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経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層
【第168回】 2015年4月8日 熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]
人口減少は地域疲弊の犯人か
都道府県別・年代別人口に注目
――熊野英生・第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
人口減少で地域経済が疲弊する
という通念に異論を唱える
人口減少によって地域経済が疲弊するという通説は、本当かPhoto:frean-Fotolia.com
筆者は、地方創生がわが国の最重要課題の1つだと位置づける。そして人口減少問題も、日本のマクロ経済の成長制約として深刻な悪影響を及ぼすと考える。しかし、「人口減少によって地域経済が疲弊する」という通念には、少しだけ異論を挟みたい。
人口移動には、(1)自然増減と(2)社会増減の両方の要因がある。通常人口減少とは、前者の自然増減を指す。しかし地域経済では、子どもが生まれなくなって人口が減った効果よりも、満足できる職場がなくて他地域に移って行った効果の方が、より人口流出として深刻なのではなかろうか。
このことは、年齢別の人口増減のグラフを見ると、一目瞭然である。以下は、関東、近畿を除く地域で、2014年中に年代別人口がどのように増減したのかを確認してみたグラフである(図表1、2参照)。九州、東北、中国の順で人口減少幅が大きい。
ここで顕著なのは、20〜24歳の減少幅が特に大きく、次いで15〜19歳、25〜29歳の減少幅が目立っていることだ。20〜24歳の減少は、若者が大学に進学した後、就職時点で地元を離れるケースが多いということである。これは、働きたい職場が必ずしもないという状況だろう。
大学進学時に地元から人口が流出するケース(15〜19歳の減少)や、地元に就職した後に若い時期に他地域に転勤するケース(25〜29歳の減少)も大きい。いずれにしても、地元で稼ごうとするときの受け皿がないことが、地域からの人口流出の減少を引き起こしている。
産業空洞化は
人口減少に拍車をかける
都道府県別の人口増減の状況を総務省『住民基本台帳人口移動報告』を使って調べると、人口流入(転入超過)となっている都道府県は、東京都を筆頭に埼玉県、神奈川県、愛知県、千葉県となっている(図表3参照)。これは、若年世代が就職口を探して、住居を移動したことを反映している。地域別人口移動の背後には、経済活動が停滞すると、それが人口流出を引き起こし、さらなる地盤沈下へと連鎖する図式が隠れているのだろう。
実例として注目したいのは、愛知県の転入・転出超過人数の時系列推移である(図表4参照)。2000年頃からリーマンショック前までは人口増加を遂げていたが、2010年には人口減少に転じた。2011〜2014年はそこそこのプラス幅に止まっている。地元の製造業が生産活動を活発化させているときはよいとしても、円高が国内の生産抑制の要因になると、人口減少の受け皿として十分に機能できなくなるということだ。
2008年末からの1ドル100円を割り込むような超円高は、産業空洞化をもたらし、各地域で製造業の雇用吸収を失わせたと考えられる。地方創生は、もっと積極的な産業育成策として推進されるべきであろう。
年齢別の人口増減のデータを見ていて気がつくのは、60〜64歳の年齢層で人口がわずかに増加する動きが、いくつかの都道府県で確認できることだ。これは、60歳代前半で退職した人が、地元にUターンするケースが意外に多いことを示している。
高齢者にUターンの動き
雇用の受け皿をどう考えるか
絶対数で見ると、鹿児島県、北海道、熊本県、長野県、沖縄県がベストファイブで人口増加が多い。特に九州南部の地域では、55〜69歳のシニア層の人口流入が比較的多くなっていて、それが人口減少の歯止めになっている(図表5参照)。また、年齢別の比率で見ると、鹿児島県(0.39%)、沖縄県(0.32%)、熊本県(0.26%)、大分県(0.23%)、鳥取県(0.22%)である。
こうしたデータから感じるのは、雇用の受け皿は若年雇用のみならず、シニア雇用においても重要だということだ。若い時期には、地元を巣立って、大都市や海外で働く人も少なくないだろう。しかし、彼らの中には60歳前後になって、地元に戻ってきたいと考える人は少なくない。
だから、彼らを厚遇する役職を自治体や地場大手企業が設けさえすれば、もっと有能な人材を得て、地域経済を発展させることはできるはずだ。最近はふるさと納税が話題になっているが、地元に帰って再就職してもらうことこそ、重要な財政基盤をつくることになる。自治体は、優遇税制や割増給与でサポートをすることも、新しい試みとしてよいのではないか。
冒頭から、人口の自然増減よりも社会増減に注目すると、地域経済が疲弊するから他地域への人口流出が起こるという因果が強いのではないかという問題提起を行ってきた。ただし、筆者は人口の自然減による地域経済の疲弊を全く否定するわけではない。むしろ、人口の自然減もまた地域経済に甚大な悪影響を与えていると考えられる。
先に、雇用の受け皿がないから地域からの人口流出が起こることを指摘した。その雇用の受け皿として大きいのは、小売・卸、サービスなど消費周りの産業である。こうした消費産業は、人口減少によって売上・収益を漸減させて雇用吸収力を弱めてきているという状況がある。
一例として、北海道の人口増減について、自然増減と社会増減に分けて、時系列の推移を確認してみた(図表6参照)。すると、2009年までは自然増減よりも社会増減が大きかったが、2010年以降は自然増減の方が大きくなっている。同じ動きは、九州、四国、中国でも見られる。
地域経済で多少景気が持ち直しても、徐々に人口の自然減が進むことで総需要が下押しされて、地元企業の回復は遅れてしまうかもしれない。
自然増減率と社会増減率の関係
人口減少の重力に負けない気構え
筆者は、人口減少によって地域の総需要が低下するとき、地域の労働需要も失われて、やむなく他地域に職場を求めて移動する傾向があるならば、47都道府県の自然増減率と社会増減率の間には正の相関関係があるのではないか、という仮説を立てた。
47都道府県の自然増減率と社会増減率の相関係数を2000年以降で調べると、ある程度両者には正の相関があることがわかった(図表7参照)。細かく見ると、2000〜2003年は現在よりも相関がずっと高くなっている。これは、不況期には自然減と社会減が同調しやすく、好景気になると同調しにくくなる傾向を暗示している。
しかし今後は、人口の自然減が趨勢的に続くことによって、人口減が需要の重石になり、社会減に連鎖していくことは想像に難くない。雇用の受け皿を大きくするための拮抗力を地域で大きくするには、人口減少が制約条件になりにくいセクターを育成することが肝要である。
具体的には、他地域との交易を通じて需要を引き込んでくることができる産業、すなわち製造業、観光、農業、運輸などを育成することが重要である。人口減少という需要制約に負けないように、他地域にモノを売ったり、消費者を呼び込んだりする工夫と言える。
最後に、「人口減少は地域経済疲弊の犯人か」という問題設定に対しては、結論としてYesと答えたい。ただし、これに抗するような産業育成や地域振興という対抗手段を打つことは可能である。問題なのは、そうした対抗手段を打たず、地域再生の努力を怠って、人口減少に手をこまねいていることである。むろん、アンチビジネスの政策を採ったり、地元企業に過剰な負担増を負わせて、雇用吸収の力を弱めてしまうことは厳禁である。
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