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現社長・高橋興三氏〔PHOTO〕gettyimages
絶望のシャープ 現役社員が次々と語る 上司は右往左往するばかり。意見具申すれば「ソニーの回し者か」と罵倒された(その1)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42665
2015年04月01日(水) 週刊現代 :現代ビジネス
「次はあると信じています。信じているけど……」。現実を認めたくない気持ちも分かる。だが彼らの話を聞く限り、シャープの行く末は相当に厳しい。赤裸々すぎる告白の数々が、何よりの証拠だろう。
■またリストラか…
「『人生には、分かっていても止められないことがある』
今の社内の雰囲気を一言で言えば、そんな諦め、無力感でしょうか。
3000億円以上の大赤字を出した'12年以降、社内の風通しをよくしようと、社内ネットワークを使った掲示板が設けられたんです。私は一度、自主的にレポートをまとめ、そこに書きこんだことがあります。『液晶だけでは、いくら頑張っても韓国や中国にマネされる。液晶にすべてを賭けるのは間違いだ』と。
しかしその後、出社した私に浴びせられたのは『アホか!お前はソニーの社員か。ソニーの回し者か』という罵倒でした」
こう語るのは、シャープ天理総合開発センターに勤める40代の男性社員だ。
ギリギリで踏みとどまり、ひとたびは危機から脱しつつあったはずの名門が、今度こそ本当に倒れようとしている。
'15年3月期の赤字再転落の見通し、そして三菱東京UFJ・みずほ両主力銀行への支援要請報道で、シャープの苦境が白日のもとにさらされた。社運を賭け、余力のほぼ全てを注いできた液晶をはじめ、あらゆる分野でまったく勝てない—。
「またリストラが始まる」「対象は広島にある福山・三原工場など」という報道もあったが、方志教和専務が「工場は継続する」と否定。だが、その後、国内で3000人規模のリストラ計画があることも明らかになった。
「つい先日、社内では『マスコミへ情報提供している社員がいるようです。このようなことが発覚した場合、懲戒処分もありえます』という通達が全社員に向けて出されました」(前出・男性社員)
今度ばかりはただごとではない。すでにカウントダウンが始まったのではないか—箝口令の敷かれたシャープ社内で、社員たちの緊張とストレスは日に日に大きくなり、爆発寸前だ。
この男性社員が勤める天理は、今のシャープの「原点」であり、大阪本社、亀山工場、堺工場と並ぶ重要拠点だ。
新技術開発を担う中央研究所と、当時最先端の半導体工場を、奈良県天理市郊外の高台に建てると決めたのが'68年。最盛期には3000人以上が社宅に住み、若者と子供の声が絶えず、活気にあふれていた。天理からは、電卓や液晶テレビなど、世界を席巻する新製品が次々と送り出された。
それから約半世紀。シャープは最近、各地に分散していた研究開発機能を再び天理に集約した。ただし、勤務する社員は約1300人と、往時の半分以下。建ち並ぶ社宅は打ち捨てられて土埃をかぶり、近隣の住民も「まるで廃墟だ」と気味悪がる。別の管理職社員がこう話した。
「2年半前の希望退職者募集で辞めた40代の元同僚は、いまだに再就職できずにいます。彼は部署内の評価が高かったから、やっていける自信があったんでしょう。
しかし会社は、最初のうちこそ『就職先は見つけてやるから』と言っていましたが、結局リクルートに任せきりで何の便宜も図らない。彼も彼で、企業を紹介されても『そんな条件じゃ暮らしていけない』と突っぱね続けているそうです。
ついこの前まで『できれば戻りたい』とこぼしていましたが、最近は『シャープはじきになくなるかもな』なんて言っています。潰れたら私はどうするか?どうしようもないですよね……転職しようにも、歳を食った社員はお手上げです。スキルが何もないですから」
'12年8月の希望退職募集では、全国で3000人近い社員がシャープを去った。しかし一部の工場では、そのとき一度退職したはずの社員が、昨年夏以降職場にちらほらと復帰しているという。
「年齢的には働き盛りなのに、再就職先が決まらないというOBがまだまだ大勢います。彼らの中には、退職理由を無理やり『自己都合』と書かされて、退職金を減らされた人さえいるんです。
私の同僚は『辞めるか、それとも福島の下請け会社に転職するか』と迫られたそうです。彼は最近天理で家を買って、お子さんも小学校に慣れたばかりだったのに、出て行ってしまいました」(前出とは別の40代男性社員)
■「選択と集中」が大失敗
毎朝、ある者は駅と会社をピストン輸送で結ぶバスに揺られ、またある者は自分の車で、天理事業所のある丘のふもとへやってくる。社員たちは車を降りると、誰と挨拶を交わすこともなく、幾人かはイヤホンを耳に突っ込んだまま、無言で頂上の社屋へ歩いてゆく。
退社する時も同じだ。定時の17時を過ぎて、一斉に吐き出される社員たちは、やはり無言で丘を下ってゆく。同僚と「飲みに行こう」などと話す声は一切聞こえない。
「最近のシャープは、みんな息を殺している。北朝鮮みたいです」
別の若手社員が続ける。
「今の天理でやっているのは、基礎研究や商品を作るのに必要な生産装置の開発で、直接カネ儲けには繋がらない。予算が削られてしまったので、もはや『時間をかけてでもいいものを作ろう』というやる気も出ません。
経費削減で文房具は安いものに替わったし、満足に備品購入の許可も下りない。上司は『何か液晶に代わる新しい柱を考えろ』『カネになるものを作れ』と焦ってばかりですが、そんなものすぐにできるわけがない。どうせ残業代も出ないから、このところは毎日定時で帰ってますよ」
