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未曽有の人口減少がもたらす 経済、年金、財政、インフラの「Xデー」(上)
http://diamond.jp/articles/-/69750
2015年4月8日 ダイヤモンド・オンライン編集部
今後、世界に類を見ないスピードとレベルで進むと見られる日本の人口減少。それが我々の生活に与えるインパクトは、想像以上に大きいようだ。経済、年金、財政、インフラに迫るリスクとは、どんなものか。そして、迫りくる危機にどう対処すべきか。前回に続き、人口減少に詳しい松谷明彦・政策研究大学院大学名誉教授が、詳しく解説する。(まとめ/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
■日本の経済成長率は将来世界で一番低くなる
前回は、人口減少はなぜ起きるのかについて説明しました。人口減少は、日本の将来を左右する巨大な環境変化です。今回はそれを受けて、人口減少にはどんなリスクがあるのか、どんな対応策を考えるべきかを検証しましょう。
人口減少は、経済、年金など社会保障制度、財政、そしてインフラなどに様々なリスクをもたらしますが、そのリスクの内容やリスクをもたらす元凶については、かなりの誤解があるようです。具体的に説明しましょう。
最初に経済についてですが、確かなことは日本の経済成長率が世界で一番低くなるということです。なるだろうではなく、確実にそうなります。その点は、変えようのない未来というわけです。
なぜなら、日本は、どの先進国よりも、労働者の減り方が大きいからです。というより、先進国ではむしろ労働者が増加する国が多く、減少する国でもその減少幅は日本に比べはるかに小さいのです。
一国のGDP(国内総生産)の大きさは、その国の労働者数と労働生産性(1人の労働者が1年間で生産する量)をかけたものになります。ですから経済成長率は、労働者数の増減率と労働生産性の上昇率で決まります。そのうち労働生産性上昇率については、先進国の間ではどこの国もほぼ同じです。労働生産性は、生産の機械化や製品の開発といった技術進歩によって上昇しますが、経済のグローバル化で新技術はたちまち伝播するため、先進国間では上昇率はほぼ同じになるのです。
となると、先進国間の経済成長率の相対的な関係は、労働者数の増減率によって決まることになります。ですから、日本は先進国の中で最も経済成長率の低い国にならざるを得ません。そして、技術輸入国である新興国や途上国の経済成長率は、当然先進国より高くなるので、日本が世界で最も経済成長率の低い国になるというのは、変えようのない未来なのです。
では、どの程度の成長率になるのかというと、現在の実質1.0〜1.5%の成長率が、これから年々低下して、2020年過ぎにはマイナスとなり、その後は▲0.5〜▲1.0%のマイナス成長が続くであろうと思われます。その場合、先進国でマイナス成長となるのは日本だけです。つまり世界経済のなかで、日本経済だけが縮小します。労働者の減り方があまりにも大きいため、技術の進歩をもってしてもカバーし切れないということです。
ただし、成長率の相対的な関係と違い、今度は「なるだろう」です。産業革命のような技術進歩が起きれば、マイナス成長にはならないかもしれないからです。しかし、僥倖頼みというわけにはいきません。私の推計では、これまでの40年間のような急速な技術進歩が今後も続くと仮定しました。かなり楽観的な仮定です。それでもマイナスなのだから、これは「ほぼ確実な未来」と言っていい。
■人口減少そのものがリスクではない 真のリスクはビジネスモデルの後進性
では、そうしたの変化が人口減少が日本経済にもたらすリスクかというと、そうではありません。確実ないしほぼ確実なことなのだから、リスクとは言えません。日本経済が抱えるリスクとは、マイナス成長によって日本経済自体が「衰退」するかもしれないというリスクです。ちなみに、日本よりGDPの小さい先進国はいくらでもあるのだから、経済の縮小自体は衰退とは言えません。人口が少ない国は、経済が小さくなるのは当たり前です。
