安が高まってしまう。雇用の確保、これこそが中国政府の喫緊の課題です」
今年3月初旬に開催された全国人民代表大会の政府活動報告で、昨年の経済成長率は24年ぶりの低い水準の7.4%となった。背景には、住宅市場の低迷、工業部門の生産過剰などがある。その一方で、2015年の国内総生産(GDP)伸び率については「7%前後」とした。
陳さんはこの「前後」という言葉にも不安を寄せる。
「6%台もあるかもしれない。いや、ヘタしたら5%台になることだって…」。
雇用維持のためには「8%以上の成長率」の維持が必要とされてきたが、それを割り込んでしまった今、中国経済を回す歯車は大きく狂い始めた。
「このままでは政権維持も難しい」――。中国の有識者たちの表情には、冷やかしなどではない、真に迫る憂いがくっきりと表れるようになった。
行き詰った中国経済。これを打開するには「巨大プロジェクト」しかない。閉塞感ある中国ではとにかく何らかの起爆剤を打つ必要がある。それが「新シルクロード構想」なのだ。
新興国におけるインフラ建設を中国が請け負えば、「人口の輸出」に結び付けることができる。13億人という桁外れの人口を食わせていくには、もはや海外に雇用の受け皿を創出するしかない。
■新シルクロードは過剰在庫のはけ口?
「新シルクロード構想」に託すのは、失業対策だけではない。中国は今、積み上がった過剰在庫のはけ口に頭を抱えているのだ。
前回、当コラムでも紹介したが、鉄鋼業界の在庫過剰は今や中国経済の大問題である。中国では同じような製鉄所がひしめき、同じように低質な製品を市場に送り出しているのが現状だ。
ならば、鉄鋼業界をリストラすればいいと思うだろう。だが、それができないのが中国だ。中国の製鉄業が集中する河北省で、仮に生産過剰と言われる製鉄業界を整理すれば、たちまち10万人が職を失ってしまうからだ。
そこで中国は、この「新シルクロード構想」をぶち上げた。アジアインフラ投資銀行(AIIB)に融資させ、相手国でインフラ・プロジェクトを立ち上げる。仮に、中国が高速鉄道を受注すれば、鉄鋼、セメント、設備など中国国内の過剰在庫を送り込んで、消費することができる。
逆に、こうした延命策を打ち出さない限り、中国の製造業は続々と倒産しかねない。かねてから「技術革新」の必要性は叫ばれてきたが、旧態依然とした「加工業」に甘んじてきたのが中国企業である。時間と資金を惜しみ、あるいは不動産投資にのめり込み、場当たり的にその場をしのいできた中国企業は、いよいよ胸突き八丁の崖っぷちに立たされている。
が、そこに中央政府による救済の手が伸びる。それが「新シルクロード構想」だ。中国企業はいままでどおり、低廉で安価なものを生産すればいい。市場は中央政府が開拓してくれるのだ。こうすれば、まず金融の混乱は防げるだろう。中国の、中小企業含む製造業が安泰であれば、銀行は不良債権に悩むこともないし、社会は雇用不安を解消できる。
今の中国、「仕事がない」と持て余しているのは末端の労働者だけではない。今や、政府のお役人ですら、やるべき仕事を失ってしまった。
振り返れば、改革開放政策が導入されて以降、彼らの主たる業務とは、ずばり「外資誘致」だった。地方政府のお役人が日本を訪れ、投資誘致を目的にセミナーや説明会をさかんに行った時代があった。
「GDP競争」に駆り立てられた地方政府は、血眼になって製造業を中心に日本企業を物色した。「脈あり」と思う企業を現地視察に誘い出し、口説き落とすのが当時のお役人たちの仕事だった。
しかし今、中国を目指す日本の製造業はほとんどない。また、それは日本に限ったことではなく外資企業も同じだ。対中直接投資額のトップ5(香港を除く)と言えば、シンガポール、台湾、日本、韓国、米国だが、2014年の韓国を除いた直接投資は、前年を大きく割り込んでしまった。それが今の中国にとって大きな懸念事項となっていることは間違いない。
他方、つい最近まで地方公務員らが夢中になってやったもうひとつの仕事がある。それが「土地の切り売り」だ。国家の所有に属する土地(厳密には「定期使用権」)を、地方政府は仕入れ値なしで競売にかけ、地元デベロッパーに落札させて巨額の収入を得た。過去十数年で地方政府は驚くほど肥えた。だが、今はこうした不動産取引も抑制状態にある。
地方政府は2つの重要な仕事を失ってしまった。だが、公務員らを日がな一日ボーッとさせておくわけにもいかない。暇になった地方政府に仕事を与えるのも、新シルクロード構想の妙味である。
■国内はバブル再燃の期待に沸いているが…
「今度は新シルクロード構想の恩恵にあやかるぞ」――
中国のネットの奥からは生気を取り戻したかのような声が聞こえる。特に、中国内陸部では、中央政府が上げた「西進」の好機を掴もうと沸き立っている。
一方、中国政府が新シルクロード構想の構想を明らかにしたことから、中国は今「シルクロード・ブーム」だ。3月末、上海株式市場の総合指数が7年ぶりに高値を付けたが、背景にはもちろん、「新シルクロード構想」の正式発表があったことは想像に難くない。
中国のネットユーザーの間では、新シルクロード構想に関連して、陕西、甘粛、青海、寧夏、新彊、四川、重慶、雲南、貴州、西蔵などに立地する企業銘柄に関心が集まっている。もちろん株価だけではなく、それらの土地ではまた不動産価格が上がるだろう。
これを「同じ歴史の繰り返し?」と感じるのは筆者だけだろうか。
国際社会には「強大」を演じる中国だが、国内事情は非情に危うい。しかも、もっと危険なのは、「臭いものに蓋」よろしく、根本的解決を避けることにある。問題の所在を突き詰めれば、制度設計、さらに追及すれば「政治制度の問題」に行きつくためだ。
中央政府主導の「新シルクロード構想」は「待望の救済策」だと言われている。だが、果たして、この巨大プロジェクトは良薬と言えるのだろうか。“中国流インフラ開発”の新興国への拡大は景気に浮揚感を与えるとはいえ、「問題の先送り」という懸念は払しょくできない。
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