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中東・アフリカ エネルギー
サウジアラビアの攻勢でますます進む原油安 OPECでもスンニ派、シーア派が衝突か
2015.4.3(金) 藤 和彦
1週間で子ども62人死亡、イエメン「完全崩壊の瀬戸際」 国連
イエメンの反政府派イスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」の進攻を防ぐため、サウジアラビア主導の連合軍が空爆を行った。原油価格への影響は?(2015年3月31日撮影)〔AFPBB News〕
「イラン核協議は主要問題で基本合意」──。2015年4月1日付ブルームバーグは、ロシアとイランの外相が4月1日未明にイラン核協議で主要問題に関する合意が成立したことを明らかにしたと報じた(枠組み合意の期限を過ぎた4月2日に入っても交渉は続いており、脱稿時点で交渉の成否は明らかになっていないが、交渉成立を前提に議論を進める)。
今後、技術面での詳細を専門家が調整して6月末までの最終合意につなげていくことになる。イランの支援を受けるイラク軍とISIL(いわゆる「イスラム国」)の戦闘や、サウジアラビア軍などのイエメン空爆など地政学的なリスクが高まる中東情勢にとって朗報である。
しかしこの合意は、OPEC(石油輸出国機構:サウジアラビア、イラン、イラク、クウェートなど12カ国から成る)諸国にとってさらなる難題の発生につながりかねない。原油価格が1バレル当たり50ドル前後で推移する中、米国のシェール企業の増産のペースが鈍化したと胸をなで下ろしている矢先に、今度はOPECの一員であるイランが原油の大増産を始める可能性が出てきたからだ。
イランの原油在庫が国際市場に流れ出す?
イランのザンギャネ石油相は、「イランへの国際的制裁が解除されれば、我が国の原油生産量と輸出量は数カ月以内に日量100万バレルを増えるだろう」と豪語している。イランの原油輸出量は日量250万バレルだったが、2012年に経済制裁を課されたために100〜110万バレルに減少していた。よって、以前の水準に戻すだけでも軽く100万バレル以上上乗せできるというわけだ。
制裁以降の経済の低迷に苦しむイラン政府は、失った市場シェア回復を取り戻そうと躍起になっており、現在、洋上にある貯蔵施設等に備蓄されている3000万バレルもの原油在庫が早い時期に国際市場へと流れ出す可能性がある。
ただし、イランが大幅に原油輸出を増やすためには、出荷や保険、港湾、金融、取引の面で西側が課した多くの規制を撤廃ないし免除してもらわなければならない。そのため、イラン産原油の輸出の本格的な拡大は2016年にずれこむだろうとの見方がある。
これまで米国の動向が原油市場に大きな影響を与えてきた。例えば、米国の石油掘削リグの稼働数減少は「買い」材料となり、原油在庫の増加は「売り材料」となる。さらにFRBの利上げ観測の後退によるドル高進行にブレーキがかかったことが足元の原油価格の下支え要因となる。
時期はともかくとして、日量100万バレルのイラン産原油が市場に流れ込めば、世界の供給余剰量が現在の2倍に膨らむ事態になる可能性がある。今回の合意は、市場関係者の注目が米国からOPECの動向へと移る大きな転機となるのではないだろうか。
サウジアラビアの供給量が過去最多に迫る水準に
「OPECによる3月の原油供給量は日量3063万バレルとなり、昨年10月以来の高水準となった」。こう報じたのはロイター(2015年3月31日付)である。OPECが市場シェアを守るために供給量を削減していないことが改めて浮き彫りとなった。
もっとも大きな要因は、サウジアラビアの供給量が過去最多に迫る水準(平均日量1000万バレル弱)となったことである。
サウジアラビアは3月上旬まで、アジア向けの4月積み軽質原油価格を1バレル当たり1.4ドル引き上げると通知するなど穏健な姿勢を示していた。しかし、その後戦略を転換したのか、世界市場でのシェア奪還を目指すために過去最高に近い水準にまで生産を拡大していた。日量約1000万バレルという生産量は、サウジアラビアがOPECに報告した2月の生産量を約35万バレル上回る。
3月24日付ロイターによれば、サウジアラビアはスポット市場を通さず、直接顧客との秘密契約の下で原油を割安な価格で顧客に提供しており、原油需要が低迷する中、アジア・米国・欧州市場でイラク、ベネズエラ、ロシア、カザフスタンからシェアを奪っている。特に米国への輸出量は2月全体で3000万バレルに達し、近年輸出先1位であった中国への輸出量を上回ったが、非常に競争力のある価格設定をしたとされている。
サウジアラビアはイランを警戒して攻勢に
サウジアラビアはなぜ攻勢に転じたのだろうか。
筆者は背景にイランの存在があると見ている。制裁下にあるにもかかわらずイランに中国でのシェアを奪われたからだ。
2014年のサウジアラビアから中国への原油輸出量は1998年以来初めて減少に転じ、前年比8%減の日量99万バレルとなった。首位は維持したものの、中国の輸入全体に占める比率は前年の18%から16%に縮小した。
その要因はロシア、イランからの輸入が伸びたことにある。中でもイランからの輸入は、欧米の同国への核開発に対する制裁が始まった2012年以降2割程度減少(日量45万バレル)していたが、昨年は制裁前の水準(日量55万バレル)に戻った。