経済の縮小が経済の「衰退」にまで発展してしまう理由は、日本企業のビジネスモデルの後進性にあります。他の先進国と異なり、量産効果による価格の安さこそが、日本製品の競争力の根源です。しかしマイナス成長となり、生産規模が縮小すれば、量産効果が逆に働き、価格は上昇せざるを得ません。競争力の大幅な低下から、国際収支が赤字に転落し、需要抑制政策や円安・原料不足による生産の低迷で、経済は衰退の一途を辿るといったリスクが考えられます。そうなると、先ほどの将来予測も大きく下振れすることになります。
すなわち、リスクをもたらしているのは労働者の減少や経済の縮小それ自体ではなく、日本のビジネスモデルの後進性です。他の先進国なら、もし日本のような労働者の減少に見舞われて経済が縮小しても、衰退にまでは至らないでしょう。人口減少下の経済のあり方を考えるとき忘れてはならない視点です。
次に、社会保障制度についてですが、現在の年金制度は早晩破綻するでしょう。もともと年金制度は、急速かつ大幅に高齢化する日本には、不向きな制度なのです。まず、高齢化の速度が速すぎるために、頻繁に大幅な負担の引き上げと給付の引き下げを行わなければ、たちまち年金収支は赤字に転落します。
緩やかに高齢化する他の先進国では、制度の改定は15〜20年に一度行えばよいのに対し、日本では少なくとも、国勢調査によって人口が確定する5年ごとに大幅な改定を行わなければなりません。高齢者は不安が募り、若い人は勤労意欲が低下するでしょう。年金でも健康保険でも、負担や給付の改定が速すぎると、人はついていけないものなのです。
さらに他の先進国では、2030年代の中頃にはおおむね高齢化が止まるため、その時点の高齢者と現役世代の比率をメドとして、長期安定的な年金制度をつくることができます。しかし日本では、急速な高齢化がいつまでも止まらないため、そうした年金制度をつくろうにも、そのメドすらないのです。産児制限を契機とした出産年齢女性人口の激減による急速かつ持続的な少子化という、日本特有の事情のためです。
そして最大の問題は、現役世代の負担増の行きつく先にあります。負担側と給付側の関係で見ると、米国、英国、フランスなどは、将来的に年金を負担する人が7割、もらう人が3割の水準で安定するのに対し、日本は負担する人が5割を切る計算になります。つまり欧米では最終的に2人強の若者で1人の高齢者の面倒を見るのに対し、日本は1人弱で1人の面倒を見なければなりません。もはや認容の限度を超えています。若い人の日本脱出が増えるかもしれません。
■類のない高齢化が進む日本にそもそも年金制度は合わない
以上の問題の原因は、類例のない急速な高齢化にあります。そして政府による産児制限と、それに続く国民の大幅かつ自発的な産児制限が、その高齢化を引き起こしました。繰り言にはなりますが、それさえなかりせば、日本人も安定した年金制度を持てたはずだったのです。近年、少子化対策がもてはやされていますが、それが将来の人口構造に及ぼす影響について、冷静な検証が必要でしょう。
いずれにせよ、日本は急速な高齢化に見合った新たな社会保障制度を考えるべきです。しかし政府は、破綻が明らかなのに年金制度に固執し、それ以外の社会保障制度を考えようとしません。このままでは、年金破綻によって、たとえば家賃の払えない高齢者が続出し、大量の「高齢者難民」となって、社会が一気に不安定化することも考えられます。年金の破綻はほぼ確実なのだから、リスクではありません。それが社会の崩壊にまで発展しかねないことが、真のリスクです。そしてリスクの大元は、高齢化でも社会保障制度でもなく、政府の政策姿勢です。
未曽有の人口減少がもたらす経済、年金、財政、インフラの「Xデー」(下)――松谷明彦・政策研究大学院大学名誉教授
http://diamond.jp/articles/-/69782
2015年4月8日 ダイヤモンド・オンライン編集部
■世界中から人材を集める欧米と国内での技術開発にこだわる日本
それでは、人口減少によって起こり得るこうしたリスクに対して、我々はどんな施策を考えればいいのか。まずは、経済を衰退させないため成長の方策について考えましょう。
人口減少による労働力の減少を、女性・高齢者などの余剰労働力や外国人労働力などで補填すれば、経済成長が確保できて経済は衰退しない、というのが政府の考えです。確かに、そうすれば生産能力は維持できます。しかし、それだけでは経済成長は望めません。つくった製品が売れなければなりません。そして、すでに日本の製品は世界市場でどんどん売れなくなっているのです。政府の成長戦略は、絵に描いた餅というわけです。
