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日本とアメリカが仕切ったアジア開発銀行(ADB)はどうなる? photo Getty Images
AIIB(アジア・インフラ投資銀行)参加をめぐる日本の損得勘定
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42739
2015年04月03日(金) 山崎 元「ニュースの深層」 現代ビジネス
■中国台頭、米国後退、日本混迷
通称「AIIB」、アジア・インフラ投資銀行は3月31日で創立メンバー参加国の申し込みが締め切られた。
AIIB設立は、中国が発案した構想であり、詳細は未定であるものの、議決権は中国が突出して最大(半分前後と予想される)、本部所在地は中国、トップ(総裁?)も中国人となることが予想されている。
ちなみに、同じくアジア地域を対象とする既存の国際金融機関であるアジア開発銀行(通称「ADB」)は、総裁ポストは歴代主に財務省系の日本人であるが、本部所在地はフィリピンのマニラ、出資比率はアメリカと日本が並んで15.7%ずつでトップだ。
AIIB構想に対しては、ADBと役割が重複することと、中国が主導権を持ちそうな「ガバナンス体制が不透明であること」を理由に、アメリカと日本が反対し、不参加の立場を採ってきた。
ところが、主要先進国では、イギリスが参加を表明し、その後、フランス、ドイツなど欧州の先進国も参加に手を上げて、ついにはオーストラリアも参加表明するに至った。
日本政府(主として財務省?)としては、これら先進国の参加は想定外であったかも知れない。
アジア地域のインフラ投資は、今後しばらくの間、大きなビジネスの機会につながることが確実だ。また、中国の経済的影響力が増していくことも、たぶん間違いない。中国の「経済成長率7%(年率)」を額面通りに信じるなら、10年後には中国のGDPは2倍になる訳で、現在の日本のGDP以上の経済活動が新たに発生するのだ。
インフラ関連のビジネスは、主にプロジェクトへの入札の形で受注競争が行われるが、こうした入札にあって、ファイナンス・オファー(金融の提供条件)の優劣はしばしば決定的な影響力を持つ。AIIBが資金提供し、主に中国企業が応札するプロジェクトであっても、欧州などの企業が参加する余地は多々ある訳で、彼らが自国企業のビジネス上の競争条件のために、AIIBに少しでも影響力を持っておきたいと判断してもおかしくない。
AIIBの設立は、これまでIMF、世界銀行、ADBを通じてアメリカがコントロールしてきた公的な国際金融の世界の重心が移動する出来事だともいえるだろう。本件をアメリカの外交的敗北と見る意見もある。
AIIBに参加する欧州諸国は、こうした勢力関係の変化を敏感に感じ取って、アメリカをわずかに遠ざけるポジションを取ろうとしているのかも知れない。比喩的には、アメリカは、「腕力は最強だが、人望を失いつつある番長」のような存在だ。日本はこの番長の従順な子分だが、今後もアメリカについていくだけでいいのか、再検討が必要な時期だろう。
本件に関するここまでの経緯は、中国の経済・政治両面の影響力の拡大とアメリカの影響力の地盤沈下、そして、こうした条件変化を十分消化出来ずに困っている日本政府の混迷を象徴しているように思える。
■AIIBに関わる「損得」いろいろ
中国は、もともとGDPで世界第2位の経済規模と世界最大の外貨準備を持っている一方で国際金融機関での自国の影響力が小さいことに不満を持っていた。
IMF、世界銀行、ADBといった既存の国際金融機関は、全てアメリカが主導し、中国の影響力が小さく抑え込まれてきた経緯がある。
中国は、自国がAIIBをコントロールすることが出来れば、大雑把に言って、他国に半分リスクとコストを負担して貰いながら、自国の企業を利するアジアのインフラ投資プロジェクトを有利に推進するのと共に、AIIBの援助国に対しても政治的影響力を持つことができるかも知れない。経済・政治両面で中国はAIIBの「レバレッジ効果」を享受出来る可能性がある。
もちろん、露骨にレバレッジ効果を使わずとも、今後経済的に重きをなす国際金融機関を主導することを通じた、政治的なプレゼンスの向上も、中国政府にとっての「国益」なのだろう。
一方、日本政府としては、ここで参加して、それなりの出資をしても、これが中国によって差配されるのであれば、日本政府の外交的影響力を考えた場合「死に金」的な支出になる可能性がある。同様の資金あるいはリスク負担を行う場合、これをODAで直接使う方がいいという計算があり得る。
また、これから参加することが中国の影響力と言い分を認めて中国に屈するようなニュアンスになる点を、外交的に面白くないとする見方もあろう。
もちろん、アメリカこそが日本の庇護者なのだから、アメリカが反対することには賛成しない方がいいという判断をする向きがあってもおかしくない。AIIBに対して、日本がどうすべきかは、論者によって意見が分かれるだろう。
■格好の悪さよりも、ビジネスの実を取る
一方、インフラ・ビジネスに関わる日本の企業にとっては、中国の風下に立つとしても、日本政府がAIIBに参加してくれた方が、アジアのインフラ・ビジネスで不利な立場に立つ可能性を減ずることができるという思いがあろう。日本がAIIBに全く参加しないということは、AIIBに対する日本の影響力が行使出来ないだけでなく、AIIBの動向に関する情報収集でも不利な立場に立つことになる。これらの不利はじわりと堪えるかも知れない。
AIIBの創立メンバー国になることにどのような意味があるのか現時点では不明だが、創立メンバーから外れても、今後、日本企業のアジア・ビジネスを後押しする必要性から日本がAIIBに遅れて参加することがあり得るように思う。中国に屈する格好の悪さよりも、ビジネスの実を取る選択だ。
同じく親米国だが、日本よりもアジアにより遠いイギリスがAIIBに参加することから類推して、アジアのインフラ・ビジネスにより近い日本にとって、参加が「得」だと計算出来る可能性は大いにある。
今のところ、AIIBはADBよりもやや小さい規模からスタートするようだが、中国及びアジア地域の経済的な発展を考えると、将来はAIIBの方が存在感が大きくなるかも知れない。
■不参加は普通の納税者には「得」かもしれない!?
先ほど、「日本にとってAIIB参加が『得』であるかも知れない」と書いたが、誰にとっての「得」なのかということを吟味する必要がある。われわれは漠然と「国益」という言葉を使いがちだが、国益という言葉は、真に誰が得をして誰が損をするのかをしばしば覆い隠す誤魔化しの道具になるので、気をつけなければならない。
アジアのインフラ・ビジネスに直接関係のない納税者一般の損得を考えると、AIIBに限らず、そもそも公的な金融機関に税金を使うことに対して慎重であるべきだ。
一般論として、公的金融機関に存在意義があるとすれば、それは民間金融機関が提供出来るいわばマーケットの条件に勝る条件を提供するからであるが、マーケットの条件と公的金融の条件の「差」(利率であることもあれば、リスク負担の形であることもあるだろう)は、意味合い的に公的金融機関を通じた贈与だ。
従って、公的金融機関への出資参加は、公的金融機関に民間に優越する特別な審査能力や借り手のマネジメント能力があるのでなければ、納税者にとっての実質的な負担増になる公算が大きい。
AIIBへの不参加は、日本の国際政治・経済上の相対的なプレゼンスを低下させるかも知れないが、日本の納税者一般にとっては、余計なコスト負担を避けることが出来た点で「よかった」と言える面がありそうだ。
今の時点で確実に言えそうなことは、中国の台頭とアメリカの影響力低下くらいだが、今後、AIIBがどのように機能し、日本政府と日本企業がこれとどう関わって行くのか、大いに注目したい。
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