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※ 日経新聞連載記事
金融揺らす原油安
(1)関連債務300兆円 投資計画の縮小も
原油価格の低迷が長期化しつつある。シェールオイル増産などによる供給増と、世界的な需要伸び悩みが背景。産油国経済や採掘事業採算の悪化を通じて、国際金融に影を落としている。
金融面では原油安でエネルギー関連の債務がリスクだ。国際決済銀行(BIS)によると原油・ガス関連債務は2014年央で2.5兆ドル(約300兆円)と06年の2.5倍に膨れあがっている。
債務者の約4割は米国企業で、ほかは産油国の国営石油企業など。債務の内訳で多いのは銀行からのシンジケートローン(協調融資)による借り入れと債券発行。08年の金融危機後の低金利と原油高を背景に債務を増やし、採掘投資を拡大した。10年以降は採掘設備投資のための資本支出の伸び率が年20%を超えた。
協調融資では、生産する原油・ガス資産の売却収入の一部を返済に充てることが多い。原油・ガス価値が債務の実質的な担保になっている。しかし原油先物相場は米国指標のWTIで1バレル50ドル前後と昨年半ばの半分以下に下落している。借り入れに依存する開発バブルの前提が崩れた格好だ。
焦点は原油安がどこまで続くか。一部で投資計画縮小など、供給抑制の動きがある。ただ債務返済のため生産を増やす企業もあり、需給均衡には時間がかかる見通しだ。長引けば担保価値の下がった債務の不良化が進む。
BISのディートリヒ・ドマンスキー氏は「エネルギー関連企業の債務が膨張し、リスクとして国際金融市場に波及しようとしている」と警鐘を鳴らす。
(編集委員 太田康夫)
[日経新聞3月30日朝刊P.25]
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(2)縮むオイルマネー 株式投資は減少へ
原油価格の低迷は、オイルマネーの縮小につながる。
1970年代の石油危機による原油高で、産油国は巨額のオイルマネーを入手。それを預かった米銀などが協調融資で国際市場に還流させた。
昨年半ばまでの原油高でオイルマネーは膨張。国際通貨基金統計では産油国の経常黒字は2014年に4220億ドル、02年以降の累計黒字は5兆2千億ドルとなる。
今は市場への還流は産油国が設けた政府系ファンド(ソブリン・ウエルス・ファンド=SWF)による投資が中心。産油国のSWFの残高は4兆2千億ドル程度。最大級のノルウェーのSWF(残高8千億ドル)が資産の6割を株式投資するなど、オイルマネーが世界的な株高を支えてきた面がある。
原油価格が下がった昨年央以降、産油国の原油売却収入は大幅に減っている。原油安になっても、これまで拡大財政政策をとってきた産油国は、急には都市開発などの予算を減らしにくい。このため、投資に回す資金を圧縮する公算が大きい。
米ゴールドマン・サックスのマーク・オゼロフ氏は「原油安で新規オイルマネーの供給は月240億ドル、3年で8600億ドル減少する」と推定する。
原油安で消費国の経済が活発になり非産油国のSWFが拡大すれば、債券投資などは増える可能性もある。しかし非産油国の国内開発需要も強いため、オイルマネーの縮小を補うのは難しい。
原油安が続けば、新規株式投資資金の減少を通して、国際資本市場を揺るがす恐れがある。
(編集委員 太田康夫)
[日経新聞3月31日朝刊P.31]
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(3)債務危機再発も ロシアなどに懸念
原油価格下落を受け、原油売却収入に頼る産油国の財政悪化が見込まれる。原油価格の下落幅がピーク比で50%を超えるなど大幅なためだ。
米ゴールドマン・サックスのノア・ワイズベルガー氏は、ナイジェリア、アルジェリア、オマーン、イラン、ロシアなどが原油動向で財政が左右されやすいと分析する。
産油国には原油売却益の蓄えのある国も少なくない。このため今のところ原油安で国の通貨が売られるなど大きな影響が出ているのはロシア、ベネズエラなど一部にとどまっている。
ロシアは政府収入の半分、輸出の7割を原油・ガスに頼っている。2015年も経常黒字を確保できる見通しではあるが、ウクライナ問題にからむ欧米の経済制裁の影響もありドル調達がしにくくなっている。