原因は新興国・途上国の台頭です。彼らは、日本と同じビジネスモデル、すなわち欧米先進国が開発した製品ををロボットを使って大量に安くつくるというモデルで、世界市場に価格破壊をもたらしました。なにしろ賃金水準が10分の1程度以下なのだから、日本製品が価格競争で勝てるわけがありません。
では、欧米先進国はどうか。彼らのビジネスモデルは、自分たちで開発した製品を適量つくって高く売るというものです。当然、新興国・途上国との価格競争はありません。
日本も早く先進国モデルに転換すべきですが、もしそうなれば日本製品は今より高く売れるし、特許料や大量のロボットなどのコストも不要なので、余剰労働力や外国人労働力を使わなくても、少なくなった労働力で十分な付加価値、すなわちGDPを確保することができます。
しかし、先進国モデルへの転換は、世界第一級の製品開発力があって初めて可能になること、そしてそれを日本人だけの努力で達成することは不可能であることを忘れてはなりません。現在先進国間で進行中の製品開発競争は、実は人材獲得競争なのです。世界中から優秀な人材を集め得た国や企業が勝ち組となる世界です。そこにはもはや国境はありません。
我々は「日本人の製品開発力が日本の製品開発力」と思いがちですが、いまや「その国の地理的エリアにおける製品開発力が、その国の製品開発力。その場合、研究者・技術者の国籍は問わない」というのが世界の常識です。
では、外国人を誘致すればいいかというと、優秀な外国人はまず日本に来ないでしょう。今の日本は「開発水準の低い国」と見られているので、日本に来ることは経歴上むしろマイナスになります。加えて、研究開発情報が飛び交い、成果がすぐに企業化される彼らのコミュニティを離れることは大変な損失です。
ならば、どうしたらいいか。有力な外国企業を大量に誘致することです。欧米先進国では3分の1から半数近くが外国企業ですから、そのあたりをメドに日本経済を国際化するのです。そうなれば、もはや日本市場ではなく国際市場になるため、外国企業も世界から人材を集め、日本に投入してくるでしょう。研究者・技術者にとっても、前述の問題は払拭されます。「日本もコミュニティの中」というわけです。
厳しい選択ですが、そこまで徹底して国際化しないと、先進国モデルのための製品開発力は得られません。海外のベンチャー・ビジネスを日本に呼び込むという意見も聞きますが、自分たちの「本体」には影響のないような国際化の真似事では、日本は世界から遅れるばかりです。
■「適量をつくり高く売る」 そうしないと日本はもう勝てない
日本経済を衰退させないという見地からは、別の方法もあります。日本には、世界に冠たる「職人技」があるのだから、その職人技と近代工業技術をコラボレートし、ロボット生産ではできない「高級品」や「専用品」づくりを目指すのです。既存の製品分野ではあっても、日本にしかできないということで高い付加価値が得られます。「適量をつくり高く売る」という点では、前述のビジネスモデルと同方向だし、実際ドイツの国際競争力は、そうした職人技によって研ぎ澄まされた近代工業技術に負うところも大きいのです。自動車や医療機器は、その好例でしょう。
日本も、かつては白物家電の生産現場で、溶接工程や鍍金工程など様々な工程に職人技が効果的に使われ、それが製品の魅力や性能を高め、強い競争力を得ていました。しかし、1990年代以降のコスト削減最優先のなかでそれらはロボットに置き換えられたため、新興国・途上国の製品と大差がなくなり、競争力が急速に失われることになったのです。
今では数少ない例となりましたが、北陸三県の万能工作機産業は、刃物や金属加工における職人技と、コンピュータなどの最新技術の融合による精密な製品づくりで、圧倒的に高い国際競争力を持っています。職人技の伝統は新興国・途上国にはなく、他の先進諸国と比較しても日本の職人技の水準は高いのです。ただ現状では、多くが部品生産の段階にとどまっていたり、完成品でもデザイン力に欠けるなどの問題があります。近代工業技術にどう組み込むかが今後の課題ですが、日本経済の目指すべき方向の1つと言えるでしょう。
■住居費負担で高齢者難民が続出 「公共賃貸住宅」の必要性とは?
