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中国は経済の勢いを維持するのに苦労する
2015.4.9(木) Financial Times
(2015年4月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
中国軍に新たなハッカー部隊、宇宙産業にサイバー攻撃か 米社
急成長を続けてきた中国経済。成長の鈍いニューノーマルは、どんなものになるのか(写真は上海)〔AFPBB News〕
中国の当局者はスローガンが大好きだ。筆者は先月、中国政府の最高幹部や世界の企業関係者、政策に携わる識者が集まる年次総会「中国発展ハイレベルフォーラム」でこのことを思い出させられた。今年のスローガンは「ニューノーマル(新常態)」だ。
ニューノーマルは(筆者の知る限り)、マッキンゼーが2009年に初めて打ち出した概念だ。
高所得国に住む人は今、自国経済のパフォーマンスが根本的に変わったという考えに慣れている。だが、中国人にとっては、ニューノーマルは何を意味するのだろうか。
中国の副首相で共産党中央政治局の常務委員である張高麗氏は同フォーラムで、ニューノーマルを以下のように表現した。
第1に、成長率の低下にもかかわらず、「発展は依然、中国にとって最大の課題だ」。第2に、「大量の投入物、大量のエネルギー消費、外需への過剰依存を特徴とする古い成長モデルは、もはや持続し得ない」。第3に、中国人はまだ重要な「戦略的な機会」を享受しており、それゆえ「我々の将来について完全に自信を持っている」。
我々も同じくらい自信を持つべきなのか。筆者はその答えが「イエス」であるべき大きな理由を2つ、また、答えが「ノー」かもしれない理由を2つ挙げることができる。
過去の実績とポテンシャルを考えれば盤石にも思えるが・・・
答えがイエスであるべき最初の理由は、過去の実績だ。国際通貨基金(IMF)によると、中国の1人当たり国内総生産(GDP、購買力平価ベース)は1980年に米国のレベルの2%強だったものが、昨年は24%まで増加した。中国ほど巨大な国がこれを達成したことは驚異的だ。
中国の政治をどう評価するとしても、このような成功の根底にある能力、世界を経済的に一変させ、政治的に一変させようとしている能力は認めなければならない。
答えがイエスであるべき2つ目の理由は、中国がとてつもなく大きな強みとポテンシャルを持っていることだ。
中国の国民は、勤勉で、起業家精神に富み、教育熱心であることで有名だ。国民貯蓄率はGDP比50%近い。このため、高い投資率にもかかわらず、中国は極めて大きな債権者なのだ。
さらに、中国の生産性はまだ高所得国のレベルに遠く及ばない。経済協力開発機構(OECD)は最新の中国経済調査で次のように指摘している。
「人口の半分程度がまだ農村部に住んでいることから、生産性が高く都会的な仕事がある都市への移住の継続を通してさらなる生産性拡大を達成できる」
戸籍制度の改革と自由化は、そのような移住を促すだろう。
さらなる機会の源泉は、現在の欠陥のある政策と慣行だ。過剰な補助金のせいで投資収益率は低下している。成長に対する「全要素生産性(TFP)」の貢献度――資本と労働力が利用される効率性の改善――も低下している。
中国は市場原理への依存を高め、法制度を予想可能なものにし、家計消費と公共消費を増やす方向へ転換する計画を立てており、これが、過去数十年間よりは控えめなペースとはいえ、さらに20年間キャッチアップ成長を遂げる潜在性を解き放つかもしれない。
著しくバランスを欠いた経済の難点
この実績とこのポテンシャルがある以上、中国がまだ何年も急成長する能力を疑う理由などあるだろうか。
1つ目の理由は、非常に速く成長することは、自転車に乗ることと似ていることだ。スピードが維持される限りはうまくいくが、ひとたび減速すると、自転車が揺れ始める。減速をうまく管理するのが非常に難しいのは、このためだ。
2つ目の理由は極めて重要で、中国経済が著しくバランスを欠いていることだ。バランスが取れていない経済の速度を落とすことは特に難しい。
アンバランスな経済の際立つ側面は高い貯蓄率であり、ひいては需要源としての投資への依存だ。
だが、経済が減速するにつれ、投資に対する需要は景気の減速以上に大きく減少する可能性が高い。
その理由は、過去の投資は10%の年間成長を前提として行われたためだ。
成長率が大幅に低下すると、過剰生産能力は慢性的なものになる。
過剰生産能力を抱えた時、人は何をするか。投資をやめる。
中国政府が高い成長率を維持する必要があるのも、このためだ。成長を維持できなければ、投資が激減し、破滅的な影響を及ぼしかねないのだ。
日本経済を打ちのめした不吉な組み合わせ
それだけではない。過剰債務と減速する経済の組み合わせは特に有害だ。だが、信用を原動力とした不動産関連の投資ブームが生み出したのは、まさにそれだった。たとえ債務の原因である投資が最終的に利益を生む可能性があるとしても、成長が減速するにつれて債務返済能力も低下する。
この債務返済能力の低下は、需要面で「バランスシート不況」を生み出す。これが上述した投資の調整を増幅する。1990年代に日本経済を打ちのめしたのは、この組み合わせだった。
中国経済が安定的かつ持続可能な形でニューノーマルへの転換を果たすためには、そのような崩壊を絶対に避けなければならない。それを達成するためには、非常に巧みなマクロ経済運営が必要になる。
中国がいずれ短期金利をゼロにすることは、すでに容易に想像できる。中央政府は近く、財政赤字を大幅に増やすことを余儀なくされるかもしれない。多額の債務を抱えた地方政府が支出を削減した場合は特にそうだ。
中国人民銀行はそのように増加した中央政府債務を直接的に穴埋めするかもしれない。
あるいは、政府は商業銀行から資金を借り、債券市場の発展を加速させるかもしれない。
公的債務の総額はOECDの推計でGDP比50%程度なため、さらなる借り入れの余地は間違いなく存在する。
中国がこうした調整をいかに成し遂げるかは、世界に多大な影響を及ぼす。すでに、中国の減速はコモディティーの需要(および価格)を引き下げることに重要な役割を果たした。
世界は中国の成功を祈るしかない
貯蓄率が高止まりしたままの状態で国内投資のハードランディング(硬着陸)が起きるようなことがあれば、貿易黒字が爆発的に増加するかもしれない。そうなれば、すでに非常に困難な時期にあって世界的な過剰貯蓄を悪化させることになる。
世界は中国当局がこの移行を成功裏に成し遂げることを祈らなければならない。別の可能性は、想像するに堪えない。
By Martin Wolf
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43481
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