ベネズエラを巡っては市場で長期国債の価格が額面の3割程度まで下落し、リスクが高くなっている。政府収入の45%、輸出の95%を原油に頼っている。米ブルッキングス研究所のハロルド・トリンクナス氏は「経済改革が進まず、時間切れで債務不履行に陥る可能性がある」と指摘する。
歴史を振り返ると、原油安が債務危機を招いたのは1998年。ロシアの国債が債務不履行(デフォルト)となり、それがヘッジファンドに飛び火し、国際金融危機につながった。
今回は強力な金融緩和で債務問題は抑え込まれているが、年内にも米連邦準備理事会が利上げに踏み切る。一部の国で債務不履行が起きればリスクが再認識され、危機が大きくなりかねない。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞4月1日朝刊P.33]
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(4)投資不適格債に不安 資金調達が難しく
米国の投資不適格債(ジャンク債、信用力が低く高利回りの債券)市場では、すでに原油価格下落の影響が出ている。2014年の米ジャンク債の発行額は3100億ドルで、日本の社債市場より大きい。エネルギー開発企業は最大の業種になっており、発行残高の約17%を占める。
原油安による先行き不安を映し、エネルギー関連のジャンク債の上乗せ金利は昨年6月の3.3%から今年2月には8%に拡大。将来3分の1が債務不履行(デフォルト)になるリスクを織り込んだ格好だ。3月には米原油生産会社、アメリカン・イーグル・エナジーが社債(1.7億ドル相当)の利子を払えなかった。
生産開始前の企業は、利払い環境が悪化している。銀行は半年ごとに実施する担保資産価値の評価で、担保の原油価格を1バレル80ドル程度から50ドル程度に引き下げつつある。採掘企業は利払い資金の融資が受けにくくなる。
すでに生産を始めている企業は、販売益で利払いはできる。多くは7〜10年程度の社債で資金調達しており、満期までは時間的余裕がある。それでも原油安が続けば19年以降、元本返済にかかる債務不履行が増える恐れがある。米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)のダイアン・バザ氏は「原油安で米信用市場の見通しが悪化している」と分析する。
エネルギー関連企業は投資適格社債の発行残高の10%程度を占める。ジャンク債でデフォルトが増えた場合、市場のリスク回避志向が強まり、資本市場全体が動揺する恐れもある。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞4月2日朝刊P.28]
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(5)メガバンクにも影響 事業融資にリスク
原油価格低迷の影響は日本のメガバンク経営にも及ぶ。メガバンクはこの2〜3年、国際市場で融資を増やしてきた。柱の一つがプロジェクトファイナンス(事業融資)だ。インフラ関連の大型開発が多く、ほぼ3分の1はエネルギー関連だ。
採掘した原油やガスの売却収入を事業融資の返済に充てるが、原油安で売却収入は減る。あるメガバンクのエネルギー関連融資事業の損益分岐点は1バレル60ドル程度という。原油安が続けば融資した事業は採算割れとなり、融資は不良債権になる。
事業融資は欧米ではリスクが高いとされ、債券・株式発行と組み合わせてリスク分散するのが一般的。しかし証券業務が弱い邦銀は融資主体でリスクを抱え込みやすい。
もう一つの懸念はエネルギー関連企業向けが中心のロシア向け融資だ。メガバンク融資の大半はドル建てだが、経済制裁の影響でドル調達ができず、債務不履行が起きる恐れが指摘されている。
メガバンクで原油安の影響を受けそうなエネルギー関連融資は各行3500億〜4千億円、ロシア向け融資は4千億〜6千億円とみられる。多くの債務者区分で正常先か要注意先だが、原油安が続けば要管理になる。メリルリンチ日本証券の大槻奈那氏は「各行の追加引き当ては数百億円程度。財務的には管理可能だが、信用コスト減少の流れは転換点を迎える」と指摘する。
メガバンクは事業融資を得意分野と強調していただけに、まとまった不良債権が発生すれば、国際業務の再点検が迫られかねない。
(経済解説部 太田康夫)
=この項おわり
[日経新聞4月3日朝刊P.25]
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