では次に、社会保障制度について考えましょう。今の年金制度に未来はなく、日本は新たな社会保障制度を考えるべきだと、前述しました。私は、発想の転換が必要だと思います。世代間の所得移転というフローでは高齢者を支え切れないことは明らかなので、社会的ストックによって高齢者の生活コストを下げようという新たな発想です。
高齢者の生活コストで圧倒的に大きいのは、住居費です。そこで、比較的良質で低家賃の「公共賃貸住宅」(低所得者向けの公営住宅ではなく、入居に所得制限がない公共住宅)を大量につくるのです。ポイントは、家賃補助、利子補給などの財政負担なしに家賃を引き下げるスキームを考えること。たとえば、200年使える公共住宅をつくり、建築費は200年かけて家賃で回収します。民間にはとてもできませんが、国や地方自治体なら200年の借金も可能だから、財政負担なくして家賃は相当下がります。
用地は、区役所をはじめとする公共施設の上や遊休公用地を活用します。土地代がゼロなので、最終的に月額の家賃を2〜3万円程度に抑えることも可能でしょう。使ったのは国や自治体の信用力と遊休地・遊休空間であり、財政負担はありません。建築費や維持補修費は家賃で全額回収されるから、そのための借金は別に経理すればいいでしょう。「民業圧迫」と言うのなら、建設や運営を民間が行うPFIやPPPを活用することにします。
そして、公共賃貸住宅に介護施設を併設し、若い人の入居も可能にすれば、財政の効率化やマンパワーの確保も図れます。年金は出し手がどんどん細りますが、ストックは細りません。欧米先進国では、公共賃貸住宅が高齢社会の安全弁として不可欠の役割を果たしています。人口減少高齢社会にふさわしいシステムだと言えるでしょう。
次に、財政崩壊をどう回避すべきか。私は「小さな財政」を目指すべきだと思います。ここまで高度化した都市国民生活は、もはや高度な行政サービスなしには成り立たちません。「小さな政府」、すなわち行政の責任分野を縮小して国民の自己責任を拡大することは、言い得て困難です。
スウェーデンには、民間人が近所の高齢者のケアをすると、国から費用と報酬が支給されるという制度があります。国民の相互扶助を有償で活用することにより、行政サービスの水準を維持しながら、行政コストを縮小するうまい方法だと思います。文化の違いもありますが、考え方は大いに参考にすべきでしょう。国や自治体はケアのためのハコモノや、関係する行政組織を大幅に縮小することができるのです。
また、民間取引価格より5割から倍も高い、業者優遇の政府調達価格、いわゆる「官庁価格」は即刻廃止すべきですし、予算が目的とする「人」や「モノ」に届くまでに政府機関、関係法人、関係団体を経由することによる「目減り」も、根絶すべきでしょう。問題は「天下り」です。
税の補足率、いわゆるクロヨンも全く改まりそうにありません。消費税の増税をするならその前に是正すべきだし、是正すれば増税の必要がないほどの税収が得られます。国民の負担が増加する中で、最も大切なのは税の公平性です。
■人口が減っても子どもが減っても安心して豊かに暮らせる社会に
そして最後に、インフラの崩壊をいかに食い止めるか。欧米先進国のように、耐用年数が長い丈夫で汎用性のある躯体をつくり、状況の変化に応じて間仕切りや内装を変えて行く「リノベーション」という方法も、有効な手段の1つです。しかし、個々のビル単位の対応だけでは、都市のスラム化は避けられません。やはり、インフラのストック管理を徹底するのが一番です。
たとえば、一定以上の規模のビルや公共構造物の台帳をつくり、どこにどれだけのビルや構造物があるのか、向こう何年にどれだけが耐用年数を迎え、その建て替えあるいは取り壊しの費用はいくらかかりそうか、という情報を集めます。その上で、新規建設を規制・平準化したり、早期の建て替えや取り壊しを指導することで、インフラを良好な状態にを保とうというわけです。
経済、年金、財政、そしてインフラというように、人口減少に伴い発生する日本のリスク、そしてそれらへの対応策を見てきました。
確かに言えることは、日本人はこれから、人口減少を前提に考えて生きて行かなくてはならないということです。人口減少を阻止しようと考えるのではなく、人口が減っても子どもが減っても、引き続き安心して豊かに暮らせる社会をつくっていくほうに、目を向けるべきなのです。
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