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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第120回 実質賃金は4月にプラス化するか?
http://wjn.jp/article/detail/3730645/
週刊実話 2015年4月16日 特大号
安倍晋三内閣総理大臣は、3月16日の参議院予算委員会において、
「4月になれば実質賃金がプラスになっていく可能性がある」
と強調し、野党側が、
「消費増税に伴う物価上昇で実質賃金が下がっている」
と、疑問を呈し、反発する光景があった。
筆者は、4月以降に実質賃金がプラス化する可能性はあると考える。ただし、別に「デフレ完全脱却」という話ではない。
デフレから完全に脱却するには、
「インフレ率(消費者物価指数など)がプラスで推移するが、それ以上のペースで名目(額面)の賃金が上昇し、実質賃金が増加する」
状況にならなければならない。
物価が継続的に上昇し、我々が働いて得る賃金が「物価以上のペースで増大する」構造にならなければ、真の意味で「デフレ脱却」にはならないのだ。
実質賃金は「名目の賃金から物価変動率を控除する」形で求められる。豊かになるとは、物価上昇以上に賃金が上がっていくこと、すなわち実質賃金の上昇を意味するのだ。
「そんなことが、起きるのか?」
などと思わないで欲しい。我が国は'97年の橋本政権の緊縮財政までは、実質賃金が長期的に上昇していた。橋本政権期にデフレに陥り、我が国は、
「物価は下落するが、それ以上のペースで賃金が落ちていく」
デフレ型の実質賃金の下落局面に入ったのである。
さて、民主党政権後期から直近までの実質賃金、CPI(消費者物価指数)、そして日銀のインフレ率の基準であるコアCPI(生鮮食品を除くCPI)の対前年比上昇率をグラフ化してみた(本誌参照)。
グラフ化すると、2013年に日本銀行が「2年でインフレ率2%」というインフレ目標を掲げて以来、我が国の物価と実質賃金に何が起きていたのか、一目でわかる。
2013年3月まで、我が国は「物価も賃金もあまり変動しない」、つまりは実質賃金が横ばいで推移する状況が続いた。
'13年4月に日銀がインフレ目標を設定し、大々的な量的緩和が開始された。我が国において、岩田規久男副総裁がかねてより主張していた「インフレ目標を設定し、中央銀行がコミットメントすることで期待インフレ率を高め、デフレから脱却する」というデフレ対策の“実験”が開始されたのだ。
結果、何事が生じたか。
日銀のコミットメントにより、円が売られ、為替レートが下落、円安になった。円安は輸入物価を上昇させ、消費者物価指数(CPI)も押し上げる。
そのため、'13年5月の時点から早くも実質賃金の下落が始まる。賃金が上がらない環境下において、物価が先行して上昇したためだ。
その後、'14年4月に消費税増税が強行され、物価が強制的に引き上げられ、実質賃金は大幅に下落。図の通り、“鰐の口”が大きく開いたわけである。
2014年6月以降、実質賃金の下落幅は縮小し始めるが、問題は同時にCPI、コアCPIの上昇率が縮小を始めたという点だ。すなわち、今度は鰐の口が閉じ始めたのである。
これが何を意味するか。要するに、最近の実質賃金の「下落幅の縮小」は、名目賃金の上昇ではなく、主にインフレ率の低下によりもたらされているという話である。
興味深いことに、直近('15年1月)の実質賃金の「マイナス幅」と、CPI、コアCPIの「プラス幅」は、共に2%前後となっている。すなわち、現在の実質賃金のマイナス分は、ちょうど消費税増税分であり、4月になれば物価も実質賃金も共に「ゼロ」になる可能性が濃厚なのだ。
というわけで、ポイントは4月の大企業を中心としたベースアップの影響が、全体の名目賃金を引き上げるほどに拡大するか、になるわけだ。
連合の調査によると、春闘の賃上げ率は全体で2.43%。とはいえ、中小組合は0.74%と、賃上げ率は下がる。
そして、問題なのは現在の日本において、労働組合に加入している人は、1000万人に満たないという点だ。
特に、日本の雇用の7割強を支える中小企業のほとんどに、労働組合はない。すなわち、連合の調査範囲に含まれない。
もちろん、筆者は別に、
「春闘で賃上げされても、波及効果は乏しく、全体の実質賃金は上がらない」
などと言いたいわけではない。むしろ、上がって欲しいと痛切に願っている。
とはいえ、重要なポイントは、昨年(2014年)の春闘においても賃上げ率は2.16%と、2%を上回っていたにもかかわらず、名目賃金(実質ではない)は対前年比0.2%増に過ぎなかったという事実である。
ゆえに、消費税増税分を全く吸収できず、実質賃金は大きく下落した。
要は、労組の組織率が落ちており、春闘と「全体の数値」の乖離が起きているのではないか、という問題があるわけだ。日本全国の企業、特に労組がない中小企業が安倍政権の期待通り、名目賃金を引き上げない場合、'15年4月の実質賃金上昇は、単に「物価下落」を反映したに過ぎないという話になってしまう。
辛うじて、実質賃金がプラス化する可能性はなくはないが、何しろ同時に「物価下落」が始まるわけだ。実質賃金の上昇は、極めて短期的なものに終わるだろう。
結局のところ、「需要牽引型」の物価上昇が発生しない限り、
「物価は上昇するが、名目賃金がそれ以上に拡大し、実質賃金が増大する」
という、正しい意味における「デフレ脱却」、つまりは1997年までの「国民が豊かになる日本」は取り戻せないのだ。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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