過去10年にわたり、中国は世界の原油需要の伸びの過半を占めてきた。しかし業界関係者によれば、原油の貯蔵能力が限界に達したため、今後原油輸入は減少する可能性があるという。その中でサウジアラビアのイランに対する警戒感が高まっているのではないだろうか。
同じくシーア派が多数を占めるイラクの動向も、サウジアラビアにとって気になるところである(注:サウジアラビアはイスラム教スンニ派国家の盟主であり、イランとイラクはシーア派が主流を占める)。
イラクの原油生産量は、2011年にフセイン政権時代のピーク生産量(日量259万バレル)を突破した後、現在日量約350万バレルの水準に達しており、2017年までに生産量は日量400万バレルに達する見込みだ。2014年12月の原油輸出量は日量294万バレルと過去最高を記録するなど、イランとともにサウジアラビアにとって手強いライバルに成長してきている。
サウジアラビアとイラン、イラク、イエメンの位置関係(Googleマップ)
サウジの強気でOPEC全体が苦境に陥る
今年1月末のサウジアラビアの内閣改造で、サルマン新国王の息子であるアブドラアジズ副大臣が閣僚級に昇格したことも影響しているかもしれない。アブドラアジズ氏は若くして石油省に入り、経験を積んできた。今後、ヌアイミ氏に代わり政策決定のキーパーソンになるとの観測がある。
サウジアラビアでは王族の力は絶大であるが、これまで王族は石油相にならないことが慣例とされてきた。ヌアイミ氏を含め過去4人は王族ではないが、今後この不文律が崩れれば、シーア派に対する強硬姿勢が目立つサルマン新国王の意向が石油政策に強く反映されるのではないだろうか。
ヌアイミ石油鉱物資源相は昨年末に「1バレル20ドルになっても減産しない」と強気な発言を行っていた。「内実はいつまでも安値は放置できない。60〜80ドルは欲しいはず」というのが専門家の間の一致した見方だが、サウジアラビアが率先して安値輸出に走れば、他のOPEC諸国も追随し、その結果、原油価格が暴落すればOPEC全体が苦境に陥るリスクがある。
軍事紛争が原油市場に及ぼす影響は限定的
サウジアラビアと、イエメンのシーア派武装派勢力との戦闘は日を追うごとに激化し、両国の国境地帯の複数の地域で砲撃やロケット弾による激しい攻撃の応酬が繰り広げられている。サウジアラビアが近く地上侵攻に踏み切るのではないかとの観測も出ているが、そのような事態になれば湾岸諸国全体が紛争に巻き込まれるリスクが生じるだろう。
中東地域の地政学的リスクが格段に上昇すれば、原油価格は急騰するだろうか。
「供給過剰が今後1年以上続き、原油価格が1バレル当たり20ドル台後半まで下がる」との見方が広がっている。このような原油価格の大幅な値崩れが起きる局面では、軍事紛争が市場に及ぼす影響は限定的ではないかと筆者は考えている。
理由は、逆オイルショックの前例があるからだ。1980年代後半の逆オイルショックが発生した時期、イラン・イラク戦争のあおりを受けてペルシャ湾でタンカーが頻繁に攻撃を受けていた。両軍によるタンカー攻撃は1987年にピークを迎え、ペルシャ湾には大量の機雷が浮遊し、333名が落命した。だが原油価格が高騰することはなく、2004年頃まで1バレル当たり20ドル前後で推移した。
実際にサウジアラビアが3月26日にイエメンのシーア派武装勢力に対する大規模な空爆に踏み切ったときも、原油価格の上昇は限定的だった。イエメンは産油国とはいえ生産量は日量約13万バレルで、世界の原油生産に占める割合は0.2%未満に過ぎない。輸送タンカーも同国の海域を避けて航行することが可能であるため、空爆による供給面への影響がほとんどない。また3月末に近づくにつれて、市場の関心がイランと欧米など6カ国の間での「核合意」に集まるようになったことも要因である。
米国がアラブ世界の炎にガソリンを注いでいる
イエメンでは北部はシーア派が主流である一方、南部や東部ではスンニ派が多い。シリアやイラクと違うのは、両宗派は同じモスクで礼拝し、過去数世紀にもわたって平和的に共存してきたことである。だが、サウジアラビアなどの軍事介入により、今後国民の間で異なる宗派への敵意を強める恐れが出てきている。
サウジアラビアの初代国王は子供たちに対し「イエメンを軍事攻撃してはならない」と警告していたと言われている。そんなサウジアラビアの「蛮勇」を生みだした一因として、「不倶戴天の仇敵」であるイランと握手しようとする米国に対しての不信感があることは間違いないだろう。
英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の中東専門家であるファワズ・ゲルゲス教授は、「オバマ大統領はイランとの核合意が自身の外交政策の遺産になると考えている。核合意はサウジアラビアとその同盟諸国対イランという新たな冷戦を泥沼化させるだろう。アラブ世界の中心で燃えさかる炎にガソリンを注ぐようなものだ」との懸念を示していた。
このように今回のイラン核合意は、原油のシェア争いを巡ってスンニ派とシーア派のもう1つの代理戦争を誘発するばかりか、長期的にはスンニ派の雄とシーア派の雄の直接対決に発展し、中東地域全体を「泥沼化」の事態に引きずり込む「時限爆弾」になり得るというのは言い過ぎだろうか。
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