'12年の経営危機の後、シャープは中国製スマートフォン用液晶を大量生産することで、何とかどん底からの立て直しを図ってきた。しかし昨年秋以降、ソニー、東芝、日立の液晶部門が国策で合体した企業・ジャパンディスプレイとの競争が激化。命綱はいとも簡単に切れた。
三重・亀山工場製の液晶テレビ「世界の亀山モデル」でブランドを確立し、'07年には4000億円近い巨費を投じて大阪・堺に液晶工場を築いたシャープには、もう液晶の他に武器が残されていない。「選択と集中」の結果、退路を自ら断ってしまったのだ。
(その2へ続く)
「週刊現代」2015年4月4日号より
◇
絶望のシャープ 現役社員が次々と語る 上司は右往左往するばかり。意見具申すれば「ソニーの回し者か」と罵倒された(その2)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42718
2015年04月01日 週刊現代 :現代ビジネス
■幹部は「液晶ヤクザ」
大阪市阿倍野区にあるシャープ本社に勤める社員は、こう語った。
「やっぱり後戻りできなくなったのは、町田(勝彦氏。'98年~'07年に社長、'07年~'12年に会長)時代やないかと思うんです。
町田さんは、何でも自分の思い通りにしないと気が済まない独裁者タイプ。もともと彼は2代目社長の佐伯旭さんの女婿で、幹部就任が約束されていた。一種の同族経営なんですよ。
社長に就任した町田さんが『これからは液晶だ。液晶で東芝を追い抜く』と言い出した当時、技術系社員の一部からは『ヤバいぞ』という声が出ていた。液晶なんて、ゆくゆくは陳腐化して他社にマネされて安くなり、大赤字を出すことが分かり切っていましたから。
かつてシャープを代表する商品だった電卓は、'64年に卓上型の第1号が発売されてから、15年余りで手のひらサイズまで小さくなって、今では100円ショップでも買えるようになった。液晶も今まさに、そうなりつつあるんです」
今回、取材に応じた社員の多くが口を揃えたのが、「町田体制」がシャープを苦境に陥れたのだ、という見方だった。彼が液晶への「選択と集中」を推し 進め、「絶対に元をとれない」と言われるほど巨額の設備投資を決めたというのだ。天理事業所に勤める、あるベテラン社員も証言する。
「トップに立った町田さんは、異を唱える人をどんどん飛ばし、役員を 自分の意に沿う人に替えていきました。液晶部門にいた役員や幹部の中にも、衝突して辞めていった人が何人もいます。あまりに町田さんやその腹心が液晶路線 をゴリ押しして、反対する人を排除するので、『あいつらは液晶ヤクザだ』と陰口を叩く社員も多かった。
町田さんの後を継いだ片山(幹雄元社長)さんも彼の側近のひとりですが、現役の役員で言えば、副社長を務めている水嶋繁光さんは『液晶の次も液晶』が口癖というほどの『液晶絶対主義者』で知られています。
水嶋さんは、(天理で)一般社員が遠くの駐車場に車を置いて会社まで歩いている横を、外車で敷地に乗り込んでくるような人物で、『殿様気分か』なんて言われている。経営のことを別にしても、問題だと思います」
■使えない社員ばかり残る
前出の若手社員が吐き捨てた「北朝鮮のようだ」という声には、このベテランも頷いた。
「シャープの職場が息苦しくなったのは、人事評価ペーパーの導入が大きかったと思います。
この人事評価は直属の上司にだけ権限があり、同僚や部下の声は一切反映されません。しかも、評点のほとんどが『まじめな態度で仕事をしているか』『上司の指示を聞いているか』といった『行動評価』という項目になっている。これでは、イエスマンばかり出世するのも当然です。
私の後輩に、学生時代に国家公務員T種試験でトップレベルの成績をとったにもかかわらず、官僚を蹴ってシャープに入った奴がいます。優秀だけど、上に媚びないからぜんぜん出世できない。入ったばかりの頃は、あいつにも夢があったはずですけどね……」
前述の通り、シャープは人員だけでなく会社機能の整理・統廃合を進めつつある。例えば、以前は天理でも液晶パネルの製造を行っていたが、現在は亀山第一・第二、堺の各工場にその機能をほとんど移している。
こうした整理・統廃合によって最も大きく翻弄されているのは、ここまでに登場した研究開発・企画などに携わる中枢の社員よりも、むしろ末端の製造ラインで働く社員であることは確かだ。堺工場に勤める20代の男性がこう語った。
「僕はもともと液晶を作っていたんですが、『液晶はもうダメや。これからは太陽光パネルをやってほしい』と上司に言われて部署を替わりました。それで、さあやるぞと思った矢先に、今度は『太陽光もやっぱりやめる』と上が言い出す。会社は何をやってるんや、と思いますよ。
僕は技術のことしか分かりませんから、いきなり『明日から営業やれ』なんて言われてもできません。だからホンマに困ります」
現在、堺工場はシャープと台湾の電機メーカー・鴻海の共同出資によって管理されており、「堺単体では黒字が出ている」「唯一残された希望だ」という声も社内外から上がっている。だが、その現場は必ずしも明るくないようだ。男性が続ける。
「管理職はまだ1000万円以上貰ってるのに、僕らはその半分以下です。人を減らすと言うけど、使えない人に限って残ってる。会社にしがみついているだけの人が多い、というのが正直なところですよ。
ウチの部署にもどうしようもないおっさんがいて、使えん奴扱いです。普通は『さん付け』ですけど、最近年下からも『クン付け』で呼ばれるようになった。みんなイライラしてるんでしょうね」
腐ってもシャープ—まだそう信じる人も少なくない。しかしそろそろ、認識を改めなくてはならなさそうだ。
「週刊現代」2015年4月4日号より
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